5-1売上と利益
株式会社になって初めての決算の月、事務机の上に税理士から封筒が届きました。中身は、貸借対照表と損益計算書の下書きです。店長はそれを通帳の残高と見比べて、首をかしげます。「売上は去年より2割も増えたのに、口座のお金は200万円減っている。どこかで計算を間違えていないかな」。机の端には、古いオーブンの買い替えの見積もり(300万円)と、パンを1個20円値上げする案を書いたメモも置いてありました。ミナトは下書きをのぞき込みましたが、並んでいる言葉の半分も読めません。相棒に打ち込みます。「決算書って、どこから読めばいいの」
相棒の返事は、決算書ではなく、1か月のパンの数から始まりました。「まず、ひと月にいくら売れて、いくらかかって、いくら残るかを、パンの数で考えてみよう」。こむぎ堂のパンは平均すると1個250円で、ひと月に10,000個売れています。売上は250万円です。
売上から、売るためにかかったお金を引いた残りが利益です。かかったお金は、会計では費用と呼びます。費用のうち、売った商品を作ったり仕入れたりするのにかかった分を原価といいます。パン屋なら、小麦粉・バター・砂糖などの材料代が原価の中心です。
ここから基本情報!売上より広い「収益」
会社に入ってくる価値は、パンの売上だけではありません。預金の利息や、使わなくなった機械を売って得た利益も入ってきます。こうしたものをすべて合わせて収益と呼びます。売上高は収益の中心ですが、収益の一部です。会計の正確な言い方では「利益=収益-費用」になります。
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費用は、売れる数によって増え方が違います。店の家賃、正社員の給料、オーブンなどの設備の費用は、パンが1個も売れない月でも同じだけかかります。売上や生産量にかかわらず一定額かかる費用を固定費といいます。これに対して、材料代や包装の袋代は、パンを多く作って売るほど増えます。売上や生産量に比例して増える費用を変動費といいます。
こむぎ堂の数字を当てはめてみます。パン1個あたりの材料などの変動費は100円で、固定費はひと月に120万円です。売上に占める変動費の割合を変動費率といい、100円÷250円=0.4(40%)になります。一定期間に実際に売れた数を販売量といい、ここではひと月10,000個です。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上高 | 250円 × 10,000個 | 250 |
| 変動費 | 250万円 × 0.4 | 100 |
| 固定費 | (売れた数に関係なく) | 120 |
| 利益 | 250 - 100 - 120 | 30 |
では、何個売れれば赤字にならないのでしょうか。パンが1個売れるたびに、250円から変動費100円を引いた150円が残り、その分が固定費の支払いに充てられます。売上の60%(1-変動費率)が固定費の支払いに回る、と言い換えられます。固定費120万円をちょうどまかなえる売上高は、120万円÷(1-0.4)=200万円です。
このように、売上高と総費用(固定費+変動費)がちょうど等しく、利益も損失も出ない点を損益分岐点といい、そのときの売上高を損益分岐点売上高と呼びます。式にすると「損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)」です。こむぎ堂では200万円、個数にすると200万円÷250円=8,000個になります。8,000個を超えた分から、ようやく利益が出ます。
実際の売上が損益分岐点からどれだけ離れているかは、損益分岐点売上高を実際の売上高で割った損益分岐点比率で表します。こむぎ堂は200万円÷250万円=80%です。この比率が低いほど、売上が落ちても赤字になりにくい、余裕のある店だといえます。80%なら、売上が2割減るまでは赤字になりません。
机の上の値上げの案も、同じ式で確かめられます。1個270円にすると変動費率は100÷270で約0.37になり、損益分岐点売上高は約191万円に下がります。ただし、値上げで販売量が減れば、利益は思ったほど増えません。仮に9,000個に減っても利益は33万円で今より多い、と計算はできます。それでも店長は「常連さんが離れるかもしれない数字は、表には出てこないからね」と、すぐには決めませんでした。
ここから基本情報!売れたはずの分
土曜の昼前、クロワッサンが売り切れて、ミナトは30人ほどのお客さんに頭を下げました。もし在庫があれば、1個あたり150円(売値から変動費を引いた分)、合わせて4,500円ほどが利益として残ったはずです。このように、品切れや判断の誤りのせいで、得られたはずなのに得られなかった利益を機会損失といいます。帳簿には一円も書かれない損失なので、意識して数えないと見えません。作りすぎて売れ残る損と、作らなさすぎて売り逃す損は、いつも裏表になっています。
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5-2原価の中身
税理士の下書きには「製造原価」「販売費及び一般管理費」という見慣れない欄がありました。店長は「パン1個の原価って、材料代のことじゃないの」と言います。ミナトが相棒に聞くと、こう返ってきました。「パンを焼いている人の時給は、どこに入ると思う?」
パン1個にかかったお金は、材料代だけではありません。生地をこね、成形し、焼く人の人件費も、オーブンを動かす電気代も、パンを作るためにかかっています。製品を作るためにかかった費用は製造原価と呼ばれ、材料費・労務費・経費の三つに分けられます。そのうち、製造に携わる人の賃金や手当など、人にかかる費用が労務費です。
作業の一部を外の業者に頼むこともあります。こむぎ堂では、クリスマスのシュトーレンを入れる木箱に、店の名前の焼き印を押す作業を近所の工房に頼んでいます。こうした加工を外部に任せて払う代金を外注加工費といい、製造原価の中では経費に分類されます。
費用には、どの製品のためにかかったかをはっきり分けられるものと、分けられないものがあります。クロワッサンに使ったバターは、クロワッサンの費用として直接数えられます。これを直接費といいます。一方、厨房の家賃やオーブンの電気代は、食パンにもクロワッサンにも共通してかかっていて、どのパンにいくら使ったかを直接は数えられません。こうした費用を間接費といい、焼いた数や作業時間などの基準で各製品に割り振ります。
パンは作っただけでは売れません。売るための費用と、店全体を管理するための費用もかかります。チラシやSNSの広告など、商品を知ってもらうための広告宣伝費は、売るための費用(販売費)の代表です。経理や事務の費用は、会社全体を回すための費用(一般管理費)です。二つを合わせて「販売費及び一般管理費」と呼びます。
製造原価に販売費及び一般管理費を足したものが総原価です。パン1個の値段を決めるときに、材料代だけを見て「原価は100円だから250円なら十分」と考えると、人件費や広告の費用が抜け落ちます。値段が総原価を下回れば、売れるほど損をします。
5-3仕訳から決算まで
決算書の数字は、どこから来たのか。ミナトが税理士に聞くと、1年分の帳簿の写しが送られてきました。最初のページには、4月1日の日付で「仕入 30,000/現金 30,000」と書いてあります。製粉所から小麦粉を買った日の記録でした。
会社の帳簿は、一つの取引を二つの面から記録します。小麦粉を3万円で買ったという取引は、「小麦粉(仕入)が3万円分増えた」と「現金が3万円減った」の二つの出来事が同時に起きたものです。この二つを、帳簿の左と右に分けて書きます。この書き方を複式簿記といい、取引を左右に分けて記録することを仕訳といいます。
帳簿の左側を借方、右側を貸方と呼びます。資産が増えたことや費用が出たことは借方に、資産が減ったこと、負債や純資産が増えたこと、収益(売上など)が生じたことは貸方に書きます。小麦粉の例では、借方に「仕入 30,000」、貸方に「現金 30,000」です。どの取引でも、借方の合計と貸方の合計は必ず等しくなります。
ここから基本情報!証拠から帳簿へ
仕訳を書くには、取引があった証拠が要ります。小麦粉が届いたとき、こむぎ堂は品物と数を確かめてから、製粉所の配達の人に受領書を渡します。受領書は、注文した側が納品物を確かめて受け取ったことを示す書類です。納品書・請求書・領収書と同じく、取引の事実を後から確かめる証拠になります。
証拠をもとにした仕訳は、まず仕訳帳に日付の順に書きます。仕訳帳は取引の記録の出発点です。次に、仕訳帳の一行一行を「現金」「仕入」「売上」などの勘定科目ごとに書き写し(転記し)、科目ごとの増減と残高が分かる帳簿にまとめます。これが総勘定元帳です。「いま現金はいくらあるか」は、総勘定元帳の現金の欄を見れば分かります。
転記を間違えていないかは、総勘定元帳の全科目の合計や残高を一つの表に集めて確かめます。この表が試算表です。すべての取引で借方と貸方が等しいので、正しく転記できていれば、試算表の借方の合計と貸方の合計も一致します。一致しなければ、どこかで写し間違いがあります。
決算では、試算表の数字に、期末にしか分からない調整(後の節で見る、設備の費用を年ごとに割り振る処理や、残った在庫の金額の確定など)を加えます。試算表から決算の調整を経て、損益計算書と貸借対照表の数字ができあがるまでを一枚の表にまとめたものが精算表です。
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帳簿は毎日つけますが、会社の成績は区切りを付けないと測れません。そこで、1年などの会計期間を決め、その期間の売上と費用、期末の時点の財産と借金を計算して確定させます。この手続きを決算といいます。税理士から届いた下書きは、こむぎ堂の最初の決算の結果でした。
ここから基本情報!上場企業の決算の速報
株式を証券取引所に上場している会社は、決算の内容をすぐに投資家へ知らせる必要があります。そこで、取引所の規則に沿って、決算がまとまった時点で売上や利益の要点を先に発表します。この速報の資料を決算短信といいます。こむぎ堂は上場していないので、決算短信を出す必要はありません。
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5-4財務会計と管理会計
ミナトは、5-1で計算した損益分岐点を決算書の下書きの中に探しました。どこにもありません。「損益分岐点って、決算書には書かないの?」と聞くと、相棒は「その数字は、だれに見せるためのものだと思う?」と問い返しました。
会計には、見せる相手の違う二つの種類があります。一つは、株主や銀行、取引先、税務署など、会社の外の人に向けて、決められたルールで会社の成績と財産を報告する会計です。これを財務会計といいます。決算書は財務会計の成果物で、会社法などの法律に従って作ります。外の人が会社どうしを比べられるように、書き方がそろえてあります。
もう一つは、経営者が次の手を決めるために、会社の中で使う会計です。これを管理会計といいます。損益分岐点の計算、商品ごとの利益の比較、来月の予算づくりは、どれも管理会計の仕事です。法律で決められた形はなく、判断に役立つなら、パンの種類ごとでも曜日ごとでも好きな切り口で数字を作れます。損益分岐点が決算書に無いのはこのためです。
ここから基本情報!財務会計のルール
財務会計の「決められたルール」にあたるのが会計基準です。どの取引をいつ、いくらで記録し、決算書にどう載せるかを定めています。日本の会社がふつう使う日本の基準のほか、アメリカの基準や、国際的な基準があります。
国際的な基準の代表がIFRS(International Financial Reporting Standards、国際財務報告基準)で、国際会計基準審議会(IASB)が定めています。多くの国が採用していて、日本でも一定の条件を満たす会社は、連結の決算書をIFRSで作ることが認められています。海外の投資家にとって、国が違う会社の決算書を同じ物差しで比べられる利点があります。
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会社が大きくなると、子会社を持つことがあります。こむぎ堂でも、駅前のカフェを別の会社として始める話が出ています。親会社と子会社は法律上は別の会社ですが、実際には一体となって動きます。そこで、親会社と子会社をまとめて一つの集団とみなして決算をすることを連結会計といいます。グループ全体の売上と利益を示す損益計算書が連結損益計算書です。親会社が子会社に売った分は、グループの外には何も売れていないので、連結では取り除きます。
ここから基本情報!買収と関連会社
ほかの会社を買うとき、その会社の純資産(資産から借金を引いた額。買うときに時価で見直します)より高い値段を払うことがあります。人気の店名、常連のお客さん、腕のいい職人のように、帳簿には載っていないけれど利益を生む力にお金を払うからです。買った値段と、時価で見直した純資産との差額をのれんといい、形のない資産として計上します。日本の基準では20年以内の期間で少しずつ費用にしていきますが、IFRSでは毎年の費用にはせず、価値が下がっていないかを毎年確かめ、下がっていればその分をまとめて減らします。
子会社ほど強く支配していなくても、議決権の20%以上を持つなどして経営に大きな影響を与えられる会社を、関連会社といいます。関連会社の数字は連結決算に一行ずつ足し込まず、相手の会社の純資産や利益のうち、自分の持ち分にあたる額だけを投資の額に反映させます。この方法を持分法といいます。
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5-5貸借対照表
下書きの1枚目は、左右に分かれた表でした。左には「現金及び預金」「売掛金」「機械装置」、右には「買掛金」「長期借入金」「資本金」。店長は右側を指でたどって言います。「借金と、出資してもらったお金が、同じ側に並んでいるのはなぜだろう」
会社の成績や財産の状態を、決められた形で外に示す書類をまとめて財務諸表といいます。代表は、ある時点の財産の状態を示す貸借対照表、一定期間の成績を示す損益計算書、一定期間のお金の出入りを示すキャッシュフロー計算書の三つです。店長が手にした1枚目は、このうちの貸借対照表(バランスシート、B/S)でした。決算日という一時点で、会社が何を持ち、それをどうやって手に入れたかを示します。
左側には、会社が持っている財産を並べます。現金、お客さんからまだ受け取っていない代金、オーブン、店の設備などで、将来の売上やお金を生むもとになるものを資産といいます。右側には、その資産を手に入れるためのお金をどこから集めたかを並べます。銀行から借りたお金のように、いずれ返さなければならないものを負債といいます。資産から負債を引いた残り、つまり返す必要のない、会社自身のものを純資産といいます。出資者から集めたお金と、これまでに稼いで会社にためた利益がここに入ります。
店長の疑問の答えは、右側の意味にあります。右側は「お金の出どころ」で、借りたお金も出資してもらったお金も出どころの一つです。左右の合計は必ず一致し、「資産=負債+純資産」の関係がいつも成り立ちます。バランスシートという名前は、この左右のつり合いから来ています。
資産と負債は、1年という期間を境に二つずつに分けます。現金や預金、売掛金、小麦粉などの在庫のように、1年以内に現金になったり使われたりする資産が流動資産です。オーブンや店の設備のように、1年を超えて長く使う資産が固定資産です。固定資産の中には、オーブンや建物のように形のある有形資産と、予約システムのソフトウェアや商標権のように形のない無形資産があります。
こむぎ堂は、古い生地のミキサーを近くのカフェに売り、代金60万円を2年後にまとめて受け取る約束をしました。受け取るのが決算日から1年より先になる代金は、すぐにはお金にならないので、長期債権として固定資産の側に入ります。同じ「まだもらっていない代金」でも、来月入金される通販の代金(売掛金)は流動資産です。
もう一つ、左側の下の方に「創立費」という小さな項目があります。会社を作るときに払った登記などの費用です。すでに払い終えたお金ですが、その効果は会社が続く何年にもわたるので、数年に分けて費用にすることが認められています。このように、支出は済んだが効果が将来に及ぶため、資産として繰り延べておく項目を繰延資産といいます。創立費や開業費が代表です。
負債も同じ物差しで分けます。製粉所への未払いの代金(買掛金)や、1年以内に返す借入金のように、決算日の翌日から1年以内に支払いの期限が来る負債が流動負債です。オーブンを買うときに銀行から借りた、返済が何年も続く長期借入金のように、期限が1年より先の負債が固定負債です。
| 資産(左) | 金額 | 負債・純資産(右) | 金額 |
|---|---|---|---|
| 流動資産(現金及び預金160、売掛金140、棚卸資産100) | 400 | 流動負債(買掛金80、短期借入金60、未払法人税等60) | 200 |
| 固定資産(有形1,400、無形120、長期債権60) | 1,580 | 固定負債(長期借入金) | 600 |
| 繰延資産(創立費) | 20 | 純資産(資本金960、利益剰余金240) | 1,200 |
| 資産の合計 | 2,000 | 負債・純資産の合計 | 2,000 |
左右の合計は、どちらも2,000万円で一致しています。右側を見ると、2,000万円の資産のうち800万円を借りたお金で、1,200万円を出資と稼いだ利益でまかなっていることが分かります。
ここから基本情報!純資産の中身
純資産のうち、株主が出したお金と、そこから稼いでためた利益の部分を株主資本といいます。資本金、資本剰余金、利益剰余金などからなります。こむぎ堂なら、出資者からの960万円(資本金)と、1年目に稼いだ240万円(利益剰余金)です。
株主資本などの純資産が、期首から期末までに何の理由でいくら動いたかを示す財務諸表が株主資本等変動計算書です。利益が出て増えた、株主に配当して減った、新しく出資を受けて増えた、といった動きを項目ごとに並べます。貸借対照表は期末の残高しか示さないので、その間の動きをこの表で補います。
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5-6損益計算書
2枚目は、上から下へ長く続く表でした。いちばん上に売上高3,000万円、いちばん下に240万円。そのあいだに「利益」と付く行が四つも並んでいます。店長は「結局、どれがうちのもうけなの」とため息をつきました。
1年などの会計期間に、どれだけ売り上げ、どれだけ費用がかかり、どれだけもうかったかを示す財務諸表が損益計算書(P/L)です。貸借対照表が決算日の「写真」なら、損益計算書は1年間の「記録映像」にあたります。売上高から始めて、性質の違う費用を順に引いていき、段階ごとに利益を示します。利益の行が四つあるのは、どの段階の費用まで引いたかが違うからです。
最初の段階では、売上高から、売れたパンの材料などの原価(売上原価)を引きます。残りが売上総利益で、粗利益(あらりえき、粗利)とも呼びます。こむぎ堂は3,000万円-1,200万円=1,800万円です。商品そのものがどれだけもうけを生んでいるかを示します。
次に、売上総利益から、人件費・家賃・広告宣伝費などの販売費及び一般管理費を引きます。残りが営業利益で、本業のパン屋の商売でどれだけもうけたかを示します。こむぎ堂は1,800万円-1,440万円=360万円です。
ここから基本情報!販管費
販売費及び一般管理費は、長いので販管費と略して呼ばれます。販売員の給料や広告宣伝費のように売るためにかかる販売費と、経理や総務など会社全体の管理にかかる一般管理費を合わせたものです。材料のように売上原価に入る費用とは区別します。
基本情報の範囲ここまで
会社には、パンの商売とは別のお金の出入りもあります。預金の利息のように、本業以外から生まれる収益を営業外収益、本業以外でかかる費用を営業外費用といいます。営業外費用の代表が、銀行からの借入金に払う支払利息です。お金を借りるのは本業ではなく資金を集める活動なので、支払利息は営業利益を出す前の費用には入りません。
営業利益に営業外収益を足し、営業外費用を引いたものが経常利益です。借金の利息まで含めて、会社がふだんの活動を続けたときに毎年どれだけもうかるかを示します。こむぎ堂は、受取利息2万円、支払利息12万円で、360万円+2万円-12万円=350万円です。
ここから基本情報!本業の外の損益
営業外収益と営業外費用をまとめて営業外損益と呼びます。受取利息や受取配当金、支払利息のように、主に資金の運用や調達から生まれ、毎期くり返し出てくる損益です。経常利益は「営業利益+営業外損益」と言い換えられます。
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毎年は起きない、その年だけの出来事による損益もあります。土地や機械を帳簿の金額より高く売れたときのもうけのように、臨時に生じた利益を特別利益といいます。逆に、台風で店が壊れたときの損害のように、臨時に生じた損失を特別損失といいます。これらを経常利益とは分けて示すことで、読み手は「来年もくり返すもうけ」と「今年だけの出来事」を見分けられます。
ここから基本情報!臨時の損益
特別利益と特別損失をまとめて特別損益と呼びます。こむぎ堂の損益計算書には、特別損失が10万円ありました。カフェに売った古いミキサーは、帳簿の上ではまだ70万円の価値が残っていましたが、売った値段は60万円でした。固定資産を帳簿の金額より安く売ったときに出る、この差額の損を固定資産売却損といい、特別損失に入れます。
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経常利益に特別利益を足し、特別損失を引くと、税金を引く前の利益(税引前当期純利益)が出ます。ここから、会社の所得にかかる税金を引きます。法人の所得(もうけ)にかかる国の税金が法人税で、損益計算書では住民税や事業税と合わせて「法人税、住民税及び事業税」の行に載ります。すべての費用と税金を引いて最後に残るのが当期純利益で、その期の最終的なもうけです。
| 行 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 売上高 | 3,000 | |
| 売上総利益 | 3,000 - 売上原価1,200 | 1,800 |
| 営業利益 | 1,800 - 販売費及び一般管理費1,440 | 360 |
| 経常利益 | 360 + 受取利息2 - 支払利息12 | 350 |
| 税引前当期純利益 | 350 - 特別損失10 | 340 |
| 当期純利益 | 340 - 法人税、住民税及び事業税100 | 240 |
店長の「どれがうちのもうけなのか」には、どれも、と答えるしかありません。パン屋の腕前を見るなら営業利益、借金の重さまで含めた実力なら経常利益、株主に残った分なら当期純利益です。そして当期純利益240万円は、貸借対照表の純資産の利益剰余金240万円と同じ数字です。1年の成績が、期末の財産の増加として貸借対照表につながっています。
損益計算書にはもう一つ、店長がいつも気にしている税金が関わります。パンを買ったお客さんが払う代金には、消費税が含まれています。消費税は、商品やサービスの消費に広くかかる税で、払うのは消費者、国に納めるのは店という間接税です。税率は標準が10%、飲食料品(酒類と外食を除く)などは軽減税率の8%です。持ち帰りのパンは8%、店のイートインで食べるパンは外食にあたるので10%になります。
店は、お客さんから預かった消費税から、仕入れのときに払った消費税を差し引いて納めます。差し引くこと(仕入税額控除)には条件があり、2023年10月1日からは適格請求書等保存方式(インボイス制度)が始まりました。仕入れ先から、税率ごとの消費税額や登録番号(Tで始まる番号)を書いた適格請求書(インボイス)を受け取って保存しておかないと、原則として差し引けません。インボイスを出せるのは、税務署に登録した課税事業者だけです。製粉所から届く請求書の右上にも、Tで始まる番号が印刷されています。
5-7収益性の指標
税理士は下書きに、隣町のパン屋の決算書の数字も、参考として添えてくれていました。その店の営業利益は600万円で、こむぎ堂の360万円より多くあります。「やっぱりあっちの方が上手なんだね」と言う店長に、ミナトは「売上が違うなら、そのまま比べられないよ」と返しました。
大きさの違う会社を比べるには、金額をそのまま並べず、割り算で「割合」にします。財務諸表の数字から計算して、会社の状態を評価するための比率を財務指標といいます。財務指標は、何を見るかによって、もうける力、借金に耐える力、資産をうまく使う力、伸びる力などに分かれます。
このうち、売上や使ったお金に対してどれだけ利益を上げているか、というもうける力を収益性といいます。収益性を見るいちばん簡単な方法は、利益を売上高で割ることです。この比率を売上高利益率といい、分子にどの段階の利益を使うかで名前が変わります。
売上総利益を売上高で割ったものが売上総利益率(粗利率)です。こむぎ堂は1,800万円÷3,000万円=60%で、パンそのものが売値の6割の粗利益を生んでいます。営業利益を売上高で割ったものが売上高営業利益率で、こむぎ堂は360万円÷3,000万円=12%です。隣町の店は売上が7,500万円なので、600万円÷7,500万円=8%です。金額では負けていても、本業の売上1円あたりのもうけは、こむぎ堂の方が大きいことになります。
ここから基本情報!資産と自己資本で見るもうけ
売上高利益率のように、会社の利益を上げる力を測る財務指標をまとめて収益性指標と呼びます。売上に対する割合のほかに、「どれだけの元手で、どれだけもうけたか」を見る指標が二つあります。
一つは、利益を総資産で割ったROA(Return On Assets、総資産利益率)です。会社が持つすべての資産を、どれだけ効率よく利益に変えたかを示します。こむぎ堂は当期純利益240万円÷総資産2,000万円=12%です。分子には当期純利益のほか、経常利益などを使うこともあります。
もう一つは、当期純利益を自己資本(株主が出したお金とためた利益)で割ったROE(Return On Equity、自己資本利益率)です。株主から預かったお金が、1年でどれだけの利益を生んだかを示すので、出資者がいちばん気にする数字です。こむぎ堂は240万円÷1,200万円=20%です。借金を増やして自己資本を小さくすると、同じ利益でもROEは高く見えるので、ROAや後の節の安全性と合わせて読みます。
基本情報の範囲ここまで
決算書の外で、ある投資がどれだけ元をとれるかを見るときにも、同じ割り算を使います。投資した額に対して、その投資から得た利益がどれだけかを示す比率が投資利益率(ROI:Return On Investment)です。300万円の新しいオーブンで電気代が下がり、焼ける数も増えて、設備の費用を差し引いても年に30万円利益が増えるなら、ROIは30万円÷300万円=10%です。
利益が出ていても、元手を出した人が期待する見返りに届かなければ、会社は価値を増やしたとはいえません。そこで、税引後の営業利益から、使った資本にかかるコスト(借入金の利息や、株主が期待する見返り)を差し引いて、本当に増えた価値を測る指標がEVA(Economic Value Added、経済的付加価値)です。仮にこむぎ堂の税引後の営業利益を250万円、使っている資本を1,800万円、資本のコストを年5%とすると、250万円-1,800万円×0.05=160万円がEVAです。プラスなら、資本のコストを上回る価値を生んでいます。
もうける力とは別に、会社がどれだけ伸びているかを見る指標もあります。今期の売上高が前期からどれだけ増えたかを前期の売上高で割った売上高増加率は、成長性を示します。こむぎ堂は前期2,500万円、今期3,000万円なので、(3,000-2,500)÷2,500=20%です。冒頭で店長が言った「2割増えた」は、この数字でした。
5-8安全性と効率性の指標
銀行の担当者から電話がありました。「オーブンの融資のご相談の前に、流動比率を教えてください」。店長は受話器を手で押さえ、小声でミナトに聞きます。「流動比率って、何のこと?」
もうかっていても、払うべきお金を期日に払えなければ、会社は立ち行かなくなります。借金を返し、支払いを続けられるかという財務の安定度を安全性といいます。銀行がお金を貸す前にまず確かめるのは、この安全性です。
短い期間の支払い能力は、1年以内に現金になる資産と、1年以内に払う負債を比べて測ります。流動資産を流動負債で割った比率が流動比率です。こむぎ堂は400万円÷200万円×100=200%で、1年以内に払う額の2倍の手元資金があることになります。一般に、高いほど安全とされます。
ただ、流動資産には小麦粉などの在庫も入っています。在庫は売れるまでお金になりません。そこで、流動資産から在庫などを除き、現金・預金や売掛金のようにすぐお金になる資産(当座資産)だけで流動負債を割った比率が当座比率です。こむぎ堂は(160万円+140万円)÷200万円×100=150%です。流動比率より厳しめに支払い能力を見る指標です。
ここから基本情報!借金への頼り方
流動比率や当座比率のように、会社が負債を返せるか、財務が安定しているかを測る指標をまとめて安全性指標と呼びます。長い目で見た安定度を示す代表が、自己資本(純資産)を総資産(総資本)で割った自己資本比率です。資産のうち、返さなくてよいお金でまかなっている割合を示し、高いほど借金に頼っていないことになります。こむぎ堂は1,200万円÷2,000万円×100=60%です。
基本情報の範囲ここまで
持っている資産やお金を、どれだけ無駄なく売上につなげているかを効率性といいます。効率性は「売上高÷何か」で測り、結果を「回」で表します。1年のあいだに、その何かが売上として何回転したか、という意味です。
売上高を総資本で割った比率を総資本回転率といいます。貸借対照表の左右の合計は等しいので、売上高を総資産で割った総資産回転率と同じ値になり、二つは同じ指標の別名として扱われます。こむぎ堂は3,000万円÷2,000万円=1.5回です。売上高を自己資本で割った自己資本回転率は、3,000万円÷1,200万円=2.5回です。
| 指標 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 流動比率 | 流動資産400 ÷ 流動負債200 × 100 | 200% |
| 当座比率 | 当座資産300 ÷ 流動負債200 × 100 | 150% |
| 総資本回転率 | 売上高3,000 ÷ 総資本2,000 | 1.5回 |
| 自己資本回転率 | 売上高3,000 ÷ 自己資本1,200 | 2.5回 |
| 在庫回転率 | 売上原価1,200 ÷ 平均在庫80 | 15回 |
パン屋にとって特に大事なのが在庫です。小麦粉やバターを買いすぎて倉庫に寝かせると、お金が在庫の形で止まってしまいます。売上原価(または売上高)を平均の在庫の金額で割った比率を在庫回転率といいます。こむぎ堂の在庫は期首60万円、期末100万円で、平均80万円です。売上原価1,200万円÷80万円=15回で、1年に在庫が15回入れ替わった計算です。
同じことを日数で表すと、在庫が仕入れてから使い切られるまでに平均何日かかるかが分かります。これを在庫回転期間といい、365日÷15回=約24日です。回転率が高いほど、回転期間が短いほど、在庫が滞らずに動いています。ただ、短くしすぎると、5-1で見た売り切れ(売り逃し)が増えます。
ここから基本情報!投資の採算を計算する
オーブンを買い替えるべきかは、決算書の指標だけでは決まりません。投資にかかるお金と、その投資から得られる効果を比べて、やるかやらないか、どの案がよいかを決める計算を経済性計算といいます。投資した額を何年で取り戻せるかを見る回収期間法や、将来のお金を今の価値に直して比べる正味現在価値法などがあります。
回収期間法でこむぎ堂のオーブンを見てみます。300万円のオーブンで、電気代の節約と焼ける数の増加により、手元に入るお金が年に60万円増えるとします。300万円÷60万円=5年で元が取れる計算です。オーブンを10年使うなら、後半の5年分は投資を回収したあとの上乗せになります。
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5-9キャッシュフローと資金
利益は240万円の黒字。それなのに口座のお金は200万円減っている。冒頭の店長の疑問は、まだ残っていました。税理士の封筒の最後の1枚に、その答えが書いてありました。
損益計算書の利益と、手元のお金の増減は一致しません。たとえば通販の売上は、カードの決済会社から入金されるのが翌月以降になるので、売上と利益にはなっても、決算日にはまだお金になっていません。逆に、銀行への借入金の返済は、お金が出ていっても費用にはなりません。設備の代金のように、お金を払った年と費用にする年がずれるものもあります。
そこで、一定期間の現金の出入りを、活動の種類ごとに三つに分けて示す財務諸表がキャッシュフロー計算書です。本業の商売でお金がどれだけ入ったかを示す営業活動、設備などへの投資でお金がどれだけ出入りしたかを示す投資活動、借入や返済、出資でお金がどれだけ出入りしたかを示す財務活動の三つです。
| 区分 | 中身 | 金額 |
|---|---|---|
| 営業活動 | 当期純利益240、お金の出ない費用(設備の費用140、ミキサーの売却損10)を足し戻し、売掛金の増加140・在庫の増加40を引き、買掛金の増加20を足す | +230 |
| 投資活動 | 通販サイトと予約システムのソフトウェア、店の改装への支出 | -330 |
| 財務活動 | 借入金の返済 | -100 |
| 現金の増減 | 230 - 330 - 100 | -200 |
本業では230万円のお金を生んでいます。商売そのものは健全です。お金が減ったのは、通販サイトなどに330万円を投資し、借入金を100万円返したからでした。計算を間違えていたわけではありません。期首に360万円あった現金と預金は、200万円減って160万円になり、貸借対照表の数字と一致します。帳簿上は黒字でも、支払いの日にお金が足りなければ会社は倒産します(黒字倒産)。キャッシュフロー計算書は、それを防ぐための表です。
ここから基本情報!お金の流れを中心にした経営
会計上の利益よりも、実際に入ってくるお金と出ていくお金を重視して経営の判断をする考え方をキャッシュフロー経営といいます。売掛金を早く回収する、在庫を必要以上に持たない、投資は営業活動で生んだお金の範囲で行う、といった判断がその例です。利益は会計のルールの選び方で変わることがありますが、口座の残高はごまかせない、という考え方が背景にあります。
会社がいくつもある企業グループでは、子会社ごとにお金が余っていたり足りなかったりします。グループ全体の資金を親会社などに集めて一括で管理し、余っている会社から足りない会社へ融通することで、外から借りるお金と利息を減らす仕組みをキャッシュマネジメント(キャッシュマネジメントシステム、CMS)といいます。
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オーブンを買う300万円をどう用意するかも、店長の悩みでした。銀行から借りる、出資者から追加で出してもらうという方法のほかに、インターネットで多くの人から少しずつお金を集めるクラウドファンディングがあります。クラウドファンディングは、お金を出した人が何を受け取るかで分けられます。
出したお金の見返りに、商品やサービスを受け取るのが購入型クラウドファンディングです。「新しいオーブンで焼く初めてのシュトーレンを届けます」のように、予約購入に近い形になります。見返りを求めず、応援として寄付するのが寄付型クラウドファンディングで、災害の復興などで使われます。
金銭の見返りがあるものもあります。出資者が会社の株式や事業の利益の分配を受け取るのが投資型クラウドファンディング、集めたお金を会社への貸付けとし、利息を付けて返すのが貸付型クラウドファンディングです。この二つは出資者が損をすることもある金融の取引なので、金融商品取引法などの規制を受けます。
ここから基本情報!値上がりで得る利益
株式のような資産から得る利益には二種類あります。持っているあいだに受け取る配当や利息はインカムゲインと呼ばれます。一方、買ったときより高い値段で売って得る差額の利益をキャピタルゲインといいます。投資型クラウドファンディングで株を受け取った出資者は、会社が成長して株の値打ちが上がれば、売ったときにキャピタルゲインを得られます。値下がりして売れば、逆に損(キャピタルロス)になります。
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5-10減価償却とリース
「300万円のオーブンを買ったら、今年は大赤字になるよね」。店長の心配に、ミナトは決算書の下書きを見直しました。去年買ったはずの予約システムの代金は、費用の欄に一度に全部は載っていません。その代わり、費用の欄には、毎年同じくらいの額で、見慣れない名前の費用が載っていました。
オーブンは、買った年だけでなく、この先何年もパンを焼き続けます。300万円を買った年の費用に全部入れると、その年だけ利益が大きく減り、次の年からは費用がゼロになります。これでは、毎年の成績を正しく比べられません。そこで、長く使う設備の代金は、固定資産としていったん貸借対照表に載せ、使う年数に分けて少しずつ費用にしていきます。
設備を手に入れる方法は、買うことだけではありません。リース会社が設備を買い、それを長い期間(数年)借りて使用料を払う方法をリースといいます。リースは、途中でやめられない契約が多く、修理などの手間も借りる側が負うのがふつうです。これに対して、レンタル会社が持っている品物を、短い期間だけ借りるのがレンタルです。年末の繁忙期だけ大型の冷蔵庫を借りるなら、レンタルが向いています。
ここから基本情報!減価償却の計算
建物や機械などの固定資産は、使ううちに古くなり、価値が減っていきます。その取得の代金を、使える期間にわたって決まった方法で各年の費用に割り振る手続きを減価償却といい、単に償却とも呼びます。割り振った各年の費用が減価償却費で、お金は出ていかないのに費用になる、という性質があります。前の節のキャッシュフロー計算書で、利益に足し戻していたのはこの費用でした。
計算には、資産を何年使えるかの見積もりが要ります。これを耐用年数といいます。税法では、資産の種類ごとに耐用年数が表で決められています(法定耐用年数)。こむぎ堂の税理士は、新しいオーブンを10年で計算すると書いてきました。
耐用年数が終わったときに、その資産に残ると見積もる価値を残存価額といいます。以前の税法では取得価額の10%を残存価額としていましたが、2007年4月1日以後に取得した資産では残存価額が廃止され、最後に1円(備忘価額)を残すところまで償却できるようになりました。
毎年の償却費を同じ額にする方法が定額法、まだ償却していない残りの額に毎年同じ割合を掛ける方法が定率法です。どちらの方法でも、毎年の計算に掛ける割合を償却率といい、耐用年数ごとに決まっています。耐用年数10年なら、定額法の償却率は0.100、定率法の償却率は0.200です(2012年4月1日以後に取得した資産の定率法は、定額法の償却率の2倍にした「200%定率法」です)。
| 年 | 定額法(300 × 0.100) | 定率法(残りの額 × 0.200) |
|---|---|---|
| 1年目 | 30 | 300 × 0.2 = 60 |
| 2年目 | 30 | 240 × 0.2 = 48 |
| 3年目 | 30 | 192 × 0.2 = 38.4 |
| 4年目 | 30 | 153.6 × 0.2 = 30.72 |
定額法は毎年30万円で、ひと月にならすと2.5万円です。定率法は1年目が60万円と大きく、年を追うごとに小さくなります。定率法のまま掛け続けると残りの額がなかなか0に近づかないので、税法では、償却費が一定の額(保証額)を下回った年から、残りを均等に割り振る計算に切り替えます。古い機械ほど修理代がかさむことを考えると、新しいうちに多く費用にする定率法の方が、年ごとの費用の合計がならされる、という見方もあります。
5-1の数字に戻すと、オーブンの減価償却費は定額法でひと月2.5万円、固定費に加わります。一方で、新しいオーブンは電気代がひと月3万円ほど下がる見込みです。固定費は120万円から119.5万円になり、損益分岐点はほとんど動きません。
設備をリースで借りる場合、以前は、契約によってはリースの資産も将来払うリース料も貸借対照表に載せず、注記で示すだけで済みました。資産や負債を貸借対照表の外に置くことをオフバランスといいます。オフバランスにすると、実際には借金と同じように払い続ける義務があるのに、負債が少なく見えます。そのため、IFRSでは2019年から、借り手は原則としてすべてのリースを資産と負債に載せる扱いになりました。日本でも、2024年に公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」で同じ考え方がとられ、上場会社などは2027年4月1日以後に始まる事業年度から適用します。
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リースかレンタルか購入かは、使う期間の長さと、お金をいつ払えるかで選びます。こむぎ堂のオーブンは10年使う予定で、毎日欠かせない設備です。店長は、買って手元に置く方を選びそうでした。
5-11在庫の評価
決算日の夜、ミナトは倉庫で小麦粉の袋を数えました。25kgの袋が20袋。ところが、この1年で小麦粉の値段は3回上がっていて、袋ごとに買った値段が違います。「20袋で、いくらって書けばいいの?」
決算日に残っている小麦粉やバターなどの在庫は、貸借対照表の流動資産に「棚卸資産」として載ります。在庫の金額は、損益計算書の売上原価も決めます。売上原価は「期首の在庫+1年の仕入れ-期末の在庫」で求めるので、期末の在庫を高く見積もるほど売上原価は小さくなり、利益は大きくなります。同じ20袋でも、1袋をいくらと数えるかで、その年の利益が変わるのです。
ここから基本情報!在庫の金額の決め方
期末に残った在庫(棚卸資産)の金額を、決められた方法で計算して決めることを棚卸資産評価といいます。方法によって結果が変わるので、こむぎ堂の小麦粉で比べてみます。この期は、期首に10袋(1袋3,000円)があり、5日に20袋(3,300円)を仕入れ、15日に20袋を使い、20日に10袋(3,600円)を仕入れて、期末に20袋が残りました。
先に仕入れたものから先に使ったとみなすのが先入先出法です。15日に使った20袋は、3,000円の10袋と3,300円の10袋だと考えます。残るのは3,300円の10袋と3,600円の10袋で、期末の在庫は69,000円です。粉は古いものから使うので、実際の物の流れにも近い方法です。
期首の在庫と期中の仕入れを全部合わせて平均の単価を出すのが総平均法です。合計132,000円÷40袋=3,300円が単価で、期末の在庫は20袋×3,300円=66,000円です。期末にならないと単価が決まらないのが弱点です。
仕入れるたびに、そのときの在庫と新しく仕入れた分の平均単価を出し直すのが移動平均法です。5日の仕入れの後の単価は(30,000円+66,000円)÷30袋=3,200円で、15日の20袋はこの単価で使ったとみなします。残る10袋(3,200円)に20日の10袋(3,600円)を加えると、単価は68,000円÷20袋=3,400円になり、期末の在庫は68,000円です。手間はかかりますが、いつでもその時点の単価が分かります。
期末にいちばん近い時期に仕入れたときの単価で、残り全部を評価するのが最終仕入原価法(最終取得原価法とも呼びます)です。20袋×3,600円=72,000円になります。計算は簡単ですが、実際の仕入れ値の流れとはずれることがあります。この名前は法人税法施行令のもので、会社が評価の方法を税務署に届け出なかったときは、この方法で計算することになっています。
| 方法 | 期末の在庫 | 使った分の原価 |
|---|---|---|
| 先入先出法 | 69,000円 | 63,000円 |
| 総平均法 | 66,000円 | 66,000円 |
| 移動平均法 | 68,000円 | 64,000円 |
| 最終取得原価法 | 72,000円 | 60,000円 |
仕入れ値が上がり続けている時期には、新しい高い単価が期末に残る方法ほど、使った分の原価が小さくなり、利益が大きく出ます。どの方法を選んでも、毎年同じ方法を続けて使わないと、年ごとの利益を比べられなくなります。
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こむぎ堂は、税理士と相談して在庫の数え方を決め、来年からも同じやり方を続けることにしました。小麦粉の袋に、仕入れた日付を書いたシールを貼る習慣も、この夜から始まりました。
翌週、店長は税理士に返事のメールを書きました。損益分岐点比率は80%で、売上が2割落ちるまでは赤字にならない。口座のお金が減ったのは、通販の売掛金と、ソフトウェアへの投資と、借入金の返済のためで、本業では230万円のお金を生んでいる。だから、パンの値段は据え置き、古いオーブンは買い替える。代金300万円は固定資産として載せ、10年に分けて費用にする。送信したあと、店長は焼き上がった食パンを棚に並べながら言いました。「決算書って、去年の店の日記みたいなものだったんだね」
冒頭の「売上が増えたのにお金が減った」は、損益計算書だけを見ていたから起きた疑問でした。利益は損益計算書に、財産とその出どころは貸借対照表に、お金の出入りはキャッシュフロー計算書に、それぞれ別々に記録されています。3枚を並べて初めて、店の1年が一つの話としてつながります。
ただ、ミナトには一つ、気になることが残りました。300万円を銀行から借りるか、購入型のクラウドファンディングで常連さんから集めるか。どちらにしても、新しいオーブンで焼くパンが今より売れなければ、計算どおりには元が取れません。来年の決算書がどうなるかは、店長のパンの腕にかかっています。