1-1社内業務支援システム
月末の閉店後、こむぎ堂のレジ台には3冊のノートが並んでいました。売上を書きとめるノート、アルバイトの給料を計算する表、小麦粉やバターの残りを書いた在庫のメモです。店長は電卓をたたいては首をひねっています。POSレジの記録では今月クロワッサンが1,240個売れているのに、在庫のメモから計算すると、バターの減り方がそれと合わないのです。そこへ商店街の回覧板が回ってきました。「市の窓口でキャッシュレス納付が始まります」「補助金の申請はマイナポータルから」。店長は回覧板をミナトに渡して言います。「紙のノートと、レジと、市役所の画面。全部ばらばらに見えるんだけど、どこかでつながっているのかな」。ミナトは相棒を開いて、こむぎ堂の仕事を一つずつ書き出してみることにしました。
相棒の最初の手がかりは、ノートの1冊ずつに「何を記録して、誰が使うのか」を書き添えることでした。売上のノートはお金の出入りを、給料の表は働いた人と時間を、在庫のメモは物の残りを記録しています。会社では、こうした記録を一つずつ、それぞれ専用の情報システムが受け持ちます。取引先を回る営業の仕事や、社内で予定や書類を回す仕事にも、それを支えるシステムがあります。
ここから基本情報!お金と人の記録を受け持つシステム
売上のノートに当たるのが会計・経理・財務システムです。日々の取引を仕訳して帳簿に記録し、月末や期末の決算で損益や財産の状態をまとめる会計・経理の仕事と、資金をどこから調達してどう運用するかを管理する財務の仕事を支えます。
決算の結果を外へ報告するときに使われる形式がXBRL(eXtensible Business Reporting Language)です。XMLをもとにした、財務報告のためのデータの書き方の標準で、売上高や利益といった項目に決まった名前(タグ)を付けて記録します。受け取った側のコンピュータが、項目を取り違えずに読み取って集計できます。
給料の表に当たるのが人事・給与システムです。社員の所属や評価、勤怠といった人事の情報を管理し、勤怠の記録から給与を計算して支払うところまでを受け持ちます。こむぎ堂なら、ミナトがシフトに入った時間が、そのまま給料の計算につながります。
基本情報の範囲ここまで
店の外とのやり取りを支えるのが営業支援システム(SFA:Sales Force Automation)です。こむぎ堂は近所の喫茶店3軒にもパンを卸していて、店長が月に一度、注文の相談に顔を出しています。どの店に、いつ、何を提案し、返事はどうだったか。営業支援システムは、こうした顧客の情報や商談の進み具合を担当者ごとに記録して共有し、次に誰に何をすればよいかを見えるようにして、営業の効率を上げます。
ここから基本情報!顧客との接触の記録
営業支援システムやCRM(顧客関係管理)が持つ機能の一つがコンタクト管理です。顧客の連絡先と、電話・訪問・メールなどで、いつ、誰が、どう接触したかという履歴を一か所に記録します。担当者が替わっても、前回の話の続きから始められます。
基本情報の範囲ここまで
社内の連絡にもシステムが使われます。メール、予定表の共有、掲示板、書類の回覧など、組織の中で情報を共有し、いっしょに仕事を進めるための機能をまとめたソフトウェアがグループウェアです。店長とアルバイト3人のシフト表を共有の予定表に移せば、「明日の朝5時に誰が来るのか」を、それぞれが自分のスマートフォンで確かめられます。
離れた場所にいる人どうしが、インターネットを通して映像と音声でやり取りし、画面に資料を映しながら話し合う仕組みがWeb会議システムです。製パン機械のメーカの担当者に店まで来てもらわなくても、新しいオーブンの相談ができます。
1-2流通と販売の管理
火曜の朝、隣町の喫茶店から電話が入りました。「明日のロールパン、50個から80個に増やせますか」。店長は在庫のメモをめくりますが、小麦粉があと何kg残っているのか、すぐには分かりません。製粉所に追加で注文しても、届くのは3日後です。
パンが喫茶店のテーブルに届くまでには、製粉所が小麦粉を作り、運送会社が運び、こむぎ堂が焼いて届ける、という流れがあります。商品が作られてから消費者の手に届くまでのこの流れを流通と呼び、そこに関わる受注・発注・在庫・配送の情報を、ITでまとめて管理するのが流通情報システムです。
ここから基本情報!ものを運び、しまうためのシステム
流通のうち、ものの輸送・保管・配送の仕事を支えるのが物流情報システムです。倉庫のどの棚に何が何個あるか、トラックがいまどこを走っていて、いつ届くかを管理します。製粉所が「3日後に届きます」と答えられるのも、こうした記録があるからです。
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流通をどう組み立てるかは、お客さんの側から考えるのが基本です。自分たちが何を作れるかではなく、お客さんが何を求めているかを出発点にして事業を組み立てる考え方をマーケティングコンセプトといいます。そして、製品が作り手から消費者へ届くまでの経路、たとえば「メーカ→卸売→小売→消費者」や、作り手が直接売る経路をマーケティングチャネル(流通チャネル)といいます。こむぎ堂には、店頭で売る、喫茶店に卸す、通販で送る、という三つのチャネルがあります。
ここから基本情報!お客さんと店頭の記録
チャネルが増えると、記録しておきたい相手も増えます。お客さんの名前や連絡先、何をいつ買ったかという購買の履歴を記録し、関係を深めたり販売を促したりするのに使うのが顧客管理です。CRMは、この顧客の情報をもとにして成り立ちます。
店舗での販売の実績や、店の中の在庫を管理するのが店頭販売管理です。その中心になるのが、レジで売れた記録を残すPOSシステムです。
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どのチャネルでも、売る仕事の流れは同じ形をしています。お客さんから注文を受けてから、商品を出荷し、売上を記録し、代金を受け取るまでの一連の仕事を管理するのが販売管理です。喫茶店への卸なら、80個の注文を受け、翌朝に届け、月末にまとめて請求し、入金を確かめるまでがその範囲です。
材料や商品を、多すぎず少なすぎない量に保つ仕事が在庫管理です。足りなければ注文に応えられず(欠品)、多すぎれば小麦粉が古くなり、置き場所とお金をむだに使います。火曜の朝に店長が答えに詰まったのは、いまの在庫の数がすぐに分からなかったからです。
ここから基本情報!受注と発注、発注のタイミング
お客さんから注文を受けること(受注)と、仕入先へ注文を出すこと(発注)を一続きに管理するのが受発注管理です。喫茶店の注文が50個から80個に増えれば、使う小麦粉が増え、製粉所への発注も変わります。二つを別々に管理していると、この連動を見落とします。
在庫管理には、いつ、どれだけ発注するかを決める方式がいくつかあります。在庫が決めておいた量(発注点)まで減ったら、毎回決まった量を発注するのが定量発注方式です。発注する量は一定で、発注する間隔は、材料が減る速さによって変わります。
発注点は、注文してから届くまでの間に使う量に、予想より多く使ったときの備え(安全在庫)を足して決めます。こむぎ堂の小麦粉で計算してみます。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 1日に使う小麦粉 | 25kg |
| 注文してから届くまで(調達期間) | 3日 |
| 安全在庫 | 25kg(1日分) |
| 発注点 | 25kg × 3日 + 25kg = 100kg |
残りが100kgまで減ったら、毎回200kgを注文します。届くまでの3日で75kgを使っても、25kgが残る計算です。ところが喫茶店の注文が増えて1日に30kgを使うようになると、3日で90kgが減り、届く直前の残りは10kgまで下がります。使う量が変わったら、発注点も計算し直すことになります。
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1-3店頭のシステム
水曜の夕方、ミナトはレジの記録を画面に出しました。クロワッサンのバーコードを読むたびに、時刻と個数が1行ずつ残っています。17時から18時の1時間に売れた数は、ほかの時間帯の2倍でした。
商品が売れたその時点で、何が、いくつ、いくらで、いつ売れたかを記録し、集計する仕組みがPOSシステム(Point of Sales:販売時点情報管理)です。レジでバーコードを読み取ると、品名と値段が表示されるだけでなく、販売の記録がたまっていきます。たまった記録からは、売れる時間帯や、一緒に買われやすい商品が見えてきます。
1個のパンが売れた記録は、レジの中だけで終わりません。販売管理では売上の1件になり、在庫管理では残りの数を1つ減らし、残りが発注点を下回れば発注の目安になり、最後は会計の帳簿に入ります。前の節までに見たシステムは、POSの記録を起点につながっています。月末にバターの数が合わなかったのは、この流れの途中を手書きのメモでつないでいたからでした。
レジが読み取るバーコードには、ふつうJANコードが表されています。標準の13桁のJANコードは、先頭から、事業者を表す番号、商品を表す番号、読み間違いを見つけるためのチェックデジット(1桁)でできています。
最初の部分がメーカコードで、商品を作ったり売ったりする事業者ごとに割り当てられる番号です(いまはGS1事業者コードと呼ばれます)。日本の事業者の番号は、45か49で始まります。続く商品アイテムコードは、その事業者が自分の商品ごとに割り当てる番号です。同じメーカのジャムでも、いちごとブルーベリーでは商品アイテムコードが違います。
こむぎ堂のパンのように、店が自分で作ってその店で売る商品には、メーカコードがありません。そこで、店が自分で番号を決めてラベルを貼るインストアマーキングという方法を使います。先頭を20〜29などの決まった数字にして、メーカの付けた番号と区別します。インストアマーキングの番号のうち、商品を売る小売店そのものを表す部分を小売店コードと呼ぶことがあります。
お客さんが自分でバーコードを読み取らせ、支払いまで済ませるレジがセルフレジです。夕方の混む時間に、レジ待ちの列を短くできます。店員の手が空けば、パンの補充や袋詰めに回れます。
店の形にも、いくつかの種類があります。商店街の会合で話題になる三つを表にします。
| 形態 | どんな店か | パン屋での例 |
|---|---|---|
| ボランタリチェーン | 独立した中小の小売店が、それぞれの経営は自分で続けながら本部のもとに集まり、仕入れや販売促進を共同で行う | 町のパン屋が集まって、小麦粉をまとめて安く仕入れる |
| アウトレットストア | メーカなどが、売れ残りや規格外の品、型落ちの品を安く直接売る | 形の崩れたパンやパンの耳を、工場の隣の店で安く売る |
| アンテナショップ | 新しい商品や地域の産品を試しに並べて売り、お客さんの反応や好みを確かめる | 新作のパンを駅前の小さな売り場で試しに売ってみる |
1-4業界ごとのシステム
木曜、店長は銀行で喫茶店からの入金を確かめ、その足で病院に寄って健康診断の結果を受け取りました。夜、ミナトは通販サイトに新作のパンの写真を20枚載せます。翌朝、北海道のお客さんから「写真がすぐ開きました」とメッセージが届き、ミナトは不思議に思いました。通販サイトのサーバは東京にあるはずだからです。
業界ごとに、扱う情報も、求められる確かさも違います。銀行や証券会社などの金融機関が、口座の管理、預金の出し入れ、振込や送金、株の売買といった取引と決済の処理に使うのが金融情報システムです。1円の誤りも許されず、止まれば多くの人のお金の流れが止まるので、高い正確さと、止まりにくい仕組みが求められます。
ここから基本情報!病院のシステム
病院や診療所で、診療の記録(電子カルテ)、検査の結果、診療にかかった費用の計算(医事会計)などを管理するのが医療情報システムです。病歴という、とくに慎重に扱うべき個人情報を扱うので、誰がどの記録を見られるかを細かく決めておく必要があります。
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北海道で写真がすぐ開いた理由を調べると、通販サイトの仕組みがCDN(Content Delivery Network)を使っていたことが分かりました。CDNは、画像や動画などのコンテンツの写し(キャッシュ)を各地の配信用のサーバに置いておき、利用者に近いサーバから配る仕組みです。遠くの1台までデータを取りに行かずに済むので表示が速くなり、アクセスが集中しても負荷が1台に偏りません。
1-5業務パッケージ
金曜、店長がパソコンの販売店のちらしを持って帰ってきました。「会計ソフト、いまなら2割引きだって。これでノートが1冊減るかな」。ちらしの裏には、パン屋向けの製造管理ソフトの広告も載っていました。
業務のシステムを一から作ってもらうと、時間も費用もかかります。多くの会社に共通する機能をあらかじめ作り込み、買ってすぐ使えるように製品にしたものがソフトウェアパッケージです。業務パッケージには、業務の種類で分けたものと、業種で分けたものがあります。
業種を問わず、どの会社にもある業務の種類ごとに作られたものが業務別ソフトウェアパッケージ(業務別パッケージ)です。代表的なのが、仕訳や帳簿づけ、決算書(財務諸表)の作成を支える会計、顧客の情報や商談の進み具合を管理する営業支援、受注・出荷・売上・在庫といった販売の仕事を管理する販売管理ソフトウェアです。店長のちらしの会計ソフトは、この一つです。
特定の業種に特有の仕事に合わせて作られたものが業種別ソフトウェアパッケージ(業種別パッケージ)です。代表的なものを表にします。
| 業種 | 支える仕事の例 |
|---|---|
| 金融 | 銀行や証券会社の口座、融資、取引の管理 |
| 医療 | 病院の電子カルテ、診療の予約、医事会計 |
| 製造 | 工場の生産計画、工程の管理、原価の計算 |
| 運輸向けソフトウェアパッケージ | 配送の計画、車両の運行の管理 |
ちらしの裏のパン屋向けの製造管理ソフトは、製造の業種別パッケージに当たります。パッケージは早く安く使い始められる一方で、店のやり方とパッケージの機能が合わない所では、店のやり方のほうをパッケージに合わせることになりがちです。
もう一つ、代表的なパッケージにDTP(DeskTop Publishing)のソフトウェアがあります。DTPは、パソコンの上で文字や写真を並べて紙面を組み、そのまま印刷所に渡せるデータを作る作業のことです。店長が持ち帰ったちらしも、こうしたソフトウェアで作られています。
1-6デジタルツインとブロックチェーン
土曜、製パン機械のメーカの担当者が、新しいオーブンの説明に来ました。タブレットには、こむぎ堂のオーブンとそっくりな立体の図が映っていて、庫内の温度が色の濃さで刻々と変わっています。「お店のオーブンのセンサの値を、こちらにそのまま写しているんです」。
現実にある機械や建物、街などの状態を、センサなどから集めたデータで、コンピュータの中にそっくり再現したものをデジタルツインといいます。「双子」の名のとおり、現実の側で温度が上がれば、コンピュータの中でも上がります。コンピュータの中のオーブンなら、扉を何秒開けると温度が何度下がるかを、パンをむだにせずに試せます。
試した結果を現実に返すところまでを含めた仕組みがCPS(サイバーフィジカルシステム:Cyber Physical System)です。現実の世界(フィジカル)のデータをセンサで集め、コンピュータの空間(サイバー)で分析し、その結果で現実の機器を動かしたり、人の判断を助けたりします。オーブンの例なら、分析の結果からヒーターの強さを自動で調整するところまでがCPSです。
担当者は、オーブンの部品の産地の話もしました。取引の記録を多くのコンピュータで同じ台帳として持ち合い、新しい記録を前の記録とつなげて保存していくことで、後から書き換えるのを難しくした技術をブロックチェーンといいます。この改ざんしにくさを、記録の確かさが求められる業務に使うことがブロックチェーンの活用です。
代表的な使い道の一つめがトレーサビリティ確保です。トレーサビリティとは、製品が原材料から作られ、運ばれ、売られるまでの道のりを、後から追いかけられることをいいます。パンに使う小麦がどの畑でとれ、どの製粉所を通ったかを記録しておけば、異物が見つかったときに、どの袋の小麦粉が原因かをさかのぼれます。その記録をブロックチェーンに書いておけば、途中で誰かが都合よく書き換えることが難しくなります。
二つめがスマートコントラクトです。契約の条件と、条件が満たされたときの処理をプログラムとして書いておき、条件がそろうと人の手を介さずに自動で実行する仕組みです。「小麦粉が店に届いたことが記録されたら、代金を支払う」という約束を、自動で実行させられます。
1-7行政のシステム
月曜の朝、ミナトは回覧板にあった「補助金の申請はマイナポータルから」のページを、店長と一緒に開きました。市役所に行かなくても、申請書がスマートフォンの画面で書けます。店長は「前は窓口で2時間待ったのにね」と、画面をのぞき込んでいます。
行政のサービスは、窓口の紙から画面へと移りつつあります。行政の手続きやサービスを、はじめからデジタル技術を前提に作り、国民や事業者が使いやすい形で提供しようとする政府のあり方をデジタルガバメントといいます。紙の手続きをそのまま画面に写すだけでなく、同じことを何度も書かせないように、行政の仕組みそのものを見直すところまでを目指します。
ここから基本情報!以前からの呼び方
以前から使われてきた言い方が電子政府です。申請や届出などの行政手続きや、行政の情報の提供を、インターネットなどの電子的な手段で行えるようにする取り組みや、そうした政府のことを指します。
基本情報の範囲ここまで
国の行政手続きの入り口になっているのがe-Govです。デジタル庁が運営する国のポータルサイトで、各府省への電子申請、法令の検索、パブリックコメント(意見の募集)などがまとまっています。電子申請とは、行政機関への申請や届出を、窓口に行かずにインターネットを通じて行うことです。
ここから基本情報!会社が開示する書類の窓口
会社が国に出す書類にも、専用の窓口があります。金融庁が運用するEDINET(Electronic Disclosure for Investors' NETwork)は、上場企業などが有価証券報告書などの開示書類を電子的に提出し、誰でもインターネットで閲覧できるようにするシステムです。財務の情報は、XBRLの形式でも提出されます。
基本情報の範囲ここまで
国や地方公共団体の情報システムが共通して使えるクラウドの基盤をガバメントクラウドといいます。自治体ごとにばらばらにサーバを持つ代わりに、共通の基盤の上にシステムを載せることで、費用を減らし、セキュリティの水準をそろえ、データをやり取りしやすくします。
データの側で基盤になるのがベースレジストリ(公的基礎情報データベース)です。人、法人、土地、住所など、社会のさまざまな場面で参照される基本的なデータを、正確で新しい状態に整え、行政や民間が共通に使えるようにするものです。会社の名前や所在地を、申請のたびに書き写さずに済むようにするのが、そのねらいです。
地方公共団体の側で、情報通信技術を使って行政手続きや住民サービスを電子化した自治体を電子自治体といいます。回覧板にあった市の取り組みも、その一つです。
ここから基本情報!自治体どうしの回線と、窓口の支払い
全国の地方公共団体を相互に結ぶ、行政専用のネットワークがLGWAN(Local Government Wide Area Network:総合行政ネットワーク)です。インターネットから切り離された閉じたネットワークで、国の府省のネットワークともつながっていて、自治体どうしや国との間で、文書や情報を安全にやり取りできます。
市役所の窓口で、証明書の発行手数料などを現金以外でも、たとえば電子マネーやコード決済、クレジットカードで払えるようにする取り組みが自治体窓口のキャッシュレス化です。回覧板の「キャッシュレス納付」が、これに当たります。
基本情報の範囲ここまで
住所や世帯の記録は、住んでいる市区町村が住民基本台帳に記録しています。全国の市区町村の住民基本台帳をネットワークでつなぎ、氏名・生年月日・性別・住所などの情報をもとに、全国どこでも本人の確認ができるようにした仕組みが住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)です。
マイナンバー(個人番号)は、日本に住民票のある一人ひとりに割り当てられる12桁の番号です。社会保障・税・災害対策などの分野で、別々の行政機関が持っている同じ人の情報を、正しく結び付けるために使われます。顔写真が付き、ICチップに電子証明書を記録したカードがマイナンバーカードで、本人確認の書類になるほか、オンラインで申請するときの本人確認にも使えます。
そのマイナンバーカードでログインして、行政手続きの検索や電子申請、行政機関が持っている自分の情報の確認ができる、国のオンラインサービスがマイナポータルです。店長が補助金を申請していた画面が、これでした。
行政は、ものを買う側にもなります。物品やサービスを調達するための見積り・発注・契約などの手続きを、インターネットを通じて電子的に行うことを電子調達といいます。そのうち、公共工事や物品の入札を、書類を持ち込まずにオンラインで受け付け、開札まで行う仕組みが電子入札です。市が学校の行事で配るパンを入札で決めるなら、こむぎ堂は店のパソコンからその入札に参加できます。
1-8公共のシステム
火曜の夕方、ミナトのスマートフォンが大きな音で鳴りました。画面には、大雨で避難の準備を呼びかける知らせが出ています。同じころ、喫茶店へ配達に出ていた店長の車では、カーナビが冠水した道を避ける道順に切り替わっていました。
電気、交通、防災のように、地域の暮らしを支える情報システムがあります。どれも、店や会社が自分で持つものではなく、地域全体で使うものです。
ここから基本情報!公共の情報システムという呼び方
行政機関などが、住民サービスや行政の事務のために運用する情報システムをまとめて公共情報システムと呼びます。行政の手続きのシステムに加えて、防災、交通、エネルギーなど、暮らしの基盤に関わるものが含まれます。
基本情報の範囲ここまで
電気は、使う量と作る量がつり合っていないと、周波数などが乱れて停電の原因になります。発電所や送電網、家や店の電力メータを通信でつなぎ、使う側と作る側の情報をやり取りしながら、需要と供給を自動で調整して効率よく電気を送る次世代の電力網がスマートグリッドです。太陽光発電のように天気で発電量が変わる電源を多く使うほど、この調整が大事になります。
ここから基本情報!建物ごとのエネルギーの管理
建物や工場の単位で、エネルギーの使い方を見えるようにしてむだを減らすのがEMS(Energy Management System:エネルギーマネジメントシステム)です。オーブンや冷蔵庫ごとに電気の使用量を測り、使用量がいちばん多くなる時間帯を避けて動かす、といった管理を支えます。家庭向けのものはHEMSと呼ばれます。
基本情報の範囲ここまで
人工衛星からの電波を受けて、地球上のいまの位置を測る仕組みがGPS(Global Positioning System:全地球測位システム)で、GPSで測った位置をもとにサービスを提供するのがGPS応用システムです。身近な例がカーナビゲーションシステム(カーナビ)で、車のいまの位置を地図に重ね、目的地までの道順を案内します。
位置の情報を地図に重ねて表示し、分析するためのシステムをGIS(Geographic Information System:地理情報システム)といいます。こむぎ堂の通販の注文を住所ごとに地図の上に表せば、どの地域にお客さんが多いかがひと目で分かります。ハザードマップで浸水しそうな範囲を地図に重ねて示すのも、GISの使い方の一つです。
道路と車と人を情報通信技術で結び、交通の安全や渋滞の解消、移動の効率化をはかる仕組みがITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)です。渋滞や通行止めの情報をカーナビに届けるのもITSの一部です。高速道路の料金所で車を止めずに、車の装置と料金所のアンテナの無線通信で通行料金を自動で精算するETC(Electronic Toll Collection:自動料金収受システム)も、ITSの一つです。
防災の知らせにも、情報システムが使われています。緊急地震速報や津波警報、自治体が出す避難の情報などを、その地域にある携帯電話やスマートフォンへ一斉に配信する仕組みが緊急速報です。通信会社によって「緊急速報メール」「エリアメール」などと呼ばれ、火曜の夕方にミナトのスマートフォンを鳴らしたのも、この仕組みです。
弾道ミサイルの情報や緊急地震速報、津波警報のように、対応に時間の余裕がない情報を、国から人工衛星などを通じて市区町村へ瞬時に送り、防災行政無線などを自動で起動して住民に伝える仕組みがJアラート(全国瞬時警報システム)です。消防庁が運用しています。
知らせは、受け取れて初めて役に立ちます。年齢や障害の有無、使う言葉の違いなどにかかわらず、できるだけ多くの人が使えるように、はじめから製品や環境、サービスを設計する考え方をユニバーサルデザインといいます。音だけでなく文字や振動でも知らせる、やさしい日本語や外国語でも表示する、といった工夫がその例です。
1-9AI利活用の原則と指針
水曜の夜、ミナトは来週の食パンが何本売れるかを、相棒に予測してもらおうと考えました。その前に、店長が新聞の切り抜きを見せます。「AIを使うときの決まりがある、って書いてあるよ。お客さんのデータを入れても大丈夫なのかな」。
AIを社会でどう使うかについては、国や国際機関、学会が、それぞれ原則や指針を示しています。日本政府が2019年に示したのが人間中心のAI社会原則です。AIをよりよい形で社会に取り入れ、その恩恵をみんなで分かち合うための基本原則で、人間中心の原則、教育・リテラシーの原則、プライバシー確保の原則、セキュリティ確保の原則、公正競争確保の原則、公平性・説明責任・透明性の原則、イノベーションの原則の七つからなります。
最初に置かれた人間中心の原則は、AIの利用が、憲法や国際的な規範が保障する基本的人権を侵してはならない、とするものです。AIは人の能力を広げるための手段であり、AIをどう使うかを最後に決めるのは人間だ、という立場に立っています。
公平性・説明責任・透明性の原則は、AIを使った判断によって、人が性別や国籍、信条などを理由に不当に差別されないこと、そしてAIを使っていることや判断の根拠を、必要に応じて適切に説明できることを求めます。
AIを使う側に向けた指針として、総務省の会議が2019年にまとめたのがAI利活用ガイドライン(AI利活用原則)です。AIを使う事業者や利用者が気をつけることを、適正利用、適正学習、連携、安全、セキュリティ、プライバシー、尊厳・自律、公平性、透明性、アカウンタビリティの十の原則にまとめています。
ここから基本情報!作る側の指針
AIを作る側に向けたものがAI開発ガイドラインです。総務省の会議が2017年に「国際的な議論のためのAI開発ガイドライン案」としてまとめ、開発者が安全性や透明性、プライバシーなどについて気をつけることを示しました。2024年には、総務省と経済産業省が、こうした指針を一つにまとめた「AI事業者ガイドライン」を公表しています。
基本情報の範囲ここまで
海外では、欧州委員会が設けたAIの専門家グループが、2019年に信頼できるAIのための倫理ガイドライン(Ethics guidelines for trustworthy AI)を公表しました。信頼できるAIは、法を守り、倫理にかない、頑健であるべきだとし、満たすべき要件として、人間の主体性と監督、技術的な頑健性と安全性、プライバシーとデータのガバナンス、透明性、多様性・無差別・公平性、社会と環境の幸福、説明責任の七つを挙げています。
研究者の側では、日本の人工知能学会が2017年に人工知能学会倫理指針を定めました。AIの研究者が人類の平和や安全、福祉に貢献すること、自分の研究が社会に与える影響に責任を持つことなどを、研究者自身の行動の決まりとして掲げています。
ここから基本情報!受け入れられるAIかどうか
どれほど性能が高くても、人々が不安を感じるAIは使われません。AIが社会の価値観や倫理に合い、人々に安心して受け入れられる度合いをAIの社会的受容性(社会的受容性)といいます。原則や指針を定めて守ることは、この受容性を高めることにもつながります。
基本情報の範囲ここまで
切り抜きを読み終えたミナトは、相棒には売上の数と天気だけを渡し、お客さんの名前や電話番号は入力しないことにしました。何のためにどのデータを使うのかを、使う前に決めておくことも、使う側の務めです。
1-10AIの種類と難しさ
相棒は、過去1年の売上と天気から、来週の食パンの本数をすぐに出してくれました。それを見た店長が「ついでに新しいパンの名前も考えて、来週のシフトも組んで、仕込みの順番も決めてよ」と言い出します。一つのAIに、何でも任せられるのでしょうか。
画像の認識、翻訳、売上の予測のように、決まった仕事に絞って高い性能を出すAIを特化型AIといいます。いま実際に使われているAIの多くは、こちらに当たります。将棋のAIは名人に勝てても、パンの焼き加減は判断できません。
特定の仕事に限らず、人間のように初めての状況でも自分で考えて対応できるAIを汎用AI(AGI:Artificial General Intelligence)といいます。文章も画像も扱える生成AIが現れて、一つのAIにできる仕事の幅は大きく広がりました。それでも、人間と同じようにどんな状況にも対応できるAIは、まだ実現していないと考えられています。
ここから基本情報!汎用AIが難しい理由
汎用AIの難しさとして、古くから知られている問題が二つあります。一つはフレーム問題です。現実の世界で何かをしようとすると、関係しうる事柄は限りなくあります。「オーブンからパンを出す」だけでも、天井の色や隣の店の看板はふつう関係ありませんが、床に落ちた粉で足が滑ることは関係するかもしれません。限られた計算の力で動くAIには、いま考えるべき事柄の範囲(フレーム)を適切に区切ることが難しい、という問題です。
もう一つはシンボルグラウンディング問題(記号接地問題)です。コンピュータは「クロワッサン」という記号を扱えても、その記号を、さくさくした食感や焼けたバターの香りといった現実の対象と結び付けて理解しているわけではありません。記号と、それが指す実世界の意味とを、どう結び付けるかという問題です。
基本情報の範囲ここまで
ミナトは、来週の本数の予測だけを相棒に頼み、新しいパンの名前とシフトは、店長と相談して決めることにしました。
1-11AIの活用
木曜、ミナトはAIの使い道をノートに書き出してみました。焼き上がりの写真から焦げたパンを見分ける。問い合わせのメールに返事の下書きを書く。新作パンのポスターの絵を描く。並べてみると、AIのしていることは何種類かに分けられそうです。
画像・音声・文字などのデータから特徴をとらえて、それが何であるかを見分けたり、分類したりするのがAIによる認識です。顔認識、音声認識、手書きの文字の認識などがあります。カメラなどで撮った画像をコンピュータが解析し、検査や判断に使う技術はマシンビジョンと呼ばれ、工場の外観検査やロボットの目として使われています。焦げたパンを写真で見分けるのも、その一つです。
人が行っていた決まった手順の作業や判断を、AIが代わりに行うのがAIによる自動化です。検品、データの入力、問い合わせの振り分けなどがあります。金融の分野では、年齢や投資の目的などの質問への答えをもとに、アルゴリズムが資産の配分を提案したり、運用まで自動で行ったりするサービスがあり、ロボアドバイザと呼ばれます。
音声や文字での対話を通して、人の問いかけに答え、情報を探したり作業を手伝ったりするAIをAIアシスタントといいます。スマートスピーカーやチャットボットがその例で、ミナトの相棒もその一つです。
学習した大量のデータのパターンをもとに、新しい文章・画像・音声・プログラムなどを作り出すAIが生成AIです。メールの下書き、文章の要約や添削、アイデアの提案、ポスターの絵まで作れます。文字だけでなく画像や音声など、種類の違う複数のデータを組み合わせて扱えるAIはマルチモーダルAIと呼ばれます。焼き上がりの写真を見せて「この焼き色が伝わる紹介文を書いて」と頼めるのは、画像と文章をまとめて扱えるからです。
ミナトは、同じ頼み方で紹介文を2回作らせて、違う文が返ってきたことに気づきました。生成AIは、次に続く言葉などを確率にもとづいて選びながら出力を組み立てるので、同じ入力でも毎回違う結果を返すことがあります。この性質をランダム性といいます。アイデアをいくつも出してもらうときには役立ちますが、毎回同じ答えが返ることを前提にした使い方には向きません。
1-12AIを使うときの注意
金曜、相棒に書かせた通販の紹介文を読み返して、ミナトは手を止めました。「創業50年の老舗」と書いてあります。こむぎ堂が開店したのは12年前です。
AIが、事実と違う内容や根拠のない内容を、もっともらしく作り出してしまう現象をハルシネーション(幻覚)といいます。生成AIは、自然な言葉の並びを作るのは得意ですが、内容が事実かどうかを確かめながら書いているわけではありません。文の調子が自信に満ちていても、中身が正しいとは限らないのです。
悪意をもって作られるものもあります。深層学習(ディープラーニング)を使って人の顔や声を合成し、本人が実際にはしていない発言や行動の映像・音声を作る技術や、そうして作られた偽の映像・音声をディープフェイクといいます。店長の顔と声で「全品半額」と話す偽の動画が出回れば、お客さんも店も困ります。
AIの出力が、特定の性別や年齢、地域などに対して偏ってしまうことをアルゴリズムのバイアスといいます。学習に使ったデータの偏りや、作るときの設計が原因になります。過去の採用の記録で学習したAIが、過去に採用の少なかった人たちを低く評価してしまう、といった例が知られています。
偏りは、使う側からも入ります。どんな聞き方をするか、AIのどの答えを採用するか、AIの答えにどんな評価を返すかといった利用者の関わり方によって、出力に偏りが生じることをAI利用者の関与によるバイアスといいます。「売れなかった理由を、雨のせいだと説明して」と頼めば、AIは雨のせいにする理由をもっともらしく並べます。
出力を確かめるには、AIがなぜその答えを出したのかが分かると助かります。AIの判断や予測の理由・根拠を、人間が理解できる形で示せるようにしたAIや、そのための技術をXAI(説明可能なAI:Explainable AI)といいます。「来週の食パンは120本」という予測に「去年の同じ週の売上と、晴れの予報が根拠」と添えられていれば、店長はその根拠が正しいかを自分で判断できます。
AIの判断や処理の流れの途中に人間が入り、出力を確かめたり直したりしてから使う仕組みをHITL(ヒューマンインザループ:Human In The Loop)といいます。AIにすべてを任せず、要所で人が関わることで、ハルシネーションや偏りがそのまま外に出るのを防ぎます。
それでも事故は起こりえます。AIの判断の誤りで損害が出たとき、AIを作った開発者、サービスを提供した事業者、使った利用者の誰が、どこまで責任を負うのかをめぐる議論をAIサービスの責任論といいます。AIそのものは責任を負えないので、関わった人や組織の間で、責任をどう分けるかを考えておく必要があります。
責任を考えるときによく例に出されるのがトロッコ問題です。暴走するトロッコの先に5人がいて、進路を切り替えれば5人は助かるが、切り替えた先にいる1人が犠牲になる。切り替えるべきかどうかを問う思考実験です。自動運転の車が避けられない事故に直面したとき、どう動くようにプログラムしておくべきかという議論で、よく持ち出されます。正解の決まった問いではありません。
データの扱いにも決まりがあります。利用者が入力したデータを、AIサービスの学習などに使わないよう、利用者の側から申し出て除外してもらえるようにする方針をAIサービスのオプトアウトポリシーといいます。サービスによっては、はじめから学習に使う設定になっていて、使わせたくない人が自分で設定を変えることになります。店の情報を入力する前に、使っているサービスの方針と設定を確かめておきます。
土曜の朝5時、こむぎ堂の厨房。相棒の予測は「食パン120本」でした。店長は画面に添えられた根拠を読み、天気予報が午後から雨に変わったことと、予約がすでに30本入っていることを確かめてから、焼く数を110本に直しました。月末の3冊のノートは、POSの記録と在庫の数をつないだ表に置き換わり、今月はバターの数もぴったり合っています。店長は生地を分けながら言いました。「数を出すのは相棒でも、焼くと決めるのはこっちなんだね」。
月末のレジ台で数字が合わなかったのは、1個のパンが売れた記録が、販売・在庫・発注・会計の間で、手書きのメモでしかつながっていなかったからでした。社内の業務、店頭、業界、行政のシステムは、それぞれ別の記録を受け持ちながら、その記録を受け渡すことで一つの流れになっています。AIはその記録から予測を出しますが、予測を使って何をするかを決め、その結果に責任を持つのは人です。
ただ、喫茶店からの注文は、いまもファクスで届いています。80個が180個に読める日が来ないとは、ミナトにも言い切れません。