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  4. 第1章 企業活動と社会の変化

企業活動 第1章 ストラテジ系・大分類:企業と法務

企業活動と社会の変化

企業が何のために動き、だれに何を説明し、変わっていく社会とITにどう向き合うかの全体像。

1-1企業活動と経営資源

十月の終わり、閉店後のこむぎ堂の売り場の奥で、店長とミナトは書類の山を前にしていました。開店のころから通ってくれている常連さんの家族が「この店にお金を出したい」と言ってくれて、こむぎ堂は個人の店から会社になることを決めたのです。ところが、出資の話を進めるほど、店長が答えたことのない質問が増えていきます。銀行の担当者には「この店の理念は何ですか」と聞かれ、出資してくれる家族からは「毎年、どんな報告をもらえるのか」と聞かれました。九月の台風で二日休んだとき、予約していたお客さんへの連絡が丸一日遅れた件まで話に出ます。店長は小麦粉の袋に腰を下ろして、ため息をつきました。「パンを焼くだけじゃ、会社は回らないのかな」。ミナトは相棒に打ち込みます。「会社になると、何が増えるの」

閉店後のパン屋の売り場の奥のテーブルで、店長が出資者と向き合い、アルバイトが「株式会社こむぎ堂」と書いた書類をそろえている
図:会社になる準備。理念、報告、台風の日の連絡と、聞かれることが一気に増えた

相棒の返事は、問いを一つに絞るものでした。「増えるものを数える前に、こむぎ堂が何のためにあるのかを一文で書いてみよう」。店長はしばらく考えてから、レシートの裏に「町の朝ごはんを、毎日おいしくする」と書きました。

このように、企業が何のために存在し、どんな価値観で仕事をするかを示した根本の考え方を経営理念(企業理念)といいます。理念は、値上げをするか、新しい店を出すかといった判断に迷ったときに立ち返る基準になります。理念をさらに、果たすべき使命(ミッション)、目指す将来の姿(ビジョン)、大切にする行動の基準(バリュー)の三つに分けて示すこともあり、頭文字をとってMVVと呼びます。

企業が持つ「パンを焼く腕」や「オーブン」は、それだけでは店を回せません。企業活動に使う資源は、昔からヒト(働く人)、モノ(設備や材料)、カネ(資金)、情報(顧客の名簿や販売の記録、レシピ)の四つに分けて考えられてきました。これを経営資源と呼びます。企業は、限られた経営資源を組み合わせて商品やサービスを生み出し、その対価で利益を得て、次の活動に回していきます。

最近は、利益を上げること自体ではなく、社会の中でその企業が存在する意義を軸に戦略を決める考え方が広がっています。この存在意義をパーパスと呼び、パーパスを中心に置いた経営をパーパス経営といいます。こむぎ堂なら「町の朝ごはんを、毎日おいしくする」がパーパスにあたり、早朝の開店時間や、近所の学校への配達を続けるかどうかも、ここから決めていくことになります。

経営資源のうちヒトの見方も変わってきました。人件費をできるだけ減らす「コスト」として見るのではなく、教育や経験に投資すれば価値が増える「資本」として見て、その育成と活用を経営戦略の中心に置く考え方を人的資本経営といいます。ミナトに予約システムの勉強の時間を給料つきで認めるのは、人的資本への投資の一つです。

会社になったこむぎ堂には、利害を持つ相手が増えました。出資者、お客さん、働く人、粉を納める製粉所、銀行、そして店のある町そのものです。企業の活動に影響を受けたり与えたりする、こうした利害関係者をステークホルダと呼びます。企業は利益を上げるだけでなく、ステークホルダや環境に配慮して責任ある行動をとるべきだ、という考え方が企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Responsibility)です。法令を守ることはその前提で、地域の行事への協力や、売れ残りのパンを減らす工夫もCSRの活動に入ります。

社会の側にも、企業に求める共通の目標があります。2015年の国連サミットで採択された、2030年までに達成をめざす17の目標がSDGs(持続可能な開発目標)です。貧困、教育、気候変動など幅が広く、企業はその中から自社の事業でつながるものを選んで取り組みます。

環境への配慮の中には、数で示せるものもあります。商品やサービスが原材料の調達から生産、流通、使用、廃棄されるまでの全体で出す温室効果ガスの量を、二酸化炭素の量に換算して示す仕組みをカーボンフットプリントといいます。食パン一斤なら、小麦を育てて運ぶところから、オーブンの電気、袋の処分までが数え上げる範囲です。ITの分野では、コンピュータやデータセンターの消費電力を減らすことと、ITを使って社会全体の環境負荷を減らすことの両方を指してグリーンITと呼びます。

こむぎ堂の小麦は、農薬や化学肥料を減らして育てている近くの農場から仕入れています。このように環境への負荷を減らすやり方で農業を営む農場を、エコファームと呼ぶことがあります。法令で決まった名前ではなく、環境に配慮した企業活動の例として挙がる語です。似た名前のエコファーマーは、持続農業法にもとづいて都道府県が農業者を認定する制度でしたが、2022年7月にみどりの食料システム法が施行されて持続農業法が廃止され、新しい認定は行われなくなりました。

1-2企業の形

出資してくれる家族との打ち合わせで、店長は「会社にするなら、どの形にしますか」と聞かれました。株式会社、合同会社、と並べられても、違いが分かりません。ミナトは相棒に「会社って、何種類もあるの」と打ち込みました。

個人の店では、店長が出したお金で店長が経営し、借金も店長が背負います。会社にすると、お金を出す人と経営する人を分けられるようになります。出資した人は会社の持ち主として利益の分配を受け、経営は経営者に任せる、という分け方を所有と経営の分離といいます。

出資者が会社の持ち主であることは、意思決定の仕組みにも表れます。株式を発行して資金を集める会社では、出資者である株主が集まる株主総会が最高の意思決定機関です。経営者(取締役)を選んだり、利益をどれだけ株主に配るかを決めたりするのは、ここです。年に一度は決算を確定させ、その結果を株主に示します。

ここから基本情報!会社の種類と上場

日本の会社法が定める会社は、大きく二つに分かれます。一つめは、株式を発行して多くの人から資金を集め、出資者である株主は出資した額の範囲でしか責任を負わない会社で、株式会社といいます。会社が倒れても、株主が失うのは出した額までです。この「出資額までしか責任を負わない」性質を有限責任と呼びます。株主は株主総会を通じて経営者を選び、経営そのものは取締役が担うので、所有と経営が分かれた形になります。

二つめは、合名会社・合資会社・合同会社の三つをまとめた持分会社です。持分会社では、出資者(会社法では社員と呼びます)が原則として自分で経営にあたり、所有と経営が一致しています。合名会社は全員が会社の借金に限りなく責任を負う無限責任、合資会社は無限責任と有限責任の社員が混ざり、合同会社は全員が有限責任です。会社の決まりを定款で比較的自由に決められるので、小さな会社や、少人数で始める事業で選ばれます。

株式会社の株式は、ふつう知り合いの間でしかやり取りされません。それを証券取引所に上場し、だれでも売り買いできるようにすることを株式公開(IPO:Initial Public Offering)といいます。広く資金を集められ、名前も知られるようになる一方で、株主が一気に増えるので、経営の情報を決まった形で公開し続ける義務を負います。

会社の決算は、来年も再来年も事業が続くことを前提にして作られています。企業は期限を決めずに事業を続けていく存在だ、というこの前提をゴーイングコンサーン(継続企業の前提)と呼びます。台風で店を閉めた日が続いても事業をやめないための備えは、この前提を守るためのものでもあります。

基本情報の範囲ここまで

こむぎ堂は、出資者の家族が株主になる小さな株式会社を選びました。店長は株主から経営を任される立場になり、これから株主に向けて、経営の中身を説明し続けることになります。

1-3企業統治と情報開示

出資者の家族の長男は、上場企業で経理の仕事をしている人でした。「店長を信用していないわけじゃないけれど、店長が一人で全部決めて、一人で全部確かめる形は、会社としては危ないですよ」。店長は苦笑いして、焼きたてのクロワッサンを一つ差し出しました。

所有と経営が分かれると、新しい心配が生まれます。株主の目が届かないところで、経営者が自分に都合のよい判断をしてしまわないか、という心配です。そこで、株主をはじめとするステークホルダの利益を守るために、経営者を監視し、規律づける仕組みをコーポレートガバナンス(企業統治)と呼びます。

仕組みの一つが、会社の外から来て、業務の執行からは離れた立場で経営を監督する社外取締役です。社内の取締役は自分の部署の仕事を抱えていて、社長の判断に反対しにくいことがあります。社外取締役は、しがらみのない立場で「その判断は株主のためになるか」を問います。

もう一つは、経営の監督と業務の執行を人で分けることです。取締役会は会社の方針を決めて監督する役に集中し、日々の業務を進める役目は、そのために置いた役員に任せます。この、業務執行を専門に担う役員を置く仕組みを執行役員制度といいます。こむぎ堂の規模ではまだ要りませんが、店長が「焼く責任者」と「店の経営を確かめる責任者」を兼ねている状態の危うさは、同じところから来ています。

ここから基本情報!上場企業の統治の原則

上場企業がどのような統治の仕組みを持つべきかを、原則の形でまとめたものがコーポレートガバナンス・コードです。金融庁と東京証券取引所が中心になって取りまとめ、2015年から適用されています。独立した社外取締役を置くこと、株主との対話を進めることなどが並びますが、法律のように一律に強制するものではありません。原則を守るか、守らないならその理由を説明するか、を企業が選ぶ「コンプライ・オア・エクスプレイン」という形をとっています。

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監視には、材料となる情報が要ります。経営者を監視する側にも、経営の中身が見えていなければなりません。企業の会計や業務が正しく行われているかを、独立した立場の人が調べて確かめることを監査といい、会社の中の監査役や、会社の外の公認会計士がこれを担います。

確かめられた情報は、外に向けて示します。企業が株主や投資家、取引先などに向けて、経営の状況や財務の内容を開示することをディスクロージャー(情報開示)といいます。上場企業には法律や取引所の規則で開示が義務づけられた情報があり、それとは別に、企業が自分から進んで示す情報もあります。

中央の「こむぎ堂」から、株主、お客さん、地域の三方向に矢印が伸び、それぞれに決算の数字、パンの材料の産地、売れ残りを減らす取り組みが書かれた紙が届いている
図:だれに、何を説明するか。相手によって、知りたいことが違う

ここから基本情報!投資家への説明と報告書

開示の中でも、投資家に向けて経営や財務の情報を伝え、正しく評価してもらうための活動をIR(インベスターリレーションズ:Investor Relations)といいます。決算の説明会を開いたり、Webサイトに投資家向けのページを設けたりするのがIRの仕事です。義務の開示だけでは伝わらない、事業の見通しや戦略を説明する場になります。

IRで配られる代表的な資料が、企業が1年に一度まとめるアニュアルレポート(年次報告書)です。その年の経営成績や財務の内容、事業の活動を、株主や投資家に向けて一冊にまとめたものです。

お金以外の取り組みを伝える報告書もあります。環境への配慮や地域への貢献など、企業の社会的責任に関わる活動をまとめて社会に示すものがCSR報告書です。近年は、財務の情報と、環境・社会・企業統治といったお金以外の情報を一冊にまとめ、両者がどう結びついて企業の長期の価値を生むかを説明する統合報告書を出す企業が増えています。アニュアルレポートとCSR報告書を別々に読んでも見えにくい、「環境への取り組みが将来の利益にどうつながるか」を示すためのものです。

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開示は、守りのためだけのものではありません。企業が自分をどう見てほしいかを、外へ発信する手段にもなります。企業の理念や個性を、ロゴやお店のデザイン、言葉づかいまで統一したイメージにまとめて社内外に示すことをコーポレートアイデンティティ(CI)といいます。こむぎ堂が、紙袋と看板とWebサイトの色と字体をそろえるのはCIの取り組みです。

CIを続けた結果として、お客さんや社会がその企業全体に持つ信頼やイメージをコーポレートブランドといいます。新作のかぼちゃパンを知らなくても「こむぎ堂のパンなら外れない」と思ってもらえるなら、それは商品一つのブランドではなく、会社のブランドの力です。

1-4経営管理

「理念は書いた。で、来年は何をすればいいの」。店長の問いに、ミナトは九月の台風の日の記録を開きました。予約の取り消しの連絡が遅れて、焼いたパン80個のうち30個が売れ残っています。「まず、これを来年は起こさない、を目標にしませんか」

理念は向かう方角を示しますが、それだけでは毎日の行動は決まりません。理念やビジョンを実現するために、いつまでに何をどれだけ達成するかを具体的に定めたものを経営目標といいます。「町の朝ごはんを、毎日おいしくする」という理念から、「来年度は予約の取りこぼしを月3件以下にする」「パンの廃棄を売上の5%以下にする」という目標が生まれます。数で示すと、達成できたかどうかを確かめられます。

目標に向けて経営資源をうまく配分し、使い切る仕組みを作って動かすことを経営管理と呼びます。経営管理は、扱う経営資源ごとに分けて考えることが多く、資金の調達と運用を扱う財務管理、設備や在庫を扱う資産管理、採用や育成、評価を扱う人事管理、そして情報を集めて活かす情報管理があります。こうした、財務・資産・人事・情報をそれぞれ適切に管理する活動をまとめて経営資源管理と呼びます。シラバスでは「財務・資産・人事・情報管理」と並べて書かれています。

目標を立てて終わりにしないための考え方がPDCAです。計画(Plan)を立て、実行(Do)し、結果を評価(Check)して、次の改善(Act)につなげる、という四つの段階を回し続けます。こむぎ堂の予約の取りこぼしで、一回りさせてみます。

段階こむぎ堂でしたこと
計画(Plan)取りこぼしは月8件。予約の電話を紙のメモで受けているのが原因と考え、11月から予約をすべて予約システムに入力する
実行(Do)電話で受けた予約も、その場でミナトか店長がシステムに入れる
評価(Check)11月の取りこぼしは3件に減った。残る3件は、どれも閉店後に留守番電話に入った予約だった
改善(Act)留守番電話の確認を開店前の仕事に入れ、12月の計画に組み込む

評価で見つかった「留守番電話」は、次の計画の材料になります。一度で完全にはならなくても、回すたびに少しずつ良くなる、というのがPDCAの考え方です。

ただ、PDCAは計画を立ててから動くので、一回りに時間がかかります。状況が刻々と変わる場面では、もっと短い間隔で判断を繰り返すやり方が向いています。状況を観察(Observe)し、それが何を意味するかの情勢判断(Orient)をし、意思決定(Decide)して行動(Act)する、という四段階を素早く回すのがOODAループです。台風が近づく日の朝、雨雲の動きを見て、予約客の数と照らし、焼く量を減らすと決め、すぐ生地を仕込み直す。この判断の速さが求められる場面に向いています。

目標の立て方には、どの市場で戦うかの選び方も含まれます。店を出す場所を一つの地域に集中させ、その地域での知名度や配送の効率で優位に立つやり方をドミナント戦略といいます。いずれ2号店を出すなら駅の反対側の離れた町ではなく、本店から歩いて行ける範囲に、という考え方です。生地を本店でまとめて仕込んで運べる、チラシ一枚で両方の店を知ってもらえる、といった利点があります。

1-5品質の管理と標準

出資者の長男が、帰りぎわに一つ付け足しました。「品質のことも、店長の舌だけに頼らないほうがいいですね」。たしかに、先週のバゲットは焼き色が日によって違うと、常連さんに言われたばかりでした。

品質を守るのは、焼き場の職人だけの仕事ではありません。焼き色のばらつきは、生地を仕込む人の手順、オーブンの手入れ、粉の保管のしかたまで、店全体の働き方から生まれます。そこで、経営者から現場まで全員が参加し、製品の品質だけでなく、業務や経営全体の質を継続的に高めていく活動をTQM(Total Quality Management:総合的品質管理)といいます。改善の回し方には、前の節のPDCAが使われます。

品質を高める仕組みを、だれが見ても分かる形に整えるには、共通の物差しがあると便利です。品質のための仕組み、つまり品質マネジメントシステムに求められることを定めた国際規格がISO9001です。手順を文書にする、お客さんの声を集めて改善につなげる、といった要求が並び、審査を受けて適合していると認められると、認証を取得できます。取引先は、認証を「品質を管理する仕組みを持った会社」の目印として使えます。

ここから基本情報!品質マネジメントの規格の一族

ISO9001は単独の規格ではなく、品質マネジメントに関する規格群の一つです。基本的な考え方と用語を定めたISO 9000、要求事項を定めたISO 9001、組織の持続的な成功のための指針を示すISO 9004などがあり、これらを日本産業規格(JIS)にしたものをまとめてJIS Q 9000ファミリー規格と呼びます。JIS Q 9001は、ISO 9001を日本語にした規格です。

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こうした規格は、だれが作っているのでしょうか。電気、通信、食品と、分野ごとに国際的な標準を定めて管理している機関をまとめて国際標準化機関と呼びます。工業製品や管理の仕組み全般を扱うISO(国際標準化機構)、電気・電子の分野を扱うIEC(国際電気標準会議)、通信の分野を扱うITU(国際電気通信連合)が代表です。

国際の下には、地域の標準化機関もあります。ヨーロッパの国々が加わり、ヨーロッパの中で共通に使う規格(欧州規格)を作る組織がCEN(欧州標準化委員会)です。ヨーロッパに商品を売るなら、その規格に合わせる必要が出てきます。

国の中にも、分野ごとの規格があります。工業製品などの規格がJISなら、農林水産物や食品の品質や、生産の方法などについて定めた国の規格がJAS(日本農林規格)です。こむぎ堂が仕入れる小麦粉や、有機の表示がある農産物には、JASの基準に適合したことを示すJASマークが付いていることがあります。

1-6リスクマネジメントと事業継続

台風の日の話に戻りました。停電で予約システムが止まり、予約客の電話番号は店のパソコンの中にしかありませんでした。店長のスマートフォンには一件も入っておらず、連絡がついたのは翌日の昼です。「次の台風が来たら、どうする」。答えられる人は、だれもいませんでした。

台風、停電、感染症、システムの故障。事業を止めるかもしれない出来事は、数え上げれば切りがありません。全部に同じだけ備えることはできないので、まずどれが危ないかを順位づけします。起こりうるリスクを洗い出し(特定)、起きる確率と起きたときの影響の大きさを見積もり(分析)、対応が必要かどうか、どれから手を打つかを決める(評価)。この一連の流れをリスクアセスメントといいます。こむぎ堂の場合、台風による停電は毎年のように起こり、予約が飛ぶ影響も大きいので、順位は上になります。

順位が上のリスクには、起きたときの動き方を前もって決めておきます。災害や事故などの緊急事態が起きても、大切な業務を止めずに続けるか、止まっても早く元に戻すための計画をBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)といいます。どの業務から先に戻すか、何時間以内に戻すか、だれが何をするか、を書いておきます。

横に伸びる時間の矢印の上で、台風による停電で業務が止まり、予約客への連絡、店頭の販売、通販の発送の順に、決めた時間内に一つずつ再開していく様子
図:止まった後の戻し方を先に決めておく。大切な業務から、決めた時間のうちに

計画は、作ったまま棚にしまえば古びます。電話番号の一覧は、予約客が入れ替わればすぐ役に立たなくなります。BCPを作り、訓練で試し、見直して改善する、という活動を経営の仕組みとして続けることをBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)といいます。BCPが計画の文書なら、BCMはそれを生きたまま保つための管理の活動です。

ここから基本情報!どの業務から戻すかを決める分析

BCPで「どの業務から戻すか」を決めるには、それぞれの業務が止まったときに何が起きるかを調べる必要があります。業務が止まったときの影響を、金額や信用、法令上の責任などの面から分析し、復旧の優先順位と、どれだけの時間で戻さなければならないかを決める活動を事業影響度分析(BIA:Business Impact Analysis)といいます。BCPを作るときの出発点になる分析です。

こむぎ堂の三つの業務で、ミナトが試しに表にしてみました。

業務1日止まったときの影響戻すまでの目標順位
予約の受付と連絡予約の売上(1日およそ4万円)が飛び、待たせたお客さんの信用も失う6時間以内1
焼成と店頭販売店頭の売上(1日およそ8万円)が止まるが、予約客への連絡がつけば翌日に取り戻せる分もある1日以内2
通販の発送発送が1日遅れても、日持ちする焼き菓子が中心で、お詫びのメールで済むことが多い3日以内3

売上だけを比べると店頭販売がいちばん大きいのに、順位は予約の受付が一番になりました。予約は連絡が途絶えると、売上と一緒に信用まで失うからです。影響を金額だけで測らないのがBIAの考え方です。

事業継続マネジメントの仕組みに求められることを定めた国際規格がISO 22301で、これを日本産業規格にしたものがJIS Q 22301です。品質のISO9001と同じように、組織が事業継続の仕組みを整えて運用しているかを、第三者が審査して認証する基準になります。

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ミナトは、予約客の名前と電話番号を、停電しても見られる形で毎晩書き出し、店長のスマートフォンにも入れておく手順を作りました。BCPの最初の一行です。

1-7経営環境の変化

会社になる準備の途中、店長はとなり町のケーキ屋の話を聞きました。店員がふざけて撮った動画がSNSで広まり、注文が半分に減ったというのです。「味は何も変わってないのにね」と言いながら、店長は自分の店の厨房を見回しました。

企業を取り巻く環境は、ここ数十年で大きく変わりました。お客さんがSNSで発信するようになり、一つの出来事が一晩で広く知られます。不祥事や不適切な対応、根拠のない噂などで企業の評判や信用が落ち、売上や取引、採用に損失が出る危険をレピュテーションリスク(評判リスク)といいます。商品の質に何の問題がなくても起こりうるリスクで、リスクアセスメントの一覧にも載せておく必要があります。

お金を出す側の目も変わりました。投資先を選ぶときに、利益が出るかどうかだけでなく、環境への配慮や社会への責任、企業倫理まで基準に加えるやり方をSRI(社会的責任投資:Socially Responsible Investment)といいます。CSRに力を入れている企業ほど投資を集めやすくなるので、企業の社会的責任は、資金を集める力にもつながっています。

経営は国境もこえるようになりました。こむぎ堂の通販サイトも、作り直しの見積もりを取ると、海外の会社に頼んだ方が安く済むと分かりました。システム開発などの業務を、人件費の安い海外の企業に任せることをオフショアアウトソーシング(オフショア開発)といいます。費用は抑えられますが、言葉や時差、商習慣の違いから、仕様の伝え違いが起きやすい点に気をつけます。

国をまたぐ活動には、国際機関が定めた考え方やルールも関わってきます。教育・科学・文化を通じて国と国の協力を進め、平和に役立てることを目的とする国連の専門機関がUNESCO(国際連合教育科学文化機関)です。世界遺産や無形文化遺産の登録でも知られ、和食も無形文化遺産に登録されています。

食べ物を扱う店にとって身近な国際機関もあります。すべての人の健康を目的に、感染症の対策や保健の基準づくりなど、保健の分野の国際協力を指導し調整する国連の専門機関がWHO(世界保健機関)です。感染症が世界に広がったときに出される情報は、営業を続けるかどうかを判断する材料にもなります。

1-8ITの進展と変革

出資者向けの資料を作りながら、ミナトは相棒に「来年の売上の見込み」を出してもらいました。過去3年の販売の記録と天気の記録を渡すと、曜日と天気ごとの予測が数十秒で返ってきます。店長は画面をのぞき込んで言いました。「十年前なら、これを作るだけで一週間かかってたよ」

店長の言う十年の間に、変わったものは三つあります。一つめは、コンピュータの処理能力の向上です。半導体の技術が進んで、同じ大きさと値段の機器が、以前よりはるかに多くの計算をこなせるようになりました。手元のノートPCやクラウドのサーバで、かつては大きな研究機関でしかできなかった計算ができます。

二つめは、データの多様性及びデータ量の増加です。レジの記録のような表の形のデータに加えて、SNSの書き込み、写真、センサが送る温度の記録まで、種類の違うデータが大量に集まるようになりました。こむぎ堂でも、オーブンの温度、予約の記録、口コミの文章が毎日たまっていきます。

三つめがAIの進化です。大量のデータから規則を学ぶ機械学習、特に深層学習の発展によって、画像の認識、文章の理解や生成、需要の予測といった、これまで人にしかできなかった知的な作業の一部をAIがこなせるようになりました。相棒が売上の予測を数十秒で返せるのは、この三つが重なった結果です。人がまず仮説を立ててからデータで確かめる、という順番だけでなく、データからまず傾向を見つけ、人が意味を考える、という順番も取れるようになりました。

ここから基本情報!AIが大きくなるほど賢くなる理由

AIの言語モデルでは、モデルの大きさ(パラメータの数)、学習に使うデータの量、学習に使う計算の量を増やすと、性能が予測できる規則に沿って上がっていくことが、経験的に知られています。これをスケーリング則(AI言語モデルのスケーリング則)といいます。性能の指標(予測の誤りの大きさ)が、三つの量を増やすにつれて決まった割合で下がっていく、という関係です。この規則があるので、開発する側は「どれだけ計算資源をつぎ込めば、どのくらいの性能が見込めるか」を前もって見積もれます。ただし、理論から導かれた法則ではなく観察から得られた規則なので、どこまでも同じように続くとは限りません。

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使える技術が変われば、仕事のやり方も変えられます。データとデジタル技術を使って、業務の流れや商品・サービス、ビジネスの形そのもの、さらに組織の文化まで変えていくことをDX(デジタルトランスフォーメーション)といいます。予約の紙のメモを予約システムに置き換えるだけなら、それはデジタル化です。予約と天気の記録から焼く量を決め、廃棄を減らし、空いた時間で新しいパンを考える、と仕事の仕方まで変わったとき、DXと呼べます。

変革の範囲を、デジタルに限らず会社全体に広げた言葉もあります。どの事業を続けてどれをやめるかという事業の組み合わせ(事業ポートフォリオ)から、組織の形、人事の仕組み、企業文化まで、会社を根本から作り変える取り組みをコーポレートトランスフォーメーション(CX)といいます。DXがCXの手段として位置づけられることもあります。

1-9ITがめざす社会と法律

商店街の会合で、市の担当者が「データで町の課題を解く」という計画を説明しました。バスの乗客の数、店の混み具合、高齢の人の見守りを、一つの仕組みでつなぐのだそうです。帰り道、店長は「うちのパンの売れ行きも、そのデータに入るのかな」とつぶやきました。

蒸気機関による機械化、電力による大量生産、コンピュータによる自動化に続いて、いま起きている大きな変化を第4次産業革命と呼びます。IoT、ビッグデータ、AI、ロボットなどの技術によって、あらゆるモノがつながり、集まったデータをもとに機械が判断するようになることで、産業や社会の形が変わっていく動きです。

日本の政府は、この技術の先にある社会の姿をSociety5.0と名づけています。狩猟社会(1.0)、農耕社会(2.0)、工業社会(3.0)、情報社会(4.0)に続く五番目の社会で、2016年に閣議決定された第5期科学技術基本計画で示されました。仮想の空間(サイバー空間)と現実の空間(フィジカル空間)を高度に組み合わせ、経済の発展と、高齢化や環境問題といった社会の課題の解決を両立させる、人間中心の社会とされています。

Society5.0は、超スマート社会とも呼ばれます。必要なモノやサービスを、必要な人に、必要なときに、必要なだけ提供し、年齢や性別、地域、言葉の違いにかかわらず、だれもが質の高いサービスを受けられる社会、というのがその説明です。

その社会を動かす材料はデータです。現実の世界で起きていることをIoTなどで集めてデータにし、サイバー空間で分析して、その結果を現実の判断や行動に戻す。このように、データにもとづいて意思決定や課題の解決が進められる社会をデータ駆動型社会といいます。こむぎ堂が天気と予約の記録から焼く量を決めるのは、店一つの規模の小さなデータ駆動です。

データを社会で使うには、法律の後ろ盾も要ります。国や地方公共団体、事業者が持つデータを、適切に利用して活かすことを進めるための基本の方針を定めた法律が官民データ活用推進基本法です。2016年に施行され、行政の手続きをオンラインで済ませられるようにすることや、行政が持つデータを使いやすい形で公開すること(オープンデータ)を国や自治体に求めています。

その後、社会全体のデジタル化を進める基本の法律として、デジタル社会形成基本法が2021年9月に施行されました。デジタル社会をつくるための基本の理念や、国と地方公共団体の責務を定めた法律で、それまでのIT基本法(高度情報通信ネットワーク社会形成基本法)に代わるものです。同じ時期に、デジタル社会の形成を進める司令塔としてデジタル庁が設けられました。

新しい技術を町で試そうとすると、既存の規制が壁になることがあります。そこで、国が決めた区域に限って大胆に規制を緩め、産業の国際競争力を高めたり、経済を活性化したりすることを目指す法律が国家戦略特別区域法です。2020年の改正で、AIやデータを使って未来の都市をつくる取り組みのための仕組みが加わったことから、スーパーシティ法とも呼ばれます。

ここから基本情報!分野をまたいで町を変える構想

国家戦略特区の仕組みを使い、AIやデータを活用して、移動、物流、支払い、行政の手続き、医療、教育といった複数の分野をまたいで地域の課題を解決し、住民が暮らしやすい未来の都市を先取りして実現しようとする国の取り組みをスーパーシティ構想といいます。一つの分野の新しい技術を試すだけではなく、分野どうしのデータをつなぎ、規制の緩和もまとめて行うところに特徴があります。商店街で聞いた「バスと店の混み具合と見守りを一つの仕組みでつなぐ」計画は、この考え方に近いものです。

基本情報の範囲ここまで

1-10脱炭素と環境への配慮

年が明けて、製粉所から一枚の調査票が届きました。「貴店の電気とガスの使用量を教えてください。取引先全体の二酸化炭素の排出量をまとめています」。店長は首をかしげます。「うちの排出量まで、粉屋さんが数えるの」

製粉所が排出量を集めているのは、国と企業がそろって脱炭素へ向かっているからです。二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量から、森林などによる吸収量を差し引いて、全体として実質ゼロにする考え方をカーボンニュートラルといいます。日本は2020年10月に、2050年までにカーボンニュートラルを目指すと宣言しました。排出をまったくゼロにするのではなく、減らしきれない分を吸収で打ち消す、という意味の「実質ゼロ」です。

この流れには国際的な約束が背景にあります。2015年にパリで開かれた国連気候変動枠組条約の第21回締約国会議がCOP21で、ここでパリ協定が採択されました。世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力を続けることを目標とし、先進国だけでなく参加するすべての国が削減の目標を出す仕組みになっています。

脱炭素は、ただ我慢して排出を減らすことだけを意味しません。化石燃料を中心にした産業と社会の仕組みを、太陽光や風力などのクリーンなエネルギーを中心にしたものへ切り替え、その変化を経済の成長の機会にもしようとする取り組みをGX(グリーントランスフォーメーション)といいます。DXがデジタルで社会を変えるなら、GXはエネルギーの転換で社会を変える取り組みです。

ここから基本情報!企業が集まって脱炭素を進める枠組み

GXを企業の側から進める場として、経済産業省は2022年2月にGXリーグ基本構想を公表しました。2050年のカーボンニュートラルに向けて自ら取り組む企業が集まり、行政や大学などとともに、将来の社会の姿を話し合い、脱炭素の商品が選ばれる市場のルールを作り、排出量の取引を自主的に行う、という枠組みです。この構想にもとづくGXリーグは、2023年度から本格的に動き始めています。

排出量を減らすには、まずどこで出ているかが見えなければなりません。製品が原材料から製造、流通、廃棄に至るまでのどの段階で、どれだけ二酸化炭素などを出しているかを追いかけて、見えるようにする取り組みはカーボントレーシングと呼ばれます。取引先の排出量まで集めて数えるのは、この追跡のためです。カーボンフットプリントが「この商品の排出量は何グラム」という結果を示すのに対し、こちらは流れをたどって排出の場所を突き止めることに重点がある語として使われています。

排出を減らす手段の一つが電気の選び方です。太陽光、風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーで発電された電力をグリーン電力といいます。発電のときに二酸化炭素をほとんど出さないので、企業が自社で使う電気をこれに切り替えたり、証書を買う形でその環境価値を得たりして、排出を減らすことがあります。

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店の中でできることもあります。生産や営業の中で出る廃棄物を、別の用途に使ったり資源に戻したりして、限りなくゼロに近づけようとする取り組みをゼロエミッションといいます。売れ残ったパンをラスクにして売る、パンの耳を近所の農家の飼料に回す、というのはこむぎ堂でできるゼロエミッションの一歩です。

ここから基本情報!環境にやさしい商品の目印

環境への負荷が少なく、環境の保全に役立つと認められた商品やサービスに付けられる表示がエコマークです。公益財団法人日本環境協会が運営しています。店で使う紙袋や事務用品を選ぶとき、エコマークの付いたものを選ぶのは、環境に配慮した製品を優先して買うグリーン購入の分かりやすい方法です。

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IT機器にも、捨てるときのための印があります。家庭向けのパソコンに付いていて、購入したときの値段に、将来の回収と再資源化の料金がすでに含まれていることを示すのがPCリサイクルマークです。2003年10月に始まった家庭用パソコンの回収の仕組みにもとづくもので、マークの付いたパソコンは、捨てるときにメーカーへ申し込めば追加の料金なしで回収してもらえます。こむぎ堂で古くなった予約用のパソコンを処分するときも、まずマークを探すことになります。

1-11暮らしの中のIT

出資者に初めての報告をする前の週、ミナトは店頭のお客さんの様子を書き留めていました。スマートフォンでポイントを貯める学生、スマートフォンの文字が小さくて読めないと言う年配のお客さん、車で来て高速道路の料金の話をする配送業者の人。ITは、店の外の暮らしのほうにも入り込んでいます。

ITが暮らしのすみずみに入るほど、それを使いこなす力の差が生活の差になります。情報を探して集め、正しいかどうかを読み解き、目的に合わせて整理して使い、自分からも発信する力を情報リテラシといいます。検索で見つけた「パンは冷蔵庫で保存すると長持ち」という話を、そのまま信じるのではなく、出どころを確かめてから店のお知らせに書けるかどうかも、情報リテラシの問題です。

使う側の力だけに頼らず、作る側が障壁を取り除く考え方もあります。障害の有無や年齢などによって情報を得たり使ったりすることに差が出ないよう、だれもが等しく情報にアクセスできるようにすることを情報バリアフリーといいます。予約の画面の文字を大きくできるようにする、色だけで「予約済み」を表さない、電話でも予約を受け続ける、といった工夫がこれにあたります。

支払いや移動の場面にも、ITはカードの形で入っています。高速道路の料金所で車を止めずに料金を支払う仕組みがETC(Electronic Toll Collection System:電子料金収受システム)で、車に積んだ車載器に差し込んで使う、利用者を識別して料金を払うためのカードがETCカードです。料金所のアンテナと車載器が無線で情報をやり取りし、後から利用分が請求されます。

先にお金を払っておき、その金額の範囲で使える支払いの手段がプリペイドカードです。前払いなので使いすぎの心配が少なく、交通系のICカードのように、入金(チャージ)して繰り返し使えるものもあります。後から請求が来るクレジットカードとは、お金を払う時期が逆です。

買い物の額や回数に応じて点数(ポイント)が貯まり、割引や特典に交換できる会員のカードがポイントカードです。お客さんにとってはお得な仕組みですが、店にとっては、だれが、いつ、何を買ったかという購買の記録を集める仕組みでもあります。こむぎ堂がポイントカードを始めれば、「雨の日に何が売れるか」を常連さんの記録から調べられるようになります。

ネットの取引の中には、ふつうと逆向きの値段の決まり方もあります。ふつうのオークションは買い手が値段を競り上げますが、買い手が「こういうものを買いたい」と条件を示し、売り手どうしが値段を競り下げて、いちばん安い売り手が取引を勝ち取る方式を逆オークション(リバースオークション)といいます。企業がまとめて資材を仕入れるときに、費用を抑える方法として使われます。こむぎ堂が来年の紙袋1万枚をまとめて仕入れるなら、複数の業者に値段を下げ合ってもらうこの方式が使えます。

二月の最初の月曜、出資者の家族への初めての報告書が出来上がりました。表紙の次のページには、店長の手書きで「こむぎ堂の約束 町の朝ごはんを、毎日おいしくする」。その下に、予約の取りこぼしを月3件以下にするという目標と、11月から1月までの結果が並びます。最後のページには、ミナトが作った一枚の紙が添えられていました。停電したら、だれが、何時までに、どの順でお客さんに連絡するか。台風の日の連絡手順です。

店長が「パンを焼くだけじゃ、会社は回らないのか」と聞いた夜から、増えたものを並べると、こうなります。何のためにある店かを言葉にした理念、それを数に直した目標と回し方、お金を出してくれた人への説明、止まったときに戻す順番、そして脱炭素やデジタル化のように、店の外で動いている社会の流れです。どれも、パンの味を変えるものではありません。パンを焼き続けられる店であるためのものでした。

報告書を読み終えた出資者の長男は、一つだけ質問をしました。「次は、2号店ですか」。店長は笑ってごまかしましたが、ミナトは知っています。駅前の空き店舗の資料が、厨房の棚に置いてあることを。店が二つになれば、だれがどちらの責任者になるのか、まだ何も決まっていません。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(52語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(69語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。