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  4. 第2章 業務改善・ソリューション・システム活用

システム戦略 第2章 ストラテジ系・大分類:システム戦略

業務改善・ソリューション・システム活用

業務の流れを見直して外部のサービスを選び、入れたシステムを使いこなして評価し、最後に手放すまで。

2-1業務プロセスの改善

12月20日の閉店後、こむぎ堂の厨房の机には、紙の山が三つできていました。店頭で受けた申込書、電話の予約を書き留めたメモ、印刷したネットの注文です。ミナトはそれを1枚ずつ予約の表に打ち直し、店長は打ち終えた紙に1枚ずつ承認の印を押していきます。先週は同じ予約を2回打ち込んだせいでホールケーキが1台余り、別の日には、受け取りに来たお客さんの名前が表のどこにもありませんでした。壁のカレンダーでは、24日に赤い丸が付いています。「来年は、アルバイトをもう一人増やすしかないかな」と店長が言うと、ミナトは相棒に打ち込みました。「人を増やす以外の直し方って、ある?」

パン屋の厨房の机に紙の申込書と電話のメモと印刷したネット注文が山になり、アルバイトがパソコンに打ち込み、その横で店長が承認の印を押している。壁のカレンダーの12月24日に赤い丸
図:三つの窓口から集まった予約を、毎晩手で打ち直して印を押している

相棒の返事は、打つ速さの話ではありませんでした。「打ち直しを速くする前に、なぜ打ち直しが要るのかを考えてみよう」。予約は三つの窓口から入り、一つの表に集まり、店長の印を経て、厨房で焼く数の一覧になります。仕事が始まってから終わるまでの、この一続きの手順を業務プロセスといいます。打ち間違いも受け取り漏れも、手順のどこか一か所ではなく、紙から表へ写す工程があること自体から生まれています。

そこで、「いまの手順のどこを速くするか」ではなく「そもそもこの手順は要るのか」から問い直し、業務プロセスを根本から作り直す取り組みをBPR(Business Process Reengineering)といいます。お客さんが自分でネットの画面に予約を入れ、電話を受けた人もその場で同じ画面に入れるなら、紙から表へ打ち直す工程は丸ごと消えます。工程を少しずつ速めるのではなく、組み替えてしまうところにBPRの特徴があります。

ただ、一度作り直せば終わり、とはいきません。来年の12月には、今年は無かった困りごとが出てくるはずです。業務プロセスを図などで見える形にし、実行し、結果を確かめ、また改善する。この循環を続けていく管理の手法をBPM(Business Process Management)といいます。BPRが一度きりの大きな作り直しなら、BPMは続けていく手入れです。

見える形にするには、描き方をそろえておく必要があります。ミナトが描いた図のひし形と、店長が描いた図のひし形が、別の意味だったら話が通じません。業務プロセスを図で表すための記号と描き方を、国際的に標準として定めた表記法がBPMN(Business Process Model and Notation)です。作業は角の丸い四角、分かれ道(判断)はひし形、始まりと終わりは丸と決まっていて、担当ごとに横長の帯(レーン)を分けて、誰がどの作業をするかを描き分けられます。

ここから基本情報!改善を進める順番と、それを支える仕組み

業務を改善するときは、まず今の手順を図や表にして見えるようにし、次に人によってばらばらなやり方を一つの決まった手順にそろえ、最後にそろえた手順をシステムに任せる、という順に進めることが多くあります。この流れを可視化・標準化・自動化と呼びます。順番には意味があります。電話の予約を、ある人はメモ用紙に、別の人はカレンダーの余白に書いている状態でいきなり自動化すると、ばらばらのやり方をそのまま機械に写すことになるからです。

BPMの考え方に沿って、業務プロセスの設計・実行・監視・改善を一つの仕組みで支えるソフトウェアをBPMS(Business Process Management System)といいます。図にした手順をそのまま実際の処理の流れとして動かし、どの予約がどの段階で何時間止まっているかを記録して見せるので、次に直す場所を数字で探せます。

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こむぎ堂の手順で、もう一つ詰まりやすいのが店長の印です。受け付けた予約を確認し、店長が承認し、焼く数の一覧に載せる。仕事が誰から誰へ、どの順で回るかという流れ、特に申請と承認の手順をワークフローといいます。いまのワークフローの弱点ははっきりしていて、印を押せるのが店長一人なので、店長が配達に出ているあいだは予約がすべて止まります。

ここから基本情報!承認の流れを電子化する

申請や承認の手続きを電子化し、画面の上で回すシステムをワークフローシステムといいます。受け付けた予約は自動で店長の画面に届き、承認すれば焼く数の一覧に載り、差し戻せば理由を付けて受け付けた人に戻ります。紙の印と違って、店長は配達先からスマートフォンで承認でき、どの予約が誰の所で止まっているかも記録に残ります。

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それでも残る作業があります。いま使っている通販サイトは予約の表とつながっていないので、ミナトは毎晩、注文の画面から名前と個数を1件ずつ写しています。判断は要らず、手順は毎回同じです。このように人がパソコンの画面で行う決まった操作を、ソフトウェアのロボットに覚えさせて代わりに行わせる技術をRPA(Robotic Process Automation)といいます。画面のどこを押し、どこに何を入力するかを再現するので、元のシステムを作り直さずに使えます。その反面、通販サイトの画面の並びが変わると、ロボットは違う場所を押したり、途中で止まったりします。

2-2業務の外部委託

年が明けて、店長は商店街の花屋から、注文の電話の受付と伝票の入力を、まとめて専門の会社に任せている話を聞いてきました。「パンを焼く人が電話に出なくて済むなら、助かるよね」。ミナトはうなずきながらも、任せた電話の向こうで何が起きているのかを、店が分からなくなるのが少し気になりました。

業務を改善する方法は、自分たちで手順を作り直すことだけではありません。業務の一部を、それを得意とする外部の会社に任せるという選び方もあります。任せれば、店の人手をパンを焼く仕事に回せますし、専門の会社が慣れた手順で処理してくれます。一方で、任せた業務のやり方や知識は店の中に残りにくくなり、任せた先の品質が店の評判を左右するようになります。何を任せ、何を手元に残すかを決めるのは、任せる側の仕事です。

ここから基本情報!外部への任せ方の種類

作業の一部ではなく、ある業務プロセスをまるごと、たとえば電話の受付から伝票の入力、問い合わせへの返事までを一続きで外部の専門業者に委託する経営の手法をBPO(Business Process Outsourcing)といいます。給与計算や経理、問い合わせの窓口がよく任される業務です。花屋がしているのは、注文受付の業務プロセスのBPOにあたります。

委託先が海外の事業者になることもあります。人件費などの費用を下げるために、システムの開発などを海外の事業者に委託する形をオフショア(オフショア開発)といいます。費用は下がりやすい半面、言葉や時差、仕事の習慣の違いから仕様の行き違いが起きやすく、確かめ合う手間が増えます。

まるごと任せるのではなく、発注する側が主導権を持ったまま、外部の専門家と協力して業務を一緒に進める形をコソーシングと呼ぶことがあります。予約の手順の見直しを店長とミナトが中心になって進め、詳しい人に外から手伝ってもらうなら、この形です。シラバスの用語例には挙がっていない語ですが、任せた業務が見えなくなるというミナトの心配に対する、一つの答え方になっています。

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店長は、電話の受付を外に任せるかどうかを、予約の手順を作り直してから決めることにしました。手順がばらばらなままでは、任せる相手に何を頼めばよいのかも書き出せないからです。

2-3ITの有効活用とコミュニケーション

1月の定休日、新しい予約の手順を話し合う約束をしていたのに、店長は県外の製粉所の見学に出かけていました。ミナトは家のパソコンから、店長は駅のベンチからスマートフォンで、画面越しに顔を合わせます。机の上にあった去年の申込書は、前の日にミナトがスキャナで読み取り、店の共有フォルダに入れておきました。

インターネットを通じて、離れた場所にいる人どうしが映像と音声でやり取りする会議をWeb会議といいます。画面を共有すれば、同じ予約の表を二人で見ながら話せます。店や会社に行かずに、家や外出先から情報通信技術を使って働く形はテレワークと呼ばれます。

ミナトが申込書を読み取ったのも、同じ流れの中にあります。紙の書類をスキャナで画像データにして保存し、日付や名前で検索して取り出せるようにする仕組みを電子ファイリングシステムといいます。シラバスの用語例には無い語ですが、ITで事務を効率よくする身近な例です。去年の申込書を探すのに、棚の箱をひっくり返さなくて済みます。

話し合いで決めたかったことの一つは、店の連絡の手段をどう使い分けるかでした。いまは何もかもが店長の携帯電話への電話で済まされています。手段ごとに、届き方と残り方が違います。

手段やり取りの形こむぎ堂での使いどころ
電子メール宛先を指定して送る。記録が残り、相手は都合のよいときに読む製粉所との注文や請求のやり取り
チャットネットワークを通じて、短い文章をリアルタイムにやり取りするスタッフどうしの「バゲットあと何本?」
電子掲示板決まった場所に書き込みが並び、見に来た人が読むシフトの交代の募集
ブログ日記のような記事を、日付の順に公開する新作パンの紹介
SMS(Short Message Service)携帯電話の番号だけを宛先にして、短い文章を送る受け取りの前日にお客さんへ知らせる
SNS(Social Networking Service)利用者どうしがつながり、情報を発信し共有する焼き上がりの時刻のお知らせ

表の上の三つは主に店の中のやり取りに、下の三つは主にお客さんとのやり取りに向いています。SMSは相手のメールアドレスを知らなくても電話番号だけで届くので、予約のときに電話番号を聞いておけば、受け取り忘れを減らす知らせに使えます。

連絡の手段が増えると、人についての記録も増えます。歩数や位置、買い物の履歴のように、人の行動や体の状態をデジタルに記録し続けたものをライフログといいます。こうした個人のデータを、本人が自分で集めて管理し、誰にどこまで渡すかを自分で決められるようにする仕組みがPDS(Personal Data Store)です。さらに、本人との契約にもとづいて個人のデータを預かり、本人が同意した範囲で、ほかの事業者に提供する事業を情報銀行と呼びます。

使っていない物や場所、技能を、インターネットを通じてほかの人と貸し借りする経済の形も広がっています。定休日の厨房を料理教室に貸すような形で、シェアリングエコノミーと呼ばれます。Web会議の終わりに、店長は「定休日の厨房、もったいないよね」とだけ言って、電車に乗りました。

2-4ソリューションビジネス

2月、店長のもとに二つの提案が届きました。一つは、こむぎ堂専用の予約システムを一から作る見積もり。もう一つは、ネットで借りられる予約サービスの案内です。金額は何十倍も違いました。「安いほうでいいよね」と言いかけた店長に、ミナトは「何を買うのかが、まだ決まっていない気がする」と返しました。

こむぎ堂が欲しいのは、予約システムという物そのものではありません。予約の打ち間違いと受け取り漏れが無くなることです。顧客の課題を解決するために、製品やサービスを組み合わせて提供する解決策をソリューションといいます。ソリューションを売る仕事では、売る側が顧客との信頼関係を築き、顧客自身もはっきり言えていない問題を聞き出し、解決策を提案し、導入した後の支援までを受け持ちます。

解決策の形は、大きく三つあります。自分たちのためだけに作る自社開発、市販のソフトウェアを買って入れる方法、そしてほかの会社のサービスを借りて使う方法です。こむぎ堂に届いた二つの提案は、一つめと三つめにあたります。

一から作る提案を出したのは、情報システムの企画から設計、開発、導入、運用までを一括して引き受ける事業をしている会社でした。こうした事業をシステムインテグレーション(SI:System Integration)といいます。インテグレーションは「まとめ上げる」という意味で、別々の会社の機器やソフトウェアを組み合わせ、一つのシステムとして動くように仕上げるところまでを含みます。それを請け負う事業者はシステムインテグレータ(SIer)と呼ばれます。

ここから基本情報!ソリューションを提供する側の仕事

顧客の経営や業務の課題に対して、解決策を提供する事業者をソリューションプロバイダといいます。システムインテグレータのほか、コンサルティング会社やサービスの事業者もこう呼ばれます。

提供する側の仕事は、売る前から始まります。顧客の業務を調べて課題を整理し、解決に向けて伴走する活動が問題解決支援です。そのうえで、整理した課題に対して、どんな情報システムを入れれば解けるのかを具体的に示すのが業務システム提案です。こむぎ堂の見積もりに「何を解決するか」が書かれていなかったのは、この二つの手前で止まっていたからだといえます。

市販のソフトウェアの中でも、会計・給与計算・販売管理のような特定の業務向けに、多くの会社で共通する機能をあらかじめそろえたものを業務パッケージといいます。一から作るより早く安く入れられますが、店のやり方をパッケージの手順に合わせる場面が出てきます。合わせずにパッケージのほうを作り変えると、そのぶん費用がかさみます。

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ミナトの言う「何を買うのか」は、こむぎ堂の側で先に決めておくべきことでした。二人は紙に書き出しました。電話で受けた予約も、その場で同じ画面に入れられること。受け取り日ごとに、ケーキの種類と個数が数えられること。店長が店にいなくても承認できること。この3行を持って、提案を見比べ直すことにしました。

2-5クラウドサービス

ネットで借りられる予約サービスの案内には、「サーバは不要です」と書いてありました。店にあるコンピュータは、レジの横の古いノートパソコンが1台だけです。サーバが要らないなら、予約のデータはどこに置かれるのでしょう。ミナトは案内を読み進めながら、相棒に尋ねました。

データもプログラムも、サービスの事業者が持つデータセンターのコンピュータの上にあります。利用者は手元にサーバを持たず、ネットワークを通じて、必要なときに必要な分だけ使います。この考え方をクラウドコンピューティングといい、その形で提供されるサービスをまとめてクラウドサービスと呼びます。

クラウドサービスは、事業者が何を用意してくれるかで分けられます。ソフトウェアの機能そのものをネットワーク越しに提供するのがSaaS(Software as a Service)です。こむぎ堂が検討している予約サービスはこれにあたり、店はブラウザで画面を開いて使うだけです。アプリケーションを動かすための環境、つまりOSやデータベースなどのミドルウェア、プログラムの実行環境までを提供するのがPaaS(Platform as a Service)で、利用者はその上に自分で作ったアプリケーションを載せます。サーバやストレージ、ネットワークといった基盤だけを提供するのがIaaS(Infrastructure as a Service)で、OSを何にするかから利用者が決めて管理します。

区分事業者が用意するもの利用者が用意し管理するもの
SaaSアプリケーションまで全部入れるデータと、使い方の設定
PaaSOS・ミドルウェア・実行環境までアプリケーションとデータ
IaaSサーバ・ストレージ・ネットワークOSから上のすべて

パソコンのデスクトップ環境そのもの、つまりOSや業務用のアプリケーションが入った画面を、ネットワーク越しに提供するサービスもあります。これをDaaS(Desktop as a Service)といいます。手元の端末は事業者側で動くデスクトップの画面を映すだけで、データは基本的に端末に残りません。レジ横の古いノートパソコンからでも、家のパソコンからでも、同じデスクトップに入れます。

ここから基本情報!クラウドを前提にする考え方

はじめからクラウドの上で動かすことを前提に、コンテナやマイクロサービスといった技術を使ってシステムを設計する考え方をクラウドネイティブといいます。手元のサーバで動いていたシステムをそのままクラウドに移すのとは違い、利用が増えたら台数を増やし、減ったら戻す、一部が止まっても全体は動き続ける、というクラウドの性質を設計の段階から生かします。

日本政府は、政府の情報システムを整備するとき、まずクラウドサービスの利用を第一の候補として検討するという方針を掲げています。これをクラウドバイデフォルト(クラウド・バイ・デフォルト原則)といいます。2018年(平成30年)6月に各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議が決めた「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」で示され、いまはデジタル庁の標準ガイドライン「政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針」に引き継がれています。

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2-6クラウドの提供形態

予約サービスを比べていると、「パブリック」「プライベート」という言葉が何度も出てきます。そこへ商店街の組合長から、組合でクラウドの環境を借り、加盟店だけで共同の予約の仕組みを使おうという話が届きました。誰とも共有しないほうが安心なのか、多くの店と共有するほうが得なのか、ミナトには決めきれません。

SaaS・PaaS・IaaSが「何を借りるか」の区別だとすると、こちらは「誰と共有するか」の区別です。クラウドサービスを、利用者の範囲や、環境をどこまで共有するかで分けた区分をクラウドの提供形態といいます。

事業者がインターネットを通じて不特定多数の利用者に向けて提供し、設備を多くの利用者で共有する形がパブリッククラウドです。申し込めばすぐに使い始められ、使った分だけ払えばよいので、こむぎ堂のような小さな店でも始めやすい形です。その代わり、設定できることは事業者が用意した範囲に限られます。

これに対し、特定の企業や組織が自分たちだけで使うクラウドの環境をプライベートクラウドといいます。自前の設備に作る場合も、事業者の設備の一部を専有する場合もあります。ほかの利用者と設備を分けられ、自由に作り込める反面、費用と管理の手間は利用者側が多く負います。組合長の案は、一つの組織ではなく、同じ商店街の加盟店という仲間だけで環境を専有する形です。米国国立標準技術研究所(NIST)のクラウドの定義(SP 800-145)では、これをコミュニティクラウドと呼び、プライベートクラウドとは別の区分にしています。

パブリックとプライベートは、どちらか一方を選ぶものとは限りません。パブリッククラウドとプライベートクラウドのように性格の違うクラウドどうし、あるいはクラウドと自社内の設備などを連携させて使う形をハイブリッドクラウドといいます。お客さんからの予約の受付はパブリッククラウドのサービスで、組合の加盟店で共有する常連客の名簿はコミュニティクラウドで、と使い分けるなら、この形です。また、複数の事業者のクラウドサービスを組み合わせて使う形をマルチクラウドといいます。一つの事業者のサービスが止まっても全部は止まらず、一つの事業者だけに頼りきらずに済みます。

ここから基本情報!データをどの国に置くか

クラウドのデータセンターは、外国にあることも珍しくありません。データがある国の法律がそのデータに及ぶため、行政や重要な社会の仕組みを担う組織は、置き場所を気にします。データの保管場所や運用を自国の中にとどめ、自国の法規制に従って管理できるようにしたクラウドをソブリンクラウドといいます。ソブリンは「主権を持つ」という意味で、データを自国の管理のもとに置くこと(データ主権)を確保するための形です。

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組合長への返事は、ひとまず保留になりました。店長は「うちが知りたいのは、どこが一番安心かより、予約の受付がクリスマスの朝に止まらないかどうかだよ」と言い、ミナトはその一文を、提案を見比べるための紙の4行目に書き足しました。

2-7さまざまなソリューションサービス

「レジ横のノートパソコンで予約を受けるのも、立派な一つのやり方だよ」と、店長の知り合いのシステム業者は言いました。この業者がこれまでに手がけてきたのは、店の奥に置いたサーバで動く仕組みや、業者の建物にあるサーバを貸す仕組みなど、さまざまです。並べてみると、違いは「機械が誰のもので、どこに置いてあるか」でした。

サーバなどの機器を自社で用意し、自社の建物の中に置いて運用する形をオンプレミスといいます。好きなように作り込めますが、機器の購入から故障の対応、停電への備え、セキュリティ対策までを自分で引き受けます。レジ横のノートパソコンで予約を受け付けるなら、こむぎ堂もオンプレミスです。

機器を自分で持たない形もあります。事業者が持っているサーバを、利用者が借りて使うのがホスティングサービスです。反対に、機器は利用者が自分で持ち、それを置く場所、つまり電源や空調、回線が整った部屋だけを事業者から借りるのがハウジングサービスです。

ここから基本情報!サーバを置く施設

ホスティングやハウジングの場になるのが、サーバを置いて動かすための設備を整え、企業に場所や運用を提供する施設です。これをIDC(Internet Data Center、インターネットデータセンタ)といいます。止まらない電源、空調、地震への備え、太い回線、入館の管理などがそろっています。シラバスの用語例には挙がっていない語です。

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アプリケーションをネットワーク経由で利用者に提供する事業者や、そのサービスをASP(Application Service Provider)といいます。考え方はSaaSとほぼ同じで、SaaSという呼び方が広まる前から使われてきた語です。

機器やソフトウェアではなく、仕事そのものを任せるサービスもあります。業務の一部または全部を外部の専門企業に委託するのがアウトソーシングサービスです。年明けに店長が聞いてきた電話受付の話は、アウトソーシングの一つです。システムに関わる仕事に絞って、運用・監視・保守を専門の事業者が代わりに引き受けるサービスはマネージドサービスと呼ばれます。サーバの監視、更新プログラムの適用、バックアップといった、手が抜けないのに店では手が回らない仕事を任せられます。

課題の種類ごとに用意されたソリューションもあります。顧客関係管理(CRM:Customer Relationship Management)、つまりお客さん一人ひとりとの関係を長く保つための仕組みを実現するシステムやサービスをCRMソリューションといいます。予約の履歴や問い合わせを一か所にまとめておけば、去年ケーキを予約してくれた人に、今年の予約の始まりを知らせられます。

ここから基本情報!守りの課題を解くソリューション

マルウェア対策や不正アクセス対策、通信の監視など、セキュリティの課題を解決するための製品やサービスをセキュリティソリューションといいます。小さな店では、ウイルス対策のソフトウェアと、怪しい通信を監視するサービスを組み合わせて借りる形がよく使われます。

基本情報の範囲ここまで

ここまでに出てきた形を、機械とその管理を「店が持つ」か「事業者に任せる」かで並べると、次のようになります。

オンプレミス、ハウジング、ホスティング、IaaS、PaaS、SaaSを横に並べ、建物・機器・OS・アプリケーションのそれぞれを店が持つか事業者に任せるかを、右へ行くほど任せる範囲が広がる形で示した比較図
図:右へ行くほど、店が持つ範囲が狭くなり、事業者に任せる範囲が広くなる

店長が選んだのは、いちばん右のSaaSでした。予約サービスの事業者が使っているのはパブリッククラウドです。店の側に残るのは、予約のデータを正しく入れることと、サービスの設定を決めることだけになりました。

2-8システム活用促進の考え方

3月、借りた予約サービスで、春のサンドイッチの予約を試しに受け始めました。ところが、店頭のアルバイトの人たちは、相変わらず電話の予約を紙に書いています。理由を聞くと、「画面を開くには、レジ横のパソコンまで行かないといけないから」とのことでした。

システムは、入れただけでは成果になりません。使われなければ、打ち直しの紙は減らないままです。そのため、情報システムは作る段階から、使ってもらうための働きかけと、どう使われているかの評価を続けていきます。使いにくさの原因が「画面のある場所が遠い」なら、直すのは画面のある場所のほうです。

そこで店長は、アルバイトの人が自分のスマートフォンから予約の画面を開けるようにしました。私物の端末を業務に使うことをBYOD(Bring Your Own Device)といいます。端末を新しく買わずに済み、手に慣れた画面で入力できます。一方で、私物の端末は店が管理しにくく、なくしたり、家族と共用していたりすれば、予約客の情報が漏れるおそれがあります。画面ロックを必ず設定する、予約のデータを端末に保存しない、といった決まりを先に作っておきます。

問い合わせへの答え方も変えられます。文字や音声による対話の形で、利用者からの問い合わせに自動で答えるプログラムをチャットボットといいます。「受け取りの時間を変えたい」「アレルギーの表示を知りたい」といったよくある質問に、店が閉まっている夜でも答えられます。店の中でも、アルバイトの人の「予約を取り消すにはどこを押すの?」に答える役に使えます。

予約が画面に集まるようになると、データがたまっていきます。たまったデータを集計・分析し、グラフなどで見える形にして経営の判断に役立てるソフトウェアをBIツール(Business Intelligenceツール)といいます。曜日ごと、時間帯ごとの予約数を並べれば、どの日に何人で店を回せばよいかが見えてきます。さらに、統計学や機械学習などの手法を使って、データから役に立つ知見を導き出す学問と実践の分野をデータサイエンスと呼びます。天気や気温と、サンドイッチの売れ行きの関係を調べるのは、その身近な一例です。BIツールとデータサイエンスはシラバスの用語例には挙がっていませんが、基本情報のシラバスは、システムにたまったデータを分析して事業に生かすことの大切さを目標に掲げています。

2-9デジタルリテラシー

BYODを始めて1週間、アルバイトの一人が、お客さんの名前で届いた「予約の確認はこちら」というSMSを見せに来ました。本文のリンクを開いてよいか迷ったそうです。別の一人は、SNSで見かけた「あのパン屋、閉店するらしい」という書き込みを本気にして、心配していました。

スマートフォンで予約の画面を開けることと、仕事に安心して使えることの間には、少し距離があります。コンピュータやアプリケーション、ネットワークなどのデジタル技術を理解し、仕事や暮らしの課題を解くために使いこなす力をデジタルリテラシー(ITリテラシー)といいます。操作の手順を知っていることだけでなく、何にどう使えば課題が解けるのかを考えられることまでを含みます。

こむぎ堂の場合、デジタルリテラシーの中身は具体的です。予約を正しく入れられること。お客さんの電話番号を、決められた画面以外に書き写さないこと。おかしいと思ったものを、自分だけで判断せずに誰かに見せること。今回のアルバイトの二人は、最後の一つはできていました。

ここから基本情報!情報を読み解く力と、危険に気づく意識

テレビや新聞、ネットの書き込みなど、メディアが発する情報をそのまま信じず、誰が何の目的で出したのかを考えながら読み解き、取捨選択して使う力をメディアリテラシーといいます。閉店のうわさなら、書き込んだのは誰か、ほかに同じことを伝えている確かな発信元があるか、を確かめるところから始めます。

情報セキュリティの脅威やリスクを知ったうえで、自分の行動で対策をとろうとする意識をセキュリティ意識といいます。知らない送り主から届いたSMSのリンクを、開く前に立ち止まって確かめるのは、その表れです。知識があっても、急いでいるときに一瞬で押してしまうなら、意識はまだ行動になっていません。

基本情報の範囲ここまで

SMSは、予約サービスからではなく、知らない番号から届いたものでした。ミナトは店のスマートフォンの使い方を紙1枚にまとめて、レジの横に貼ることにしました。

2-10普及啓発

4月、新しいアルバイトが二人入りました。予約サービスの画面は、ミナトには見慣れたものでも、初めての人にはどこを押せばよいのかが分かりません。ミナトがつきっきりで教えた日は、パンの袋詰めが30分遅れました。

教える人が一人しかいないと、教える時間がそのまま店の遅れになります。情報システムを使いこなしてもらうための教育や訓練を、計画的に続ける活動を普及啓発といいます。最初の手がかりは、予約サービスに付いてきた説明でした。利用者がシステムの操作を学ぶための文書類を利用者用文書類(利用者マニュアル)といいます。

ここから基本情報!利用者を助ける説明の形と、教える仕組み

利用者を助ける説明は、紙の冊子だけではありません。画面の案内に沿って、順に選んだり入力したりするだけで複雑な設定を終えられる機能をウィザードといいます。「次へ」を押していくと店の営業時間と受け取り枠の設定が終わる、という形です。実際に操作しながら一歩ずつ使い方を覚える練習形式の教材がチュートリアル(学習書)です。画面から呼び出して、知りたい操作の説明を検索して読めるのがオンラインヘルプです。三つはどれも、シラバスの用語例には挙がっていない語です。

システムの操作ではなく、仕事の手順そのもの、たとえば電話で予約を受けてから受け渡すまでの流れを文書にまとめたものを業務マニュアルといいます。誰がやっても同じ手順になるようにそろえ、人が入れ替わっても引き継げるようにするためのものです。利用者マニュアルが「画面のどこを押すか」を教えるのに対し、業務マニュアルは「どの順に仕事をするか」を教えます。

人を集めて、特定の知識や技能を身につけてもらう場を講習会といいます。こむぎ堂では、閉店後の30分を使って、新しい二人に実際の画面で予約を入れてもらう練習の時間にしました。さらに、誰に、いつまでに、どの技能を身につけてもらうかを前もって決めておくのが人材育成計画です。「秋までに、全員が一人で予約の変更と取り消しをできるようにする」と決めておけば、12月の前に誰の練習が足りないかが分かります。

基本情報の範囲ここまで

集まって練習できる時間には限りがあります。ネットワークとコンピュータを使い、時間や場所を選ばずに学べる仕組みをeラーニングといいます。ミナトは予約の入れ方を5分の動画にまとめ、アルバイトの人が通学の電車の中でも見られるようにしました。

練習を続けてもらう工夫もあります。点数やレベル、達成の印、順位といったゲームの要素を、学習や仕事などゲーム以外の場面に取り入れて、意欲を高める手法をゲーミフィケーションといいます。練習用の予約を間違えずに10件入れられたら、スタンプカードに印が一つ増える。単純な仕掛けですが、新しい二人は休憩中にも練習を始めました。

教える相手は、店の中の人だけではありませんでした。長年の常連のお客さんの中には、スマートフォンを持っていない人もいます。情報技術を使える人と使えない人のあいだに生まれる、機会や能力の格差をデジタルディバイドといいます。個人の間だけでなく、年齢や地域、国の間にも生まれます。ネットの予約だけにすると、毎年ケーキを予約してくれていた人が予約できなくなります。こむぎ堂は、電話の窓口を残し、受けた人がその場で画面に入れることにしました。

2-11利用実態の評価・検証

6月、予約サービスを入れてから3か月がたちました。毎月の利用料は確実に引き落とされていますが、よくなった分はどこにも数字になっていません。店長は通帳を見ながら、「これ、入れてよかったのかな」とつぶやきました。

入れたシステムが本当に使われ、効果を上げているかを確かめ、次に何を直すかを決めるのが、利用実態の評価と検証です。まず、かけた費用と、それで得られた効果を比べて分析することを費用対効果分析といいます。こむぎ堂の1年分を、時給1,000円として見積もってみます(数字はこむぎ堂の例として置いたものです)。

項目計算金額
費用:利用料月3,000円 × 12か月36,000円
費用:講習と練習の時間1,000円 × 10時間10,000円
効果:12月の打ち直しが無くなる毎晩1時間 × 20日 = 20時間 → 1,000円 × 20時間20,000円
効果:ほかの月の打ち直しが無くなる週1時間 × 40週 = 40時間 → 1,000円 × 40時間40,000円
効果:作り間違いのケーキが無くなる1台 3,000円 × 1台3,000円

費用の合計は36,000円+10,000円=46,000円、効果の合計は20,000円+40,000円+3,000円=63,000円です。効果から費用を引くと17,000円が残り、効果を費用で割ると63,000÷46,000で約1.37倍になります。1倍を超えていれば、かけた費用より得たものが大きいことになります。ただし、受け取り漏れが無くなったことでお客さんが離れずに済んだ分のように、金額にしにくい効果は表に入っていません。

数字だけでは分からないこともあります。システムを使う人に、使いやすさや満足度をアンケートや聞き取りで尋ねるのが利用者満足度調査です。こむぎ堂では、アルバイトの人とお客さんの両方に聞きました。「電話より楽」という声がある一方で、「スマートフォンの画面だと、受け取り時刻が選びにくい」という声も出ました。

費用の側にも、気づきにくいものがあります。運用を始めてから、不具合の修正や改修、更新などの保守にかかる費用をメンテナンスコスト(保守コスト)といいます。一から作る提案を選んでいたら、画面の直しを頼むたびにこの費用がかかっていました。借りるサービスでは、多くの場合、利用料の中に含まれています。システムの費用は、作るときに一度払って終わりではなく、使い続ける間ずっと積み上がります。

ここから基本情報!記録から使われ方を読む

システムには、誰がいつどの操作をしたかという記録(ログ)が残ります。記録されたログを解析して、使われ方の傾向や障害の原因、不正の兆しを読み取る作業をログ分析といいます。予約サービスのログを調べると、スマートフォンからの予約の多くが、受け取り時刻を選ぶ画面で止まっていました。満足度調査の「選びにくい」という声と、記録の上でも一致したわけです。

分析が後から振り返る作業なのに対し、ログを継続して監視し、異常やセキュリティの問題をすぐに見つける活動をログ監視といいます。管理画面へのログインの失敗が急に増えたら知らせる、という設定がその例です。

教育の成果も記録から確かめられます。eラーニングの教材を配信し、誰がどの教材をどこまで終えたか、確認テストの結果はどうだったかを一か所で管理するシステムを学習マネジメントシステム(LMS:Learning Management System)といいます。予約の入れ方の動画を、まだ最後まで見ていない人が誰かが分かれば、12月の前に声をかけられます。

基本情報の範囲ここまで

店長は、受け取り時刻を選ぶ画面の直し方を事業者に問い合わせることにしました。費用は1年で見れば元が取れていて、残った課題も一つに絞れています。

2-12情報システムの廃棄

秋になり、予約の受付はすべて新しいサービスに移りました。レジ横の古いノートパソコンには、去年までの予約の表と、お客さんの名前と電話番号が残ったままです。起動には5分かかり、OSの更新の提供もとうに終わっていました。

情報システムには始まりと終わりがあります。システムが企画され、要件を決めて開発され、導入されて運用と保守が続き、最後に廃棄されるまでの一連の流れをシステムライフサイクルといいます。廃棄は、うまくいかなかったときの後始末ではなく、はじめから流れの中に入っている一つの段階です。

企画、開発、運用、評価、廃棄の五つの段階が輪になってつながり、運用の所に講習会とマニュアル、評価の所に利用者満足度調査とログ分析、廃棄の所にデータの消去が置かれている図
図:システムライフサイクル。評価の結果が、廃棄と次の企画につながる

長く使ううちに古くなり、継ぎ足しを重ねて仕組みが複雑になり、安全性や効率が落ちてしまった既存のシステムを、レガシーシステムと呼びます。それを廃棄したり作り直したりすることがレガシーシステムの刷新です。古いノートパソコンと予約の表は、こむぎ堂のレガシーシステムでした。表の計算式は作った人しか分からず、OSの更新が止まっているので、見つかった脆弱性も直りません。古いまま置いておくと、メンテナンスコストと危険が少しずつ増えていきます。

ここから基本情報!捨てる前に消す

機器を捨てたり、人に譲ったり、リース会社に返したりするときに、記録されているデータを復元できない状態にすることをデータの消去といいます。ファイルを削除してごみ箱を空にしたり、記憶装置を初期化(フォーマット)したりしただけでは、専用のソフトウェアでデータを読み戻せる場合があります。そこで、消去専用のソフトウェアで記憶装置全体を上書きする、記憶装置を物理的に壊す、消去の証明書を出してくれる業者に頼む、といった方法をとります。どの方法で消し、誰が確かめるかを、店の情報セキュリティポリシーに書いておけば、次に機器を捨てるときにも迷いません。

基本情報の範囲ここまで

そして、また12月が来ました。こむぎ堂の厨房の机に、紙の山はありません。店頭でも電話でもネットでも、受けた予約はその場で同じ一つの画面に入り、受け取り日ごとにケーキの種類と個数が数えられています。店長は配達の合間にスマートフォンで承認を済ませ、ミナトは毎晩の打ち直しの代わりに、試験の問題集を開いています。古いノートパソコンは、中身を消去する手順を終えてから、引き取りの業者に渡しました。壁のカレンダーの24日には、今年も赤い丸が付いています。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(47語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(74語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。