ことのは年代記
清少納言の肖像

清少納言(せいしょうなごん)

せい しょうなごん/Sei Shonagon

生没年不詳/平安

  • 作家
  • 女房

よいものを、よいと書(か)き切(き)った人(ひと)

『枕草子(まくらのそうし)』を書(か)いた作家(さっか)です。季節(きせつ)のよい一瞬(いっしゅん)や、心(こころ)ときめくもの、興(きょう)ざめなものを、理由(りゆう)を説明(せつめい)せずに歯切(はぎ)れよく言い切(いいき)りました。

言葉

春(はる)はあけぼの。やうやう白(しろ)くなりゆく山際(やまぎわ)、少(すこ)し明(あ)かりて

読み・現代語:春(はる)は明け方(あけがた)がよい。だんだん白(しら)んでいく山(やま)ぎわが、少(すこ)し明(あか)るくなって。

『枕草子(まくらのそうし)』の書き出(かきだ)しです。なぜよいのかは書(か)かれていません。よいと決(き)めて、その情景(じょうけい)だけを置(お)きます。理由(りゆう)を説明(せつめい)せずに断定(だんてい)するこの書き方(かきかた)が、そのまま作品全体(さくひんぜんたい)の調子(ちょうし)になっています。

ことばの意味

あけぼの(あけぼの)
:夜が明けはじめるころのこと。空がうっすら明るくなる時間です。

出典:清少納言(せいしょうなごん)『枕草子(まくらのそうし)』第一段(だいいちだん)出典の確度:確実。本人の著作や記録で確認できる言葉です

御簾(みす)を高(たか)く上(あ)げたれば、笑(えみ)はせたまふ

読み・現代語:御簾(みす)(みす)を高(たか)く巻き上(まきあ)げたところ、中宮(ちゅうぐう)さまはお笑(わら)いになった。

香炉峰(こうろほう)の雪(そそ)はどうか、と問(と)われた場面(ばめん)です。答(こた)えを言葉(ことば)で返(かえ)さず、漢詩(かんし)の一節(いっせつ)どおりに簾(すだれ)を上(あ)げてみせました。知(し)っていることを説明(せつめい)せずに行動(こうどう)で示(しめ)す。宮中(きゅうちゅう)の機知(きち)の応酬(おうしゅう)がどんなものだったかが分(わ)かります。

ことばの意味

御簾(みす)
:昔の建物で、部屋の仕切りに使ったすだれのこと。

出典:清少納言(せいしょうなごん)『枕草子(まくらのそうし)』出典の確度:確実。本人の著作や記録で確認できる言葉です

この人の歩み

生没年(なまぼつねん)は分(わ)かっていません。歌人(かじん)の家(いえ)に生(う)まれ、漢籍(かんせき)にも通(つう)じていました。993年(ねん)ごろから、一条天皇(いちじょうてんのう)の中宮(ちゅうぐう)・定子(さだこ)に仕(つか)えます。定子(さだこ)の周(まわ)りは、機知(きち)のやりとりを楽(たの)しむ場(ば)でした。ある雪(そそ)の日(ひ)、定子(さだこ)が白居易(しろきょえき)の詩(し)を踏(ふ)まえて香炉峰(こうろほう)の雪(そそ)はどうかと問(と)うと、清少納言(せいしょうなごん)は黙(だま)って御簾(みす)を高(たか)く上(あ)げてみせたという逸話(いつわ)が『枕草子(まくらのそうし)』にあります。

『枕草子(まくらのそうし)』は三百(さんひゃく)ほどの章段(あきらだん)からなります。季節(きせつ)のよい時刻(じこく)を並(なら)べた冒頭(ぼうとう)、心(こころ)ときめくもの、興(きょう)ざめなものといった分類(ぶんるい)、宮中(きゅうちゅう)の出来事(できごと)の記録(きろく)が混(ま)ざった構成(こうせい)です。特徴(とくちょう)は、迷(まよ)わずに言い切(いいき)ることでした。春(はる)は明け方(あけがた)がよい、と理由(りゆう)を説明(せつめい)せずに置(お)きます。良(よ)し悪(わる)しの判断(はんだん)を短(みじか)く出(だ)し、次(つぎ)へ移(うつ)る。この速度(そくど)が読(よ)み心地(ごこち)を作(つく)っています。定子(さだこ)の父(ちち)が亡(な)くなり、一族(いちぞく)が力(ちから)を失(うしな)っていく時期(じき)にも、『枕草子(まくらのそうし)』は明(あか)るい場面(ばめん)を中心(ちゅうしん)に書(か)かれました。書(か)かないことを選(えら)んだのだ、という読み方(よみかた)があります。

晩年(ばんねん)については確(たし)かなことが分(わ)かっていません。同時代(どうじだい)の紫式部(むらさきしきぶ)は日記(にっき)のなかで、清少納言(せいしょうなごん)を得意顔(とくいがお)だと辛口(からくち)に評(ひょう)しています。

この言葉が映すもの

  • 美(簡素・余白・見立て)簡素・余白・見立て

    理由(りゆう)を説明(せつめい)せず、よいと感(かん)じた一瞬(いっしゅん)の情景(じょうけい)だけを置(お)く書き方(かきかた)を作(つく)りました。

  • 学(学び続ける、外から学ぶ柔軟さ)学び続ける、外から学ぶ柔軟さ

    漢籍(かんせき)の知識(ちしき)を持(も)ち、それを見(み)せびらかさずに振る舞(ふるま)いのなかで使(つか)っています。

関わりのある人

  • 紫式部の肖像

    紫式部(むらさきしきぶ)

    むらさき しきぶ/生没年不詳/平安

    人(ひと)の心(こころ)の動(うご)きを、初(はじ)めて長編(ちょうへん)にした人(ひと)

    『源氏物語(げんじものがたり)』を書(か)いた作家(さっか)です。恋(こい)や嫉妬(しっと)、老(お)いといった心(こころ)の揺(ゆ)れを、五十四帖(ごじゅうよんじょう)の長編(ちょうへん)として書(か)ききり、日本語(にほんご)で書(か)かれた文学(ぶんがく)の基準(きじゅん)をつくりました。

  • 紀貫之の肖像

    紀貫之(きのつらゆき)

    き の つらゆき/生年不詳–945/平安

    和歌(わか)は心(こころ)から生(う)まれると書(か)いた人(ひと)

    古今和歌集(こきんわかしゅう)を編(あ)み、その序文(じょぶん)で和歌(わか)とは何(なに)かを仮名(かめい)で論(ろん)じた歌人(かじん)です。仮名(かめい)で日々(ひび)を書(か)く日記(にっき)も自(みずか)ら試(ため)し、日記文学(にっきぶんがく)の形(かたち)を開(ひら)きました。

  • 小野小町の肖像

    小野小町(おののこまち)

    おの の こまち/生没年不詳/平安

    衰(おとろ)えを、花(はな)の色(いろ)で書(か)いた歌人(かじん)

    六歌仙(ろっかせん)に数(かぞ)えられる女性歌人(じょせいかじん)です。恋(こい)と時(とき)の移(うつ)ろいを掛詞(かけことば)で重(かさ)ねた歌(うた)を残(のこ)し、その生涯(しょうがい)には後世(こうせい)に多(おお)くの伝説(でんせつ)が積み重(つみかさ)なりました。

近い言葉の人

同じ時代の人:空海、菅原道真、紀貫之、紫式部

出典

肖像:土佐光起 (Tosa Mitsuoki)/[1]/Public domain/出典ページ

本文は上記を参照して編者が要約・再構成したものです。原文の転載ではありません。