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  4. 第1章 マルチメディア技術

情報メディア 第1章 テクノロジ系・大分類:技術要素

マルチメディア技術

文字・音・画像・動画をデジタルにして1つにまとめ、小さく圧縮して運ぶ仕組み。

1-1マルチメディアとは

金曜の夕方、こむぎ堂の通販ページに新作の「はちみつバターロール」が載りました。ミナトがスマートフォンで撮った写真と、店長が生地をこねる30秒の動画を、撮ったままの形で上げたのです。ところが翌朝、常連のお客さんから「スマートフォンで開くと、ページが止まったまま動かない」というメッセージが届きます。ミナトが自分の電話で開いてみると、読み込みの輪が十秒以上回り続けました。調べると、写真は1枚で8MB、動画は200MBありました。店長は首をひねります。「写真なんて、どれも同じ大きさじゃないの」。ミナトは相棒に聞きました。「同じパンの写真なのに、どうしてこんなに重いんだろう。軽くしたら、何か失われるのかな」

スマートフォンの画面で通販ページの読み込みの輪が回り続け、店長とアルバイトがそれをのぞき込んでいる
図:写真8MB・動画200MBを載せた商品ページは、スマートフォンでなかなか開かない

相棒は、重さの理由を写真の中身から説明し始めました。コンピュータの中では、文字も音も写真も動画も、最後はすべて0と1の並びです。もともと連続して変化するアナログの情報(音の波や、光の明るさ)を数値に置き換えてデジタルにすれば、文字と同じように保存し、組み合わせ、送れるようになります。文字に加えて音声・静止画・動画などをデジタルにし、コンピュータの上でまとめて扱うことをマルチメディアといいます。

通販ページは、そのマルチメディアの身近な例です。Webサイトで提供される文章・画像・音声・動画などの情報を、まとめてWebコンテンツと呼びます。商品ページには、パンの説明文、写真、動画、それに「ほかのパンも見る」のリンクが並んでいます。文書の中のある箇所から別の文書へ飛べるようにした仕組みをハイパーテキストといい、それを画像・音声・動画にまで広げて、いろいろな種類の情報をリンクで結び付けたものをハイパーメディアと呼びます。

ここから基本情報!素材を組み立てるソフトウェア

リンクを押すと動画が始まり、動画の終わりに「予約する」のボタンが出る。利用者の操作に応じて表示や動きが変わる性質をインタラクティブ性(対話性)と呼び、テレビ放送のように一方向に流れるだけのメディアとの違いになります。

文章・画像・音声・動画などの素材を並べ、どの順に見せるか、どこを押すと何が起きるかを決めて、一つのマルチメディア作品に組み立てる作業をオーサリングといいます。そのためのソフトウェアや開発の環境がオーサリング環境(オーサリングツール)です。プログラムを一から書かなくても、画面の上で素材を配置して作品を作れるようにしたものが多くあります。

基本情報の範囲ここまで

デジタルにした情報は、目的に合った形に変換してから保存したり送ったりします。データを決まった規則に従って別の形式(符号)に変換することをエンコード、エンコードされたデータを元の形式に戻すことをデコードといいます。スマートフォンが撮った動画を小さなファイルに変換するのがエンコードで、お客さんのスマートフォンがそのファイルを読んで画面に映すのがデコードです。

動画を見る方法にも二通りあります。ファイルを全部受け取ってから再生する方法と、受け取りながら順に再生していく方法です。後者をストリーミングといいます。全部が届くのを待たずに見始められるので、動画配信サービスの多くはこの方式です。こむぎ堂の動画はページを開いたとたんに200MBを丸ごと読み込もうとしていたので、再生が始まる前にお客さんの通信が詰まっていました。

ここから基本情報!映像と音声を入れる箱

動画のファイルの中には、映像だけでなく音声や字幕も入っています。種類の違う複数のデータ(ストリーム)を、再生のときに時刻を合わせられるようにして一つのファイルに収める形式をコンテナフォーマット(コンテナ形式)といいます。中に入れる映像をどの方式で圧縮するかと、どの箱に入れるかは別の話です。同じ箱に、違う方式で圧縮した映像を入れることもできます。

基本情報の範囲ここまで

動画ほど重くはなくても、形が崩れては困るものもあります。こむぎ堂の配達区域の地図やアレルギーの一覧表は、どのパソコンやスマートフォンで開いても同じ見た目で読めてほしい資料です。文書のレイアウト・フォント・画像を保ったまま、機種やOSに左右されずに表示できる電子文書の形式がPDF(Portable Document Format)です。

重さの話に戻ると、ミナトのスマートフォンは動画を4Kで撮る設定になっていました。4K/8Kは、フルハイビジョン(横1920×縦1080画素)を大きく超える高精細な映像の区分です。4Kは横がおよそ4000画素(テレビ放送では3840×2160)、8Kはおよそ8000画素(7680×4320)あり、4Kはフルハイビジョンの4倍、8Kは16倍の画素を持ちます。画素が多いほど細かく映りますが、そのぶんデータは重くなります。

デジタルの情報には、劣化せずにいくらでも複製できるという性質もあります。便利な反面、映画や音楽を作った人の権利を守りにくくなります。そこで、デジタルコンテンツの複製や利用を技術的に制限・管理する仕組みが使われます。これをDRM(Digital Rights Management、デジタル著作権管理)といいます。購入した電子書籍がほかの機器では開けない、配信の動画が保存できない、といった制限はDRMによるものです。

DRMの一つに、録画用のDVDやSDカードといった記録媒体のためのCPRM(Content Protection for Recordable Media)があります。デジタル放送の番組を記録媒体に録画するとき、データを暗号化して、決められた範囲を超えて複製できないようにします。

ここから基本情報!家の中で映像を分け合う

店長の家では、居間のレコーダに録った料理番組を、寝室のテレビやパソコンで見ています。家庭内のネットワークにつながったテレビ・レコーダ・パソコンなどの間で、映像や音楽を互いに利用できるようにするための業界の規格がDLNA(Digital Living Network Alliance)です。名前は、この規格を作った業界団体の名前から来ています。

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1-2Webでの発信と利用

写真を待つあいだに、ミナトは商品ページの文章を見直すことにしました。新作が出るたびにページを作り、お知らせを書き、お客さんの問い合わせに返事を書く。この半年、こむぎ堂の発信はすべてミナトの手作業でした。店長がのぞき込んで言います。「同じような形のページを、毎回一から作っているの?」

ブラウザに表示されるWebページの中身は、文章に目印を付けたテキストです。「ここは見出し」「ここは段落」「ここに画像」といった文書の構造や意味を、タグと呼ばれる記号で書き表す言語を、まとめてマークアップ言語と呼びます。Webページを書くHTMLや、データのやり取りに使うXMLがその代表です。

ここから基本情報!XHTMLを機能ごとに分ける

HTMLをXMLの文法に合わせて定義し直したものをXHTMLといいます。そのXHTMLを、表・フォーム・画像といった機能ごとのまとまり(モジュール)に分け、必要なモジュールを組み合わせて言語を作れるようにしたW3Cの仕様がXHTML Modularization(XHTMLのモジュール化)です。携帯電話のような機能の限られた機器向けのXHTML Basicは、この仕組みで必要なモジュールだけを選んで作られました。現在のW3Cは、新しく作るものにはHTMLの最新の仕様に従うよう勧めています。

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店長の問いへの答えは「型を使えばよい」でした。見出しの位置、写真の大きさ、値段の書き方といった書式や配置をあらかじめ決めておき、中身だけを差し替えて使うひな形をテンプレートといいます。新作のたびに入れ替えるのは、パンの名前と写真と説明文だけで済みます。

ここから基本情報!ページを作り、育てる仕組み

テンプレートと中身を分けて管理し、HTMLを書けない人でもブラウザの画面から記事を書いたり写真を差し替えたりできるようにしたシステムをCMS(Content Management System、コンテンツマネジメントシステム)といいます。店長が新作の説明を書き、ミナトが確認して公開する、という分担もCMSならできます。

利用者がブラウザから、簡単な記法でページを書き、互いに書き足したり直したりして共同で作り上げていく仕組みがWiki(ウィキ)です。百科事典のWikipediaがよく知られています。こむぎ堂なら、焼き方の手順やアレルギーの情報を、店の人みんなで少しずつ直していく使い方が考えられます。

作ったページを探してもらう側の仕組みにも、型があります。Webページを人が内容で分類して登録し、利用者がカテゴリをたどって目的のページを探す方式をディレクトリ型(ディレクトリ型検索エンジン)といいます。プログラム(ロボット)がWebを自動で巡回して集め、キーワードで探せるようにするロボット型とは、登録のしかたが違います。いまの検索サービスはロボット型が中心です。

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発信したものは、届かなければ意味がありません。お客さんに毎回こむぎ堂のページを見に来てもらう代わりに、更新があったことを知らせる仕組みがあります。ブログやニュースサイトは、見出しと更新日時の一覧を決まった形式のデータとして配っています。この一覧をフィードと呼び、形式にはRSSと、その後に標準化されたAtomがあります。どちらもXMLで書かれています。複数のサイトのフィードを自動で集め、新しい記事をまとめて一覧にするソフトウェアがRSSリーダです。

ブログどうしをつなぐ仕組みもあります。ある人が自分のブログでこむぎ堂の新作の記事にリンクを張ると、こむぎ堂のブログにその旨が自動で通知され、「この記事を紹介しているページ」として相手の記事へのリンクが表示される。この仕組みをトラックバックといいます。迷惑な宣伝に悪用されることも多く、いまは受け付けないブログも増えました。

いまの口コミの中心は、人と人とのつながりをもとにして情報を発信し、交流するサービス、ソーシャルネットワーク(SNS)です。常連のお客さんがバターロールの写真を投稿すると、その人をフォローしている人たちの画面に流れていきます。店のページに来たことのない人にも届くのが、ほかの発信の方法との違いです。

届いた声には返事をします。受け取ったメールに返信する形で出すメールをリプライメール(返信メール)といいます。返信すると件名の頭に「Re:」が付き、元のメールの文を引用して、どの問いへの答えかが分かるように書くのがふつうです。

ミナトは、いつ何を発信し、どんな問い合わせにどう答えたかを、日付を付けて表にまとめるようにしました。出来事や活動の記録を作り、後から確かめられるように決まりに沿って保存し、管理していくことをレコードキーピングといいます。組織の仕事の記録を、証拠として使える状態で残す取り組みを指すことが多い語です。自分の行動を日々記録して残しておく使い方を、こう呼ぶこともあります。

ところが、すべてのお客さんがこの発信を受け取れるわけではありません。毎朝食パンを買いに来る年配の常連さんは、スマートフォンを持っていません。新作のお知らせがSNSにしか出ないなら、その人には届きません。情報通信技術を使える人と使えない人とのあいだに生まれる、情報を得る機会や暮らし・経済面の格差をディジタルデバイド(デジタルデバイド)といいます。店長は、新作の知らせをレジの横にも紙で貼ることにしました。

1-3音のデジタル化

動画を軽くする前に、ミナトは中身を分けて考えることにしました。動画には、生地を台に打ちつける「パン、パン」という音と、店長の「ここで、ひと休みさせます」という声が入っています。相棒が尋ねます。「まず音だけで、30秒ぶんがどれくらいの量になるか計算してみようか」

音は空気の振動で、マイクはそれを、なめらかに上下する電気の波に変えます。この連続した波をデジタルにする代表的な方法がPCM(Pulse Code Modulation、パルス符号変調)です。PCMは三つの手順で進みます。まず、波の高さを一定の時間おきに測ります(標本化)。次に、測った高さを決まった段階の数値に丸めます(量子化)。最後に、その数値を0と1の並びにします(符号化)。

ここから基本情報!1秒に何回測るか

標本化で1秒あたりに波の高さを測る回数をサンプリング周波数(標本化周波数)といい、単位はHz(ヘルツ)です。回数が多いほど細かな波の形まで写し取れ、高い音まで記録できます。音楽CDのサンプリング周波数は44.1kHz、つまり1秒に44,100回です。量子化で何段階に丸めるかは量子化ビット数で表し、音楽CDは16ビット(65,536段階)です。

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音楽CDと同じ細かさで、こむぎ堂の30秒の音を計算してみます。波の高さを1秒に44,100回測り、1回の値を16ビットで表し、左右2チャンネルぶん記録するとします。

考えるもの式結果
1秒あたりのビット数44,100回 × 16ビット × 2チャンネル1,411,200ビット
1秒あたりのバイト数1,411,200 ÷ 8176,400バイト
30秒ぶん176,400 × 305,292,000バイト(約5.3MB)

音だけで約5.3MBになります。これは、PCMで数値にした値を、手を加えずにそのまま並べた場合の量です。こうした音を保存する代表的なファイル形式がWAV(Waveform Audio File Format)で、Windowsで標準的に使われ、多くの場合は圧縮しないPCMのデータをそのまま入れます。音質は落ちませんが、ファイルは大きくなります。

ここで、人の耳の性質が手がかりになります。人には聞こえにくい高さの音や、大きな音のすぐそばで鳴っている小さな音は、取り除いてもほとんど気づかれません。そうした聞こえにくい部分を削ってデータを小さくする音声の形式がMP3(MPEG-1 Audio Layer-3)です。削った部分は元に戻せませんが、音楽配信や携帯音楽プレーヤで広く使われてきました。

MP3の後を継ぐ方式として、同じくMPEGで標準化されたのがAAC(Advanced Audio Coding)です。同じくらいのデータ量なら、MP3よりよい音質を得やすいとされます。スマートフォンで撮った動画の音声には、AACがよく使われています。

ここまでの形式は、どれも音の波そのものを記録していました。まったく違う考え方をするのがMIDI(Musical Instrument Digital Interface)です。MIDIは電子楽器やコンピュータのあいだで「どの高さの音を、どれだけの強さで、いつからいつまで、どの音色で鳴らすか」という演奏の情報をやり取りする規格で、音の波は含みません。楽譜を送るようなものなので、データはとても小さく済みます。その代わり、実際にどんな音が鳴るかは、受け取った側の楽器や音源によって変わります。

1-4静止画

次は写真です。ミナトが写真を拡大していくと、バターロールのつやのある表面が、やがて色の付いた小さな四角の集まりに見えてきました。ところが、同じページの上にあるこむぎ堂のロゴは、どこまで拡大しても線がなめらかなままです。「同じ画像なのに、拡大したときの崩れ方が違う」

画像をコンピュータで表す方法は、大きく二つあります。一つは、画像を細かい格子に区切り、一つ一つのます目(画素、ピクセル)の色を数値で記録する方法です。このように画素の集まりで表した画像のデータをラスターデータ(ビットマップデータ)、この表し方をラスタグラフィックス、画素の並びとして画像を保存する形式をビットマップ形式(ラスタ形式)と呼びます。写真のように色が細かく変わる画像に向いていますが、拡大すると画素の四角が目立ち、輪郭がギザギザになります。

もう一つは、図形を「この点からこの点まで、この太さの線を引く」「この円を、この色で塗る」のように、点の座標や線・曲線の式で記録する方法です。こうして表したデータをベクターデータといいます。拡大・縮小のたびに式から描き直すので、大きくしても線はなめらかなままです。ロゴや図形、文字には向いていますが、写真のような複雑な色の変化を表すのは苦手です。

パン屋のロゴを拡大した2つの絵。左のラスターデータは画素の四角が見えて輪郭がギザギザ、右のベクターデータは線がなめらかなまま
図:同じロゴを拡大したところ。ラスターデータ(左)は画素が見え、ベクターデータ(右)は線を描き直すのでなめらか

ラスターデータの重さは、画素の数と、1画素の色を何ビットで表すかで決まります。ミナトの写真は横4000×縦3000画素でした。1画素の色を赤・緑・青それぞれ8ビット、合わせて24ビット(3バイト)で表すと、4000×3000×3=36,000,000バイト、圧縮しなければ約36MBになります。スマートフォンが保存したファイルは8MBだったので、この時点ですでに4分の1以下に縮めてあったことになります。

どう縮めるかは、ファイル形式によって違います。代表的な静止画の形式を表にまとめます。

形式圧縮特徴と主な使い道
BMP基本は圧縮しないWindowsで標準的に使われるビットマップの形式。画素の色をそのまま並べるので、ファイルが大きい。
JPEG非可逆(元に戻らない)写真のように色数の多い画像を、細部を少し省いて大きく縮める。圧縮の強さを選べる。透明は扱えない。
JPEG2000非可逆・可逆の両方JPEGの後継として作られた規格。ウェーブレット変換という計算を使い、強く縮めたときの崩れ方がJPEGより目立ちにくい。
GIF可逆(元に戻る)使える色は最大256色。透明な色と、簡単なアニメーションを扱える。色数の少ないイラストやアイコン向き。
PNG可逆フルカラーを扱え、透明の度合いも画素ごとに指定できる。ロゴや画面の写し、文字の入った画像に向く。
TIFF形式の中で選べる画像の大きさや色の情報を「タグ」で記録する。複数の圧縮方式や色の表し方に対応し、印刷・出版で使われる。
EPS—印刷向けのページ記述言語PostScriptで書かれた形式。図形や画像を印刷物の版下に組み込むときに使われてきた。

表の「可逆」と「非可逆」は、縮めたものを元とまったく同じ姿に戻せるかどうかの違いです。仕組みは最後の節で扱います。ここで押さえたいのは、写真にはJPEG、ロゴのように色の境目がはっきりした画像にはPNGが向く理由です。JPEGで細部を省くと、写真ではほとんど気づかれませんが、ロゴのくっきりした輪郭のまわりには、もやもやした乱れが出やすくなります。

ここから基本情報!新しい形式と、写真に付く情報

ミナトの写真を調べると、拡張子は「.jpg」ではなく「.heic」になっているものもありました。HEIF(High Efficiency Image File Format)は、動画の圧縮方式HEVCの技術を使って、JPEGより高い圧縮率で静止画を保存できる形式です。1つのファイルに複数の画像(連写や、明るさを変えて撮った写真など)をまとめて入れることもできます。スマートフォンの中には、撮った写真を標準でHEIFで保存する機種があります。

写真のファイルには、画像そのもののほかに、撮影した日時、カメラの機種、シャッタの速さ、設定によっては撮った場所の緯度・経度まで記録されています。デジタルカメラで撮った画像に、こうした撮影の情報を付けて記録する規格がExif(Exchangeable Image File Format)です。店長の家の台所で撮った試作の写真をそのまま公開すると、家の場所が分かってしまうかもしれません。公開する前に、位置の情報を消しておきます。

基本情報の範囲ここまで

1-5動画

いよいよ200MBの動画です。ミナトは、さっきの写真の計算を動画にも当てはめてみて、手が止まりました。「1枚で36MBの写真が、1秒に何十枚もあるなら、30秒で200MBなんて少なすぎる気がする」。相棒が答えます。「その感覚は正しいよ。もう、ずいぶん縮めてあるんだ」

動画は、少しずつ違う静止画を次々に切り替えて見せることで、動いているように見せています。動画を作る1枚1枚の静止画をフレームと呼び、1秒間に表示するフレームの枚数をフレームレートといいます。単位はfps(frames per second)で、値が大きいほど動きがなめらかに見え、そのぶんデータは増えます。

実際に計算してみます。フルハイビジョン(1920×1080画素)、1画素3バイト、30fpsで、圧縮しないとします。

考えるもの式結果
1フレーム1920 × 1080 × 3バイト6,220,800バイト(約6.2MB)
1秒(30フレーム)6,220,800 × 30186,624,000バイト(約187MB)
30秒186,624,000 × 305,598,720,000バイト(約5.6GB)

フルハイビジョンでさえ、30秒で約5.6GBです。4Kなら画素はその4倍あります。それがスマートフォンでは200MBに収まっていました。動画が大きく縮められる理由は、フレームどうしがよく似ていることにあります。店長がこねている間、背景の壁や作業台は動きません。そこで、前のフレームから変わった部分だけを記録したり、動いた部分は「どちらへどれだけ動いたか」で表したりして、同じ情報を何度も記録しないようにします。

こうした動画・音声の圧縮方式の国際規格を作ってきたのがMPEG(Moving Picture Experts Group)です。MPEGは、規格を作る専門家の組織の名前であると同時に、そこで作られた規格のまとまり(MPEG-1、MPEG-2、MPEG-4など)の呼び名でもあります。MPEG-2はDVDやデジタル放送で使われてきました。

いまのWebの動画でいちばん広く使われている圧縮方式の一つがH.264です。ITU-T(国際電気通信連合の電気通信標準化部門)とISO/IECのMPEGが共同で作った規格で、ITU-Tの側では番号でH.264と呼び、MPEGの側ではMPEG-4 AVC(Advanced Video Coding)と呼びます。名前が二つあっても、中身は同じ一つの規格です。ブルーレイディスクや動画配信で広く使われています。

その後継として、同じく二つの組織が共同で作ったのがH.265で、MPEGの側の名前をHEVC(High Efficiency Video Coding)といいます。同じ画質なら、H.264のおよそ半分のデータ量にすることを目標に作られました。4Kや8Kの放送・配信のように、もともとのデータが大きい映像で使われています。

圧縮した映像と音声は、ファイルにまとめて保存します。そのファイルの形式の代表がMP4です。MPEG-4の規格の一部(MPEG-4 Part 14)として定められ、映像・音声・字幕などを1つのファイルに入れられます。中の映像はH.264やH.265で、音声はAACで圧縮しておくのがよくある組み合わせです。拡張子が同じ「.mp4」でも、中の映像の方式が違うことがあるわけです。

MP4より前から使われてきた形式に、Microsoft社が開発したAVI(Audio Video Interleave)があります。名前のとおり、映像(Video)と音声(Audio)のデータを交互に(Interleave)並べて1つのファイルに収める形式で、Windowsで広く使われてきました。

ここから基本情報!Apple社の動画の形式

Apple社のパソコンやスマートフォンで書き出した動画には、拡張子が「.mov」のものがあります。これは、Apple社が開発した、動画や音声などのマルチメディアを扱う技術と、そのファイル形式であるQuickTimeの形式です。映像・音声・字幕などを1つのファイルに収める点はMP4と同じで、MP4の形式はQuickTimeの形式をもとに作られました。

基本情報の範囲ここまで

1-6圧縮と伸長

写真も動画も、縮めればよいことは分かりました。店長が心配そうに言います。「でも、縮めたら画質が落ちるんでしょう。注文書のデータまで縮めて、数字が変わったら困るよ」。ミナトは、注文の一覧と、写真と、ロゴを並べて考えます。縮めても困らないものと、困るものがありそうです。

データを、意味を保ったまま小さな形に変えることを圧縮といい、圧縮したデータを使える形に戻すことを伸長(解凍、展開ともいいます)といいます。圧縮の目的は二つあります。限られた保存場所に多くのデータを収めること、そしてネットワークで送るデータを減らして通信の負担を軽くすることです。こむぎ堂の悩みは、後者でした。

どれだけ小さくなったかは圧縮率で表します。圧縮率は、圧縮後のデータ量を圧縮前のデータ量で割った値です。36MBの写真を9MBにしたなら、9÷36=0.25で、圧縮率は25%です。この定義では、値が小さいほどよく縮んだことになります(「何%減らしたか」で言う場合もあるので、問題文の定義を確かめます)。

店長の心配に答えるのが、圧縮の二つの型です。圧縮したデータを伸長すると、元のデータとまったく同じに戻る方式を可逆圧縮といいます。注文の一覧や、プログラム、文書のように、1ビットでも変わっては困るデータにはこちらを使います。これに対して、人が気づきにくい細部を省いたり近い値で置き換えたりして、元には完全には戻らない代わりに大きく縮める方式を非可逆圧縮といいます。写真のJPEG、音のMP3やAAC、動画のH.264やH.265は非可逆圧縮です。

左に、白白白白黒黒と並んだます目を白4黒2に置き換える図。右に、写真の細部を間引いて小さくし、元に戻しても少しぼやける図
図:可逆圧縮(左、ランレングス法)は元にぴったり戻り、非可逆圧縮(右)は細部を省いて大きく縮める

可逆圧縮の代表的なやり方を二つ、こむぎ堂のデータで試してみます。一つめは、同じ値が続く部分を「値と、続く回数」の組に置き換えるランレングス法です。ロゴを白と黒の画素で表したとき、ある1行が「白白白白白白白白白白白白黒黒黒黒黒白白白」の20画素だったとします。これは「白12・黒5・白3」の3組で表せます。伸長するときは、組のとおりに並べ直せば元の20画素がそのまま戻ります。同じ色が長く続く画像ほどよく縮み、写真のように隣どうしの色が少しずつ違う画像ではほとんど縮みません。

二つめは、よく出てくる値に短い符号を、まれな値に長い符号を割り当てるハフマン法です。ある朝の予約10件が、食パン5件、クロワッサン3件、メロンパン2件だったとします。

パン件数同じ長さの符号ハフマン法の符号
食パン500(2ビット)0(1ビット)
クロワッサン301(2ビット)10(2ビット)
メロンパン210(2ビット)11(2ビット)
合計のビット数1010件 × 2 = 20ビット5×1 + 3×2 + 2×2 = 15ビット

20ビットが15ビットになり、圧縮率は15÷20=75%です。符号の長さがばらばらでも読み違えないのは、どの符号も、ほかの符号の頭の部分になっていないからです。「0」で始まれば食パン、「1」で始まれば次の1ビットを見て決まります。「01011」は、0(食パン)、10(クロワッサン)、11(メロンパン)と、一通りにしか区切れません。

日ごろ目にする可逆圧縮の形式には、ZIPがあります。複数のファイルを1つにまとめ、可逆圧縮して保存・配布できる形式で、メールに資料をまとめて添付するときなどに使われます。日本では、ZIPが広まる前に、LHAという圧縮ソフトウェアのLZHという形式がよく使われていました。どちらも可逆なので、伸長すれば元のファイルがそのまま戻ります。

圧縮の工夫は、Webより古い通信の機器にもあります。こむぎ堂が製粉所への発注に使うファクシミリは、紙を白と黒の点の並びとして送ります。1行ずつ、白と黒がいくつ続くかを、よく出てくる長さほど短い符号で送るのが基本の方式(MH)です。ランレングス法とハフマン法を組み合わせた考え方です。

ここから基本情報!ファクシミリの符号化の改良

MHを広げ、すぐ上の行との違いを使って符号化する方式をMR(Modified READ)といいます。文書では上下の行がよく似ているので、違いだけを送れば短く済みます。MRをさらに改良し、2次元の符号化を最後まで続けることで、より高い圧縮率を得られるようにした方式がMMR(Modified Modified READ)です。MHとMRはITU-Tの勧告T.4で、MMRは勧告T.6で定められています。圧縮率は、MH、MR、MMRの順に高くなります。

基本情報の範囲ここまで

日曜の夜、ミナトは書き出し直したファイルを通販ページに上げました。写真は横1200画素に小さくしてJPEGに、ロゴはPNGに、動画はフルハイビジョンに落としてH.264で書き出したMP4にしました。月曜の朝、常連のお客さんと同じ機種のスマートフォンで開くと、ページは2秒ほどで表示されました。店長は、前の写真と新しい写真を並べて、しばらく見比べています。「見た目は、ほとんど変わらないのにね」

店長の言うとおり、見た目はほとんど変わっていません。変わったのは、目では気づきにくい部分です。写真はJPEGの非可逆圧縮で細部を少し省き、動画は前のフレームとの違いを使って同じ壁や作業台を何度も記録しないようにしました。一方、ロゴはPNGで可逆に縮めたので、くっきりした輪郭は1画素も崩れていません。重さの正体は画素とフレームの数で、それをどこまで省いてよいかを決めるのは、データの使い道でした。

ただ、ミナトにはまだ気になることがあります。新しい写真を見ながら、店長がつぶやいたのです。「このあいだチラシに刷った写真は、いちごの赤がもっと暗かった気がする。同じ写真なのに、画面と紙では色が違うのかな」

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(49語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(62語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。