4-1システム運用管理
朝4時半、こむぎ堂の厨房のプリンタは空っぽでした。いつもなら、カフェ3軒への配達表が夜のうちに刷り上がっているはずです。ミナトがノートパソコンを開くと、毎晩動く処理の一覧に「配達表の作成:異常終了」の赤い文字が一行だけ残っていました。この朝、配達表についての電話の問い合わせには店長が、同じ件のメールにはミナトが答え、二人の答えが食い違うことになります。夏に入ってから、機械を置いた奥の小部屋は暑く、ファンの音が日に日に大きくなっていました。店長は焼き上がりを待つ天板の前で言います。「予約システムって、作ったら勝手に動いてくれるものじゃなかったんだね」。ミナトは相棒に、止まった処理の名前を打ち込みました。
システムは、作り終えた日から毎日の仕事が始まります。夜のうちに予約をまとめ、配達表を刷り、データの写しを取る。利用者の登録を増やしたり消したりする。止まったら原因を調べ、やり直す。問い合わせに答える。こうした、システムを安定して動かし続けるための日々の仕事をまとめて、システムの運用と呼びます。
運用で扱うものは機械だけではありません。予約システムを動かすには、サーバやパソコンといった機械と、その上で動くOSや予約のプログラムなどのソフトウェア、予約のデータ、店とカフェをつなぐ回線、そして操作する人がそろっている必要があります。どれか一つが欠けても、朝の配達表は出てきません。
ここから基本情報!運用を管理するという仕事
日々の運用を、行き当たりばったりではなく計画に沿って進め、結果を確かめて直していく活動をシステム運用管理といいます。ふだんの運用計画のほかに、障害が起きたときにどう動くかの計画や、運用の手間を減らすための改善の計画も含みます。容量・能力管理や情報セキュリティ管理、サービス可用性管理、サービス継続管理で決めた方針を受けて、それを毎日の作業に落とし込むのも、システム運用管理の役目です。
その中で、稼働しているシステムを日々監視し、処理がきちんと進んでいるか、資源が足りているかを監督する活動を運用の管理と呼ぶことがあります。シラバスの用語例にはない語で、システム運用管理のうち毎日の監督の部分を指す呼び方と考えてよいでしょう。
運用に使うものを、組織の目標に合うように用意し、保ち続けるのが運用の資源管理です。シラバスは、対象を大きく二つに分けています。一つは、運用を担う要員と、サーバやストレージなどの機器で、人的資源とハードウェア(要員とハードウェア)とまとめられます。もう一つは、ソフトウェア、データ、ネットワークなど、システムの基盤となるインフラストラクチャの技術的資源です。こむぎ堂なら、夜の処理を見られるのがミナト一人しかいないことも、人的資源の問題として管理の対象になります。
機器について、どこに何が何台あり、どの部品がどれだけ使われているかを把握しておくことをハードウェア資源管理と呼ぶこともあります。奥の小部屋のサーバのディスクがどこまで埋まっているかを知らなければ、増設の時期も決められません。
1台の物理的なサーバの上で、ソフトウェアによって何台ものサーバ(仮想マシン)を動かす仮想化を使うと、機械の台数と動いているサーバの数が一致しなくなります。仮想マシンの作成や削除、資源の割り当て、物理サーバの負荷を監視することを仮想環境の運用管理といいます。1台の物理サーバが止まれば、その上の仮想マシンがまとめて止まるので、どの仮想マシンがどの機械に載っているかを追えるようにしておきます。
基本情報の範囲ここまで
監視する対象が増えると、人の目だけでは追いきれなくなります。サーバの記録や監視の数値をAIで分析し、いつもと違う動きを見つけたり、障害の原因の候補を絞り込んだり、決まった対処を自動で行ったりする取り組みをAIOps(Artificial Intelligence for IT Operations)といいます。夜中に配達表の処理が止まったとき、過去の似た止まり方から「ディスクの空きが原因かもしれない」と候補を挙げてくれるのが、AIOpsの役割です。最後にどう直すかを決めるのは、人の側です。
4-2データと利用者の管理
止まった処理を調べるため、ミナトは予約システムの利用者の一覧を開きました。春に閉店した駅前のカフェのアカウントが、まだ予約できる状態で残っています。去年やめたアルバイトのログインも消えていません。店長は「誰も使っていないなら、害はないんじゃない」と言いますが、ミナトにはそうは思えませんでした。
予約システムの中身は、データと、それを使う人の二つに分けて見られます。データは、毎晩ふえる予約の記録や配達先の住所です。使う人は、カフェの担当者、店長、ミナトです。どちらも放っておくと少しずつ崩れていくので、運用の中で手入れを続けます。
ここから基本情報!データの手入れ
運用中のデータを、どこに、どの世代まで保管するかを決め、中身の食い違いが起きないように保つ仕事をデータ管理といいます。その目的は、記録されたデータが壊れたり失われたりせず、正しいまま残ることで、これをデータ保全と呼びます。バックアップを取るのも、書込みの途中で止まった処理をやり直すのも、データ保全のための手段です。
運用の作業には、外からシステムへデータを取り込み、処理した結果をファイルや帳票として出す仕事も含まれます。このデータの入出力では、取り込むファイルが届いているか、件数が合っているかを確かめてから処理を始めます。カフェからの予約が200件届いているのに、取り込みが180件で終わっていたら、配達表は正しく作れません。
データには、紛失、漏えい、破壊、改ざんといった被害が起こりえます。こうした情報資産に対するリスクを、運用の場面でも見積もっておきます。誰が配達先の一覧を印刷できるのか、写しをどこに置くのかを決めることも、リスクを小さくする運用の一部です。
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閉店したカフェのアカウントは、使われていないぶん、誰かに使われても気づかれにくくなります。人の出入りに合わせて、使える人の一覧を直し続ける必要があります。
ここから基本情報!利用者の手入れ
システムを使う人のアカウントを登録・変更・削除し、それぞれに使ってよい範囲(権限)を設定する運用の仕事を利用者の管理といいます。そのうち、登録や権限の付与・変更・削除を、申請と承認の手順に沿って行い、定期的に見直すことを利用者アクセスの管理と呼びます。カフェの担当者には予約の入力だけ、店長には売上の閲覧まで、と分けておけば、一つのアカウントが悪用されても被害の範囲が限られます。
パスワードについて、短すぎるものや使い回しを認めない規則を決め、初期のパスワードの渡し方や、忘れたときの再発行の手順まで決めておくことを利用者パスワードの管理といいます。定期的な変更を求めるかどうかは考え方が分かれていて、いまは、漏れた疑いがあるときに変えさせる運用も広く使われています。
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その日のうちに、ミナトは閉店したカフェとやめたアルバイトのアカウントを止め、誰がいつ止めたかを記録に残しました。
4-3ジョブの管理とスケジューリング
夜の処理の記録をさかのぼると、止まったのは22時35分でした。予約の集計は22時20分に終わり、データの写しを取る処理も最後まで進んでいます。止まったのは配達表を作る処理だけで、その後に続くはずの印刷は、一度も始まっていませんでした。
こむぎ堂の夜の処理は、四つの仕事がつながってできています。予約を集計し、その結果から配達表を作り、印刷する。集計が終わったら、それとは別にデータの写しも取る。人がその場で一つずつ操作するのではなく、決めた時刻になったら決めた順に自動で流れるように組んであります。このように、データをためておいてまとめて流す処理の一つ一つを、コンピュータへの仕事の単位として扱います。
ここから基本情報!ジョブの順番と時刻を決める
コンピュータに処理を頼むときの一まとまりの単位をジョブといい、ジョブを投入し、決めた順に実行させ、進み具合を追い、終わったことを確かめるまでの仕事をジョブの管理(ジョブ管理)といいます。
どの処理を、いつ、どの周期で動かすかを、あらかじめ決めておくことをスケジュール設計といいます。配達表は毎晩、月末の売上の集計は月に1回、というように、処理ごとに周期と時間帯が違います。そのうえで、複数のジョブの順番と開始の時刻を決め、限られた機械の力をむだなく使えるように並べることをジョブスケジューリングと呼びます。
前後のつながりがあるジョブは、ばらばらに時刻を決めるのではなく、「これが終わったら次」という関係ごと一つのまとまりとして定義します。これをジョブネットワークといいます。あるジョブを始める前に、正常に終わっていなければならないジョブを先行ジョブと呼びます。こむぎ堂では、予約の集計が、配達表の作成と写しの作成の両方の先行ジョブです。
各ジョブの時間は、集計が20分、配達表の作成が30分、印刷が10分、写しの作成が40分です。22時に集計を始めた場合の予定と、実際の夜を並べると、次のようになります。
| ジョブ | 先行ジョブ | 予定 | 止まった夜 |
|---|---|---|---|
| 予約の集計(20分) | なし | 22:00〜22:20 | 22:00〜22:20 正常終了 |
| 配達表の作成(30分) | 予約の集計 | 22:20〜22:50 | 22:20開始、22:35 異常終了 |
| 印刷(10分) | 配達表の作成 | 22:50〜23:00 | 始まらない |
| 写しの作成(40分) | 予約の集計 | 22:20〜23:00 | 22:20〜23:00 正常終了 |
写しの作成が最後まで進んだのは、その先行ジョブが集計だけだからです。印刷が始まらなかったのは、先行ジョブの配達表の作成が正常に終わらなかったからで、これはジョブネットワークが正しく働いた結果です。中身の欠けた配達表を刷ってしまうよりは、刷らずに止まる方が害は小さくて済みます。
止まった原因は、作業用の領域でした。ジョブは処理の途中で、計算の途中結果などを置いておく一時的なファイルや記憶領域を使い、処理が終われば要らなくなります。これをテンポラリワーク(一時作業領域)といいます。こむぎ堂では、終わった後に消すはずの一時ファイルが、ひと月ぶん消されずにたまり、ディスクの空きを使い切っていました。
エラーなどが原因で、処理が予定どおりの手順を経ずに終わってしまうことを異常終了といいます。異常終了したジョブは、原因を取り除いてから、もう一度動かします。これをジョブの復旧と再実行(ジョブリカバリ)といい、原因の調査、対処、やり直し、結果の確認までを含みます。
やり直しそのものは再実行と呼ばれます。ジョブを最初からやり直すことをリラン、途中に設けた区切り(チェックポイント)からやり直すことをリスタートと呼び分けることもあります。どこからやり直すかは、ジョブがどこまでデータを書き換えたかで決まります。途中まで書いた配達表のファイルが残っているなら、それを消してから最初からやり直す方が安全です。
あの朝、ミナトは5時に古い一時ファイルを消し、配達表の作成から再実行しました。集計はすでに正常に終わっているので、やり直す必要はありません。配達表の作成に30分、印刷に10分で、刷り上がりは5時40分です。配達の車が出る6時には間に合います。もし集計からやり直していたら、さらに20分かかり、6時ちょうどになっていました。
基本情報の範囲ここまで
止まった処理だけを直してやり直す。言葉にすると簡単ですが、どの処理がどの処理を待っているのかが分かっていなければ、どこからやり直せばよいのかも決められません。
4-4運用オペレーション
配達表が刷り上がったとき、プリンタの受け皿には前の日の配達表も残っていました。日付を見ずに持って出ていたら、カフェには前の日と同じパンが届いていたはずです。そもそも、再実行の手順はミナトの頭の中にしかありませんでした。ミナトが休みの朝に同じことが起きたら、店長には何もできません。
ここから基本情報!決まった手順で操作する
運用の計画に沿って、実際にシステムを起動・停止し、処理を流し、状態を監視し、関係者に状況を連絡する作業を運用オペレーションといいます。操作は担当者の記憶ではなく、作業指示書に従って行います。
そのもとになるのが、運用の操作の手順や手続きをまとめた業務運用マニュアルです。どのジョブがいつ動くか、異常終了したらどこを見て、何を消し、どこから再実行するか。ミナトの頭の中にあった手順を書き出しておけば、店長でも同じ操作ができます。問い合わせへの答え方をまとめた文書(6節で見る応対マニュアル)とは、対象が違います。
コンピュータの電源を入れたあと、OSを補助記憶装置から主記憶に読み込み、動かせる状態にする起動の処理を初期プログラムロード(IPL:Initial Program Load)といいます。主に大型の汎用コンピュータで使われてきた呼び方で、システムを止めた後に立ち上げ直すときも、決められた手順でIPLを行います。
動いているシステムの状態をその場で監視し、異常があれば停止や再起動などの操作をすることをシステムの監視と操作といいます。あの夜、22時35分の異常終了を誰かが見ていれば、翌朝まで待たずに手を打てていました。
基本情報の範囲ここまで
処理が終わった後に出てくるものにも、管理が要ります。処理の結果として出る帳票やファイルが、正しい内容で、正しい相手に、正しい数だけ渡っているかを確かめることをアウトプットの管理(出力管理)といいます。配達表なら、日付と件数を確かめ、前の日のものは決めた手順で処分します。お客さんの住所が載った紙なので、受け皿に置きっぱなしにしないことも、アウトプットの管理に含まれます。
夜の処理の一つだった写しの作成は、障害でデータが壊れたり消えたりしたときに元に戻せるよう、データやシステムの複製を別の場所に保存しておくバックアップです。同じディスクの中に写しを置いても、そのディスクが壊れれば両方失われます。こむぎ堂では、店の外にあるクラウドの保存場所にも写しを送っています。
バックアップの取り方にはいくつかあり、毎回、対象のデータをすべて写す方式を完全バックアップ(フルバックアップ)といいます。元に戻すときは、最新の完全バックアップを一つ戻せば済むので、手順が簡単です。そのかわり、毎回すべてを写すので時間も保存場所も多く要ります。前回からの変わった分だけを写す差分バックアップや増分バックアップと組み合わせて、時間と戻しやすさのつり合いを取ります。
4-5運用支援ツール
「22時35分に止まったなら、どうしてその時に知らせが来なかったの」。店長の問いに、ミナトは答えられませんでした。止まったことは記録に残るだけで、誰にも通知されない設定になっていたのです。相棒は、監視と原因の調査を人が全部やらなくてもよい方法がある、と返しました。
夜の処理が止まったことに朝まで気づけなかったのは、監視する役がいなかったからです。人が夜通し画面を見ている必要はありません。状態を観測し、異常を知らせ、原因を調べる手がかりを残す仕事の多くは、ソフトウェアに任せられます。
ここから基本情報!監視のツールと診断のツール
運用の仕事を助けるソフトウェアをまとめて運用支援ツールといいます。代表的なのが、状態を監視するツールと、障害の原因を調べるツールです。
CPUの使用率、ディスクの空き、サービスが応答しているか、ジョブが正常に終わったかなどを継続して観測し、決めたしきい値を超えたら知らせるのが監視ツールです。ディスクの空きが1割を切ったら知らせる設定があれば、一時ファイルがたまっていく途中で気づけました。
障害が起きたあと、原因の箇所や状態を調べて突き止めるのに使うのが診断ツールです。そのうち、回線のどこで通信が途切れているか、応答が遅いのはどの区間かなど、ネットワークの状態を調べるものをネットワーク診断ツールと呼びます。こうした検査をソフトウェアが自動で行い、原因の候補を示すことを自動診断といいます。
ジョブの起動、終了の確認、異常時の通知や決まった復旧の操作など、決まりきった運用の作業を手順どおりに自動で行うソフトウェアは自動運用ツールと呼ばれます。こむぎ堂の夜のジョブネットワークを動かしているのも、この種類のソフトウェアです。
プログラムが異常終了した原因を後から調べるには、止まった時点の中身が要ります。その時点の主記憶の内容をまるごとファイルに書き出したものがメモリダンプです。これに対し、プログラムが動いている途中の、あらかじめ決めた時点で、主記憶の一部やレジスタの内容を書き出して残すのがスナップショットダンプです。止まった時点の記録と、途中経過の記録、と分けて覚えます。
基本情報の範囲ここまで
ミナトは、ディスクの空きとジョブの異常終了を、店長とミナトのスマートフォンに知らせる設定を足しました。夜中に知らせが来ても、すぐ起きて直すとは決めていません。朝5時に見れば間に合う、という判断も、知らせがあってはじめてできます。
4-6サービスデスク
配達表が遅れた朝、坂の上のカフェから電話がありました。店長は「今日は少し遅れます」と答えました。同じころ、別のカフェからのメールに、ミナトは「今朝は通常どおりです」と返していました。お昼すぎ、二つのカフェの店主どうしが顔を合わせ、話が食い違っていることに気づきます。
問い合わせが電話なら店長、メールならミナト、と入り口ごとに受ける人が違うと、誰が何を答えたのかを誰も全体として把握できません。利用者からの問い合わせを一か所で受け、記録し、必要なら適切な担当に引き継ぎ、結果まで見届ける窓口をサービスデスクといいます。ヘルプデスクとも呼ばれます。
サービスデスクの役割は、利用者から見た窓口を一つにすることです。この単一の窓口をSPOC(Single Point Of Contact)といいます。利用者は、困ったときにどこへ連絡すればよいかを迷わずに済み、窓口の側は、すべての問い合わせを一つの記録にまとめられます。こむぎ堂なら、電話もメールも同じ受付の記録に書き込み、答えはその記録を見てから返す、と決めることがSPOCの第一歩です。
よく来る質問は、先に答えておけます。利用者から繰り返し寄せられる質問と、その答えをまとめて公開したものがFAQ(Frequently Asked Questions)です。「注文の締め切りは何時か」「配達が遅れるときはどう知らせるか」を予約画面に載せておけば、カフェは電話をかけずに確かめられます。
さらに、FAQや過去の対応の記録をもとに、利用者の質問に文字のやり取りで自動で答えるチャットボットを置く方法もあります。チャットボットによる自動の応答や、問い合わせの内容をAIで分類して担当を振り分けるなど、AIを使って窓口の仕事を効率よくすることをAIの活用といいます。答えられない質問は人の担当に引き継ぐ道を残しておき、AIの答えが正しいかを人が見直す仕組みと組み合わせて使います。
ここから基本情報!窓口の組み立て方
問い合わせを最初に受け、その場で答えられるものは答え、答えられないものを専門の担当へ引き継ぐ段階を一次サポートといいます。こむぎ堂では、受付の担当が一次サポートを受け持ち、予約システムの不具合はミナトへ、配達の段取りは店長へ引き継ぎます。
窓口をどこに置くかにも、いくつかの形があります。利用者のいる拠点の近くにそれぞれ窓口を置く形がローカルサービスデスクで、その土地の事情や言葉に合わせやすい反面、拠点ごとに人と設備が要ります。担当者は自宅や別々の拠点に散らばっていても、通信の仕組みでつなぎ、利用者からは一つの窓口に見えるようにした形をバーチャル・サービスデスク(バーチャルサービスデスク)といいます。店長が店で、ミナトが家で問い合わせを受けても、記録が一つにまとまっていれば、利用者には一つの窓口です。
電話での問い合わせや注文を専門に受ける窓口の組織をコールセンターといいます。コールセンターでは、電話とコンピュータを連携させるCTI(Computer Telephony Integration)がよく使われます。着信した番号からお客さんの情報を探し出して画面に出したり、問い合わせの種類に応じて電話を担当者へ振り分けたりする技術です。
誰が受けても同じ答えを返すには、答え方そのものをそろえる文書が要ります。問い合わせへの対応の手順や答え方をまとめた窓口向けの文書を応対マニュアルといいます。システムの操作手順をまとめた業務運用マニュアルとは、読む人も中身も違います。過去の問い合わせと解決策をためて、窓口の担当者が検索できるようにしたものは知識ベースと呼ばれ、応対マニュアルやFAQを作り直すときの材料にもなります。
窓口の仕事は、顧客の側から見た呼び方で語られることもあります。顧客に満足してもらうために行う問い合わせ対応や支援などの活動全体をカスタマサービス、そのうち、利用者の困りごとや障害の報告を受けて解決を助ける窓口の業務をカスタマサポートと呼ぶことがあります。どちらもシラバスの用語例にはない語で、二つの範囲の区別にも決まった定義はありません。
窓口から利用者へ情報を届ける形も分けて考えられます。利用者が必要なときに、FAQのページなどへ自分で情報を取りに行く形をプル型といい、窓口の側から知らせを送り届ける形はプッシュ型と呼ばれます。利用者から寄せられた問い合わせや要望を受けて、それに応える形で情報を返す形をフィードバック型と呼んで並べる説明もあります。フィードバック型はいまのシラバスの用語例にはなく、定まった定義を一次資料で確かめられなかった語です。
基本情報の範囲ここまで
翌週から、こむぎ堂の問い合わせは、電話もメールも一つの受付の記録に書き込むことになりました。配達表が遅れた朝のような日には、受付の記録の先頭に「今朝の配達は20分遅れ」と書き、誰が答えても同じことを伝えます。
4-7ファシリティマネジメントと建物管理
去年の夏、商店街に雷が落ちた夜、こむぎ堂の通信機器が一台壊れ、翌朝まで予約が受けられませんでした。今年も夕立の季節が近づいています。店が入っている建物の管理会社からは、消防設備の点検の知らせが届いていました。予約システムを守る話が、いつのまにか建物の話になっています。
システムは、建物の中の、電気と空気と回線が来ている場所で動いています。土地、建物、電気や空調の設備といった施設を、事業に合った最適な状態に保ち、費用と使いやすさと安全のつり合いを取りながら改善していく考え方をファシリティマネジメントといいます。機械そのものだけでなく、機械が置かれた部屋の温度、電源、床の強さまでを、計画して管理する対象として見ます。
去年の故障の原因は、雷によって電線や通信線に一瞬だけ流れ込む、とても大きな電圧や電流(サージ)でした。これから機器を守ることをサージ防護といいます。落雷のほか、近くの大きな機械の電源を入れたり切ったりしたときにもサージは起こります。電源のコンセントだけでなく、通信線から入り込むこともあるので、両方の入り口で防ぎます。
ここから基本情報!施設と建物を管理する
ファシリティマネジメントのうち、データセンタや事務所といった施設そのものを管理することを施設管理、その中にある電源や空調、通信などの設備を適切に保つことを設備管理といいます。シラバスは、こうした管理によって、費用を減らし、快適さと安全を確保することを目的に挙げています。
建物そのものを地震や雷、火事、侵入から守る管理が建物管理です。シラバスは、その例として免震装置、サージ防護デバイス、防災防犯設備、安全管理関連知識を挙げています。
建物と地盤の間に、積層ゴムなどの揺れを吸収する仕組みを入れ、地震の揺れを建物に伝わりにくくするのが免震装置です。揺れに耐えるように柱や壁を強くする耐震、揺れを吸収する制振も含めて、地震の被害を減らす設備をまとめて耐震・免震装置と呼ぶこともあります。サーバを載せた棚を床に固定するのも、小さな耐震の対策です。
サージが機器に届く前に、その電圧を逃がして抑える部品や装置をサージ防護デバイス(サージ保護デバイス、SPD:Surge Protective Device)といいます。アレスタとも呼ばれます。雷サージ対応と書かれた電源タップも、その一つです。こむぎ堂では、回線の入り口と、奥の小部屋の電源の両方に付けることにしました。
火事や侵入に備える設備が防災防犯設備です。煙や熱を感じて知らせる火災報知器や消火設備、監視カメラ、部屋の入退室を記録する鍵などが含まれます。機械の部屋では、水をかけると機器が壊れるので、ガスで火を消す消火設備を使う場合もあります。
設備があっても、使い方を知らなければ役に立ちません。避難の経路、消火器の場所と使い方、停電時に誰が何をするかといった、施設の安全を保つために運用の担当者が知っておくべき防災や保安の知識を安全管理関連知識といいます。設備と知識の二つを合わせて防災防犯設備及び安全管理とまとめて呼ぶこともあります。
基本情報の範囲ここまで
建物の管理会社の点検の日、店長は初めて、店の奥の消火器の使い方を説明してもらいました。予約システムの機械の部屋は、パンを焼く窯からいちばん遠い棚にあります。偶然そうなっていたのが、たまたまよい置き場所だった、ということもあります。
4-8電気・空調・通信の設備
8月の午後、奥の小部屋の温度計は34度を指していました。棚の機械は、前から冷たい空気を吸い込み、後ろから暖かい空気を吐き出しています。ところが棚の後ろはすぐ壁で、吐き出した空気が回り込み、また前から吸い込まれていました。同じ日の夕方、雷で店の照明が一瞬消えました。
照明が一瞬消えても、予約システムは止まりませんでした。奥の小部屋のサーバは、電池を内蔵したUPS(無停電電源装置)につないであります。停電や電圧の乱れが起きると、UPSが電池から電気を送り続けるので、機器は瞬間的な停電では止まりません。ただ、電池でもつ時間は数分から数十分ほどで、その間に機器を正しい手順で止めるか、別の電源に切り替えます。
停電が長引いても動かし続けたいときに使うのが、燃料で発電機を回して自前で電気をつくる自家発電設備(自家発電装置)です。発電機は動き出して電気が安定するまでに時間がかかるので、その間をUPSがつなぎます。停電が起きた瞬間はUPSが受け持ち、発電機が回り始めたら発電機に引き継ぐ、という順番です。燃料が何時間分あるかで、動かし続けられる長さが決まります。
ここから基本情報!電気・空気・回線の設備
UPSや自家発電設備のように、施設へ電気を届け、止めないための設備をまとめて電気設備といいます。
機器が出す熱を取り除き、部屋の温度と湿度を決めた範囲に保つ設備が空調設備です。そのうち、冷たい空気をつくって送り出す機械そのものを空調機器と呼びます。機器は熱がこもると誤作動や故障を起こしやすくなり、湿度が低すぎると静電気、高すぎると結露が起きやすくなります。
空調機器の力を上げる前に、空気の通り道を見直します。サーバを並べた棚の吸気側どうしを向かい合わせて冷たい空気を集める通路をコールドアイル、排気側どうしを向かい合わせて暖かい空気を集める通路をホットアイルといいます。二つの通路を交互に並べ、冷たい空気と暖かい空気が混ざらないようにする配置をホットアイル/コールドアイルと呼びます。暖かい空気だけを空調機器へ戻せるので、同じ空調機器でもよく冷えます。
奥の小部屋の失敗は、ホットアイルにあたる棚の後ろが壁でふさがれ、暖かい空気が前に回り込んでいたことでした。棚を壁から離し、吐き出した空気を換気扇で外に出すようにすると、機械が吸い込む空気の温度は下がりました。棚が一つでも、吸う側と吐く側を分ける考え方はそのまま使えます。
建物の中に回線を配る設備を通信設備といいます。通信会社から引き込んだ回線と、建物の中の配線をつなぐ主配線盤をMDF(Main Distribution Frame)といいます。MDFから各階へ配線を分けるために、階ごとに置く中間の配線盤がIDF(Intermediate Distribution Frame)です。こむぎ堂の入る建物では、回線は1階の奥のMDFに入り、2階のIDFを通って各店へ届いています。回線が切れたとき、どこまでが建物の設備で、どこからが店の機器かを知っておけば、連絡する相手を迷いません。
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4-9維持保全と環境側面
奥の小部屋の棚を動かしたとき、床に古いノートパソコンが2台眠っているのが見つかりました。最初に予約システムを試したときに使っていたものです。UPSの前面には、「電池交換の目安」と書いたシールが貼ってあり、その日付はもう過ぎていました。
設備は、置いた日から少しずつ傷んでいきます。施設や設備が求められる働きを保ち続けられるように、点検し、手入れし、壊れる前に部品を取り替え、古くなれば入れ替える活動を維持保全(施設・設備の維持保全)といいます。UPSの電池は消耗品で、交換の目安を過ぎた電池では、停電のときに思っていた時間もたないおそれがあります。
ここから基本情報!点検してから捨てるまで
機器が正しく動いているかを、決めた周期で確かめる作業を点検といいます。UPSの電池の状態、空調機器のフィルタの汚れ、ファンの音、サージ防護デバイスの表示の色を、月に1回見ると決めておけば、壊れる前に気づける機会が増えます。
使い終えた機器を処分することを廃棄といいます。床にあった古いノートパソコンには、試験のときの予約データが残っているかもしれません。データを消去したり記録媒体を物理的に壊したりして、中身が読み出せないことを確かめてから、法令に沿って処分します。
組織の活動、製品またはサービスの要素のうち、環境と相互に作用する、または作用しうるものを環境側面といいます。環境マネジメントシステムの国際規格 ISO 14001(日本ではJIS Q 14001)で使われる語です。機械の部屋で使う電気、空調の熱、捨てる機器はどれも、こむぎ堂の運用の環境側面にあたります。
基本情報の範囲ここまで
環境への配慮は、IT機器にも向けられています。IT機器そのものの消費電力を減らし、環境への負荷を小さくすること(Green of IT)と、ITを使って社会全体の環境への負荷を減らすこと(Green by IT)の二つを合わせてグリーンITといいます。空気の通り道を直して空調の電気を減らしたのは前者、予約システムで配達の道順をまとめて配達の車で回る距離を短くするのは後者です。
9月の初め、厨房の壁の横に、ミナトが書いた運用マニュアルの綴りが下がりました。夜の処理の順番と、止まったときに消すもの、どこから再実行するかが1ページにまとめてあります。問い合わせは電話もメールも同じ受付の記録に入り、カフェの店主たちも、困ったときはまず予約画面のFAQを見るようになりました。奥の小部屋の棚は壁から離れ、温度計は28度で落ち着いています。ある朝、ディスクの空きが減っているという知らせが店長のスマートフォンに届き、店長はマニュアルを見ながら一時ファイルを消しました。「作ったら勝手に動く、わけじゃないけど、動かし方を書いておけば誰でも動かせるんだね」
配達表が出てこなかった朝に足りなかったものは、一つの不具合ではありませんでした。止まったことを知らせる仕組み、どこからやり直すかを書いた手順、一つにまとまった窓口、そして機械が暑さと停電に耐えられる部屋です。システムの運用は、作った人の頭の中から、店の誰もが手に取れる場所へ、仕事を移していくことでもあります。ただ、UPSの新しい電池をいつ買うかは、まだ決まっていません。その費用を、来月の予算のどこから出すかを、店長は考えています。