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  4. 第6章 通信・計測・制御の理論

基礎理論 第6章 テクノロジ系・大分類:基礎理論

通信・計測・制御の理論

伝送路と変調・多重化、誤り検出と同期の方式、信号処理と制御、センサとアクチュエータの仕組み。

6-1伝送路

十月の終わり、こむぎ堂は生地を寝かせる発酵室を新しくしました。中の温度と湿度をセンサが測り、制御盤がヒーターと加湿器を動かして、決めた値に自動で保つという触れ込みです。制御盤と事務所のパソコンは1本のケーブルでつながっていて、10秒ごとの温度と湿度が記録に残ります。ところが三日目の朝、発酵室を開けた店長は手を止めました。食パンの生地が、型のふちを越えるほどふくらんでいたのです。パソコンの記録には「28℃、28℃、999℃、27℃」と、ありえない値がときどき混じっていました。「機械が勝手にちょうどよくしてくれるはずじゃなかったの」。ミナトは記録の画面を写真に撮り、相棒に送りました。

パン屋の発酵室の前で、型からあふれるほどふくらんだ食パンの生地を見る店長と、999℃の値が混じった温度の記録をノートパソコンで見るミナト
図:ふくらみすぎた生地と、999℃が混じった温度の記録

相棒の返事は、問いを一つずつに分けるものでした。「生地がふくらみすぎたことと、記録に変な数字が混じったこと。同じ原因かどうかは、まだ分からないよね。まずは記録の数字が、どこを通ってパソコンまで来たのかをたどってみよう」。

温度の値は、制御盤からケーブルを通ってパソコンに届きます。ケーブルや電波のように、信号を送り手から受け手へ運ぶ通り道を伝送路と呼びます。発酵室の伝送路には、二つの向きの流れがあります。制御盤からパソコンへは測った値が流れ、パソコンから制御盤へは「設定温度を27℃に変える」といった命令が流れます。記録を確かめるには、まずこの道の上で、データがどの向きに、どんな形で送られているかを知る必要があります。

ここから基本情報!データが流れる向き

伝送路は、データを流せる向きで三つに分けられます。データを一方向にしか送れず、逆向きには送れない方式が単方向(シンプレックス)です。テレビやラジオの放送がこれにあたり、受け手から放送局へ返事を送る道はありません。

両方向に送れるものの、同時には送れず、交互に向きを切り替えて使う方式が半二重です。トランシーバーで話すときに「どうぞ」と言って相手に順番を渡すのが、半二重の使い方です。送信と受信を両方向で同時に行える方式は全二重といいます。電話では、相手が話している最中にこちらも話せます。

発酵室のケーブルが半二重なら、パソコンが命令を送っているあいだ、制御盤は測った値を送れずに待つことになります。全二重なら、値の報告と命令の送信が重なっても、どちらも止まりません。

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6-2変調と多重化

厨房のラジオから、朝のFM放送が流れていました。制御盤の取扱説明書をめくっていたミナトは、仕様の欄に「PCM」という見慣れない3文字を見つけます。声や音楽は空を飛んでラジオに届き、温度はケーブルを通ってパソコンに届く。どちらも、もとは0と1の並びではないはずです。

発酵室の温度は、27.0℃から27.1℃へ、さらに27.15℃へと、切れ目なく変わっていきます。このように連続的に変わる量を、そのまま電圧の高さなどで表した信号がアナログ信号です。一方、コンピュータが扱えるのは、0と1の並びで表したデジタルのデータだけです。センサが測った温度をパソコンで記録するには、どこかでアナログの値をデジタルに直す処理が要ります。

アナログ信号をデジタルに直す基本的な方式がPCM(Pulse Code Modulation:パルス符号変調)です。PCMは三つの段階で進みます。一定の時間おきに信号の値を取り出し(標本化)、取り出した値を決まった刻みの段階に丸め(量子化)、丸めた段階の番号を2進数の符号にします(符号化)。三つの段階の詳しい仕組みは、第4章で扱っています。

発酵室の温度で試してみます。1秒ごとに温度を測り、0.5℃刻みで丸めるとします。ある瞬間の温度が28.1℃なら、丸めた値は28.0℃です。0℃から数えて0.5℃刻みで何段目かを数えると、28.0÷0.5=56段目になります。56を8けたの2進数で表すと00111000で、これが制御盤からパソコンへ送られる符号になります。音楽CDや電話の音声も、この方式でデジタルにしています。

ここから基本情報!波に情報を乗せる変調

反対向きの場面もあります。電話回線や電波のように、アナログの波しか通さない伝送路でデジタルのデータを送りたいときです。このときは、一定の形で振動し続ける波(搬送波)を用意し、送りたい信号に合わせて波の形を変えます。これを変調といい、受け手の側で波の形から元の信号を取り出すことを復調といいます。

波の形のどこを変えるかで、方式が分かれます。波の高さ(振幅)を信号に合わせて変えるのがAM(Amplitude Modulation:振幅変調)で、AMラジオで使われています。波の細かさ(周波数)を変えるのがFM(Frequency Modulation:周波数変調)で、厨房で鳴っていたFMラジオの方式です。波の山と谷がどの時点に来るか(位相)をずらすのがPM(Phase Modulation:位相変調)です。位相のずらし方で0と1を区別できるので、無線LANなどのデジタル通信の変調の基になっています。

変調と並んで、1本の伝送路を複数の通信で同時に使う工夫もあります。これを多重化と呼びます。使える周波数の幅を区切り、通信ごとに別の周波数の帯を割り当てる方式がFDM(Frequency Division Multiplexing:周波数分割多重)です。たくさんの放送局が同じ空を使いながら混ざらずに聞こえるのは、局ごとに周波数が違うからです。

時間を細かく区切り、区切った時間を通信ごとに順番に割り当てる方式はTDM(Time Division Multiplexing:時分割多重)です。発酵室の制御盤が、1本のケーブルで温度、湿度、ヒーターの状態を「温度の番、湿度の番、ヒーターの番」と順に送っているなら、それは時分割の考え方です。

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6-3誤り検出と訂正

相棒の勧めで、ミナトは999℃が記録された時刻を書き出してみました。並べると、どれも朝6時台と昼前に固まっています。ちょうど、大きなミキサーで生地をこねている時間です。発酵室から事務所へのケーブルは、そのミキサーの真横を通っていました。

ケーブルの中を流れる信号は、近くのモータなどから出る雑音(ノイズ)の影響を受けます。雑音で電圧が乱れると、送り手が0のつもりで送ったビットを、受け手が1と読んでしまうことがあります。困るのは、受け手が届いた値だけを見ても、それが正しいかどうかを判断できないことです。999℃なら明らかにおかしいと分かります。しかし28℃が29℃に化けていたら、記録を見ても誰も気づきません。

そこで送り手は、データに検査のための情報を少し足してから送ります。受け手は届いたデータで同じ計算をやり直し、足された情報と食い違えば、途中で誤りが起きたと判断します。誤りが見つかれば、送り直してもらうか、その値を記録から外せます。

ここから基本情報!誤りを見つける方式

いちばん簡単な方式がパリティチェックです。データに1ビットの検査ビット(パリティビット)を足し、全体の1の個数が偶数か奇数かで誤りを調べます。1の個数を偶数にそろえる決まりを偶数パリティ、奇数にそろえる決まりを奇数パリティといいます。

温度27℃を7ビットの2進数にすると0011011で、1は4個あります。偶数パリティなら、1の個数はすでに偶数なので、パリティビットは0です。送る8ビットは00110110になります。途中で左から5ビットめが0から1に変わって00111110が届くと、1の個数は5個で奇数になり、受け手は誤りに気づけます。

ただし、パリティチェックには限界が二つあります。2つのビットが同時に変わると1の個数の偶奇は元に戻るので、誤りを見逃します。また、誤りがあることは分かっても、どのビットが変わったのかまでは分かりません。

データの値を合計した数を末尾に足して送る方式がチェックサムです。制御盤が1回の送信で温度27、湿度75、ヒーターの状態1を送るなら、合計の103を一緒に送ります。受け手が28、75、1を受け取って足すと104になり、103と合わないので誤りが分かります。もっとも、温度が1増えて湿度が1減るように、合計が変わらない誤り方は見逃します。

もっと見逃しにくい方式にCRC(Cyclic Redundancy Check:巡回冗長検査)があります。送るビット列を多項式とみなし、決めておいた生成多項式で割った余りを、検査のビットとして末尾に付けます。受け手は届いたビット列全体を同じ生成多項式で割り、余りが0にならなければ誤りと判断します。このように生成多項式で割った余りを付ける符号を巡回符号と呼び、CRCはこの巡回符号を誤りの検出に使う方式です。連続した何ビットかがまとめて変わる誤り(バースト誤り)にも強く、有線LANのフレームの末尾などに付けられています。

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誤りが見つかっても、送り直してもらえない場面があります。たとえば、記録した後で時間がたってから読み出すデータや、送り直しを待てない通信です。そうした場面では、見つけるだけでなく、受け手の側で正しい値に直せる仕組みが求められます。

ここから基本情報!誤りを直す符号

誤りの検出に加えて、誤りを訂正することまでできる符号をまとめてECC(Error Correcting Code:誤り訂正符号)と呼びます。サーバのメモリなどで、記憶したビットが変わってしまったときに自動で直すために使われています。

ECCの代表例がハミング符号です。よく使われる形では、4ビットのデータに3ビットの検査ビットを足して7ビットにします。検査ビットは決まった位置(1、2、4ビットめ)に置き、それぞれがデータの違う組み合わせの偶奇を受け持ちます。どの検査ビットの計算が合わないかの組み合わせから、変わったビットの位置が一つに決まるので、1ビットの誤りなら訂正できます。2ビットの誤りは、訂正に使うと1ビットの誤りと見分けられず、別のビットを直してしまいます。誤りがあることを検出するだけにとどめるなら、2ビットの誤りも見つけられます。

誤り検出と訂正の方式の比較
方式足すものできること
パリティチェック1ビットの検査ビット1ビットの誤りを検出(場所は分からない)
チェックサム値の合計誤りを検出(合計が変わらない誤りは見逃す)
CRC生成多項式で割った余り連続した誤りも含めて検出
ハミング符号決まった位置の検査ビット1ビットの誤りを訂正、2ビットの誤りを検出

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6-4入力データのチェック

その夜、店長は翌朝の仕込み表をパソコンに打ち込んでいました。次の朝、発酵室にはクロワッサンの生地のはずの棚に、あんパンの生地が40個並んでいました。商品番号の数字を2つ、逆に打っていたのです。同じ日の表には、食パンの行が二度入っていました。

誤りが紛れ込むのは、ケーブルの上だけではありません。人がキーボードで打ち込むデータにも、打ち間違い、入れ忘れ、二重の入力が起こります。こうした誤りは、データを受け付ける時点でコンピュータに調べさせるのが効果的です。後の処理に流れてしまうと、40個のあんパンのように、形になってから気づくことになります。

ここから基本情報!打ち込んだデータを確かめる

商品番号のように、数字を並べたコードの打ち間違いを見つけるには、コードの末尾に検査用の1けたを足しておきます。この数字をチェックデジット(検査数字)といい、ほかのけたの数字から決まった計算で求めます。

計算の一例を、こむぎ堂の商品番号2045で試します。左のけたから順に重み1、3、1、3を掛けて足すと、2×1+0×3+4×1+5×3=21です。合計を10で割った余りは1なので、10から1を引いた9をチェックデジットにし、商品番号は20459になります。店長が0と4を入れ替えて24059と打つと、2×1+4×3+0×1+5×3=29で、余りが9になります。チェックデジットとして計算し直すと1になり、打ち込まれた9と合わないので、パソコンは誤りを知らせます。

商品番号のけたに意味を持たせておく作り方もあります。1けためを種類(1は食パン、2は菓子パン)、2けためを生地の種類、残りを通し番号にする、というように、けたごとに分類の項目を割り当てたコードをけた別コードと呼びます。番号を見ただけで、おおよその中身が分かります。

コードのほかにも、入力されたデータの並び方や中身を確かめる方法があります。仕込みの番号が1、2、3、5と飛んでいたり、日付が逆の順に並んでいたりしないかを確かめるのがシーケンスチェックです。「焼き上がりの時刻が、仕込みを始めた時刻より前になっている」のように、項目どうしの関係に矛盾がないかを確かめるのが論理チェックです。同じ商品の行が二度入っていないか、同じキーのデータが二重に登録されていないかを確かめるのが重複チェックで、二度入っていた食パンの行は、これで止められます。

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6-5信号同期方式

ミナトは制御盤の「通信設定」の画面を開きました。並んでいたのは「9600bps データ8ビット パリティなし ストップビット1」という4つの項目です。パリティが誤りを見つけるための検査のビットだということは、さっき相棒に教わりました。分からないのは、最後の「ストップビット」でした。

ケーブルを流れてくるのは、電圧の高い・低いの連なりです。電圧の低い状態がしばらく続いたとき、それが0の3つ分なのか4つ分なのかは、1ビットの長さを送り手と受け手が同じに数えていなければ決まりません。どこから1文字が始まり、どこで終わるのかも同じです。送り手と受け手で、データを読み取るタイミングを合わせることを同期と呼びます。同期がずれると、届いたビットは正しくても、区切り方を間違えて別の値として読んでしまいます。

ここから基本情報!区切りを合わせる方式

同期には、合わせる単位の違いでいくつかの段があります。いちばん細かいのが、送り手と受け手で時間の刻み(クロック)を合わせ、1ビットごとの区切りを読み取れるようにするビット同期です。ほかの同期は、このビット同期の上に成り立っています。

ビットが読めても、8ビットずつのまとまり(文字)の切れ目が分からなければ、値は組み立てられません。データの前に決まった制御文字を送り、それを目印に文字の区切りを合わせる方式をキャラクタ同期(SYN同期)といいます。目印に使う制御文字がSYN(同期)という文字で、データの前にふつう2つ以上続けて送ります。受け手は、届いたビット列からSYNの形を探し、そこから8ビットずつ区切って読みます。

文字ではなく、データのまとまり(フレーム)の先頭を見つけて、フレーム単位で区切りを合わせる方式がフレーム同期です。その代表的なやり方が、決まったビットの並び(フラグ)をフレームの始まりと終わりに置き、それを目印にするフラグ同期です。HDLCという通信手順では、01111110という8ビットをフラグに使います。文字の区切りに縛られないので、文字でないデータも送れます。

制御盤の設定にあった方式は、これらとは考え方が違います。1文字ごとに、先頭と末尾に目印のビットを付けて送る方式を調歩同期といいます。送り手と受け手は時間の刻みをずっと合わせ続ける必要がなく、1文字ごとに合わせ直すので、非同期式(調歩式)とも呼ばれます。

1文字ぶんのデータ8ビットの前に0のスタートビット、後ろにパリティビットと1のストップビットを付けて送る調歩同期の並びを、左から右へ時間の流れに沿って示した図
図:調歩同期の1文字。スタートビット、データ、パリティビット、ストップビットの順に送る

何も送っていないあいだ、線は1の状態で待っています。1文字の先頭に付ける0のビットがスタートビットで、受け手は1から0に変わったところを「ここから1文字が始まる」合図として読み取ります。文字の末尾に付ける1のビットがストップビットで、文字の終わりを示し、線を待ちの状態に戻します。ストップビットの長さは設定で選べ、1ビット、1.5ビット、2ビットがあります。

制御盤の設定で計算してみます。データ8ビットにスタートビット1つとストップビット1つを足すと、1文字は10ビットです。9600bps(1秒に9600ビット)の速さなら、1秒に送れるのは9600÷10=960文字です。目印の2ビットの分だけ、データを送る効率は下がります。

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6-6信号処理と制御

999℃の謎に見当が付いても、生地がふくらみすぎた理由はまだ分かりません。ミナトは、正しく届いていた記録だけでグラフを描いてみました。設定は27℃なのに、温度は31℃まで上がり、25℃まで下がり、また30℃へと、波のように上下しています。グラフをのぞき込んだ店長が言いました。「行ったり来たりしているね。ずっと暑いわけじゃないのか」

発酵室の制御盤がしているのは、温度を27℃に保つという仕事です。目標の状態に保つために、機械を動かして対象を操作することを制御といいます。制御盤は、センサで温度を測り、目標の27℃と比べ、低ければヒーターを強め、高ければ弱めます。操作した結果をまた測り、次の操作に生かします。このように、結果を測って入り口へ戻し、目標との差を小さくするように操作を続ける方式をフィードバック制御と呼びます。

温度センサが発酵室の温度を測り、制御盤が目標の27℃と比べてヒーターを動かし、温まった発酵室を再び温度センサが測る、という一周の流れを矢印の輪で示した図
図:フィードバック制御の輪。測る、比べる、動かす、をくり返す

センサが測った値は、そのままでは細かく揺れています。ヒーターの近くの空気のむらや、電気の雑音が混じるからです。揺れた値をそのまま使うと、制御盤はわずかな上下のたびにヒーターを強めたり弱めたりしてしまいます。そこで、信号から雑音や要らない成分を取り除き、必要な成分だけを取り出すフィルタリングを行います。

簡単なフィルタリングの例が、直近のいくつかの値の平均をとる方法です。5回分の値が27.2℃、27.8℃、26.9℃、27.5℃、27.1℃なら、合計は136.5℃で、5で割った27.3℃を今の温度として使います。一回ごとの揺れは0.9℃ありますが、平均にすると細かな上下がならされます。なお、センサの出すアナログの値は、この計算の前にA/D変換でデジタルの値に直されています。

ここから基本情報!制御のしかたと良し悪し

コンピュータが出す答えはデジタルの値ですが、ヒーターの強さのように、機械を動かすにはアナログの電圧や電流が要ることがあります。デジタルの値を、連続的に変わるアナログの信号に直す処理がD/A変換です。A/D変換と向きが逆の処理です。

結果を測らずに、決めた手順どおりに操作するだけの制御もあります。「ヒーターを30分つけて、その後10分止める」をくり返すタイマー式の制御には、測った温度を戻す道がありません。このように出力をフィードバックしない制御をオープンループ(開ループ)制御と呼びます。仕組みが簡単な代わりに、扉を開けて冷たい空気が入っても、それを知らずに同じ操作を続けます。

結果を待たずに先回りする方式もあります。扉が開いたことを検知したら、温度が下がる前にヒーターを強めておく、というように、乱れの原因を先に測って操作を決める方式がフィードフォワード制御です。予測が外れたときの差はフィードフォワードだけでは直せないので、フィードバック制御と組み合わせて使うのが一般的です。

制御の良し悪しは、操作に対して結果がどう動くかで評価します。入力が変わったときに、出力がどれくらいの速さで、どのような経過をたどって新しい値に落ち着くかを応答特性といいます。目標の27℃に向かって温度を上げるとき、すぐに上がるか、上がりすぎて27℃を通り越すかは、応答特性の違いです。

ミナトのグラフで温度が31℃と25℃のあいだを行き来していたのは、制御盤が差を一度に取り戻そうとして、ヒーターを強く動かしすぎていたからだと考えられます。入力や外からの乱れが変わっても、出力が振動したり発散したりせずに目標の値へ落ち着いていく性質を制御安定性といいます。発酵室の制御は、この安定性が足りていませんでした。

制御盤の中のコンピュータには、もう一つ大事な条件があります。温度が上がりすぎたら、決めた時間のうちに必ずヒーターを止めなければなりません。処理を始めてから終えるまでの時間を守ることを目的に設計されたOSをリアルタイムOS(RTOS)といい、組込みシステムの制御によく使われます。速いことより、遅れないことを保証する点に特徴があります。

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6-7センサ

「制御の輪の入り口は、測るところだね。こむぎ堂には、ほかに何を測っている機械があるかな」。相棒にそう聞かれて、ミナトは店の中を見回しました。お客さんが近づくと鳴る入口のチャイム、生地を量るはかり、店長のスマートフォン。測っているものは、思ったよりたくさんありました。

光、熱、力、動きのような物理的な量を検出し、電気の信号に変える部品をセンサといいます。コンピュータによる制御では、センサが対象の状態を測り、コンピュータがその値から判断して、次の節で見るアクチュエータを動かします。何を測りたいかによって、使うセンサが変わります。

センサの種類と測るもの
センサ測るもの使われ方の例
光学センサー光の有無や明るさ物が通ったかの検出、照明の自動点灯
赤外線センサー赤外線(人や物が出す熱など)人が近づいたことの検知、入口のチャイム
磁気センサー磁界の向きや強さスマートフォンの電子コンパス、扉の開閉の検出
加速度センサー加速度(速さの変わり方、傾き)スマートフォンの傾きの検出、歩数計
ジャイロセンサー角速度(回転の速さ)手ぶれ補正、スマートフォンの向きの変化の検出
超音波センサー超音波が跳ね返ってくるまでの時間(距離)自動車の障害物の検出、粉の袋の残り具合
温度センサー温度発酵室やオーブンの温度管理
湿度センサー空気中の水蒸気の量発酵室の加湿器の制御
圧力センサー気圧や押す力気圧計、押されたことの検出

超音波センサで距離を求める計算をしてみます。粉を入れておく大きな容器の天井から真下へ超音波を出し、粉の表面で跳ね返った音が0.01秒後に戻ってきたとします。音の速さを秒速340mとすると、音が進んだ道のりは340×0.01=3.4mです。行って戻ってきた道のりなので、粉の表面までの距離はその半分の1.7mです。距離が伸びていけば、粉が減ってきたと分かります。

ここから基本情報!センサの中の素子

センサの中では、物理的な量の変化を電気の変化に置きかえる素子が働いています。温度の変化に応じて電気抵抗の値が大きく変わる半導体の素子がサーミスタです。抵抗の値を測れば温度が分かるので、温度センサによく使われています。発酵室の温度センサの中にも、この素子が入っているかもしれません。

電流が流れている半導体に磁界をかけると、電流と磁界の両方に直角な向きに電圧が生じます。この現象をホール効果といい、ホール効果を利用して磁界の強さを電圧として取り出す素子をホール素子と呼びます。磁気センサの代表的な部品で、扉に付けた磁石が近いか離れたかで開閉を検出する、といった使い方ができます。

物体に力が加わってわずかに伸び縮みすると、その表面に貼った細い金属の抵抗の値も変わります。この性質を使い、物体の変形(ひずみ)を電気抵抗の変化として測るのがひずみゲージです。生地を量る電子のはかりは、重さで台がわずかにたわむ量をひずみゲージで測り、重さに換算しています。

基本情報の範囲ここまで

6-8アクチュエータ

厨房では、ミキサーが低い音を立てて生地をこねていました。隣の分割機は、シュッと空気の音をさせて、生地を同じ重さに切り分けていきます。センサが測り、コンピュータが判断したあと、実際に物を動かしているのはどの部品なのか、ミナトは機械の側面のふたをのぞきました。

コンピュータからの信号を受けて、電気や油、空気の力を、回る・押す・引くといった機械の動きに変える装置をアクチュエータといいます。センサが制御の輪の入り口なら、アクチュエータは出口にあたります。

いちばん身近なアクチュエータが、電気のエネルギーを回転の動きに変えるモーターです。ミキサーの羽根を回し、発酵室の中の空気をかき混ぜるファンを回しているのも、モータです。回る速さや向きを電気の信号で細かく変えられるので、コンピュータの制御と相性のよい装置です。

まっすぐ押したり引いたりする動きには、シリンダが使われます。筒の中のピストンを、作動油の圧力で往復させるのが油圧シリンダです。油は押し縮められにくいので大きな力を出せ、重い物を持ち上げる建設機械や、金属を押し曲げるプレス機に使われます。圧縮した空気の圧力でピストンを往復させるのが空気圧シリンダです。油圧ほどの力は出ませんが、軽く、動きが速く、油で周りを汚す心配がありません。シュッという音を立てていた分割機の刃も、空気圧で動いていると考えられます。

一週間後の朝、店長は発酵室の扉を開けて、しばらく黙って中を見ていました。棚の食パンの生地は、どの型でも同じ高さにそろってふくらんでいます。ミナトがしたことは二つでした。ケーブルをミキサーから離して通し直し、制御盤とパソコンの両方の通信設定を「パリティなし」から「偶数パリティ」(1文字ごとに検査用のビットを足す設定)に変え、誤りの見つかった値は記録しないようにしたこと。そして、制御盤の業者に頼んで、ヒーターを一度に強く動かしすぎない設定に直してもらったことです。記録からは999℃が消え、グラフの温度は27℃の前後でほとんど揺れなくなりました。

店長が一つの故障だと思っていたものは、二つの別々の問題でした。記録に混じった999℃は、ミキサーのモータの雑音でケーブルの上のビットが変わり、それを見つける仕組みがないまま記録されていたものです。生地のふくらみすぎは、測る・比べる・動かすの輪のうち、動かし方が強すぎて温度が行き来していたことから起きていました。「機械が勝手にちょうどよくしてくれる」は、測る部品、伝える線、判断する設定、動かす部品の全部がかみ合ったときにだけ成り立ちます。

店長は、ふくらんだ生地を窯へ運びながら言いました。「次は窯の温度もパソコンで見られるようにしたいんだけど、あそこは250℃くらいになるよ。同じセンサで測れるのかな」。ミナトは、温度センサの仕様の欄を確かめようと、もう一度説明書を開きました。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(14語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(50語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。