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  4. 第2章 組織と人材

企業活動 第2章 ストラテジ系・大分類:企業と法務

組織と人材

組織の組み立て方と役職、人を育てて引き止める人事の仕組み、多様な働き方と考えを広げる発想法。

2-1組織の形

春、こむぎ堂は駅前に2号店を開きました。アルバイトは5人から15人に増え、焼く係は本店の厨房に、売る係は二つの店に分かれて立ちます。開店から1週間たった夕方、新人のアルバイトが休憩室のホワイトボードの前で立ち止まっていました。本店の焼成担当の先輩からは「明日は朝6時に本店で仕込みを手伝って」、2号店の販売担当の先輩からは「明日の朝は2号店のレジに入って」と言われたのです。どちらに従えばよいのか、だれにも聞けません。その新人は翌月、仕事を覚える前に辞めてしまいました。同じ週、子育て中のアルバイトからは「1日3時間だけでも働けませんか」という相談が届きます。店長はミナトに言いました。「パンの配合なら決められるのに、人の配置はどう決めればいいんだろう」

休憩室のホワイトボードの前で、新人のアルバイトが左右の先輩から別々の指示を受けて困っており、少し離れた所からミナトがそれを見ている
図:2人の先輩から別々の指示を受けた新人。どちらに従えばよいかが決まっていない

ミナトが相棒に相談すると、最初に返ってきたのは質問でした。「その新人にとって、上司はだれ?」。こむぎ堂では、それがだれにも決まっていませんでした。会社の組織とは、仕事をどう分け、だれがだれに指示を出すのかを決めた仕組みです。分け方にはいくつかの型があり、型ごとに得意なことと苦手なことがあります。

いちばん基本になるのが、社長を頂点に、部長、課長、係長、担当者と指揮命令の段が下へ広がっていく階層型組織です。形からピラミッド型組織とも呼ばれます。だれの指示に従うのかが1本の線で決まるので、命令が混乱しにくい組織です。反対に、段が多くなるほど、現場の声が上に届くまで、上の決定が現場に下りるまでに時間がかかります。

段の下で部門をどう分けるかにも型があります。製造、販売、経理、人事のように、仕事の種類(職能)ごとに部門を分けるのが職能別組織です。同じ意味で機能別組織とも呼ばれます。こむぎ堂なら「焼成部門」と「販売部門」に分ける形です。同じ仕事の人が集まるので専門の腕が磨かれやすい一方、焼成と販売の意見が食い違ったときにまとめられるのは、両方の上にいる店長だけになります。

ここから基本情報!命令する部門と助言する部門

部門を、命令の線に乗る部門と、横から支える部門の二種類に分けて組み合わせたものがラインアンドスタッフ組織です。パンを焼く、売るといった利益に直接つながる仕事をするのがライン部門で、上から下への命令系統を持ちます。人事、経理、企画のように、専門の知識でライン部門に助言し支えるのがスタッフ部門です。スタッフ部門はライン部門に直接命令はしません。命令の線を1本に保ったまま、専門家の知恵を借りられる形です。

基本情報の範囲ここまで

会社が大きくなり、扱う商品や地域が増えると、別の分け方が向いてきます。製品別、地域別、顧客別などのまとまりで事業部をつくり、それぞれに大きな権限と利益の責任を持たせる形が事業部制(事業部制組織)です。こむぎ堂なら「本店事業部」と「2号店事業部」がそれぞれ仕入れから販売まで受け持ち、どちらの店がいくら稼いだかが見える形になります。判断が速くなる代わりに、各事業部が同じ機能(仕入れや経理)を別々に持つので、重複のむだが出やすくなります。

事業部制をさらに進め、社内の事業部門を一つの独立した会社のようにみなすのがカンパニー制(カンパニー制組織)です。利益の責任に加えて、どこに投資するかといった判断まで、各カンパニーに大きく任せます。さらに進むと、事業を本当に別の会社に分け、その会社の株式を持つことで全体をまとめる形になります。他の会社の株式を持ち、その会社の経営を支配することを主な目的とする会社を持株会社といいます。社名に「ホールディングス」と付く会社の多くがこれにあたります。

二つの分け方を同時に使う組織もあります。職能別の部門と、事業やプロジェクトのまとまりを縦横に組み合わせ、一人の従業員が職能の上司とプロジェクト(事業)の上司の両方から指示を受ける形がマトリックス組織です。人や知識を部門をまたいで使い回せる長所がありますが、二人の上司の指示が食い違うと現場が迷います。休憩室の新人は、決まりのないまま、マトリックス組織のいちばん難しいところに立たされていたのです。

こむぎ堂を例に、焼成と販売で分けた職能別組織、本店と2号店で分けた事業部制組織、その二つを縦横に組み合わせたマトリックス組織の3つの組織図が並んでいる
図:同じこむぎ堂を、職能別・事業部制・マトリックスの3つの型で組み立てた場合

決まった目的のために、各部門から人を集めて一時的につくり、目的を果たしたら解散する形がプロジェクト組織です。2号店の開店準備のために、焼成から1人、販売から1人、ミナトを加えた3人のチームをつくり、開店したら元の仕事に戻る、という使い方です。

新しい事業を育てるための組織もあります。既存の部門から切り離し、独立した事業に近い形で新規事業を任せる組織が社内ベンチャー組織です。こむぎ堂が「冷凍パンの通販」を新しく始めるなら、本業の決まりに縛られない小さなチームに任せる方法があります。また、上下の階層ではなく、部門や会社の枠を越えたゆるやかなつながりで人や組織が協力し合う形はネットワーク組織と呼ばれます。

2-2経営者の役職

2号店の開店資金を出してくれた出資者が、店にやって来ました。「株式会社になったのだから、だれが何の責任者かを決めておきましょう。お金のことはだれが見るのですか。予約システムのことは?」。店長は「全部わたしです」と答えかけて、言葉を止めました。

会社が大きくなると、経営の責任を一人で抱えきれなくなり、分野ごとに最高責任者を置くようになります。こうした役職は英語の「Chief ○○ Officer」の形で呼ばれ、まとめてCxOと書きます。xの所に分野の頭文字が入ります。

中心にいるのが、会社の経営全体に最終的な責任を持つCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)です。こむぎ堂では店長がこの立場にいます。IT分野では、経営の戦略に合わせて情報システムやIT投資の計画を立て、実行を指揮するCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)が欠かせない役職です。法令や社内の決まりが守られているかを確かめる仕組みを統括するのはCCO(Chief Compliance Officer:最高コンプライアンス責任者)です。ただし、CCOという略語は会社によって別の役職(たとえば広報の責任者)を指すこともあります。

ここから基本情報!分野ごとの最高責任者

CEOが決めた方針を、日々の業務として実行する責任者がCOO(Chief Operating Officer:最高執行責任者)です。CEOが「どこへ向かうか」を決め、COOが「どう動かすか」を受け持つ、という分担になります。資金の調達や運用、決算など、お金に関する最高責任者はCFO(Chief Financial Officer:最高財務責任者)です。出資者の「お金のことはだれが見るのか」は、CFOを決めてほしいという意味でした。

デジタル技術を使って事業そのものを変える戦略を担うのがCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)、会社が扱う個人情報の保護とプライバシーへの配慮に責任を持つのがCPO(Chief Privacy Officer:最高プライバシー責任者)です。情報セキュリティの対策を全社で統括するCISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)もあります。CIOが「ITをどう使うか」、CISOが「ITと情報をどう守るか」、CPOが「個人情報をどう扱うか」と、守備範囲が少しずつずれています。

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小さな会社では、一人がいくつもの役職を兼ねるのがふつうです。出資者に聞かれた店長は、お金のことは店長自身が、予約システムのことはミナトが係として見る、と紙に書き出しました。役職の名前よりも、責任の置き場所が書いてあることのほうに意味があります。

2-3人的資源管理

新人が辞めた翌週、店長は残ったアルバイトの名前を紙に並べて、ため息をつきました。「だれが何をできるのか、実はちゃんと分かっていなかった」。成形が得意な人、接客で常連さんに覚えられている人、通販の発送を任せたら一番速い人。それは店長の記憶の中にしかありませんでした。

人を、会社を動かす大切な経営資源とみなし、採用、配置、育成、評価、処遇までを経営の戦略に結び付けて管理する考え方をHRM(Human Resource Management:人的資源管理)といいます。足りない人をその都度補うのではなく、どんな人が何人いれば店の計画が実現できるかから考えます。

評価の進め方としてよく使われるのがMBO(Management by Objectives and self-control:目標による管理)です。期のはじめに、本人が上司と話し合って自分の目標を決め、期の終わりにどこまで達成できたかで評価します。「上から与えられた目標」ではなく「自分で決めた目標」にすることで、自分で考えて動く力を引き出すねらいがあります。こむぎ堂なら、「3か月でクロワッサンの成形を一人で任されるようになる」が一つの目標になります。

目標や評価の前提として、その職務で何をするのか、どこまでの権限と責任があるのかを書き出した文書が職務記述書です。「2号店の販売責任者は、レジ締めの確認と、その日のシフトの変更を決められる」と書いてあれば、休憩室の新人のように迷う人は減ります。

ここから基本情報!評価と配置の考え方

評価の物差しとして、高い成果を上げ続ける人に共通して見られる行動の特徴を使うことがあります。これをコンピテンシーといいます。知識や資格を持っているかではなく、「混む前に先回りして棚を補充する」のように、成果につながる行動をとれているかを見ます。年齢や勤続年数ではなく、仕事の成果や実績で賃金や昇進を決める人事制度は成果主義と呼ばれます。

配置の仕組みもあります。人を育てる目的で、いくつもの部署や仕事を計画的に経験させるのがジョブローテーションです。焼成、販売、通販の発送を順に回れば、店全体の流れが分かる人が育ちます。反対に、本人の希望から動く仕組みとして、一定の条件を満たした社員が自分から行きたい部署に名乗り出て異動を申し出られる制度をフリーエージェント制(社内FA制度)といいます。名前はプロ野球のFA制度に由来します。

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店長の記憶の中にしかなかった「だれが何をできるか」を、会社の情報として集めて生かすのがタレントマネジメントです。一人ひとりの技能、経験、資格、希望を一か所にまとめて把握し、採用、配置、育成の判断に使います。15人分の情報を表計算のシートで管理するのも、その小さな一歩です。

こうした人事の仕事をITで効率よく、より的確にする取り組みをHRテック(HRTech)と呼びます。シフト作成のアプリ、勤怠の記録、技能の一覧をクラウドでまとめるサービスなどが含まれます。データがそろえば、「どの時期に辞める人が多いか」も見えてきます。

こむぎ堂がいちばん困っていたのは、育てる前に人が辞めてしまうことでした。必要な人材、とくに力のある人が辞めずに長く働き続けられるようにする取り組みをリテンションといいます。給料だけでなく、仕事の任せ方、成長の見通し、働きやすさなどを組み合わせて引き止めます。

成長の見通しを形にした仕組みがCDP(Career Development Program)です。本人の適性と希望をふまえ、何年かけてどんな経験を積み、どんな役割を目指すのかを計画し、長い目で能力開発を支えます。「1年目は販売、2年目に成形を覚え、3年目には2号店の責任者に」という道筋が見えれば、続ける理由になります。

2-4人材の育て方

次の新人が入る前に、店長とミナトは「どう教えるか」を考え直すことにしました。前の新人は、忙しい朝に先輩の横で見よう見まねをするだけで、聞きたいことがあっても質問できる時間はありませんでした。

人の育て方は、仕事の場の中で教えるか、外で教えるかで大きく二つに分かれます。実際の仕事をしながら、上司や先輩がその場で指導するのがOJT(On the Job Training)です。生地の触り方や焼き色の見方のように、やってみないと身に付かない技能に向きます。ただし、前の新人のように、教える側に時間がなければ、OJTは「放っておくこと」と変わらなくなります。

ふだんの仕事を離れて、研修や講習、セミナーなどで学ぶのがOff-JT(Off the Job Training)です。衛生管理の決まりや接客の基本のように、まとめて体系的に教えたほうがよい内容に向きます。Off-JTの中には、お客さん役と店員役に分かれて実際にやってみるロールプレイング(ロールプレー)もあります。「予約のパンが焼けていない」と言われたときの対応を、営業時間外に練習できます。

Off-JTを、パソコンやスマートフォンを使って好きな時間に受けられるようにしたものがe-ラーニングです。シフトがばらばらな15人を同じ時間に集めなくて済みます。さらに、学ぶ人ごとの理解の度合いや進み具合に合わせて、次に出す問題や教材の難しさを自動で変える学び方をアダプティブラーニングといいます。アレルギー表示の小テストで間違えた所だけを、もう一度出してくれる仕組みです。

ここから基本情報!事例から学ぶ

実際に起きた出来事を題材に、何が起き、なぜそうなり、どうすればよかったかを分析して学ぶ方法がケーススタディです。こむぎ堂なら、「新人が1か月で辞めた件」そのものが教材になります。正解を覚えるのではなく、自分ならどう判断するかを考える練習になります。

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教え方には、答えを渡すか、引き出すかの違いもあります。指示や答えを与えるのではなく、問いかけと対話によって本人に気づかせ、自分で目標に向かって動けるように支えるのがコーチングです。「焼き色が薄いのはなぜだと思う?」と聞き返すやり方です。一方、経験を積んだ先輩(メンター)が後輩の相談に乗り、仕事の悩みからこの先の進み方まで、長い期間にわたって助言して支えるのがメンタリングです。コーチングは目の前の目標の達成に、メンタリングは人としての成長やキャリア全体に重心があります。

OJT、Off-JT、コーチング、メンタリングの4つを、だれが教えるか、どこで教えるか、どう教えるかの3つの観点で並べた表の図
図:OJT・Off-JT・コーチング・メンタリングを、だれが・どこで・どう教えるかで比べる

働く人自身が学び直す動きもあります。デジタル化などで仕事の中身が変わっていくのに合わせ、新しい仕事に必要な技能を身に付け直すことをリスキリングといいます。電話とノートで受けていた予約が予約システムに替われば、ベテランの販売担当にも、画面での予約の確認や変更という新しい技能が要ります。会社が学ぶ機会と時間を用意することも、リスキリングに含めて考えます。

2-5働き方と健康

子育て中のアルバイトの相談に、店長は「朝の3時間だけなら、いちばん忙しい時間だから助かる」と答えました。その話を聞いていたベテランの焼成担当が、ぽつりと言います。「わたしは逆に、毎朝4時起きが少しきつくなってきた」

仕事と、子育てや介護、趣味、休息といった生活の両方を、どちらかを犠牲にせずに充実させようとする考え方をワークライフバランスといいます。働く時間の長さだけの話ではなく、働く人がそれぞれの事情に合わせて働き方を選べることを含みます。

仕事の中身の側から、働く人の状態を表す言葉もあります。仕事に誇りややりがいを感じ(熱意)、仕事から活力を得ていきいきとしており(活力)、仕事に夢中になっている(没頭)状態をワークエンゲージメントといいます。燃え尽きて疲れ切った状態の反対側にある考え方で、長く働き続けてもらうための指標としても使われます。

ここから基本情報!よい状態と仕事の分け合い

さらに広く、体と心が健康で、人とのつながりや社会の中でも満たされている、よい状態をウェルビーイング(well-being)といいます。病気でないことだけでなく、満たされているかどうかまでを見る考え方で、会社が働く人の状態を考えるときの目標としても使われます。

一人ひとりの労働時間を短くして仕事を分け合い、より多くの人が働けるようにする仕組みをワークシェアリングといいます。朝4時からの仕込みを2人で半分ずつ受け持つのも、小さなワークシェアリングです。

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働く人の心の健康と、それを保つための取り組みをメンタルヘルスといいます。人が急に増えて指示系統が混乱した時期は、ストレスがたまりやすい時期でもあります。相談できる窓口をつくる、働く時間を見直すといった対策は、体の健康管理と同じく会社の仕事です。

働く時間の決め方にも、いくつかの制度があります。始業と終業の時刻を働く人が自分で決められるフレックスタイム制で、全員が必ず働いている時間帯として設ける時間をコアタイムといいます。たとえば10時から14時をコアタイムにすれば、打ち合わせはその時間に入れられます。コアタイムは必ず設けなければならないものではなく、設けない運用もあります。

働いた時間ではなく成果で評価する考え方を進めた制度もあります。一定の条件を満たす働く人を、労働時間の規制(残業代の支払いなど)の対象から外す制度をホワイトカラーエグゼンプションといいます。日本では、高い年収と専門性などの条件を満たす人に限った「高度プロフェッショナル制度」として、2019年4月から設けられています。これとは別に、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間を働いたものとみなす裁量労働制もあります。仕事の進め方を本人の裁量に大きく任せる専門的な職種などに使われる制度です。

ここから基本情報!選べる福利厚生

働く時間だけでなく、福利厚生も選べるようにする方法があります。会社が用意したいくつもの福利厚生のメニュー(保育の費用の補助、資格の取得費、健康診断の追加など)から、決められた枠の中で、働く人が自分に合うものを選んで使える制度をカフェテリアプランといいます。子育て中の人と、資格を取りたい人とでは、うれしい支えが違うからです。

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2-6場所にとらわれない働き方

通販の注文が増え、問い合わせのメールに答える仕事が毎日1時間ほど出てきました。その仕事なら厨房にいなくてもできます。店長は、足をけがして店に立てなくなったアルバイトに「家からメールの返事だけお願いできるかな」と頼みました。

情報通信技術を使い、会社や店といった決まった場所や時間にとらわれずに働くことをテレワークといいます。働く場所によって、いくつかの型に分けられます。

自宅を仕事の場所にするのが在宅勤務で、けがをしたアルバイトのメール対応はこれにあたります。移動中の電車やお客さんの所、カフェなどで、ノートパソコンやスマートフォンを使って働くのがモバイルワークです。本社とは別に、自宅の近くや郊外、地方などに設けた仕事用の拠点で働く形をサテライトオフィス勤務といいます。観光地や帰省先など、休暇を過ごす場所で仕事もするワーケーションも、テレワークの一つの型に数えられます。

テレワークは通勤の時間を減らし、事情のある人も働き続けやすくします。その一方で、会社から見ると、いつからいつまで働いたのか、働きすぎていないかが見えにくくなります。この労務管理の難しさに加えて、店の外で顧客の情報を扱う危うさ、顔を合わせないことで相談しにくくなることも、経営の側が気を配る点です。

ここから基本情報!小さな事業所という働き方

会社に雇われて働く場所を変えるテレワークとは別に、自宅や小さな事務所を拠点に、ITを使って仕事や事業をする形をSOHO(Small Office Home Office)といいます。こむぎ堂の通販サイトの写真を撮っている写真家が、自宅の一室を事務所にして一人で仕事をしているなら、それがSOHOです。

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働く場所が分散すると、オフィスの使い方も変わります。一人ひとりの決まった席を設けず、その日に来た人が空いている席を自由に使う方式をフリーアドレスといいます。出社する人が日によって違うなら、全員分の机を用意しなくて済みます。

2-7多様性を生かす

2号店の面接に、留学生と、60代で会社を定年退職した人が来ました。店長は少し迷いました。「留学生は漢字のポップが書けるかな。60代の人に、朝の力仕事は頼めるかな」。ミナトは、迷っている中身が「できないこと」ばかりだと気づきました。

性別、年齢、国籍、障害の有無、価値観、働き方の事情など、人の違いを受け入れ、それを組織の力として生かそうとする考え方をDiversity(ダイバーシティ:多様性)といいます。留学生は外国から来たお客さんに母語で応対でき、60代の人は商店街の古いお得意さんの好みを知っています。違いは、そのまま店の持つ力の幅になります。

多様な人がいるだけでは、力は生まれません。そこで、多様性(Diversity)に、公平性(Equity)と包摂性(Inclusion)を加えた考え方がDE&I(Diversity, Equity & Inclusion)です。公平性は、全員に同じものを配る「平等」とは違い、一人ひとりの事情に合わせて必要な支えを用意し、同じスタートラインに立てるようにすることです。漢字に慣れない人には、ふりがな付きのマニュアルを渡します。包摂性は、一人ひとりが組織の一員として受け入れられ、意見を出して力を発揮できる状態を指します。

多様性を阻むものもあります。能力も実績もあるのに、女性や少数派の人が、管理職などの上の立場に進もうとするとぶつかる、目に見えない壁をグラスシーリング(ガラスの天井)といいます。制度の上では禁じられていなくても、「責任者は朝早く来られる人に」といった思い込みが、特定の人を上の立場から遠ざけることがあります。

2-8やる気と会議

組織の形を決めても、店の空気はすぐには変わりませんでした。2号店の販売担当は「どうせ本店が全部決める」と言い、本店の焼成担当は「2号店の注文はいつも急すぎる」とこぼします。店長は、二つの店のアルバイト全員を集めて話し合いの場を開くことにしました。

人が目標に向かって行動を起こし、それを続けようとする気持ちの動き、つまり動機づけや意欲をモチベーションといいます。モチベーションは、給料を上げれば必ず上がる、というほど単純ではありません。何が人を動かすのかについては、いくつかの理論があります。

ここから基本情報!やる気の理論

ハーズバーグは、仕事の満足と不満をもたらす要因は別のものだと考えました。給与、作業の条件、職場の人間関係、会社の方針などは、足りないと不満が生まれますが、満たしても不満が消えるだけで、やる気を高めるまでには至りません。これが衛生要因です。一方、仕事を成し遂げること(達成)、認められること(承認)、仕事そのもののおもしろさ、責任、成長などは、満たされると満足とやる気を高めます。これが動機づけ要因です。この考え方を衛生理論(二要因理論、動機づけ・衛生理論とも)といいます。休憩室を快適にするのは衛生要因の手当てで、新人の上達を先輩がほめるのは動機づけ要因への働きかけです。

マグレガーは、人の見方を二つに分けました。人は本来なまけたがり、命令と管理がなければ働かないとみるのがX理論です。人は本来、条件が整えば自分から進んで働き、責任も引き受けるとみるのがY理論です。この二つからなるXY理論では、X理論に立てば命令と罰で管理し、Y理論に立てば目標と責任を任せて自主性を引き出す、と管理のしかたが変わります。前に見た目標による管理(MBO)は、Y理論に近い管理の方法です。

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人を目標に向けて動かし、まとめる力がリーダーシップです。どんなリーダーシップがよいかには、唯一の正解はないとされます。状況(部下の成熟度や仕事の性質など)によって効果のあるリーダーシップの型は変わる、とする考え方がコンティンジェンシー理論です。リーダーが一人で引っ張るのではなく、メンバー一人ひとりが場面に応じてリーダーの役割を担うのがシェアードリーダーシップ、リーダーがまず部下に奉仕し、部下が力を発揮できるように支えることで組織を導くのがサーバントリーダーシップです。焼成のことは焼成担当が、2号店の売り場のことは2号店の担当がその場で決める、というのはシェアードリーダーシップの考え方に近い形です。

ここから基本情報!話し合いを進める

全員を集めた話し合いには、進め役が要ります。会議で中立の立場に立ち、自分の意見を押し付けずに、発言を引き出し、論点を整理して合意へ導く役割の人をファシリテータといいます。店長が進め役をすると、どうしても店長の意見に寄ってしまうので、この日はミナトが務めました。

話し合いでは、立場の違う人の利害がぶつかります。こうした対立(コンフリクト)を放っておかず、原因を探って建設的な解決へ向けることをコンフリクト管理といいます。2号店が前日の何時までに注文を出せば本店が無理なく焼けるか、お互いの条件を出し合って合意点を探る交渉がネゴシエーションです。決めたことを人に伝える力も問われます。聞き手に合わせて内容を組み立て、口頭で示すプレゼンテーションや、手順書のように正確で分かりやすい実務の文書を書くテクニカルライティングがその例です。

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人が集まって話す場には、目的に合わせていくつかの形があります。何人かの専門家や代表者が聴衆の前で意見を出し合い、討論する形をパネルディスカッションといいます。商店街の「これからの町のお店」という催しで、店長が登壇を頼まれたのはこの形でした。

会社の外とつながる集まりもあります。企業どうしの取引を目的に、商品やサービスを並べて商談をする見本市や展示会をトレードフェアといいます。こむぎ堂が冷凍パンを卸す取引先を探すなら、食品のトレードフェアに出展する方法があります。そうした催しや式典にあわせて、招いた人をもてなすために開く歓迎の会がレセプションです。

2-9考え方と発想法

話し合いの議題は「新人が辞めないために何ができるか」でした。最初の10分、だれも口を開きません。店長がいる前で、言いにくいことは言えないのです。ミナトは、全員に付箋を配りました。

アイデアを集める方法として広く知られているのがブレーンストーミングです。数人で自由にアイデアを出し合う集団の発想法で、出された意見を批判しない、自由奔放な意見を歓迎する、質よりも量を求める、他人のアイデアに便乗して発展させてよい、という四つの決まりを守ります。批判しないのは、「それは無理」と言われると、次の意見が出なくなるからです。

声の大きい人の意見に流れやすい場では、口で言う代わりに紙に書く方法が向きます。各自が用紙にアイデアを書き、それを隣の人に回し、受け取った人は前の人のアイデアをもとに新しいアイデアを書き足していくのがブレーンライティングです。発言が苦手な人の考えも、同じ重さで集まります。ミナトが付箋を配ったのは、このためでした。

集まったアイデアを一人で整理するときには、中心にテーマを書き、そこから連想される言葉や考えを枝分かれさせて放射状に書き広げていくマインドマップが使えます。真ん中に「新人が続ける」と書き、「教える人」「最初の1週間」「シフト」と枝を伸ばしていくと、考えの抜けや、つながりが目に見えてきます。

ここから基本情報!考え方の型

出てきたアイデアを結論にまとめるには、筋道の通った考え方が要ります。問題をいくつもの要素に分け、それぞれの関係を整理し、矛盾なく筋道を立てて結論を導く考え方をロジカルシンキング(論理的思考)といいます。「新人が辞める」を、「仕事が覚えられない」「指示がばらばら」「時間が合わない」に分ければ、それぞれに別の手が打てます。

情報が全部そろうのを待たず、限られた材料から「おそらくこれが答えだ」という仮の答え(仮説)を先に立て、それを確かめながら結論に近づいていくのが仮説思考です。「辞めた原因は、指示を出す人が決まっていなかったことだ」と仮説を立て、残っているアルバイトに聞いて確かめる、という進め方になります。

考えの深め方にも、二つの向きがあります。決まった前提から出発し、一つずつ論理を積み重ねて深く掘り下げていくのが垂直思考です。これに対し、前提や固定観念そのものを問い直し、まったく別の角度から発想するのが水平思考(ラテラルシンキング)です。「新人にどう早く仕事を覚えさせるか」を突き詰めるのが垂直思考なら、「最初の1か月は覚えなくても回る仕事だけを任せたら?」と問いの前提を変えるのが水平思考です。

基本情報の範囲ここまで

付箋が集まると、ホワイトボードは30枚以上で埋まりました。いちばん多く書かれていたのは「だれに聞けばいいか分からない」でした。

翌週、休憩室の壁に新しい紙が2枚貼られました。1枚は組織図です。本店と2号店にそれぞれ責任者を置き、その日の配置は店の責任者が決め、焼成の手順は焼成担当が教える、と線が引かれています。もう1枚は育成表で、新人一人ひとりに先輩が1人ずつ付き、最初の1週間に覚える仕事と、相談してよい時間が書かれていました。朝の3時間だけの勤務の欄も、ちゃんとあります。春に辞めた新人と同じ立ち位置に立った次の新人は、ホワイトボードの前で迷わず、組織図を指でたどってから2号店へ向かいました。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(49語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(70語)を暗記カードで覚える

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