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  3. プロジェクトマネジメント
  4. 第1章 プロジェクトの考え方と統合

プロジェクトマネジメント 第1章 マネジメント系・大分類:プロジェクトマネジメント

プロジェクトの考え方と統合

プロジェクトを進める型と体制、立ち上げから終結までを一つにまとめて変更を管理する統合の仕組み。

1-1プロジェクトとは

10月の終わりの閉店後、店長が事務所の机にスマートフォンを置きました。画面には、駅前の空き店舗の写真が映っています。「2月の最初の土曜日に、ここで2号店を開けるよ。段取りはミナトに任せたい」。ミナトはノートを開き、いちばん上に大きく「開店日」と書きました。毎朝のパン焼きなら手順は体が覚えていますが、店を一軒開けるのは、こむぎ堂にとって初めてです。ところが、書き始めてすぐに手が止まります。最後に決めるのは誰なのか。大家さんや内装業者にどこまで知らせるのか。途中で「イートインも置きたい」と言われたらどうするのか。どれも、まだ何も決まっていませんでした。

パン屋の事務所で、店長がスマートフォンに映した駅前の空き店舗の写真を見せ、アルバイトの高校生がノートに大きく「開店日」と書いている
図:駅前の空き店舗に、2月の土曜日に2号店を開ける。決まっているのは開店日だけ

ミナトが相棒に相談すると、最初に返ってきたのは問いでした。「毎朝のパン焼きと2号店の開店は、何が違う?」。考えて出た答えは二つです。パン焼きは毎日同じ手順を繰り返し、終わりがありません。2号店の開店には2月の土曜日という終わりがあり、同じ店を同じ場所にもう一度開けることはありません。

このように、決まった目標のために、始まりと終わりの日を決めて行う一回きりの仕事をプロジェクトといいます。毎日繰り返す定常の業務と比べると、期間が限られていること(有期性)と、同じものが二つとないこと(独自性)が特徴です。システムの開発も、新商品の発売も、店の引っ越しもプロジェクトです。

一回きりの仕事は、経験だけでは進められません。何をいつまでにやるか、誰がやるか、費用はいくらかを決め、進み具合を確かめながら目標までたどり着く必要があります。そのために、知識や技能、ツール、手法をプロジェクトの活動に当てはめることをプロジェクトマネジメントといいます。ミナトが任された「段取り」は、これに当たります。

ここから基本情報!プロジェクトを取り巻く条件

2号店の段取りは、こむぎ堂の中だけでは決まりません。駅前の再開発の予定、保健所への届け出の決まり、店の人手の余裕、こむぎ堂らしい店の雰囲気。プロジェクトの外と内にあって進め方に影響する、こうした状況や要因をまとめてプロジェクトの環境と呼びます。外の要因の多くは自分では変えられないので、計画を立てる前に調べておきます。

進め方を縛る条件もあります。開店日は2月の土曜日、使えるお金には上限があり、焼き場の職人は1号店と取り合いです。期限・予算・資源・品質・受け入れられるリスクの大きさ・法令など、プロジェクトの進め方を制限する条件をプロジェクトの制約といいます。制約どうしはつながっていて、一つが動くとほかも動きます。イートインを置けば、席を作る工事のぶん費用が増え、開店日も危うくなります。

一方をよくしようとすると、もう一方をあきらめなければならない関係をトレードオフといいます。プロジェクトでは、費用・品質・期間のあいだでよく起こります。トレードオフがある以上、どれを優先するかを誰かが決めなければなりません。

その「誰が決めるか」を前もって決めておく仕組みがプロジェクトガバナンスです。どこまでをプロジェクトの責任者が決め、どこから先を上の立場の人に上げるのか、どんな報告をどの間隔で出すのか、といった意思決定と監督の枠組みを指します。こむぎ堂なら「予算を超える判断は店長に上げる」と決めておくことが、これに当たります。

プロジェクトは、ふつういくつかの段階(フェーズ)に分けて進めます。2号店なら、物件と予算を決める段階、内装と設備を整える段階、人をそろえて試し焼きをする段階、開店して落ち着かせる段階、と分けられます。開始から終結までのフェーズのつながりをプロジェクトライフサイクルと呼び、フェーズの区切りは「次へ進んでよいか」を判断する節目になります。

手順をどこまで細かく踏むかは、プロジェクトの大きさや性質で変わります。何百人が関わるシステム開発と、数人で進める2号店の開店に、同じ量の書類と会議は要りません。標準の手法や手続きを、そのプロジェクトの事情に合わせて加減することをテーラリングといいます。

基本情報の範囲ここまで

プロジェクトマネジメントの進め方は、多くの人の経験から型としてまとめられています。型があれば、初めての開店でも「何を決め忘れているか」に気づけます。ミナトのノートに並んだ「誰が決めるのか」「どこまで知らせるのか」「途中の追加をどうするか」も、その型の中にそれぞれ置き場所があります。

ここから基本情報!型をまとめた規格と知識体系

型をまとめたものとして、よく名前が挙がるものが二つあります。一つは国際規格のISO 21500で、2012年の版がプロジェクトマネジメントの考え方と進め方の手引きを示しました。これを日本語にした日本産業規格がJIS Q 21500(プロジェクトマネジメントの手引)です。JIS Q 21500:2018 は ISO 21500:2012 と内容が一致するように作られています。ISO の側はその後、手引きの中身を ISO 21502(2020年)に移し、2021年の ISO 21500 は考え方と全体の枠組みを示す規格に改めました。JIS Q 21500 は2012年版に一致したまま、今も有効な規格です。この章で使う「プロセスの種類」「プロセス群」「対象群」は、この規格の分け方です。

もう一つは、米国のPMI(Project Management Institute)がまとめたPMBOK(Project Management Body of Knowledge:プロジェクトマネジメント知識体系)です。プロジェクトマネジメントの実務の知識を体系として整理した手引きで、版を重ねて改訂されています。JIS Q 21500 と PMBOK の第6版までは似た分け方をしていて、同じものを少し違う名前で呼ぶことがあります。

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1-2プロセスの三つの種類

翌日、ミナトは開店までにやることを思いつくまま書き出しました。「内装の打合せ」「オーブンを選ぶ」「2号店の新しいパンの試作」「工事代金の支払い」「毎週月曜の進み具合の確認」。並べてみると、性質の違う仕事が混ざっています。相棒は「それぞれ、何を作る仕事なのかで分けてみたら」と返してきました。

書き出した仕事のうち、「毎週月曜の進み具合の確認」だけは、店そのものを作っていません。仕事の進め方を決め、指示し、うまく進んでいるかを確かめる仕事です。このように、プロジェクトの計画・実行・管理のやり方そのものを扱うプロセスをプロジェクトマネジメントのプロセスといいます。プロジェクトが店の開店でもシステムの開発でも、このプロセスの中身はおおむね共通しています。

残りの仕事の多くは、2号店という成果物を作る側にあります。内装もオーブンも新しいパンも、パン屋ならではの専門の仕事で、システムの開発なら設計やプログラミングに置き換わります。二つを分けておくと、プロジェクトマネジメントの仕事が専門の仕事の陰に隠れずにすみます。パンの試作に夢中になっているうちに、月曜の確認が抜け落ちることは起こりがちです。

ここから基本情報!残り二つのプロセスの種類

JIS Q 21500 は、プロジェクトで使うプロセスを三つの主な種類に分けています。プロジェクトマネジメントのプロセスのほかの二つのうち、成果物となる製品やサービスを仕様にし、実際に作って引き渡すプロセスが引渡しのプロセスです。内装の工事、オーブンの据え付け、新しいパンの試作がこれに当たり、中身は作るものによって大きく変わります。

三つめの支援のプロセスは、ほかの二つの種類のプロセスに、必要な支えを提供するプロセスです。規格は、物流(ロジスティクス)、財務、会計、安全といった分野を例に挙げています。工事代金の支払いは、店を作る仕事でも、進め方を管理する仕事でもなく、会計の面から両方を支える仕事です。引渡しのプロセスも支援のプロセスも、プロジェクトマネジメントに特有のものではありません。

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1-3五つのプロセス群

打合せの前の晩、ミナトは開店までの流れを紙に描こうとしました。最初に描いたのは「準備→工事→開店」の一本の矢印です。けれども、内装業者の見積りが予算を超えたら計画を立て直すことになり、矢印は後ろへ戻ります。一本の矢印では描けませんでした。

プロジェクトマネジメントの流れは、大きく五つの段階に分けて考えます。まずプロジェクトを立ち上げ、目的と関係者をはっきりさせて、始めてよいという許可を得ます。次に、何を、いつまでに、いくらで行うかの計画を立てます。計画に基づいて作業を進めながら、レビューなどを通じて進捗・コスト・品質・資源が計画どおりかを確かめ、ずれていれば手を打ちます。目標を達成したら、それを確かめて正式に終えます。

ミナトの矢印が後ろへ戻ったのは、確かめる段階で見つけたずれが、計画の立て直しにつながったからです。作業を進める段階と確かめる段階は一度きりではなく、計画→実行→確認→手直しを何度も回ります。流れの図が一本の矢印ではなく、輪を含む形になるのはそのためです。

立ち上げ、計画、実行、管理、終結の五つの箱が左から右へ並び、管理の箱から計画と実行の箱へ戻る矢印が描かれている
図:五つの段階の流れ。管理で見つけたずれは、計画や実行へ戻って直す

ここから基本情報!五つのプロセス群の名前

JIS Q 21500 は、この五つの段階をプロセス群と呼び、それぞれに名前を付けています。PMBOK にも第6版まで同じ五つの分け方があり、呼び名が少し違います。

五つのプロセス群(JIS Q 21500 と PMBOK の呼び名)
JIS Q 21500 の名前PMBOK の名前何をするか
立ち上げのプロセス群立上げプロセス群プロジェクトやフェーズの目標を定め、始める許可を得る
計画のプロセス群計画プロセス群実行と管理の基準になる計画を、細かいところまで作る
実行のプロセス群実行プロセス群計画に従って作業を進め、成果物を作る
管理のプロセス群監視・コントロール・プロセス群計画と比べて進み具合を測り、ずれに手を打ち、必要なら変更を求める
終結のプロセス群終結プロセス群プロジェクトやフェーズの完了を正式に確かめ、教訓を残す

五つは、一回ずつ順に通る工程ではありません。2号店の「内装と設備を整える」というフェーズの中でも、立ち上げから終結までがひととおり回ります。管理のプロセス群で計画とのずれを見つけたら、計画のプロセス群に戻って計画を直し、直した計画で実行を続けます。

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1-4十の対象群

内装業者との最初の打合せで、ミナトは次々に質問されました。「席は何席ですか」「工事はいつから入れますか」「予算の上限は」「オーブンはそちらで手配しますか」。一つ一つ答えるうちに、ミナトのノートは話題ごとにページが分かれていきました。

打合せで聞かれたことは、どれもプロジェクトで管理しなければならない対象です。作る範囲、日程、お金、人や設備、起こりうるトラブル、出来ばえ、外への発注、関係者との連絡。五つの段階が「いつ、どの段階で」で仕事を分けたのに対し、ノートのページは「何を」管理するかで仕事を分けています。

ここから基本情報!十の対象群

JIS Q 21500 は、管理する対象を十に分け、対象群と呼んでいます。一つ一つのプロセスは、五つのプロセス群のどれか一つと、十の対象群のどれか一つに属します。たとえば「スケジュールの作成」は、計画のプロセス群に属し、同時に時間の対象群に属するプロセスです。

十の対象群と、2号店で当てはまるもの
対象群扱うこと2号店では
統合の対象群活動全体を一つにまとめ、変更などを調整する憲章、全体の計画、途中の変更
ステークホルダの対象群利害関係者を特定し、関わり方をマネジメントする大家さん、内装業者、商店会
スコープの対象群必要な作業と成果物だけを特定し、定義する看板・内装・許可の届け出のどこまでをやるか
資源の対象群人員・設備・材料などを見積り、確保し、管理する職人とアルバイト、オーブン
時間の対象群作業の順序と期間を決め、スケジュールを作り管理する工事→据え付け→試し焼きの日程
コストの対象群費用を見積り、予算を作り、管理する工事費、設備費
リスクの対象群不確かな出来事を特定し、分析し、対応するオーブンの納期遅れ
品質の対象群品質の計画・保証・管理を行うパンの焼き色、内装の仕上がり
調達の対象群外から製品やサービスを買う計画と、供給者選び・契約内装工事の発注
コミュニケーションの対象群関係者に要る情報を計画し、配り、管理する毎週の報告、近所への開店の案内

統合の対象群だけは性格が違い、ほかの九つを一つの計画にまとめて互いを調整します。スコープを広げればコストと時間に響き、資源が足りなければ日程がずれる。九つのあいだのトレードオフを見て、全体として筋の通った判断をするのが統合の仕事です。この章の後半(憲章・全体計画・変更・終結)は統合の対象群の中身で、第2章でスコープ・資源・時間を、第3章でコスト以降を扱います。

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1-5PMBOKの知識エリア

ミナトが試験の参考書を開くと、ノートの見出しと似た名前が、別の言い方で並んでいました。「プロジェクトスコープマネジメント」「プロジェクトリスクマネジメント」。相棒によると、米国の団体がまとめた知識体系での呼び方だそうです。

プロジェクトマネジメントの知識は、米国の団体 PMI がまとめた知識体系(PMBOK)でも整理されています。PMBOK は、管理する対象ごとに知識を分け、それぞれを知識エリアと呼びます。名前はどれも「プロジェクト〇〇マネジメント」の形で、ITパスポートでは次の五つの名前と中身を押さえておきます。

押さえておきたい五つの知識エリア
知識エリア扱うこと2号店では
プロジェクトスコープマネジメント必要な作業を漏れなく、余計なものは含めずに定め、その範囲を守る「看板は作る」「イートインは今は作らない」を決めて守る
プロジェクトスケジュールマネジメント(プロジェクト・タイム・マネジメント)作業の順序と期間を決めて日程を作り、期限内に終わるよう進み具合を管理する開店日から逆算した工程表
プロジェクト資源マネジメント人員・設備・材料などの資源を特定し、確保し、配置して管理する試し焼きの職人の割り当て
プロジェクトコミュニケーションマネジメント情報の計画・収集・作成・配布・保管を行う誰に、何を、いつ知らせるか
プロジェクトリスクマネジメントリスクの計画・特定・分析・対応・監視を行うオーブンが遅れたときの備え

スケジュールの知識エリアには名前が二つあります。PMBOK の第6版(2017年)でプロジェクトスケジュールマネジメントに改められ、それより前の版ではプロジェクト・タイム・マネジメントと呼ばれていました。中身はどちらも、作業の順序と期間を決めて日程を守ることです。

ここから基本情報!残りの知識エリアと古い名前

PMBOK 第6版の知識エリアは全部で十あり、上の五つのほかに次のものがあります。各プロセスや知識エリアの活動を一つにまとめ、憲章の作成から終結までを通して調整するプロジェクト統合マネジメント。費用を見積り、予算にまとめ、承認された予算の中に収めるプロジェクト・コスト・マネジメント。品質の方針と目標を決め、保証し、管理するプロジェクト品質マネジメント。チームの外から製品やサービスを買うための計画・契約・管理を行うプロジェクト調達マネジメント。そして、関係者の関与を扱うステークホルダのマネジメントです。

資源の知識エリアにも古い名前があります。第6版より前はプロジェクト人的資源マネジメントと呼ばれ、チームの編成・育成・管理という人に関わることを扱っていました。第6版で、設備や材料などの物的な資源も含む資源マネジメントに改められています。名前だけでなく扱う範囲も広がったので、二つはまったく同じものとは言えません。

十の知識エリアは、JIS Q 21500 の十の対象群とほぼ一対一に対応します。違いが目立つのは、対象群の「時間」が PMBOK では「スケジュール」になっている所です。なお PMBOK は第7版(2021年)で、知識エリアによる分け方をやめ、原理・原則と「パフォーマンス領域」で整理し直しました。2025年の第8版は、原理・原則とパフォーマンス領域を残したうえで、プロセスの手引きを形を変えて戻しています。

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1-6体制とステークホルダ

内装業者から電話がありました。「壁の色を決めてほしいんですが、ミナトさんと店長さん、どちらに聞けばいいですか」。その夕方には、大家さんからも「看板の大きさは誰と相談すれば」と連絡が来ます。ミナトは、2号店に関わる人の名前を紙に書き出してみることにしました。

書き出してみると、思った以上に多くの人がいます。店長、職人やアルバイト、大家さん、内装業者、オーブンの販売店、保健所、駅前の商店会、そして2号店に来てくれるはずのお客さん。プロジェクトに関わる人や、プロジェクトの結果から影響を受ける人や組織をステークホルダ(利害関係者)といいます。

ステークホルダの中で、プロジェクトの責任者として計画を立て、進み具合を管理し、目標の達成に責任を持つ人がプロジェクトマネージャです。2号店ではミナトがこの役を任されました。プロジェクトマネージャのもとで実際の作業を受け持つ一人ひとりがプロジェクトメンバーで、2号店なら試し焼きを受け持つ職人や、開店の準備をするアルバイトです。

壁の色をどちらに聞けばよいかで業者が迷ったのは、役割と指示の流れが見えていなかったからです。誰がどの役割を受け持ち、誰が誰に指示を出すのかを図にしたものを開発体制図といいます。名前に「開発」とあるとおり、システムの開発を外部に委託するとき、契約の書類に付けて、頼んだ側と受けた側の担当者や指揮命令の流れを示すのに使います。請負の契約では、頼んだ側が受けた側の作業者に直接指示を出すことはできないので、体制図で窓口を決めておきます。

ここから基本情報!体制の役割と形

役割をもう少し細かく分けます。プロジェクトを許可し、資金や資源を出し、プロジェクトマネージャの権限を超える問題に決着をつける立場がプロジェクトスポンサーです。2号店では、お金を出して最後に決める店長がスポンサーに当たります。プロジェクトの作業を行う要員全体の集まりがプロジェクトチーム、そのうちマネジメントの活動に直接関わり、プロジェクトマネージャを支える人たちがプロジェクトマネジメントチームです。プロジェクトマネージャやプロジェクトメンバーなど、プロジェクトの遂行に携わる人をまとめて要員と呼びます。

会社の中に、プロジェクトを横から支える専門の部署を置くこともあります。プロジェクトの進め方の標準を決めたり、教育をしたり、進み具合を見て回ったりする部署をPMO(Project Management Office)といいます。こむぎ堂ほどの大きさでは置きませんが、多くのプロジェクトを同時に動かす会社では置かれることがあります。

体制の形にも種類があります。営業部・製造部のように仕事の専門分野ごとに部門を分け、各部門の長が指示を出す形を機能型(機能型組織)といいます。機能型の組織の中でプロジェクトを進めると、メンバーは自分の部門長の指示で動くので、プロジェクトマネージャの権限は弱くなります。これに対し、メンバーが部門に属したまま、プロジェクトマネージャの指示も受ける形がマトリックス型(マトリックス型組織)です。指示の流れが縦(部門)と横(プロジェクト)の二本になるので、どちらを優先するかで迷うことがあります。

2号店の体制は、マトリックス型に近い形です。試し焼きを受け持つ職人は、ふだんは1号店の焼き場に属していて、焼き場の段取りは店長が決めます。そこに、ミナトから2号店の試作の予定が入ります。職人が「今週は1号店のクリスマスの予約で手が離せない」と言えば、二本の指示がぶつかります。

ステークホルダが多いときは、書き出しただけでは足りません。関係者一人ひとりの関心、プロジェクトへの影響力、プロジェクトへの態度を調べて整理する技法がステークホルダ分析です。大家さんは看板の大きさに強い関心と決める力を持ち、商店会は開店の日の人の流れを気にしている、というように整理します。特定した関係者の名前・役割・関心・影響力・分析の結果をまとめた文書がステークホルダ登録簿で、誰にどこまで知らせるかを決めるときの元になります。

基本情報の範囲ここまで

ミナトは、壁の色は自分が決め、予算を超えるものだけを店長に上げる、と内装業者に伝えました。誰が何を決めるかが分かると、業者からの電話はミナトのところに一本化されました。

1-7自己管理

開店まであと10週。ミナトは学校とアルバイトの合間に、2号店の仕事を進めています。月曜の夜、オーブンの見積りの返事を待っていたことを、すっかり忘れていたのに気づきました。返事の期限は先週の金曜でした。

プロジェクトの体制の中では、一人ひとりが、自分の受け持つ作業を自分で管理します。作業の計画を立て、その計画どおりに進んでいるかを確かめ、困ったことは早めに伝える。管理は上の立場の人だけの仕事ではなく、メンバーそれぞれの仕事でもあります。プロジェクトマネージャも、自分の作業を管理できていなければ、ほかの人の作業を見ることはできません。

ここから基本情報!自分の作業の計画と見張り

自分で管理する中身は、プロジェクトマネジメントを小さくした形になっています。まず、受け持つ作業の内容・順序・必要な資源を具体的に決めるのが作業計画立案です。「オーブンの見積りを2社から金曜までに取り、翌週の月曜に店長と決める」と書けば、計画になります。実際の進み方を計画と比べ、遅れていれば手を打つのが進捗管理です。ミナトが見積りの返事を忘れていたのは、進捗管理が抜けていたからです。

自分が使うお金が予算に収まるように、見積りや支払いを確かめるのがコスト管理です。自分の作業で起こりうる困りごとを先に洗い出し、起きる前に手を打つのがリスク管理です。オーブンの納期が遅れるおそれがあるなら、代わりの手配を先に考えておきます。

基本情報の範囲ここまで

出来上がるものの出来ばえも、自分で確かめます。成果物や作業が決められた基準を満たしているかを確かめ、満たしていなければ直すことを品質管理といいます。試作したパンが1号店と同じ焼き色になっているか、内装業者から届いた図面が打合せのとおりかを、受け取ったその場で確かめるのも品質管理です。

計画は途中で変わります。変えるときに思いつきで書き換えず、変える理由と、費用・日程・ほかの作業への影響を確かめ、決める人の承認を得てから変え、変えたことを記録に残す活動を変更管理といいます。変更管理は、プロジェクトだけでなく、動いているシステムやサービスに手を入れるときにも使われる考え方です。一人の判断で断りなく計画を変えると、ほかの人が持っている計画と食い違ってしまいます。

ここから基本情報!問題に気づいてから記録するまで

計画どおりにいかないことは、どのプロジェクトでも起こります。進み具合や出来ばえを確かめる中で、計画からのずれや困りごとに気づき、それが何かを特定するのが問題発見です。見つけた問題の内容と状況を関係者に伝えるのが問題報告で、問題が小さいうちに報告するほど、打てる手は多く残っています。

問題を解決したり、影響を小さくしたりする具体的な手段を考えるのが対策立案です。そして、決めたことや分かったことを、後から確かめられるよう文章で記録に残すのが文書化です。打合せで口頭で決めたことは、3週間後には誰もはっきり覚えていないことがあります。

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こうした管理を支えているのが、関係者のあいだで情報をやり取りし、共有するコミュニケーションです。いわゆる報告・連絡・相談(報連相)がその中心で、プロジェクトでは、メール、打合せ、共有の予定表など、伝える手段と間隔をあらかじめ決めておきます。ミナトは、毎週月曜の夜に、その週に決めたことと困っていることを、店長と職人に3行で送ることにしました。

1-8憲章と全体計画

「イートインも置けたらいいね」。週末、店長が試作のパンをかじりながら言いました。ミナトはどきりとします。席を置けば工事が増え、予算も日程も変わります。そもそも、2号店で何をするのかを、二人はきちんと書いて決めていたでしょうか。

決めたつもりでも、書いていなければ、人によって覚えていることが違います。そこで、プロジェクトを始めるときに、目的、作るもの、期限、おおよその予算、プロジェクトマネージャとその権限を文書にまとめ、お金を出して最後に決める人の名前でプロジェクトを正式に始めることを認めます。この文書をプロジェクト憲章といいます。憲章ができた時点で、2号店は「店長の思いつき」から「店として認めた仕事」になり、プロジェクトマネージャが動いてよい範囲もはっきりします。

憲章が「何を、なぜ」を決める文書だとすると、「どうやって」を決める文書がプロジェクトマネジメント計画書です。作る範囲、日程、予算、体制、品質の基準、リスクへの備え、報告のしかた、変更の扱い方などをまとめ、プロジェクトを運営するときの指針にします。範囲や日程の計画はそれぞれ別に作り、この計画書に束ねます。

ここから基本情報!統合の対象群のプロセス

JIS Q 21500 の統合の対象群は、立ち上げから終結までを七つのプロセスでつなぎます。プロジェクト憲章の作成、プロジェクト全体計画の作成、プロジェクト作業の指揮、プロジェクト作業の管理、変更の管理、プロジェクトフェーズ又はプロジェクトの終結、得た教訓の収集です。

憲章を作るときの主な材料の一つがプロジェクト作業規定書です。プロジェクトで提供する作業や成果物の内容を記した文書で、英語の statement of work(SOW)に当たります。JIS Q 21500 では、契約やビジネスケースと並んで、憲章の作成の主なインプットに挙げられています。外から頼まれた仕事なら、頼んだ側がこの文書を示すことが多くなります。

憲章をもとに作るのがプロジェクト全体計画で、JIS Q 21500 ではプロジェクト計画とプロジェクトマネジメント計画の二つをまとめてこう呼びます。プロジェクト計画には、範囲・日程・費用などの基準になる計画が入ります。プロジェクトマネジメント計画は、プロジェクトをどう実施し、監視し、管理するかを定めた文書の集まりで、PMBOK のプロジェクトマネジメント計画書に当たります。

計画ができたら、計画どおりに作業が進むよう、要員に指示を出し、資源を割り当てます。PMBOK ではこのプロセスをプロジェクト実行の指揮・マネジメントと呼び、JIS Q 21500 では「プロジェクト作業の指揮」と呼びます。作業を進めると、進み具合のデータや、起きた懸案事項の記録が出てきます。

出てきたデータを計画と比べて追いかけ、ずれがあれば対応を決めるプロセスがプロジェクト作業の監視・コントロール(JIS Q 21500 では「プロジェクト作業の管理」)です。ずれを計画に戻すために行う手直しを是正処置といいます。内装工事が3日遅れているなら、業者に職人を増やしてもらうのが是正処置です。計画そのものを変えないと戻せないときは、計画の変更を求めることになります。

基本情報の範囲ここまで

ミナトは憲章の下書きに「持ち帰り専門の2号店」と書き、イートインの話はふせんに書いて脇に貼りました。決めていないことを、決めたことに混ぜないためです。

1-9変更の管理

翌週の打合せで、店長が改めて言いました。「やっぱりイートインを4席だけ置きたい。朝、駅でコーヒーと一緒に食べる人がいると思うんだ」。内装業者の見積りでは、席と手洗いの工事で40万円の追加、工期は1週間延びます。ミナトはその場で「いいですね」と言いかけて、口をつぐみました。

途中で計画を変えたくなるのは、悪いことではありません。駅の朝の客を見込むのは、店としてもっともな考えです。困るのは、変更が誰の判断で、どの計画を書き換えたのかが分からないまま進むことです。内装業者は図面を直し始め、職人は席のぶんの仕込みを考え、店長は予算を足したつもりでいる。三者がそれぞれ別の計画を持つことになります。

そこで、変えたいという申し出は、まず形にして出します。計画を変えてほしいという正式な申し出を変更要求と呼びます。変更要求には、何を変えたいか、その理由、費用・日程・品質への影響を書き、決める人が承認するか見送るかを判断します。承認されたものだけを計画に反映し、決めた結果は記録に残します。1-7の変更管理を、プロジェクト全体で行う形です。

ここから基本情報!変更を通す仕組み

変更を審査するとき、比べる相手になるのがベースラインです。範囲・日程・費用などについて承認された計画の版で、実績と比べる基準になります。ベースラインは、決められた変更の手続きを通したときにしか書き換えません。勝手に書き換えると、「計画より遅れているか」を測る物差しそのものが動いてしまうからです。

変更要求を審査し、承認・却下・保留を決める会議体をCCB(Change Control Board:変更管理委員会)といいます。2号店なら、店長とミナト、内装業者の担当者が月曜の打合せで審査する形が考えられます。審査で実施が認められた変更要求を承認された変更と呼び、これをもとにベースラインと計画を書き換えます。

変更要求の紙が変更管理委員会の机に届き、承認・却下・保留の三つの道に分かれ、承認の道だけがベースラインの計画表を書き換える矢印につながっている
図:変更要求の流れ。承認された変更だけがベースラインを書き換える

出された変更要求と、その審査の状況・結果を一覧にして記録する文書が変更登録簿です。却下や保留になったものも登録簿に残すので、「あの話はどうなった」と後から聞かれても答えられます。

2号店の変更登録簿(書き始め)
番号変更の内容影響状況
1イートイン4席と手洗いを追加する費用+40万円、工期+1週間審査待ち(次の月曜)

基本情報の範囲ここまで

ミナトは店長の言葉を「イートイン4席の追加」という変更要求の紙に書き直し、追加の40万円と1週間の遅れも書き添えました。店長はその紙を読んで、少し考えてから言いました。「1週間延びると、開店日がずれるね」。

1-10終結と教訓

打合せの帰り道、店長がぽつりと言いました。「10年前に1号店を開けたときも、似たようなことで揉めた気がするんだ。でも、何で揉めて、どう決めたかを覚えていない」。事務所の棚を探しても、残っていたのは工事の請求書の束だけでした。

プロジェクトは、開店の日に自然に終わるわけではありません。約束した成果物がそろったかを確かめ、支払いを済ませ、借りていた人や設備を元の仕事に戻し、そしてこの経験から何を学んだかを残してから、正式に終えます。最後の「残す」が抜けると、10年後に同じことで揉めることになります。

ここから基本情報!終わらせる文書と残す文書

JIS Q 21500 では、プロジェクト作業の管理のプロセスから、成果物がそろい作業が完了したことを示すプロジェクト完了報告書が出てきます。これが、プロジェクトを終える終結のプロセスの材料(インプット)になります。

終結のプロセスでは、プロジェクトやフェーズを正式に終えるにあたり、作業の完了と成果を報告するプロジェクト又はフェーズの終結報告書(プロジェクト終結報告書)をまとめます。2号店なら、開店した時点で「店を整える」フェーズの終結報告書を書き、開店後の1か月が落ち着いたところで、プロジェクト全体の終結報告書を書く、という分け方ができます。

最後に、得た教訓の収集のプロセスで、プロジェクトの中でうまくいったこと、失敗したこと、次は変えたいことを集めて記録します。この記録が得た教訓文書(学んだ教訓文書)で、教訓文書とも呼ばれます。JIS Q 21500 は、全体計画を作るときのインプットに「以前のプロジェクトから得た教訓」を挙げています。次のプロジェクトは、前のプロジェクトの教訓文書を読むところから始まるわけです。

基本情報の範囲ここまで

次の月曜、事務所の壁に一枚の紙が貼られました。「2号店プロジェクト憲章」。目的は駅前に持ち帰り専門の2号店を開くこと、開店日は2月の第1土曜日、予算の上限、プロジェクトマネージャはミナト、予算を超える判断は店長が行う。いちばん下には店長の署名があります。その横には「変更要求 No.1 イートイン4席」の紙がクリップで留めてあり、審査は次の打合せで行うと書き添えてありました。

冒頭のノートにあった三つの「決まっていないこと」には、それぞれ置き場所ができました。最後に決めるのは誰か、には憲章の署名と体制が答えています。大家さんや内装業者にどこまで知らせるか、は関係者を書き出した表と、毎週の報告の決まりが受け持ちます。途中で「イートインも置きたい」と言われたらどうするか、には変更要求の紙と月曜の審査があります。どれも、パンを焼く腕とは別の、段取りの型でした。

ただ、憲章に書いたのは「2月の第1土曜日に開く」という約束だけです。その日までに、何をどの順で終わらせればよいのか。ミナトのノートには、まだ「看板」と「オーブン」くらいしか書かれていません。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(16語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(83語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。