回線が届いただけでは格差は消えない

デジタルデバイドを考えるとき、最初に目につくのは機器や通信環境の差です。スマートフォンやパソコンを持てるか、安定した通信回線を利用できるか、利用料金を継続して負担できるかによって、オンラインの情報やサービスへ近づける度合いが変わります。通信網の整備状況が異なる地域間や国・地域間でも、この差は生じます。

しかし、同じ機器と回線が用意されれば全員が同じ利益を得られるわけではありません。文字入力、検索、アプリの設定、本人確認などを自力で行えるか、安全性を判断できるか、困ったときに相談できるかという違いもあります。さらに、画面が見えにくい、音声を聞き取りにくい、複雑な操作を続けにくいといった事情にサービスが対応していなければ、接続できても利用は困難です。つまり、問題は「持っているか、いないか」だけではなく、利用できる条件がそろっているかまで含みます。

情報格差を生む三つの段差

格差が生まれる過程は、三つの段差に分けると整理しやすくなります。

  1. 接続するまでの段差:端末、通信回線、電源、利用料金など、サービスへ到達するための条件です。
  2. 使いこなすまでの段差:操作方法を理解し、目的に合う情報を探し、安全性や信頼性を確かめる力です。情報を読み解き活用するメディアリテラシーとも深く関係します。
  3. 利益を得るまでの段差:実際に申請を完了する、仕事を得る、必要な支援につながるなど、利用が具体的な結果に結び付くかという差です。

たとえば、オンライン申請のページを開けても、説明が難しく、入力途中で何度もエラーになれば手続きは完了しません。この場合、接続の段差は越えていますが、使いこなす段差や利益を得る段差が残っています。デジタルデバイドを単なる機器不足として扱うと、後ろの二つを見落としやすくなります。

オンライン化が便利さと不利益を同時に生むとき

買い物、予約、求職、医療や防災に関する情報、行政手続きなどがオンライン化されると、場所や時間に縛られにくくなります。一方で、窓口や電話など別の方法が十分に用意されていなければ、デジタル機器を利用しにくい人ほど必要な情報や機会に届きにくくなります。多くの人に便利な仕組みでも、それだけを唯一の入口にすると新しい不利益を生むことがあります。

また、格差の原因を利用者本人の努力だけに求めるのは適切ではありません。所得、居住地域、年齢、障害、使用できる言語、周囲の支援など、複数の条件が重なって利用のしやすさを左右するからです。機器を貸し出すだけ、操作講習を一度開くだけでは解決しない場合があります。どの段差で、誰が、なぜ止まっているのかを確かめることが対策の出発点です。

格差を縮めるには入口を一つにしない

対策は一種類では足りません。通信網の整備や利用しやすい料金、端末を使える環境は、接続の段差を小さくします。操作を学ぶ機会、相談窓口、分かりやすい説明は、使いこなす段差を小さくします。さらに、オンライン以外の申請手段を残し、途中で助けを求められる設計にすれば、必要な結果へ到達しやすくなります。

サービス自体の作り方も重要です。年齢や障害の有無などにかかわらず利用しやすくするユニバーサルデザインは、最初から多様な利用者を想定する考え方です。文字の読みやすさ、キーボードだけでの操作、画像に代わる説明などを整えるユーザビリティとアクセシビリティも欠かせません。利用者に訓練を求めるだけでなく、仕組みの側にある障壁を取り除く視点が必要です。

対策の効果は、回線の有無だけでなく、手続きを最後まで完了できたか、必要な情報を理解できたかといった結果まで見て確かめます。利用できない人の人数だけを数えるのではなく、利用を妨げている理由を分けて調べることで、必要な支援を選びやすくなります。

「デバイド」は一本の境界線とは限らない

英語の「divide」には、分けることや隔たりという意味があります。そのため「利用できる側」と「利用できない側」がきっぱり二分される印象を受けますが、実際の利用能力は連続的です。メッセージは送れても文書を添付できない、動画は見られても公的な申請は難しいなど、目的によって越えられる段差が変わります。

さらに、新しい機器やサービスが普及すると、それまで操作できていた人にも別の段差が現れます。IoT機器の設定や、複数のサービスをまたぐ本人確認など、必要な知識や操作は技術の変化とともに増減します。デジタルデバイドは一度解消すれば終わる問題ではなく、社会の仕組みが変わるたびに誰が利用しにくくなっているかを点検し続ける課題です。