5-1標準化の意義
水曜の午後、駅前のスーパーの担当者が、こむぎ堂の食パンを手にレジ台の前に立っていました。来月から地元のパン屋の棚を作るので、こむぎ堂のパンも並べたいという話です。条件は二つありました。袋に、スーパーのレジで読めるバーコードを付けること。納品の段ボールにも、物流用のバーコードを印刷すること。担当者が帰ったあと、店長は見本の袋を裏返して首をかしげます。「うちのレジとスーパーのレジは、作った会社が違うよね。それでも同じバーコードが読めるのは、どうしてなんだろう」。ミナトは相棒に打ち込みました。「バーコードの形って、誰が決めてるの?」
相棒の返事は、問いを裏返すものでした。「決めた人を探す前に、決まっていなかったら何が困るかを考えてみよう」。レジを作る会社がそれぞれ別のバーコードを使っていたら、こむぎ堂は売り先のスーパーごとに違う袋を刷ることになります。スマートフォンの充電の差し込み口が会社ごとに違えば、充電器を借りることもできません。無線LANの電波の使い方がそろっていなければ、店のパソコンはスーパーの機器とつながりません。
形や大きさ、通信のやり方、データの表し方などを、関係する人たちのあいだで一つに決めておくことを標準化といい、決めたものを標準や規格と呼びます。そろっていれば、違う会社の製品どうしを組み合わせて使えます(互換性)。買う側は製品を選べるようになり、作る側も同じ部品を大量に作れるので費用が下がります。バーコードもその一つで、レジの会社が違っても読めるのは、線の太さや並べ方、数字の割り当て方が標準として決まっているからです。
では、その決まりは誰が、どうやって決めるのでしょうか。道は大きく三つあります。
一つめは、国や国際的な公的機関が、決められた手続きを経て定める道です。原案を作り、関係する人たちが審議し、意見を募ってから正式な規格にします。こうして公的な標準化機関が定めた標準をデジュレスタンダード(デジュール標準)といいます。国際規格のISOや、日本の国家規格のJISがその例です。手間と時間はかかりますが、決め方が公開されていて、誰でも同じ規格を参照できます。
二つめは、決める手続きを経ないまま、市場で多く使われた結果として事実上の標準になる道です。これをデファクトスタンダード(デファクト標準)といいます。パソコンのキーボードの文字の並び(QWERTY配列)は、どこかの機関が決めたから広まったのではなく、使う人が増えて、ほかの並びが選ばれにくくなった結果です。文書の形式のPDFのように、一つの会社の形式として広まり、あとから国際規格になったものもあります。
三つめは、その技術に関心を持つ複数の企業や団体が集まって組織(フォーラムやコンソーシアム)を作り、そこで合意して決める道です。こうした標準をフォーラム標準といいます。公的機関の手続きを待つより速く決められ、一社だけで決めるより多くの会社に受け入れられやすいのが特徴です。
フォーラム標準の代表が、Webの技術を標準化しているW3C(World Wide Web Consortium)です。Webページを書くためのHTMLや、見た目を指定するCSSの仕様を、ブラウザを作る会社や研究機関などが参加して決めています。W3Cが出す仕様は「勧告」と呼ばれ、国の法律のような強制力はありませんが、主なブラウザが従っているので、こむぎ堂の通販のページはどのブラウザでもほぼ同じように表示されます。
5-2JISと日本の標準化団体
その晩、ミナトは店の中で「JIS」の文字を探してみました。予約票を刷るコピー用紙の包みには「A4」、レシピを書き写すノートには「B5」。紙の大きさの呼び方からして、日本の規格で決まっているものでした。店長が笑います。「毎日さわっているのに、決めた人のことなんて考えたこともなかったよ」
日本の国家規格がJIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格)です。産業標準化法という法律にもとづいて国が定めるので、デジュレスタンダードにあたります。この法律は2019年7月の改正で工業標準化法から名前が変わり、規格の名前も日本工業規格から日本産業規格になりました。同じ改正で、標準化の対象も、ものの形や性能だけでなく、データやサービスにまで広がりました。
JISには「JIS X 0208」のように、部門を表すアルファベット1文字と番号が付きます。一度決めたら終わりではなく、制定や改正から5年以内に見直し、そのままでよいか、直すか、やめるかを決めます。技術が変われば規格も古くなるからです。
ここから基本情報!JISを決める組織と部門
JISは、原案を作る人と、それを審議する人と、制定する人が分かれています。審議を受け持つのがJISC(Japanese Industrial Standards Committee:日本産業標準調査会)で、経済産業省に置かれた審議会です。原案作成委員会がまとめたJISの原案をJISCが審議し、それを受けて主務大臣(その規格の分野を受け持つ大臣)が制定します。JISCは、国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)に、日本を代表して加わる唯一の会員でもあります。
JSA(Japanese Standards Association:日本規格協会)は、JISの原案づくりや、JISの規格票(規格の本文を収めた冊子や電子版)の発行、規格の普及を担う一般財団法人です。2019年に、国から「認定産業標準作成機関」の第1号に認定されました。この機関が作ったJISの案は、JISCの審議を経ずに主務大臣が制定・改正できるので、規格を早く世に出せます。
部門の記号のうち、この単元でよく出会うのは二つです。JIS X部門は情報処理の部門で、漢字の文字コードを定めた規格や、Webのアクセシビリティを定めた JIS X 8341-3 などが入っています。JIS Q部門は管理システムの部門で、品質の JIS Q 9001 や情報セキュリティの JIS Q 27001 のように、組織の管理の仕組み(マネジメントシステム)の規格が集まっています。JIS Q の規格の多くは、対応するISOの規格があり、それを日本語にして作られています。
日本の規格はJISだけではありません。業界団体や学会が、自分たちの分野の細かな決まりを規格として作ることもあります。JEC規格は、一般社団法人電気学会の電気規格調査会が作る規格で、遮断器や送電用の鉄塔など、電気機械器具や材料を対象にしています。JECは Japanese Electrotechnical Committee の略です。
JEITA(電子情報技術産業協会)は、電子機器や情報技術の会社が集まる業界団体で、2000年に日本電子機械工業会(EIAJ)と日本電子工業振興協会(JEIDA)が統合してできました。デジタルカメラの写真に撮影日時などを書き込む形式(Exif)は、前身のJEIDAが定め、いまはJEITAがカメラ映像機器工業会(CIPA)と共同で改訂しています。業界団体が作った規格も、身近なところで使われているのです。JEC規格とJEITAは、シラバスの用語例には名前が出ていない語です。
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こむぎ堂のコピー用紙のA4も、ノートのB5も、こうした仕組みで決まった規格に従って切りそろえられています。どの文房具屋で買っても同じ大きさの紙が手に入り、店のプリンタにそのまま入るのは、そのためです。
5-3国際標準化団体
翌週、ミナトはスーパーの売り場で、店員が棚の値札を読んでいる小さな無線のスキャナを見せてもらいました。裏のラベルには、見慣れない英字と数字が並んでいます。「IEEE 802.11」「ISO/IEC」。JISは日本の規格でした。けれど、このスキャナは海外の工場で作られています。国をまたいで同じ規格が通じるのは、誰が決めているからなのでしょうか。
国をまたぐ標準を決めるのが、国際的な標準化団体です。中心にいるのがISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)で、各国の代表的な標準化機関が1国につき一つずつ会員として加わっています。日本からは、JISの審議を受け持つ国の審議会が加わっています。ISOは、電気・電子の技術を除くほぼすべての産業分野で国際規格を作ります。ネジの寸法から、品質や環境の管理の仕組みまでが対象です。
電気・電子の技術を受け持つのがIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)です。ISOとIECは、電気・電子の分野はIEC、それ以外はISO、と受け持ちを分けています。情報技術はどちらにもまたがるので、両者が共同の委員会で規格を作ることが多く、そうした規格の番号は「ISO/IEC」で始まり、両方の名前が付きます。スキャナのラベルの「ISO/IEC」は、この共同の規格を指しています。
ラベルのもう一つの「IEEE 802.11」は、無線LANの規格の番号です。これを決めたIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers:電気電子学会)は、アメリカに本部を置く、電気・電子・情報の技術者の学会です。国の代表が集まる機関ではなく、技術者の集まりですが、有線LANのイーサネット(IEEE 802.3)や無線LAN(IEEE 802.11)のように、世界中の機器が従う規格をいくつも作っています。
ここから基本情報!国際規格と、分野ごとの標準化団体
ISOが制定した世界共通の規格をIS(International Standards:国際規格)といいます。規格の番号の前に付く「ISO」は、この国際規格であることを示しています。各国は、ISを自国の言葉に直して国の規格にすることが多く、日本ではそれがJISになります。ISO 9001 と JIS Q 9001 のように番号がそろっているのは、そのためです。
通信の分野では、ITU(International Telecommunication Union:国際電気通信連合)が標準化を受け持っています。ITUは国際連合の専門機関で、電話や通信網の技術の標準化のほか、電波の周波数を国のあいだでどう分けて使うかの調整もしています。ITUの中で電気通信の標準化を受け持つ部門(ITU-T)が出す規格は「勧告」と呼ばれます。
インターネットで使う技術は、IETF(Internet Engineering Task Force:インターネット技術タスクフォース)が標準化しています。TCP/IPやHTTP、メールの送受信の手順などの仕様は、RFC(Request for Comments)という番号付きの文書として公開されています。IETFには会員の資格がなく、関心のある技術者なら誰でも議論に加われるのが特徴です。
国の標準化機関の例として、アメリカのANSI(American National Standards Institute:米国規格協会)があります。ANSIは民間の非営利団体で、自分で規格の中身を書くよりも、規格を作る団体(IEEEなど)の手続きを認め、その手続きを経た規格を米国の国家規格として承認する役割を担っています。ISOには米国の代表として加わっています。英数字の文字コードであるASCIIも、もとは米国の国家規格として決まったものです。
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スキャナの裏の英字は、どれも「どこの国の工場で作っても、どこの店で使っても、同じように動く」ための約束でした。パンの袋のバーコードも、同じように国をまたいで決められた約束の上に載っています。
5-4開発とマネジメントの規格
スーパーから、取引を始める前の質問票が届きました。「品質の管理、環境への配慮、お客様の情報の管理について、取り組みを書いてください。ISO 9001 や ISO 14001 などの認証をお持ちなら、その番号も」。店長は質問票を二度読み返しました。「国際規格って、ネジや電池の話だと思ってたよ。パン屋の仕事のやり方にまで規格があるの?」
規格が決めるのは、ものの形だけではありません。組織が目標を決め、計画を立てて実行し、結果を点検して改善する。この仕事の回し方そのものを決めた規格を、マネジメントシステム規格と呼びます。質問票に書かれていた二つは、その代表です。
品質については、ISO 9000(品質マネジメントシステム)の規格群があります。お客さんが求める品質の製品やサービスを、いつも同じように届けるための仕事の仕組みを定めたもので、認証の審査に使う要求事項は ISO 9001 にまとめられています。
環境については、ISO14000(ISO 14000)の規格群があります。事業がまわりの環境に与える負荷(ごみ、電気やガスの使用量、排水など)を把握し、減らしていく仕組みを定めたもので、中心になるのが要求事項を定めた ISO 14001 です。こむぎ堂なら、売れ残ったパンの量や、オーブンの電気の使い方が対象になります。
ここから基本情報!環境の規格のJIS版
ISO 14001 を日本語にしてJISにしたものがJIS Q 14001(環境マネジメントシステム―要求事項及び利用の手引)です。管理システムの部門なので記号はQで、番号はISOの規格とそろえてあります。内容は ISO 14001 と同じなので、日本の組織は日本語で書かれたこの規格を読んで、環境の管理の仕組みを整えられます。
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質問票の三つめの「お客様の情報の管理」に対応するのが、ISO/IEC27000(ISO/IEC 27000)の規格群です。組織が持つ情報資産を、機密性・完全性・可用性の三つの面から守るための管理の仕組み(情報セキュリティマネジメントシステム、ISMS)を定めています。認証の審査に使う要求事項は ISO/IEC 27001 にあり、日本では JIS Q 27001 として同じ内容がJISになっています。
ここから基本情報!製品のセキュリティを評価する規格
ISMSが組織の管理の仕組みを見るのに対して、製品そのものを見る規格もあります。ISO/IEC 15408は、ソフトウェアや機器などのIT製品について、セキュリティの機能が正しく作られ、確実に働くかを評価するための国際規格で、コモンクライテリア(Common Criteria、CC)とも呼ばれます。日本ではJIS X 5070としてJISになり、この規格にもとづいて第三者の評価機関が製品を評価し、その結果を情報処理推進機構(IPA)が認証する制度があります。おもに政府が製品を調達するときに使われています。
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ここまでの規格には、「〜すること」と書かれた要求事項があり、それを満たしているかを第三者が審査して認証できます。ところが、規格の中には要求事項を持たず、取り組み方の手引きを示すだけのものもあります。必ず守ることが求められる標準と、参考にするガイドラインとしての標準がある、ということです。
ISO26000(ISO 26000)は、組織の社会的責任についての手引きです。人権、労働の慣行、環境、公正な取引、消費者の課題、地域社会への参画などについて、組織がどう取り組めばよいかを示しています。企業だけでなく、あらゆる組織を対象にしており、認証のための規格ではありません。日本では JIS Z 26000 としてJISになっています。
ISO30414(ISO 30414)は、人的資本、つまり働く人の数や構成、採用や離職、育成にかけた費用などの情報を、組織の内と外に報告するための規格です。シラバスでは「内部及び外部人的資本報告の指針」と書かれています。2025年に改訂された版では、報告する指標が「必ず報告するもの」と「推奨するもの」に分けられました。
JIS Q 31000は、リスクマネジメントの原則と進め方の指針を示したJISで、国際規格の ISO 31000 に対応しています。火事や停電、原料の値上がり、情報の漏えいといった種類の違うリスクを、同じ手順で見つけ、大きさを評価し、対応を決めるための共通の枠組みです。これも認証のための規格ではなく、指針です。
JIS Q 38500は、ITガバナンスの原則を定めたJISで、国際規格の ISO/IEC 38500 に対応しています。ITをどう使うかを現場任せにせず、経営陣が責任を持って方向を決め、使われ方を見届けるための原則です。2026年2月に、ISO/IEC 38500 の新しい版に合わせて改正されました。
| 規格 | 対象 | 性格 |
|---|---|---|
| ISO 9000 | 品質マネジメントシステム | 要求事項(ISO 9001)で認証できる |
| ISO 14000 | 環境マネジメントシステム | 要求事項(ISO 14001)で認証できる |
| ISO/IEC 27000 | 情報セキュリティマネジメントシステム | 要求事項(ISO/IEC 27001)で認証できる |
| ISO 26000 | 組織の社会的責任 | 手引き。認証のためではない |
| ISO 30414 | 人的資本の報告 | 報告の指標を示す |
| JIS Q 31000 | リスクマネジメント | 指針。認証のためではない |
| JIS Q 38500 | ITガバナンス | 経営陣のための原則 |
ここから基本情報!開発と取引の作業をそろえる規格
システムを作る仕事にも、作業の区切り方と呼び方をそろえる規格があります。こむぎ堂が通販サイトの改修を業者に頼むとき、店長の言う「設計」と業者の言う「設計」が別の作業を指していたら、見積もりも約束もかみ合いません。
JIS X 0170(システムライフサイクルプロセス)は、システムを企画し、要件を決め、作り、運用し、保守し、最後に廃棄するまでの全体を、いくつものプロセス(作業のまとまり)に分けて定めたJISです。国際規格の ISO/IEC/IEEE 15288 に対応していて、2025年8月の改正で ISO/IEC/IEEE 15288:2023 に合わせた版になりました。ソフトウェアに絞って同じように作業を定めたのがJIS X 0160(ソフトウェアライフサイクルプロセス)で、ISO/IEC/IEEE 12207 に対応しています。
これらの規格をもとに、日本でシステムを発注する側と受注する側が同じ言葉で話せるよう、作業の範囲と用語をまとめた枠組みが共通フレーム(SLCP-JCF)です。情報処理推進機構(IPA)が発行しています。契約のときに「どの作業を、誰が受け持つか」を共通フレームの言葉で書けば、言った・言わないの食い違いを減らせます。
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店長は質問票に、認証は持っていないこと、そのかわりに売れ残りの量を毎日記録していること、会員の名簿を見られる人を二人に絞っていることを書きました。規格の名前を知ったことで、何を書けば相手に伝わるのかが分かったのです。
5-5ソフトウェアとデータの標準
スーパーの発注システムに、こむぎ堂の商品の一覧を登録することになりました。ミナトは商品名と値段を表計算ソフトでまとめ、CSVの形式で書き出して送ります。翌朝、担当者から画面の写真が届きました。「食パン」のはずの欄に、「鬟溘ヱ繝ウ」という読めない文字が並んでいます。
担当者の説明によると、スーパーの発注システムは一社で作ったものではなく、レジの会社、物流の会社、本部の会計の仕組みなど、何社ものプログラムを組み合わせて動いています。それでもデータが通じるのは、プログラムどうしのつなぎ方と、データの表し方の両方に標準があるからです。こむぎ堂が送ったCSVは、そのうちの「データの表し方」でつまずいていました。
ここから基本情報!プログラムどうしをつなぐ標準
違う会社が作ったプログラムどうしを組み合わせるための標準を作っている団体に、OMG(Object Management Group)があります。1989年に複数の企業が集まって作った非営利のコンソーシアムで、設計図の書き方を統一したUMLや、業務の流れを図にするBPMNなどの仕様を定めています。企業が集まって決めるので、OMGの仕様はフォーラム標準の例でもあります。
OMGが定めた仕様の一つがCORBA(Common Object Request Broker Architecture)です。違うプログラム言語で書かれ、違うコンピュータで動くオブジェクトどうしが、ネットワークを通して互いの処理を呼び出せるようにするための仕組みを定めています。
EJB(Enterprise JavaBeans)は、Javaで企業向けのサーバ側の業務処理(注文を受ける、在庫を引き当てる、など)を部品(コンポーネント)として作るための仕様です。コンポーネントを決まった形で作っておけば、取引の管理や同時アクセスの制御といった共通の仕組みはサーバ側のソフトウェアに任せられます。Javaの企業向けの仕様群(Java EE)はのちにEclipse Foundationに移されてJakarta EEと名前を変え、EJBも Jakarta Enterprise Beans と呼ばれるようになりました。
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コンピュータは文字をそのまま覚えられないので、一つ一つの文字に番号を割り当て、その番号を2進数で記録します。どの文字にどの番号を割り当てるかを決めた対応表が文字コードです。英数字だけを7ビットで表すASCIIのほか、日本語の文字を含む表がいくつもあります。
読めない文字の正体は、ここにありました。ミナトのパソコンは「食パン」をある文字コードの番号の並びとして書き出し、スーパーのシステムはその並びを別の文字コードの表で読んだのです。番号の並びは同じでも、引く表が違えば違う文字が出てきます。これが文字化けです。担当者に確かめると、スーパーのシステムは決まった一つの文字コードで読む作りでした。ミナトがその文字コードを指定して書き出し直すと、画面にも「食パン」と表示されました。データを渡すときは、中身と一緒に「どの文字コードで書いたか」もそろえておく必要があります。
ここから基本情報!日本語を表す文字コード
日本語の文字コードとしては、JISで定めた漢字の集合と、その符号化の方法を使うJISコードが古くから使われてきました。同じ文字の集合を別の方法で表すシフトJISやEUC-JPもあり、パソコンやOSによって使い分けられてきたことが、文字化けの起こりやすさにつながっていました。
そこで、世界中の文字を一つの表にまとめて、言語が違っても同じ表で扱えるようにしたのがUnicodeです。Unicodeの番号をバイトの並びとして記録する方式にはいくつかあり、Webでは英数字を1バイト、日本語の多くの文字を3バイトで表すUTF-8が広く使われています。ミナトのパソコンが書き出したのはUTF-8で、スーパーのシステムはそれをシフトJISの表で読んでいました。「鬟溘ヱ繝ウ」は、UTF-8の「食パン」のバイトの並びをシフトJISとして読んだときに出る文字です。
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文字の次は、商品そのものを見分ける番号です。スーパーのレジは、袋のバーコード(太さの違う線の並びで数字を表した記号)を読み取り、その数字で商品を引き当てます。日本の商品に付けるのがJANコード(Japanese Article Number)で、国際的にはGTIN-13やEANコードと呼ばれる番号と同じ体系です。標準は13桁、小さな商品向けに8桁の短縮版もあります。
13桁の内訳は、事業者を表す番号、その事業者の中で商品を表す番号、最後の1桁のチェックデジットです。事業者の番号は、日本では一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)が「45」か「49」で始まる番号として貸し出しています。こむぎ堂も番号を借りて、食パンやバゲットに一つずつ番号を割り当てることになります。
最後のチェックデジットは、読み間違いに気づくための1桁で、残りの12桁から計算で決まります。架空の番号 452468013579 で計算してみます。左から数えて偶数番目の桁を3倍し、奇数番目の桁はそのまま足します。
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 偶数番目の桁の和 | 5 + 4 + 8 + 1 + 5 + 9 | 32 |
| それを3倍する | 32 × 3 | 96 |
| 奇数番目の桁の和 | 4 + 2 + 6 + 0 + 3 + 7 | 22 |
| 合計 | 96 + 22 | 118 |
| チェックデジット | 合計の一の位が8なので、10 − 8 | 2 |
こうして、袋に刷る番号は 4524680135792 の13桁になります。チェックデジットまで含めて同じ重みで足すと、合計は 118 + 2 = 120 で、ちょうど10の倍数です。レジは読み取るたびにこの計算をし、10の倍数にならなければ読み間違いとして受け付けません。たとえば3桁めの「2」を「7」と読み違えると、合計は5増えて125になり、間違いに気づけます。
袋の裏には、もう一つ四角い模様を刷ることにしました。店の通販のページに飛ぶQRコード(Quick Response)です。バーコードが横一方向にしか情報を持たないのに対して、QRコードは縦と横の2方向に情報を持つ二次元コードなので、数字だけでなく、URLや日本語の文字まで多くの情報を入れられます。デンソーウェーブが1994年に発表し、1999年にJIS、2000年にISOの規格になりました。
ここから基本情報!段ボールと本に付く番号
スーパーのもう一つの条件だった段ボールのバーコードがITFコード(Interleaved Two of Five)です。食パンが12袋入った箱のように、商品をまとめた集合包装に付け、物流センターで箱ごと仕分けるのに使います。表す番号は14桁の集合包装用商品コード(GTIN-14)で、先頭の1桁(インジケータ)で入り数の違う箱を区別し、続けて中の商品のJANコードからチェックデジットを除いた12桁を並べ、最後に新しいチェックデジットを付けます。段ボールの粗い面にも刷れるよう、線が太く、まわりを枠で囲んで印刷するのが一般的です。
本にはISBNコード(International Standard Book Number:国際標準図書番号)が付いています。出版される本を世界で一つに見分けるための番号で、日本では2007年から13桁になりました。先頭の「978」(のちに「979」も使われるようになりました)は本であることを表し、続く「4」は日本の出版物を表す番号です。こむぎ堂がいつかレシピ本を出すなら、この番号を受けることになります。
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5-6国際認証と適合性評価
袋の印刷を頼む会社を探していると、ある印刷会社のパンフレットに「ISO 9001 認証取得」という文字と、小さなマークが載っていました。店長はパンフレットを指でたたきます。「うちだって『品質には気をつけてます』って書けるよ。自分で書くのと、何が違うんだろう」
違いは、誰が確かめたかにあります。「規格を守っています」と自分で言うだけなら、本当に守っているかを相手は確かめられません。利害のない第三者が、規格の要求事項に照らして審査し、満たしていると認めた証拠があれば、初めて会う取引先でも信用しやすくなります。印刷会社のパンフレットの「認証取得」は、外部の審査を受けて合格した、という意味です。
ここから基本情報!規格に合っているかを確かめる仕組み
製品やサービス、仕事の仕組み、人の資格などが、規格や基準の要求事項を満たしているかを確かめる活動を、まとめて適合性評価といいます。中身は、実際に測って調べる試験や検査、審査して証明書を出す認証などです。こうした適合性評価の業務を行う機関をまとめて適合性評価機関と呼びます。
適合性評価機関には、受け持つ仕事によっていくつかの種類があります。製品などを規格の決めた方法で実際に試験し、結果を出すのが試験機関(試験所)です。袋に刷ったバーコードの線の太さやにじみを測り、規格の基準どおりに読めるかを調べる、といった仕事がこれにあたります。
製品やマネジメントシステムが規格の要求事項を満たしているかを審査し、満たしていれば証明書を出すのが認証機関です。印刷会社の「ISO 9001 認証取得」は、認証機関の審査員が会社の仕事の仕組みを審査し、ISO 9001 の要求事項を満たしていると認めた、という意味です。
では、その認証機関や試験機関の判断が信用できることは、誰が保証するのでしょうか。試験機関や認証機関が、公平に、正しい力量で仕事をできるかを審査し、お墨付きを与えるのが認定機関です。日本では、公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)や、製品評価技術基盤機構の認定センター(IAJapan)が認定機関にあたります。「認証」は組織や製品に対して、「認定」は認証機関や試験機関に対して行うものです。適合性評価の用語を定めた国際規格(ISO/IEC 17000)では、認定機関を適合性評価機関に含めず、別のものとして扱っています。
この仕組みを国の外まで広げたものが国際認証です。ISOなどの国際規格にもとづいて第三者が適合を認め、その結果が国をまたいで通用するようにした枠組みを指します。各国の認定機関は、国際的な相互承認の取り決め(認証の分野では国際認定フォーラムのIAF、試験の分野では国際試験所認定協力機構のILAC)に加わり、互いの認定を同等と認め合っています。そのため、日本の認定機関に認められた認証機関が出したISO 9001の証明書は、海外の取引先にも同じ重みで受け取ってもらえます。
基本情報の範囲ここまで
翌月の月曜の朝、こむぎ堂の食パンがスーパーの棚に並びました。袋の裏には、借りた番号から作った13桁のJANコードと、通販のページへ飛ぶQRコード。納品の段ボールには、太い線の物流用のバーコード。ミナトがレジの横で見ていると、最初のお客さんの食パンがスキャナにかざされ、「ピッ」と音が鳴りました。店長が小さく息をつきます。「うちのパンが、知らない会社のレジで読まれたんだね」
店長が最初に抱いた「どうして違う会社のレジで読めるのか」という疑問の答えは、レジの中ではなく、レジの外で決められた約束にありました。バーコードの線の形は国際規格で、番号の割り当ては国際的な団体の仕組みで決まっています。レジの会社も、袋を刷る印刷会社も、スーパーも、その同じ決まりを見ていました。誰か一人が強制したのではなく、関係する人たちが同じ規格を選んだから、こむぎ堂の小さな袋が初めての店の棚に並んだのです。
帰り道、ミナトはふと思いつきました。三日月形のパンには、まだ番号を割り当てていません。新しい番号を借りるべきか、それとも食パンと同じ事業者の番号の中で、次の番号を使えばよいのか。相棒に聞く前に、もう一度、GS1 Japanの手引きを開いてみることにしました。