波形を「点・段階・ビット列」へ変える

マイクが受け取る音は、空気の振動に応じて連続的に変化する電気信号になります。このままでは、離散的な値を扱うコンピュータに記録できません。そこで、まず一定の時点ごとに信号の大きさを測り、次に測った値を限られた段階へ当てはめ、最後に各段階を0と1の並びで表します。これが標本化、量子化、符号化の順序です。

三つは似た処理の言い換えではありません。標本化で連続していた時間が飛び飛びになり、量子化で連続していた値の大きさが飛び飛びになります。符号化は、その結果を保存や計算に使える記号へ対応させます。アナログとデジタルの違いが、変換のどの段階で生まれるかを分けて考えることが大切です。

標本化は「いつ測るか」を決める

標本化では、連続する波形から一定の時間間隔で値を取り出します。1秒間に標本化する回数が標本化周波数で、単位はHz(ヘルツ)です。回数を増やすほど時間方向の細かな変化を捉えられますが、単に回数を増やせば無条件に元の信号を再現できるわけではありません。

信号に含まれる最も高い周波数まで正しく扱うには、その2倍より高い標本化周波数が必要です。これは標本化定理に基づく条件です。条件を満たさないと、本来は高い周波数の成分が低い周波数のように現れる「折り返し雑音」が生じます。そのため、実際の変換では標本化の前に、扱える範囲を超えた高い周波数成分をフィルタで弱めます。

量子化は測定値を有限の段階へ丸める

標本化した直後の値は、まだ細かな大きさを持っています。量子化では、それぞれを最も近い段階など、決められた規則に従って有限個の値へ置き換えます。量子化ビット数が8ビットなら、表現できる段階は2の8乗で256段階です。ビット数が1増えると段階数は2倍になり、元の値との差を小さくしやすくなります。

丸める前の値と量子化後の値の差を量子化誤差といいます。段階数を増やせば一般に誤差は小さくできますが、完全に連続した元の値そのものになるわけではありません。また、記録できる範囲を超える大きさの信号は、ビット数を増やすだけでは正しく表せません。入力の範囲と段階の細かさは、別の条件として考える必要があります。

符号化すると保存できるビット列になる

符号化では、量子化された各段階に二進法の符号を割り当てます。例えば256段階なら、各標本を8ビットで区別できます。ここでいう符号化は、文字と番号を対応させる文字コードや、ファイル容量を減らす圧縮だけを指す言葉ではありません。アナログ信号のデジタル化では、量子化された値をビット列として表す段階を意味します。

圧縮していない音声の基本的なデータ量は、「標本化周波数×量子化ビット数×チャンネル数×時間」で見積もれます。標本化周波数、ビット数、チャンネル数のどれかを増やすと、同じ長さでもデータ量は増えます。その後に可逆圧縮と非可逆圧縮を行えば容量を減らせますが、それはデジタル化を終えた後の処理です。三段階と圧縮を混同しないことが、データ量を考える手掛かりになります。

この式で表せる形式では、同じ設定と長さなら、無音に近い録音も複雑な音楽も基本的なデータ量は同じです。各時点の値が単純か複雑かにかかわらず、決めた回数だけ標本を取り、一つずつ同じビット数で記録するからです。また、左右の音を別々に記録する2チャンネルの音声は、1チャンネルの音声に比べて標本の数が2組になるため、ほかの条件が同じならデータ量も2倍になります。

写真では位置を標本化し、色や明るさを量子化する

三段階は音声だけの仕組みではありません。写真では、連続した平面を格子状の画素に区切って各位置の情報を取り出すことが、空間方向の標本化に当たります。そして、各画素の明るさや色を決められた段階で表すことが量子化に当たります。画像の細かさを表す画素数と、各画素が表せる色の段階数は、異なる性質です。

この考え方は、画素の集まりとして画像を持つラスタ形式とベクタ形式のうち、特にラスタ形式を理解する助けになります。画素数だけを増やしても色の段階が粗ければ滑らかな色の変化は表しにくく、色の段階だけを増やしても画素が少なければ形の細部は表しにくいからです。

デジタル機器の入口と出口にはアナログが残る

音声ファイルが0と1で保存されていても、聞こえる音そのものが0と1になるわけではありません。録音時にはマイクが空気の振動を電気信号へ変え、その信号を三段階でデジタルデータにします。再生時には逆向きに、数値から連続的な電気信号を作り、スピーカーが空気を振動させます。

つまり、デジタル化は現実の連続量を消す処理ではなく、保存・処理・伝送する区間で扱いやすい表現へ置き換える処理です。カメラの光、温度センサーの電圧、通信で運ばれる音声など、現実世界とコンピュータが接する場所では、アナログからデジタルへ、またはデジタルからアナログへの変換が働いています。

「では、どれくらい細かく測れば足りるのか」「細かくするとデータ量はどれだけ増えるのか」まで踏み込むときは、デジタル化の細かさとデータ量のガイドで、標本化定理・ビット深度・圧縮・文字コードを順につないで確かめられます。