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  4. 第3章 OR・IEと業務分析

企業活動 第3章 ストラテジ系・大分類:企業と法務

OR・IEと業務分析

在庫・日程・作業・品質を数で捉え、現場を調べて案を比べ、根拠をもって決めるための手法。

3-1線形計画法

12月の第3週、こむぎ堂の右の棚には、売れ残ったシュトーレンが10本並んでいました。前の週は正反対で、昼前に売り切れ、予約なしで来たお客さんに何度も頭を下げています。バターの発注は毎回店長の勘で、ある週は冷蔵庫からあふれ、ある週は足りずに仕込みを減らしました。仕込みの段取りも人によって違い、形の崩れた焼き上がりは週ごとに増えたり減ったりします。閉店後、店長は帳面を閉じて言いました。「来年は勘じゃなくて、数字で決めたい」。ミナトが事情を打ち込むと、相棒からは問いが返ってきました。「何を、いつ、どれだけ作って、どれだけ仕入れるか。どこで形が崩れているか。どれから数にしてみる?」

パン屋の売り場で、売れ残ったシュトーレンが並ぶ棚と空っぽの棚を前に、店長が腕を組み、ミナトがタブレットに数字を書き込んでいる
図:売れ残る日と売り切れる日。どちらも、作る数と仕入れる量を勘で決めた結果だった

最初に数にしやすいのは、限られた材料とオーブンで何を何個焼くか、という問題でした。バターの量にも、オーブンを回せる回数にも上限があります。その上限の中で、利益がいちばん大きくなる組み合わせを探すことを最適化といいます。こうした問題を式やモデルで表し、筋道を立てて最もよい答えを探す方法をまとめてOR(Operations Research:オペレーションズリサーチ)と呼びます。在庫の量、作業の日程、競う相手との駆け引きも、同じように数の問題として解けます。

店長の勘も、長年の経験から出た答えです。ただ、勘で決めた数は、なぜその数なのかを人に説明できません。来年、別の人が仕込みを任されたときに、同じ判断をくり返せる形でも残りません。

ここから基本情報!利益が最大になる組み合わせを解く

目的(利益を最大にする)と制約(材料や時間の上限)が、どちらも一次式(足し算と定数倍だけでできた式)で書ける問題を解く方法を線形計画法(LP:Linear Programming)といいます。こむぎ堂の数字で式にしてみます。

1日に使えるバターは10kg、オーブンは70枠
商品バターオーブン1つあたりの利益
シュトーレン(x本)200g1枠600円
パネトーネ(y個)100g1枠400円

バターの制約は 0.2x+0.1y≦10、両辺を10倍して 2x+y≦100 です。オーブンの制約は x+y≦70、作る数は負にならないので x≧0、y≧0。この条件の中で、利益 600x+400y を最大にします。条件を満たす (x, y) の範囲をグラフに描くと、角のある多角形になります。目的の式も一次式なので、最大の値は必ずこの多角形の角(頂点)のどれかで出ます。

多角形の頂点ごとの利益
頂点(x, y)計算利益
(0, 0)何も焼かない0円
(50, 0)600×5030,000円
(30, 40)600×30+400×4034,000円
(0, 70)400×7028,000円

1つあたりの利益が大きいシュトーレンだけを焼くと、バターを使い切った時点でオーブンが20枠余ります。シュトーレン30本とパネトーネ40個なら、バター(6kg+4kg)もオーブン(70枠)もちょうど使い切り、利益は34,000円で最大になります。(30, 40) は、2つの制約の直線 2x+y=100 と x+y=70 が交わる点です。

このように、材料・時間・人手などの限られた資源を複数の用途にどう割り振れば全体の効果が最大になるかを求める問題を配分問題といいます。いまの例は、バターとオーブンを2つの商品に割り振る配分問題でした。

変数が2つなら頂点を全部書き出せますが、商品が数十、材料が数十になると頂点の数は手に負えないほど増えます。そこで、ある頂点から出発し、目的の値がよくなる隣の頂点へ移ることをくり返し、どの隣へ移ってもよくならない頂点で止まる解き方がシンプレックス法(単体法)です。表計算ソフトのソルバー機能にも、解き方としてこの方法を選べるものがあります。

線形計画法で解ける問題には、運び方の問題もあります。出荷元が複数あり、届け先も複数あって、出荷元ごとに出せる量と届け先ごとに要る量が決まっているとき、輸送費の合計が最小になる運び方を求める問題を輸送問題といいます。本店と2号店で焼いたシュトーレンを、駅の売店と取引先のカフェに配る、という形になれば、こむぎ堂の問題にもなります。

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3-2在庫問題

月曜の朝、冷蔵庫を開けたミナトは、バターの箱が1つしか残っていないことに気づきました。業者に電話すると、届くのは3日後だといいます。先月は逆に、頼みすぎたバターが冷蔵庫に入りきらず、事務室の小さな冷蔵庫まで使いました。

在庫は、少なすぎれば品切れで売り逃しが出て、多すぎれば置き場所と保管の手間がかかり、傷んだ分は捨てることになります。その間でちょうどよい量を保つ活動が在庫管理です。要になるのは「いつ」「どれだけ」頼むかの決め方で、これを発注方式と呼びます。代表的なものが2つあります。

1つめは、在庫があらかじめ決めた量まで減ったら、毎回決まった量を頼む定量発注方式です。頼む量は一定で、頼む時期は在庫の減り方しだいで変わります。在庫の数を確かめていればよいので管理が簡単で、値段が安く、使う量が安定している品に向いています。こむぎ堂なら、毎日ほぼ同じだけ使う小麦粉がこれにあたります。

2つめは、「毎週月曜」のように決めた周期ごとに頼み、そのたびに次の入荷までに使う量を見込んで、頼む量を計算し直す定期発注方式です。頼む時期は一定で、量が毎回変わります。計算の手間はかかりますが、値段が高い品や、使う量が時期によって大きく変わる品に向いています。12月だけ使う量が跳ね上がるバターは、こちらで管理したほうが品切れも余りも減らせそうです。

頼む量を考える前に、「いまいくつあるか」の数え方にも注意が要ります。冷蔵庫にバターの箱が10個あっても、そのうち4個が予約済みのシュトーレン用に取り分けてあるなら、いま回せるのは6個です。反対に、頼んだのにまだ届いていない分(発注残)が2個あれば、届けば使えるので数に入れ、8個と数えます。このように、手元の在庫に発注残を足し、引き当て済みの分(使い道が決まって取り分けた分)を除いた、これから使える数を引当可能在庫数(有効在庫)と呼びます。

ここから基本情報!いつ頼み、いくつ頼むか

定量発注方式で「この量まで減ったら頼む」と決めておく在庫の量を発注点といいます。発注点は、頼んでから届くまで(調達期間)に使う量で決めます。こむぎ堂のバターを1日平均5kg使い、調達期間が3日なら、届くまでに15kg使います。在庫が15kgになった時点で頼めば、平均どおりの日なら、ちょうど使い切ったところに次のバターが届きます。

ところが、実際の使用量は日によってぶれます。寒い日が続いてシュトーレンの予約が増えれば、3日で15kgでは足りません。このような需要や納期のばらつきによる品切れを防ぐために、あらかじめ上乗せして持っておく在庫を安全在庫といいます。安全在庫を5kgとすれば、発注点は 15kg+5kg=20kg です。

在庫量が右下がりに減って発注点の線に達したところで発注し、調達期間のあいだ安全在庫まで減ってから入荷で戻る、のこぎりの歯のような形のグラフ
図:在庫が発注点まで減ったら頼み、届くまでの間を安全在庫が支える

安全在庫の大きさは、使用量のばらつきが大きいほど、調達期間が長いほど大きくします。定量発注方式でよく使われる式は「安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√調達期間」で、安全係数は品切れをどの程度まで許すかで決める値です。定期発注方式では、次の発注で補えるまでの期間をまとめて見込むため、√の中を(発注の間隔+調達期間)にします。定期発注方式の発注量も、同じ考え方で「(発注の間隔+調達期間)に使う予定の量+安全在庫−現在の在庫−発注残」と計算します。

残るのは、1回に何kg頼むかです。少しずつ何度も頼めば、在庫は少なくて済みますが、そのたびに注文の手間や配送料(発注費用)がかかります。まとめて頼めば発注の回数は減りますが、冷蔵庫の場所や電気代(保管費用)がかさみます。この2つの費用の合計が最も小さくなる1回の発注量をEOQ(Economic Ordering Quantity:経済的発注量)といいます。バターを年に1,800kg使い、1回の発注費用が1,000円、1kgを1年置いておく保管費用が40円として比べます。平均の在庫は、発注量の半分と考えます。

年間使用量1,800kg、1回の発注費用1,000円、保管費用1kgあたり年40円
1回の発注量発注費用(回数×1,000円)保管費用(平均在庫×40円)合計
150kg12回 → 12,000円75kg → 3,000円15,000円
300kg6回 → 6,000円150kg → 6,000円12,000円
600kg3回 → 3,000円300kg → 12,000円15,000円

合計が最も小さいのは300kgで、このとき発注費用と保管費用がちょうど等しくなっています。式で書くと、EOQ=√(2×年間使用量×1回の発注費用÷1単位あたりの年間保管費用)=√(2×1,800×1,000÷40)=√90,000=300kg です。

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3-3日程計画

11月の終わり、店長がシュトーレンの段取りを紙に書き出しました。ドライフルーツを洋酒に漬ける、生地を仕込んで焼く、寝かせる、箱に詰める。箱は業者に頼んでから届くまで日数がかかります。「全部で何日前から始めればいいの」と聞かれ、ミナトは日数を順に足しかけて、手を止めました。

店長が書き出した作業と日数、その作業を始める前に終わっていなければならない作業(先行作業)を表にすると、次のようになります。

シュトーレンを店頭に出すまでの作業
作業内容日数先行作業
Aフルーツを洋酒に漬ける3日なし
B箱を発注して受け取る4日なし
C生地を仕込んで焼く1日A
D寝かせる3日C
E箱に詰める1日B、D

日数を全部足すと12日ですが、それは誤りです。AとBは互いに関係がないので、同じ日に始められます。作業を矢印、作業のつなぎ目を丸で表して順序関係を描いた図をアローダイアグラムと呼び、この図を使って日程を計画し管理する手法がPERT(Program Evaluation and Review Technique)です。

図の始まりから終わりまでの道筋は、A→C→D→E(3+1+3+1=8日)とB→E(4+1=5日)の2本です。Eは、AからDの流れとBの両方が終わるまで始められません。そのため全体の所要期間は、長いほうの8日で決まります。このように、始まりから終わりまでで所要日数が最も長い経路をクリティカルパスといいます。クリティカルパス上の作業は、1日遅れれば全体も1日遅れます。反対にBは、3日遅れても全体の8日には影響しません。この3日を余裕(フロート)と呼びます。

作業の順序関係を表した図から最長の経路を求め、全体の所要期間と、遅らせてはいけない作業を見つけ出すことをクリティカルパス分析といいます。ミナトの答えは「店頭に出したい日の8日前に、漬け込みと箱の発注を同時に始める」でした。

ここから基本情報!費用をかけて日程を縮める

作業の順序と、それぞれを始める時期・終える時期を決めて、全体の工程を管理するための計画を日程計画といいます。PERTのアローダイアグラムは、日程計画を立てるときの代表的な道具です。

日程計画では、日数だけでなく費用も合わせて考えることがあります。作業ごとに「お金をかければ何日縮められ、1日縮めるといくらかかるか」を調べ、全体を最も安く縮める方法を探す手法がCPM(Critical Path Method、クリティカルパス法)です。CPMはクリティカルパスを求めて全体の最短の期間を決める手法でもあり、その上で、費用をかけてどこを縮めるかまで扱います。たとえばAの漬け込みは、洋酒を温めれば2,000円で1日縮められ、Dの寝かせる工程は味が落ちるので縮められない、とします。このときAを1日縮めれば、全体は2,000円で8日から7日になります。縮める作業は、必ずクリティカルパス上から、1日あたりの費用が安い順に選びます。縮めていくと、B→Eのような別の経路が新しいクリティカルパスになることがあるので、縮めるたびに経路を計算し直します。

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3-4ゲーム理論

12月の初め、駅の向かいの大型スーパーがシュトーレンを売り出すという話が伝わってきました。こむぎ堂が値下げすれば、スーパーも値下げで応じてくるかもしれません。店長は「相手の出方が分からないのに、どうやって決めるの」と腕を組みました。

自分の結果が自分の選択だけでなく相手の選択でも変わる状況で、それぞれが合理的に選ぶと何が起きるかを考える理論を、ゲーム理論と呼びます。ここでいう「ゲーム」は遊びのことではなく、利害のからむ駆け引き全般を指します。値段の付け方、出店する場所、入札の金額など、相手のいる意思決定の多くがこの形をしています。

ここから基本情報!最悪の場合を比べて選ぶ

シュトーレンを買うお客さんの数が決まっていて、こむぎ堂に来るお客さんが増えた分だけ、スーパーのお客さんが減るとします。一方の利得ともう一方の損失を合わせると常にゼロになる、2者の間の駆け引きをゼロ和2人ゲームといいます。こむぎ堂から見た、1日のお客さんの増減を表にします。

こむぎ堂のお客さんの増減(人/日)。スーパーの増減は符号が逆
こむぎ堂\スーパー据え置き値下げ最悪の場合
据え置き0−20−20
値下げ+15−5−5
新しい味を出す+25−10−10

スーパーがどちらを選ぶかは分かりません。そこで、自分の選択肢ごとに最悪の結果(最小の利得)を書き出し、その中で最も大きいものを選ぶ考え方をマクシミン原理といいます。最悪の場合は −20、−5、−10 なので、こむぎ堂は「値下げ」を選びます。相手が最も困る手を打ってきても、損を最小に抑える保守的な基準です。最良の結果どうしを比べて最大を選ぶ楽観的な基準もあり、マクシマックス原理と呼ばれます。

スーパーの側から見ると、表の数はそのまま自分の損失です。スーパーは、自分の選択肢ごとに最大の損失(据え置きなら25、値下げなら −5)を比べ、それが最も小さい「値下げ」を選びます。結果は両者とも値下げで、こむぎ堂のお客さんは1日5人減ります。

この組み合わせからは、どちらも動く理由がありません。スーパーが値下げしている限り、こむぎ堂が据え置きに戻せば −20、新しい味なら −10 で、どちらも −5 より悪くなります。こむぎ堂が値下げしている限り、スーパーが据え置きに戻せば、自分のお客さんは1日5人増から15人減に変わります。このように、相手の選択を前提にすると、どのプレイヤーも自分だけ選択を変えても得をしない状態をナッシュ均衡といいます。ナッシュ均衡はゼロ和の2人ゲームに限らず、両者が得をしたり損をしたりする駆け引きにも使える考え方です。

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店長は結局、値段で張り合うのをやめ、予約のお客さんに確実に届けることを先に固めると決めました。相手の出方が読めないときでも、自分の手ごとに最悪の場合を書き出しておけば、なぜその手を選んだかを人に説明できます。

3-5作業の測り方

土曜の朝、ミナトは仕込み台の様子をスマートフォンで撮らせてもらいました。同じシュトーレンの生地を成形するのに、店長は1本あたり2分、もう1人のアルバイトは4分かかっています。映像を見比べると、アルバイトは計量スプーンを探して何度も引き出しを開けていました。

人・もの・設備の使い方を調べ、ムダを減らして作業を効率よくするための工学の手法を、IE(Industrial Engineering:経営工学)と呼びます。ORが「何をどれだけ」を式で決めるのに対し、IEは作業そのものを観察し、時間を測り、やり方を変えていきます。成形に2倍の時間がかかる理由は、手の速さではなく引き出しの開け閉めにあるのかもしれません。それを確かめるには、作業を測る必要があります。

ここから基本情報!作業を細かく分けて測る

作業の方法・手順・動作・時間を調べ、効率を下げている問題点を明らかにする分析を作業分析といいます。どこまで細かく分けるかで、いくつかの手法があります。

最も細かい単位まで分けるのがサーブリックです。ギルブレス(Gilbreth)夫妻が考案したもので、人の動作を「つかむ」「運ぶ」「探す」「選ぶ」「調べる」など18種類の基本動作に分け、それぞれに記号を割り当てて分析します。「探す」や「選ぶ」は作業を遅らせる動作に分類され、減らす候補になります。計量スプーンを探す時間は、まさにこれでした。スプーンを決まった場所に掛けておけば、「探す」は消えます。

時間の測り方にも2通りあります。実際の作業を要素に分け、ストップウオッチなどで直接時間を測るのが作業時間分析法です。これに対し、実際には測らず、基本動作ごとにあらかじめ決められた標準の時間を足し合わせて、作業時間を見積もる手法をPTS法(Predetermined Time Standard:PTS)といいます。PTS法なら、新しい段取りを試す前に、その段取りで何分かかるかを見積もれます。

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測る対象は人の手だけではありません。オーブンも、焼いている時間より、予熱や生地を待っている時間のほうが長い日があります。

ここから基本情報!働いている時間の割合を数える

作業者や設備が稼働している時間と、待ち・手待ちなど稼働していない時間の割合を調べる分析を稼働分析といいます。ずっと張り付いて記録し続ける方法もありますが、手間がかかります。

そこで、ランダムに選んだ瞬間に対象を観測して「その瞬間に何をしていたか」だけを記録し、多数回の結果の比率から時間の構成比を推定する手法がワークサンプリング法です。オーブンの担当を2日間でランダムに200回観測し、170回が作業中、30回が待ちだったとします。稼働率は 170÷200=85%、待ちは15%と推定でき、8時間(480分)の勤務なら 480×0.15=72分ほどが待ちだと分かります。観測の回数を増やすほど、推定のぶれは小さくなります。

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いまの作業を測って、ムダを少しずつ削るやり方とは別の方向もあります。最初に「成形の工程は本来どうあるべきか」という理想の姿を描き、そこから作業の仕組みを設計し直す手法をワークデザイン(ワークデザイン法)といいます。現状から出発すると、いまのやり方の枠の中での改善にとどまりがちです。理想から出発すれば、「成形を型で行えば、人によって形が変わらない」のような、いまの段取りにない答えが出てきます。

3-6生産方式

駅の売店から「来年のクリスマスには、シュトーレンを200本まとめて卸してほしい」という話が来ました。いまは店長が1本ずつ仕上げていて、1日に作れるのは30本ほどです。店長はうれしそうな顔と困った顔を、交互に見せました。

いまのこむぎ堂のように、工程を分けず、技能を持った作り手が最初から最後まで1つずつ仕上げる方式をクラフト生産方式といいます。1つ1つの出来を作り手が確かめられ、注文に合わせて作り方を変えるのも簡単です。その代わり、作れる数は作り手の人数と腕で頭打ちになります。

数を増やす代表的な方法が、工程の順に人と設備を並べ、各自が受け持ちの工程だけをくり返す流れ作業で作るライン生産方式です。計量、成形、焼成、箱詰めを1人ずつが担当すれば、同じ品を大量に作れて、1人が覚える作業も少なくて済みます。ただし1つの工程が止まると全体が止まり、作る品を変えるたびに並びを組み直す手間がかかります。

その中間にあたるのが、一定の数量(ロット)をひとまとまりとして作るロット生産方式です。シュトーレンを50本焼いたら、型や生地を入れ替えて(段取り替えして)パネトーネを50個焼く、という作り方です。ロットを大きくすれば段取り替えの回数は減りますが、作り置きの在庫は増えます。

いつ作り始めるかでも、生産の方式は分かれます。需要を予測して、注文を受ける前に作っておく方式を見込み生産方式(見込生産方式)といい、注文を受けてから作り始める受注生産方式と対になります。店頭に並べる食パンは見込み生産、予約で受けるシュトーレンは受注生産です。見込み生産は、お客さんを待たせずに済む一方で、予測が外れれば売れ残りか品切れになります。冒頭の10本の売れ残りは、予約なしで来るお客さんの分を見込みで焼いた結果でした。

3-7検査手法

焼き上がったシュトーレンは、粉糖をまぶす前に店長が1本ずつ手に取って形を確かめています。200本を卸すことになれば、全部を見るだけで半日かかりそうです。しかも中まで焼けているかは、切ってみなければ分かりません。切ったシュトーレンは、もう売り物になりません。

作ったものをすべて調べる全数検査は確実ですが、数が増えれば手間も増えます。切って中を確かめるような、調べると品物が使えなくなる検査では、全部を調べると売る物が残りません。そこで、一部だけを調べて全体を判断する方法が要ります。

ここから基本情報!一部を調べて全体を判断する

まとめて作った品物の集まり(ロット)からいくつかを抜き出して検査し、その結果でロット全体の合格・不合格を判定する方法を抜き取り検査といいます。品質の指標としてよく使うのが、検査した総数に対する不良品の数の割合である不良率です。

200本のロットから20本を抜き出して切り、2本が生焼けだったとします。抜き出した20本の不良率は 2÷20=10%で、ロット全体でも10%、つまり200本のうち20本ほどが生焼けだろうと見積もれます。このように、抜き取った結果からロット全体(母集団)の不良率を統計的に見積もることを不良率推定といいます。抜き出す数が少ないほど、推定はぶれます。

判定の基準を「20本を抜き取り、不良が1本以下なら合格」と決めたとします。ロットの本当の不良率によって、このロットが合格する確率は変わります。

20本を抜き取り、不良1本以下で合格とするときの合格の確率
ロットの本当の不良率合格する確率
2%約94%
5%約74%
10%約39%
20%約7%

横軸にロットの不良率、縦軸に合格する確率をとってこの関係を描いた曲線をOC曲線(Operating Characteristic Curve:検査特性曲線)といいます。不良率2%のよいロットでも6%ほどの確率で不合格になり、不良率10%の悪いロットでも4割近い確率で合格してしまいます。抜き取る数や合格の基準を変えると曲線の形が変わるので、OC曲線を見ながら、売り手と買い手の双方が受け入れられる検査の方法を決めます。

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品質を確かめる対象は、焼き上がったパンだけではありません。パンを焼くオーブンにも、使い始めから古くなるまでの間に、壊れやすい時期と壊れにくい時期があります。

ここから基本情報!壊れ方の時期による変化

機器を使い始めてからの時間を横軸に、故障の起きやすさ(故障率)を縦軸にとると、多くの機器で、両端が高く中央が低い曲線になります。これを故障率曲線といい、形が浴槽に似ていることからバスタブ曲線とも呼びます。

使い始めの時期は、製造や据え付けの不具合で故障が多く、時間とともに減っていきます(初期故障期)。その後は、故障率が低くほぼ一定の時期が長く続き、故障は偶然に起きます(偶発故障期)。さらに使い続けると、部品の摩耗や劣化で故障率が上がっていきます(摩耗故障期)。新しいオーブンなら据え付け直後に試運転と点検を重ね、10年を過ぎたら壊れる前に部品を替える、というように、時期によって打つ手が変わります。

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3-8品質管理手法

3週間分の売り物にならなかったシュトーレンを、ミナトは理由ごとに数えてみました。全部で80本。焼きむらがいちばん多いだろうと思っていましたが、数えてみると違いました。

数えた結果を、多い順に並べた表が次のものです。

3週間の不良80本の内訳(多い順)
理由本数累積本数累積比率
成形の崩れ424252.5%
焼きむら186075.0%
粉糖のむら96986.3%
割れ67593.8%
その他580100.0%

項目を数の多い順に並べた棒グラフに、累積比率の折れ線グラフを重ねた図をパレート図といいます。上の表をパレート図にすると、成形の崩れの棒が飛び抜けて高く、折れ線は2本目の棒で75%に達します。成形の崩れを半分の21本に減らせれば、不良は全体で4分の1あまり減る計算です。手を付ける順番が、図を見るだけで決まります。

同じ考え方は、品質以外にも使えます。商品を売上の大きい順に並べ、累積比率でたとえば70%までをA、90%までをB、残りをCと分け、Aの商品を重点的に管理する手法をABC分析といいます。30品目のうち、食パン・バゲット・シュトーレンの3品で売上の7割を占めているなら、在庫や品切れにまず気を配るのはこの3品です。境目の比率は、目的に合わせて決めます。

成形の崩れがいちばん多いと分かっても、なぜ崩れるのかはまだ分かりません。問題(特性)と、それを生み出す原因(要因)との関係を、魚の骨のような形に整理した図を特性要因図(フィッシュボーンチャート)といいます。頭に「成形の崩れ」を書き、背骨から「人」「材料」「機械」「方法」の大骨を出し、そこに「慣れていない」「生地がやわらかすぎる」「台が狭い」「型を使っていない」のような小骨を足していきます。

左に不良の理由を多い順に並べた棒グラフと累積比率の折れ線を重ねたパレート図、右に成形の崩れの原因を人・材料・機械・方法に分けて魚の骨の形に整理した特性要因図
図:パレート図で「どれから直すか」を決め、特性要因図で「なぜ起きるか」を整理する

原因の見当がついたら、数で確かめます。1本ずつ重さを量り、10gごとの区間(階級)に入る本数を棒の高さで表したグラフがヒストグラムです。データのばらつき方、つまり分布の形が見えます。山が2つに分かれていたら、作る人によって重さの狙いが違うのかもしれません。

2つの量の関係を見るときは、一方を横軸、もう一方を縦軸にとって、データを点で打った散布図を使います。生地をこねた時間と成形の崩れの本数を日ごとに打ち、点が右下がりに並べば、こね時間が長い日ほど崩れが少ないという関係(負の相関)がありそうだと分かります。

改善の後は、よい状態が続いているかを確かめ続けます。毎日の重さの平均などを時間の順に打ち、中心線と、上下の管理限界線を引いた図を管理図といいます。点が管理限界線の外に出たり、中心線の片側にばかり続いたりしたら、偶然のばらつきではない原因が入り込んだ合図です。

ここから基本情報!数のデータを扱う7つの道具

品質管理で、数のデータを集めて分析するためによく使われる7つの手法をQC七つ道具と呼びます。パレート図、特性要因図、ヒストグラム、散布図、管理図、チェックシート、グラフの7つです。グラフの代わりに層別を入れる数え方もあります。チェックシートは、不良の種類ごとに正の字を書き込むような、データを漏れなく集めるための記録用紙です。層別は、データを作り手・日付・オーブンなどで分けて比べることで、ヒストグラムの山が2つに分かれたときに役立ちます。

パレート図の背景には、「結果の大部分は、少数の要因から生まれる」という経験則(パレートの法則)があります。この見方に基づいて、影響の大きい少数の要因を見極める分析をパレート分析といいます。不良の理由を並べたパレート図も、商品をA・B・Cに分けるABC分析も、パレート分析の使い方の一つです。

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数で集められない情報もあります。レジ横のアンケートの自由記述には、「甘すぎる」「切りにくい」「いつまで日持ちするか知りたい」「箱がかわいい」などの言葉が50件ほど並んでいました。言葉のデータをカードに1件ずつ書き、内容の近いものを集めてグループにし、グループに名前を付けて問題の構造を整理する手法を親和図法といいます。50件の声は、「味」「食べ方」「保存」「見た目」の4つほどのまとまりになりました。

目的を果たすための手段を段階的に分解し、木の枝のように広げて整理した図が系統図です。「成形の崩れを減らす」という目的から「形をそろえる」「生地の固さをそろえる」という手段に分かれ、さらに「型を使う」「計量してから丸める」のような、すぐ実行できる手段まで下りていきます。

2つの要素の組を行と列に並べ、交わるマスに関係の有無や強さを記号で示した図をマトリックス図といいます。行に不良の種類、列に工程をとれば、どの工程がどの不良に関わっているかが一目で分かります。

ここから基本情報!言葉のデータを扱う道具と、お客さんの声を設計につなぐ方法

言葉のデータを整理するための手法を中心に集めた7つを新QC七つ道具と呼びます。親和図法、連関図法、系統図法、マトリックス図法、マトリックスデータ解析法、PDPC法、アローダイアグラム法の7つです。連関図法は原因と結果が複雑にからむ問題の因果関係を矢印でつなぐ図、PDPC法は計画の途中で起こりうる事態を予測して対応の道筋を描く図、アローダイアグラム法はPERTと同じ作業の順序関係の図です。マトリックスデータ解析法だけは、数のデータを扱います。

品質を評価する対象になる性質を品質特性といいます。シュトーレンなら、重さ、水分量、日持ちする日数などです。お客さんの要求(「しっとりしている」「長く日持ちする」)を品質特性に置き換え、さらに材料や工程の条件にまで順に展開して、設計や製造に反映する手法を品質機能展開(QFD:Quality Function Deployment)といいます。要求と品質特性の関係は、行と列を組み合わせたマトリックス図の形の表に整理します。

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3-9需要予測

去年のノートをめくると、シュトーレンがよく売れたのは寒い日でした。店長は「寒い日に多めに焼けばいいんだね」と言います。では何度なら何本なのかと聞かれると、だれも答えられませんでした。

過去のデータや傾向をもとに、将来の数値や状況を見積もることを予測といいます。見込みで作る店にとって、需要の予測は作る数そのものです。外れれば、冒頭の売れ残りや品切れになります。ミナトは、去年の最高気温とシュトーレンの販売数を4日分書き出しました。

最高気温とシュトーレンの販売数(4日分)
最高気温(x)販売数(y)
2℃30本
4℃26本
6℃24本
8℃20本

散布図にすると、4つの点は右下がりに並びます。ある量(気温)から別の量(販売数)を説明し予測する式を、データから求める分析を回帰分析といいます。点の近くを通る直線を引けば予測に使えますが、目分量で引くと人によって直線が変わります。

そこで、それぞれの点と直線との縦方向のずれ(誤差)を2乗して足し合わせ、その合計が最も小さくなるように直線を決めます。この方法を最小二乗法といいます。2乗するのは、直線より上のずれと下のずれが足し算で打ち消し合わないようにするためで、大きなずれほど重く数えることにもなります。

ここから基本情報!直線を計算で求める

最小二乗法で求めた、データの傾向を最もよく表す直線を回帰直線といいます。直線を y=a+bx とすると、傾き b は「x と y のそれぞれの平均からのずれを掛けた値の合計」を「x の平均からのずれの2乗の合計」で割って求めます。

x の平均 5、y の平均 25 からのずれ
xyx−5y−25(x−5)(y−25)(x−5)²
230−35−159
426−11−11
6241−1−11
8203−5−159
合計−3220

傾きは b=−32÷20=−1.6 です。回帰直線は必ず平均の点(5, 25)を通るので、切片は a=25−(−1.6)×5=33 となり、回帰直線は y=33−1.6x です。気温が1℃上がるごとに1.6本売れ行きが落ち、明日の予報が3℃なら 33−4.8=28.2、つまり28本ほどと予測できます。

2つの量が直線の関係にどれだけ近いかは、−1から1までの値をとる相関係数で表します。この4日分で計算すると約 −0.99 で、強い負の相関です。ただし4日分だけのデータで、曜日や天気など気温以外の要因も入っています。予測に使うなら、日数を増やして確かめる必要があります。

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気温のほかに、時間の流れそのものにも傾向があります。シュトーレンの売れ行きは12月に入ると週ごとに伸び、25日を過ぎると急に落ちます。毎年ほぼ同じ形をくり返すので、去年の動きは今年の手がかりになります。

ここから基本情報!時間の並びと成長の形から予測する

時間の順に並んだデータを、長い期間の傾向、季節などの周期的な変動、不規則な変動に分けて捉え、将来の値を予測する手法を時系列分析といいます。簡単な方法の一つが移動平均法で、たとえば直近3週の販売数が40本、46本、58本なら、その平均の48本を次の週の予測にします。平均をとることで、不規則なぶれがならされます。

新商品の売れ行きのように、初めはゆっくり伸び、途中で急に伸び、やがて上限に近づいて伸びが鈍る動きは、S字の曲線で表せます。左右対称のS字を描くのがロジスティック曲線で、伸びが最も速くなるのは上限のちょうど半分の所です。左右非対称のS字を描くのがゴンペルツ曲線で、伸びが最も速くなる点が上限の半分より手前にあります。どちらも新製品の普及の予測に使われ、ソフトウェアのテストで見つかる不具合の累積数の推移(信頼度成長曲線)を表すモデルとしても使われます。

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3-10業務の把握と調査

数字だけでは分からないこともあります。シュトーレンの棚の前で迷ったお客さんが、なぜ買わずに帰ったのか。ミナトはレジ横に短いアンケートを置き、店長は常連さんの何人かに直接話を聞いてみることにしました。

業務の現状やお客さんの考えを把握するには、まず情報を集めます。多くの人に同じ質問をして答えを数で集めるのがアンケートです。1人ずつ話を聞くインタビューには、決めた質問を決めた順に聞く構造化インタビュー、主な質問だけを決めておき答えに応じて質問を足す半構造化インタビュー、テーマだけを決めて自由に話してもらう非構造化インタビューがあります。比べやすさを取るなら構造化、思いがけない話を拾うなら非構造化に寄せます。

机の上で資料を読むのではなく、実際の現場に出向いて観察や聞き取りをする調査の手法をフィールドワークといいます。ミナトは朝の駅の売店の前に立ち、通勤のお客さんが何時ごろ、どんなパンを手に取るのかを見て回りました。アンケートでは「朝はパンを買う」と答えた人が、実際には急いでおにぎりを選んでいることもあります。

集める相手は、お客さんだけではありません。バターの在庫を紙の表から在庫管理のシステムに移したいと考えたとき、いきなり見積もりを頼んでも、どんな製品があって何ができるのかが分からなければ、何を頼めばよいかも決まりません。そこで発注の前に、製品の種類、実績、費用の目安などの情報を出してもらうよう業者に依頼する文書をRFI(Request for Information:情報提供依頼書)といいます。集めた情報をもとに要件を固め、次に具体的な提案を求めるRFP(提案依頼書)へ進みます。

ここから基本情報!集団から考えを引き出す

条件に合う数人の対象者を集め、司会役のもとで座談会の形で話し合ってもらい、商品やサービスへの意見や反応を集める定性調査の手法をフォーカスグループといいます。シュトーレンを食べたことのない若いお客さん5人に試食してもらい、感想を話し合ってもらう、という使い方です。互いの発言に刺激されて出てくる意見を拾える一方で、声の大きい人の意見に全体が引っ張られることもあります。

正解がだれにも分からない将来のことを見積もるときは、デルファイ法が使えます。複数の専門家に匿名でアンケートを行い、集計結果を全員に返してもう一度答えてもらう、ということをくり返して、意見を収束させていく手法です。製粉所や菓子材料の問屋の担当者数人に「来年のバターの値段」を聞くような場面に向いています。匿名なので、肩書きの重い人の意見に周りが合わせてしまうことを防げます。

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3-11意思決定の手法

クリスマスが明けた夜、店長とミナトは来年の計画を立て始めました。シュトーレンを300本焼くか、200本にとどめるか。バターの仕入れ先を変えるかどうか。駅の売店に、代金は後払いの掛けで卸してよいのか。決めることが机の上に並びました。

どの問題も、現実をそのまま扱うと要素が多すぎます。現実の仕組みから、決めることに関わる要素だけを取り出して、式や図で表すことをモデル化といいます。作ったモデルは、結果の決まり方で2つに分けられます。

入力が決まれば結果がただ一つに決まり、偶然の要素を含まないモデルを確定モデル(決定論的モデル)といいます。「シュトーレン30本とパネトーネ40個を焼けば、利益は34,000円」は確定モデルです。これに対し、偶然の要素を含み、同じ条件でも結果がばらつくモデルを確率モデル(確率的モデル)といいます。来年の12月にお客さんが何人来るかは、確率でしか表せません。モデルを使って、条件を変えながら結果を試算することをシミュレーションと呼びます。

焼く数の判断は、確率モデルで考えます。意思決定の分かれ道と、偶然で結果が分かれる道を、枝分かれする木の形に描き、選択肢ごとに結果の期待値を計算して比べる図をデシジョンツリー(決定木)といいます。来年の需要が多い確率を0.4、少ない確率を0.6と見積もり、利益を表にします。

焼く数ごとの利益と期待値(単位:万円)
焼く数需要が多い(0.4)需要が少ない(0.6)期待値
300本1860.4×18+0.6×6=10.8
200本1290.4×12+0.6×9=10.2

期待値では300本が6,000円上回ります。ただし、需要が少なかったときの利益は300本のほうが3万円少なくなります。期待値は判断の根拠の一つで、悪い結果にどこまで耐えられるかは、店の事情で別に考えます。

ここから基本情報!乱数で試す・点数で比べる

需要が「多い」と「少ない」の2通りで済むなら、デシジョンツリーで計算できます。実際の来客数は日ごとにばらつき、天気や曜日の影響も重なります。そこで、乱数を使って1日の需要を発生させる試行を何千回もくり返し、売れ残りや品切れや利益がどう分布するかを統計的に求めます。乱数による試行を多数回くり返し、その結果から近似的な答えを求める手法をモンテカルロ法といいます。

バターの仕入れ先を選ぶときは、値段だけでなく品質や納期も比べたいところです。評価の項目ごとに重みを決め、各案の評価点に重みを掛けて合計し、合計点で案を比べる手法を重み付け総合評価法(加重総合評価法)といいます。

評価点は5点満点。重みは価格0.5、品質0.3、納期0.2
仕入れ先価格品質納期合計点
A社4352.0+0.9+1.0=3.9
B社3531.5+1.5+0.6=3.6
C社5222.5+0.6+0.4=3.5

最も安いC社は、品質と納期の低さで3位に下がり、A社が選ばれます。重みの付け方を変えれば順位も変わるので、重みは比べる前に決めておきます。

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予約客の名簿も、決める材料になります。データや対象を、共通する性質や特徴によっていくつかのまとまりに分けることをグルーピングといいます。「毎週来る人」「12月だけ来る人」「通販だけの人」に分ければ、12月だけ来る人には11月の終わりに予約の案内を送る、のようにまとまりごとに手を打てます。

ここから基本情報!似たもの同士を計算でまとめる

分け方の基準を人が先に決めず、データの似ている度合いを数で測って、近いもの同士を順にまとめていく統計的な手法をクラスタ分析法(クラスター分析)といいます。来店の間隔、1回の購入金額、買う商品の種類などからお客さん同士の近さを計算すると、店長が思ってもみなかった「土曜の朝にだけ、まとめ買いをする人たち」のようなまとまりが見つかることがあります。

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最後に残ったのが、駅の売店への卸です。シュトーレンを先に納め、代金は月末に締めて翌月に払ってもらう掛け売りになります。売店がもし支払えなくなれば、こむぎ堂は焼いた分の代金を受け取れません。そこで、取引先の信用状態を調べて評価し、どこまで掛けで取引してよいか、支払いの条件をどうするかを判断して管理することを与信管理といいます。

与信管理で決める数の代表が、掛けで取引して未回収のまま残してよい金額の上限、与信限度額です。売店の与信限度額を30万円とすれば、卸値1,200円で200本を納めた24万円は範囲に収まります。翌月分の納品が重なって30万円を超えそうなら、先月分の入金を確かめてから納めます。

次の週、冷蔵庫の扉にはバターの在庫表が貼られました。「20kgを切ったら頼む(うち5kgは予備)」と、店長の字で書いてあります。成形には型を使うようになり、崩れて売り物にならなかったシュトーレンは前の週の半分ほどに減りました。年内最後の土曜、棚に残ったのは2本だけです。店長は帳面に「300本」と書き、その横に理由を3行書き足しました。「来年の分は、これで人に説明できるね」。ミナトは相棒の画面に、もう一つだけ問いを打ち込みました。「来年の12月、寒くなるかどうかはどう見積もればいい?」

売れ残りと品切れのくり返しは、作る数、仕入れる量、品質の崩れという、別々の問題が重なって起きていました。作る数は材料の割り振りの計算と需要予測で、仕入れは発注の決め方で、品質の崩れはパレート図と特性要因図で、それぞれ数にできました。店長の勘が外れていたわけではありません。勘の中身が数になったことで、来年の12月に、別の人が同じ判断を下せるようになったのです。それでも来年の気温だけは、どの手法を使っても確率でしか言えません。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(31語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(64語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。