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  4. 第1章 システム監査

システム監査 第1章 マネジメント系・大分類:サービスマネジメント

システム監査

監査の種類と、システム監査を計画し、実施し、報告してフォローアップするまでの流れ。

1-1監査の種類

十二月の夕方、駅前の百貨店から電話がありました。春の催事で、こむぎ堂の予約パンを百貨店の売り場でも受け取れるようにしないか、という話です。店長は喜びましたが、担当者は一つだけ条件を付けました。「予約システムが確かなものかどうか、第三者が点検した結果を見せていただけますか」。去年、別の店の予約が取りこぼされ、売り場にお客さまが並んだのに品物が無かったことがあるそうです。電話を切った店長は言いました。「ミナトが毎日見ているんだから、大丈夫だと書いて渡せばいいんじゃないかな」。ミナトは首を横に振ります。「毎日使っている自分が大丈夫と言っても、百貨店の人は安心しないと思います」。その夜、ミナトは相棒に打ち込みました。「第三者の点検って、誰に、何を頼めばいいの」

パン屋の店先で、百貨店の担当者が「第三者の点検結果」と書かれた紙を差し出し、店長とアルバイトが予約システムの画面を前に顔を見合わせている
図:百貨店が求めたのは、店の外の人による点検の結果だった

相棒の答えは、言葉の整理から始まりました。ある対象が決まりや基準に合っているかを、その対象から離れた立場の人が調べ、結果を伝えることを監査といいます。自分で自分を点検するのとは違い、利害のない人が調べるので、結果を見た人が信用できます。百貨店が欲しがっているのは、まさにこの「離れた立場の人の点検」でした。

監査は、何を調べるかで呼び名が変わります。会社の決算書(財務諸表)が正しく作られているかを調べるのが会計監査で、公認会計士や監査法人が担うことが多い監査です。お金の記録に限らず、仕事の進め方そのものが決まりどおりで、むだなく行われているかを調べるのが業務監査です。予約の受け方、パンの仕込みの段取りまで対象になるので、会計監査より範囲が広くなります。

こむぎ堂が頼むべきなのは、そのどちらでもありません。情報システムを対象に、専門性を持ち、対象から独立した監査人が一定の基準に沿って点検・評価し、システムが適切であると保証するか、改善のための助言をする監査をシステム監査といいます。そのうち、情報を守る対策が基準に合い、きちんと働いているかに的を絞った監査を情報セキュリティ監査と呼びます。予約の取りこぼしを心配している百貨店にはシステム監査の結果が、お客さまの名簿が漏れないかを心配する相手には情報セキュリティ監査の結果が答えになります。

ここから基本情報!義務かどうか、誰がするか

監査は、別の軸でも分けられます。法律で実施が義務づけられている監査を法定監査といい、会社法や金融商品取引法にもとづく会計監査がその代表です。義務ではなく、組織が自分の判断で行う監査を任意監査といいます。システム監査は、法令で義務づけられていない任意監査です。こむぎ堂が監査を受けるのも、法律に言われたからではなく、百貨店との取引のためです。

誰が監査するかでも分かれます。組織に属する人が自分たちの組織を監査するのが内部監査で、大きな会社では、ほかの部署から切り離された監査の部署が受け持ちます。組織の外の独立した人や会社が監査するのが外部監査です。内部監査は会社の事情に通じている分、外から見た独立性は外部監査より低くなります。こむぎ堂のように店の中に監査の担当を置けない小さな組織では、外部監査が現実的な選び方になります。

基本情報の範囲ここまで

1-2システム監査の目的と監査人

商店街の組合が、システム監査を仕事にしている人を紹介してくれました。初めての打ち合わせで、監査人は予約システムの画面を見る前に、店長にこう聞きました。「この監査の結果は、誰が、何に使いますか」。店長は少し考えて、百貨店の名前を挙げました。

システム監査を行う人をシステム監査人といいます。情報システムの知識と監査の技能を持ち、監査する相手から独立した立場にいることが求められます。システム監査人は、情報システムにまつわるリスクに組織がきちんと手を打っているかを、高い倫理観のもとで検証・評価し、保証や助言をします。それによって、組織の仕事が効果的に、むだなく進むのを支え、組織の目標の達成に役立て、取引先やお客さまのような関わりのある人たちへの説明責任を果たせるようにすることが、システム監査の目的です。

監査人が手順や心構えのよりどころにするのが、経済産業省が定めたシステム監査基準です。昭和60年(1985年)に作られ、その後何度か改訂されています。いまの版は令和5年(2023年)に改訂されたものです。監査の結果が「この基準に沿って監査した」と言えることで、監査人が変わっても一定の質が保たれます。打ち合わせの最初の質問も、この基準が求める手順の一つでした。

ここから基本情報!頼む人、使う人、監査人の決まり

監査を頼み、費用を払うのは店長です。このように監査を発注する人を監査依頼者といいます。会社なら、取締役会や経営者が依頼者になるのが一般的です。結果を使う人(ここでは百貨店)は、依頼者と同じとは限りません。システム監査は任意監査なので、何を確かめれば役に立つのかは、依頼者や結果の利用者が何を求めているかで決まります。システム監査基準は、この求めを十分につかんだうえで監査し、監査の質を保つ体制を整えることを求めており、これをニーズの把握と品質の確保(システム監査に対するニーズの把握と品質の確保)と呼びます。

監査人が勝手に店じゅうを調べ回れるわけではありません。監査の意義・目的・対象の範囲と、監査人や監査をする組織が何をしてよく、何に責任を負うのかを、規程や契約書などの文書であらかじめ決めておく必要があります。令和5年版のシステム監査基準は、最初の基準(基準1「システム監査に係る権限と責任等の明確化」)でこれを定めており、シラバスではシステム監査人の権限と責任等という語で載っています。

点検するには、何をもって「よい」とするかの物差しが要ります。システムが適切かどうかを判断するときのよりどころを判断尺度(システム監査上の判断尺度)といいます。システム監査基準は、経済産業省のシステム管理基準、またはそれを組織に合わせて編集した規程を使うのが望ましいとしています。ほかのガイドラインや、組織が独自に定めた規程・マニュアルを使ってもかまいません。

令和5年版のシステム監査基準は、システム監査を、監査人が「ITシステムの利活用に係る検証・評価」を行い、保証や助言をする監査だと定義しています。シラバスの情報システムの利活用に係る検証・評価は、ここから来た語です。システムが動いているかだけでなく、システムをどう使い、使った結果が組織の目的に役立っているかまでを確かめる、という意味が込められています。

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1-3監査人の倫理

二回目の打ち合わせで、監査人は先に断りを入れました。「予約システムを作った業者さんとは、私は仕事でも個人でも関わりがありません。もし知り合いだったら、この仕事はお受けしません」。そして、監査で見せてもらうお客さまの名簿は、監査が終わったあとも外に出さないと書いた紙に署名しました。店長は小声でミナトに言います。「そこまでしてくれるんだ」

監査の結果が信用されるのは、監査人の腕前だけが理由ではありません。調べる相手と利害でつながっていないこと、見つけたことを曲げずに伝えること、知り得た秘密を漏らさないこと。この三つが欠けると、どれほど丁寧に調べた結果でも、受け取った人は疑いを捨てられません。業者の知り合いが「問題なし」と書いた報告書を、百貨店は信じないでしょう。店長が自分の店を点検しても「身内の点検」にしかならないのと同じ理屈です。

ここから基本情報!倫理の4つの原則

監査人が職業人として守るべき心構えを監査人の倫理といいます。令和5年版のシステム監査基準は、倫理を基準の手前に独立した項目として置き、4つの原則を挙げています。誠実性、客観性、監査人としての能力及び正当な注意、秘密の保持です。

一つめの誠実性は、監査の仕事でいつも正直な態度を保ち、強い意志で正しく行動することです。依頼者に都合の悪い事実でも、見つけたら報告書に書きます。人が監査人の判断を信じる第一の理由が、この誠実性です。

平成30年版のシステム監査基準は、基準そのものを、監査の品質を保つための監査人の行為規範(監査人がどう振る舞うべきかの決まり)だと位置づけていました。独立した立場を保つ、能力を磨き続ける、正当な注意を払う、結果を報告する、といった行動が基準として並びます。独立性、能力、注意と秘密を表す基準の見出しは、版ごとに名前を変えてきました。

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監査人が対象から離れた立場にいることは、監査の信用を支える柱の中でも、外から確かめやすいものです。百貨店の担当者は監査人の心の中までは見られませんが、業者と取引がないこと、こむぎ堂の親類でないことなら確かめられます。

ここから基本情報!独立性と、能力・注意・秘密

システム監査基準は、監査が誠実かつ客観的に行われ、さらに監査人が対象から独立した立場で監査しているという外観にも配慮することを求めています。令和5年版ではこれを監査の独立性と客観性の保持と呼びます。平成30年版では「システム監査人の独立性・客観性及び慎重な姿勢に係る基準」という区分を置き、その中の基準4「システム監査人としての独立性と客観性の保持」で、ほぼ同じことを定めていました。

独立性には2つの面があります。偏りを捨てて公正に判断する心の持ち方が精神上の独立性(令和5年版の基準では精神的独立性)で、第三者から見て、監査人と監査対象のあいだに特別な利害関係がないと判断できる状態が外観上の独立性(令和5年版の基準では外観的独立性)です。打ち合わせで監査人が業者との関係を先に話したのは、この外観上の独立性を相手が確かめられるようにするためでした。

監査人は、教育や研修、実務の経験を通じて、監査に必要な知識と技能を保ち、伸ばし続けなければなりません。令和5年版ではこれを専門的能力の保持と向上、平成30年版では監査能力の保持と向上と呼んでいます。サイバー攻撃への備えを調べる監査と、ITの使い方を経営の目で調べる監査とでは、要る知識が違います。

監査の専門家として当然払うべき注意を払うこと、そして仕事で知った秘密を守ることを、まとめて正当な注意と秘密の保持といいます。令和5年版の基準の見出しは「監査の能力及び正当な注意と秘密の保持」です。秘密を守る義務は、監査が終わり、依頼者との関係が切れたあとも続きます。監査人が署名した紙は、この義務を形にしたものです。

行為規範にかかわる語として、ほかに次の2つも押さえておきます。監査の結果を使う人に、対象が適切であるという保証を与え、必要なら改善の助言をすることを監査の利用者に対する保証・助言といいます。監査の結果を報告書にまとめ、依頼者に遅れずに出すことを監査報告書の作成と提出といいます。「監査報告書の作成と提出」は平成30年版の基準11の見出しで、令和5年版では「監査報告書の作成と報告」に変わりました。「監査の利用者に対する保証・助言」は、平成30年版・令和5年版の基準の見出しにはない語なので、意味をつかんでおけば足ります。

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1-4監査の対象と範囲

監査人が、契約の下書きを持ってきました。「監査の対象:予約システム(受付・決済・受け取り・取り消し)」。その下に「対象外:店頭のレジ」とあります。店長が聞きました。「レジは見なくていいの?」。監査人は答えます。「百貨店さんが気にしているのは予約ですから。見ないところは、見ないと書いておくんです」

システム監査が調べるのは、システムが動いているかどうかだけではありません。対象は、システムを企画し、作り(アジャイル開発のような作り方も含みます)、動かし、直し、最後に捨てるまでの流れ全体です。クラウドのような外のサービスを選んで使う流れも対象です。目の付け所も、日々の操作の決まりから、店の方針としてITをどう使うかという経営の判断まで広がります。範囲が広い分、今回はどこまで見るのかを文書と計画で決めておかないと、監査人も依頼者も結果を読み違えます。

では、範囲の中で監査人は何を見るのでしょうか。組織の目的の達成をさまたげるかもしれない、不確かなできごとをリスクといいます。こむぎ堂の予約なら、「同じパンを、焼ける数より多く予約で受けてしまう」がその一つです。リスクを小さくするために、仕事の流れやシステムに組み込んだ仕組みをコントロール(統制)といいます。焼ける数に達したら予約の画面がそのパンの受付を自動で止める設定は、コントロールの例です。監査人は、リスクに見合ったコントロールが用意され、実際に働いているかを確かめます。

ここから基本情報!範囲を決める文書

監査の目的と範囲を決める文書は、内部監査か外部監査かで違います。内部監査なら、組織が自分で定める内部監査規程に、監査の部署の役割、権限と責任、手順などを書きます。経営者などの承認を経て組織全体に知らせておくので、監査を受ける部署は「見せられません」とは言えなくなります。

外部の専門家に監査を頼むときは、システム監査委託契約書を結びます。委託する監査の内容と範囲、監査人の権限と責任、秘密の守り方、報告の相手と時期などを書きます。監査人が持ってきた下書きはこれです。外部に任せても、監査を任せた側が最後の責任を負う点は変わりません。

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1-5監査計画の策定

契約で決まった監査の時間は、3日、合わせて24時間です。監査人はホワイトボードに予約システムの4つの機能を書き、ミナトに聞きました。「全部を同じ細かさで見る時間はありません。どこにいちばん時間を使うべきだと思いますか」

監査を始める前に、監査人はシステム監査計画を立てます。監査の目的とテーマ、対象の範囲、方法、いつ行うか、誰が担当するか、日ごとの段取りを書いた計画です。大きな組織では、何年かを見通す中長期の計画、1年の計画、個々の監査の計画に分けて立てます。こむぎ堂の監査は一回きりなので、一つの監査の計画だけで足ります。

ミナトの答えは「受付です」でした。直感としては正しいのですが、監査人は理由を数字にするよう求めました。リスクの大きさを評価し、その結果にもとづいて、どこを重点的に、どれだけ深く監査するかを決める考え方をリスクアプローチといいます。システム監査基準も、監査計画は主にリスクアプローチで立てるとしています。

二人は、4つの機能について、起こりやすさと、起きたときの影響を3段階で見積もりました。二つを掛けた点数が大きいほど、リスクが大きいと考えます。点数の合計がちょうど24なので、1点に1時間を配ると、持ち時間の24時間にそのまま収まります。

機能心配なこと起こりやすさ影響点数監査の時間
受付受けた予約が記録されない3399時間
決済代金を二重に受け取る2366時間
受け取り別の人の予約を渡してしまう3266時間
取り消し取り消しが反映されない1333時間

取り消しの3時間は、見ないという意味ではありません。リスクが小さいと見積もった所は浅く、大きい所は深く調べるという配分です。限られた時間で、困ることが起きやすい所を見逃さないために、監査はこうして重みをつけます。

予約システムの受付・決済・受け取り・取り消しの4つの箱がリスクの大きさで色分けされ、監査人の砂時計の砂がリスクの大きい受付に多く配られている
図:リスクアプローチ。リスクの大きい所ほど、監査の時間を多く配る

重みづけは計画のときだけで終わりません。実際に調べる段階でも、リスクの評価に応じて、どの手続をどれだけ深く使うかを変えていきます。これをリスクアプローチに基づく監査手続の適用といいます。調べている途中で思っていたより大きなリスクが見つかれば、計画を見直し、時間を配り直します。

1-6監査の実施

一月の月曜、監査の1日目です。監査人はまず、ミナトから予約の受け方を一通り聞き、システムの説明書と業者との契約書を読みました。電話で受けた予約は、いったん紙の注文票に書き、手が空いたときにミナトがシステムに入力している。そう聞いたところで、監査人はノートに印を付けました。

監査計画、予備調査、本調査、評価と結論、監査報告書、改善計画、フォローアップの7つの段階が帯のように並び、こむぎ堂の書類が順に手渡されていく
図:システム監査の流れ。計画から、実施、報告、フォローアップまで

システム監査は、監査計画の策定、監査の実施、監査の報告とフォローアップという順で進みます。真ん中の「実施」は、さらに予備調査、本調査、評価と結論に分かれます。1日目の聞き取りと書類読みは予備調査で、仕事の流れ、担当、使っている書類などの実態をつかむ段階です。本調査では、監査の結論を支える材料を集めます。

計画に沿って、聞き取りや書類の確認、記録の突き合わせといった具体的な作業を行うことを監査手続の適用といいます。一つの確かめたいことに対して、いくつかの手続を組み合わせるのがふつうです。手続の結果として監査人が手に入れ、結論のよりどころにする資料や記録、証言を監査証拠といいます。

証拠は集めればよいわけではありません。結論を支えられるだけの量があり、確かめたいことに合っていて、証明する力を持っているかを判断します。システム監査基準は、これを「十分かつ適切な監査証拠」と呼んでいます。ミナトの「入力し忘れたことはありません」という答えは証拠の一つですが、口で聞いただけでは証明する力が弱く、注文票と記録を突き合わせて裏を取る必要があります。証拠を集め、量と質の両方から足りているかを見きわめる手順を監査証拠の入手と評価といいます。

監査人は、何を、いつ、どの手続で確かめ、何が分かったかを書き残します。この記録を監査調書といいます。監査の結論は、監査調書にもとづいて出すものなので、調書がなければ結論の根拠を示せません。調書を秩序立てて作り、あとで誰かが見直したときにも同じ道筋をたどれるようにし、適切に保管することを監査調書の作成と保管といいます。こむぎ堂の調書にはお客さまの名前も写るので、持ち出しのルールや、無断で見られない守りも要ります。

ここから基本情報!結論を出す

本調査が終わると、監査人は監査調書をくわしく検討し、筋の通った根拠にもとづいて結論を導きます。これを監査の結論の形成といいます。調書から結論までのあいだに論理の飛躍があってはいけません。根拠が足りなければ、手続を追加して証拠を集め直します。

不備が見つかった場合も、そのすべてを報告書で改善を求める問題にするわけではありません。不備のせいで起こりうることと影響の大きさから、対策をしてもなお残るリスクを見積もり、改善を求めるかどうかを判断します。決める前には、監査を受けた側と事実の認識に食い違いがないかを確かめます。

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1-7システム監査技法

2日目、監査人は12月分の注文票の束から40枚を抜き出し、予約システムの記録と1枚ずつ突き合わせていきました。38枚は記録と一致しました。残りの2枚は、注文票はあるのに、システムに予約が入っていません。どちらも、夕方の混む時間に電話で受けた予約でした。ミナトの顔から血の気が引きました。

監査人が証拠を集めるために使う方法をまとめてシステム監査技法といいます。システム監査基準が例に挙げる代表的なものを、表にまとめます。

技法何をするかこむぎ堂での例
チェックリスト法確かめる項目を並べた表に、相手が答える「パスワードを定期的に見直していますか」
ドキュメントレビュー法規程や設計書、記録などの文書を読んで確かめるシステムの説明書、業者との契約書を読む
インタビュー法担当者に直接聞くミナトに予約の受け方を聞く
ウォークスルー法データの流れや処理の手順を、書類や記録を追いながら順にたどる1件の電話予約が注文票から記録になるまでを追う
突合・照合法関係のある複数の記録を突き合わせ、一致するかを確かめる注文票40枚と予約の記録を突き合わせる
現地調査法現場に行き、作業の様子を自分の目で見る夕方の店頭で電話を受ける様子を見る
コンピュータ支援監査技法(CAAT)監査用のソフトウェアなどで、大量のデータを検索・抽出・計算する1年分の予約データから、同じ電話番号の二重予約を探す

突き合わせの結果を数字にすると、40枚中2枚、つまり2 ÷ 40 = 0.05で、5%の注文票がシステムに入っていなかったことになります。12月の電話予約が全部で300件あったなら、同じ割合で15件ほどが漏れていたおそれがあります。抜き出した一部から全体を見積もるので、正確な件数ではありません。それでも、百貨店の売り場で「予約したのに品物が無い」が起こりうることを示すには十分な証拠です。

監査人は、注文票の番号と予約の記録をスプレッドシート(表計算ソフト)に書き出し、二つの列を並べて照合しました。セルに数値や式を入れて集計や計算をするソフトウェアで、件数の照合や割合の計算にも向いています。一方で、利用者が自分で作った表計算のファイルは、式の誤りに誰も気づかないまま使われがちです。店長が手作りしている売上の集計表のように、仕事に使われているスプレッドシートそのものが監査の対象になることもあります。

ここから基本情報!記録と流れをたどる

システムの操作や処理の内容を、日時とともに自動で書き残した記録をログといいます。人が書く注文票と違い、書き忘れや書き換えが起きにくいので、監査証拠として強い力を持ちます。予約システムのログを見ると、漏れていた2件の日の夕方には、予約を入力した操作が一度も記録されていませんでした。入力したのに消えたのではなく、入力そのものがされていなかったと分かります。

入力されたデータが処理を経て出力になるまでを順に、あるいは出力から入力へさかのぼって、処理の流れを追いかけて確かめることをトレースといいます。受け取りの日に渡された袋から注文票までさかのぼれば、途中のどこで記録が抜けたかが見えてきます。

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1-8報告とフォローアップ

2週間後、監査人から報告書が届きました。決済と受け取りについては「適切に管理されている」。受付については、電話で受けた予約の入力漏れが見つかった、とあります。報告書の最後には、どう直せばよいかの提案が2つ書かれていました。店長はそれを読み、ミナトに言いました。「怒られるのかと思ったら、直し方が書いてあるね」

監査の結果をまとめ、依頼者や関係者に出す文書をシステム監査報告書といいます。監査の目的、対象の範囲、実施した期間、監査人、手続の概要などの概要と、結論を中心とした結果を書きます。システム監査基準は、監査の目的に合った形式で報告書を作り、監査の依頼者や適切な関係者に報告することを求めています。シラバスでは監査報告書の作成と報告、ITパスポートのシラバスではシステム監査報告書の作成と報告という語で載っています。報告書は正確で、簡潔で、分かりやすく書き、責める調子を避けて建設的にすることが望ましいとされています。

ここから基本情報!保証と助言、報告書に書くこと

監査で見つかり、報告書で改善を求める問題点を指摘事項といいます。こむぎ堂の報告書では、電話予約の入力漏れが指摘事項です。

システム監査は、目的によって2つに分かれます。対象が基準に照らして適切であることを、監査人が結果の利用者に保証するために行うのが保証を目的としたシステム監査です。取引先の信頼を得るためにお墨付きが欲しい、という求めに応える監査で、百貨店に見せる今回の監査はこちらにあたります。保証の監査で、対象が適切だと判断したことを示す意見を保証意見といいます。

これに対し、不備があれば指摘してもらい、直し方を知りたい、という求めに応えるのが助言を目的としたシステム監査です。助言の監査で、改善のために監査人が示す意見を助言意見といいます。保証意見と助言意見は、平成16年版のシステム監査基準で、報告書の記載事項として並べられていた語です。令和5年版の基準は、保証を目的とする報告書の結果の欄に「結論」「指摘事項」「改善提案及び改善計画」などを書く例を示しています。まず助言の監査で弱い所を直し、整ったところで保証の監査を受ける、という順も一般的です。

平成16年版の基準は、報告書の記載事項に改善勧告も挙げていました。見つかった問題について、具体的な改善策を実行するよう、監査を受けた側に求めるものです。

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報告書の最後にあった2つの提案は、「電話で受けた予約は、受けたその場でシステムに入力する」「閉店時に、その日の注文票の枚数とシステムの予約件数を照合する」でした。問題を解消するために監査人が示す、改善のための提案を改善提案といいます。提案をどう実行するかを決め、実行するのは、監査を受けた店の側です。

ここから基本情報!店が立てる計画

改善提案を受けて、監査を受けた側が作る、何を、誰が、いつまでに、どう直すかの計画を改善計画といいます。店長は「2月から、電話の予約は受話器を置く前に入力する。閉店時の照合は店長がする」と書き、監査人に送りました。報告の前に監査を受けた側が改善計画を作っていれば、報告書にそれを載せることもあります。

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報告書を出したところで、監査そのものは終わります。ただ、提案が実行されたかを確かめなければ、監査の効き目は分かりません。改善提案が適切に、時機を逃さず実行されているかを、監査人があとから確かめる活動をフォローアップといいます。シラバスでは改善提案のフォローアップという語で、システム監査基準の報告の基準の一つにあたります。

フォローアップで監査人が責任を負うのは、改善が適切かどうかを確かめて報告するところまでです。改善の実行そのものには責任を負いません。監査人が改善の計画づくりや実行に加わると、次に監査するとき、自分の手がけた仕組みを自分で点検することになり、独立性と客観性が損なわれるからです。

ここから基本情報!フォローアップの結果

フォローアップが終わると、監査人はその結果をフォローアップ報告書にまとめ、監査を受けた側に渡します。重要な内容なら、経営者などにも報告します。改善が不十分だったり、放置されたりしていれば、もう一度改善を求めます。

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1-9その他の監査と基準

報告書を受け取った百貨店の担当者から、もう一つ質問が来ました。「催事では、受け取りに来るお客さまの名前と電話番号を、売り場でもお預かりします。個人情報の扱いは、どう確かめればよいでしょう」。ミナトは、監査には予約システムのほかにも種類があったことを思い出しました。

システム監査のほかにも、情報システムに関わる監査があります。情報セキュリティ監査、個人情報の扱いを確かめる個人情報保護監査、法令を守っているかを確かめるコンプライアンス監査などです。どれも、何を判断尺度にするかで中身が決まります。

情報セキュリティ監査の判断尺度としてよく使われるのが、経済産業省の情報セキュリティ管理基準です。組織が情報セキュリティのために何を決め、どんな対策を取るべきかを並べた基準で、情報セキュリティマネジメントの国際規格にもとづいて作られています。システム監査基準も、情報セキュリティを監査するときは、システム管理基準とあわせてこの基準を参照するのが望ましいとしています。

ここから基本情報!監査人の基準と、物差しの基準

情報セキュリティ監査を行う監査人が守るべき基準が、同じく経済産業省の情報セキュリティ監査基準です。名前が似ていますが、管理基準は「組織の対策が何を満たすべきか」という物差しで、監査基準は「監査人がどう監査すべきか」という監査人の決まりです。システム監査基準とシステム管理基準の関係と同じ組み合わせです。

監査の種類監査人が守る基準判断尺度になる基準
システム監査システム監査基準システム管理基準
情報セキュリティ監査情報セキュリティ監査基準情報セキュリティ管理基準

クラウドサービスを提供する事業者や利用する組織の情報セキュリティを確かめるための物差しとして、クラウド情報セキュリティ管理基準があります。経済産業省ではなく、特定非営利活動法人日本セキュリティ監査協会(JASA)が作った基準で、情報セキュリティ管理基準の考え方を、クラウドに特有の事情(設備を多くの利用者で共有する、事業者と利用者で責任を分け合う、など)に合わせて広げたものです。

情報セキュリティや品質のように、組織が仕組み(マネジメントシステム)として取り組む活動を監査するときの指針がJIS Q 19011(マネジメントシステム監査のための指針)です。国際規格ISO 19011に対応する日本産業規格で、監査の原則、監査の計画の立て方、監査員に求められる力量などを示しています。

基本情報の範囲ここまで

百貨店の質問に答えるには、個人情報を守る体制を外の目で確かめてもらった証しが役に立ちます。個人情報を適切に扱う体制を整えている事業者に、審査を経てマークの使用を認める仕組みがプライバシーマーク制度です。一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)が運営しており、審査の基準には、個人情報保護の体制について定めた日本産業規格(JIS)が使われます。マークがあれば、取引先は体制が審査を通ったことを確かめられます。

ここから基本情報!プライバシーマークの物差し

プライバシーマークの審査で使われる規格がJIS Q 15001(個人情報保護マネジメントシステム-要求事項)です。個人情報をどう集め、使い、預け、捨てるかについて、組織が整えるべき仕組みを要求事項として定めています。

基本情報の範囲ここまで

コンプライアンス監査では、法令そのものが判断尺度になります。情報システムを作り、動かすときにも、守るべき法律があるからです。

著作物を創作した人の権利を守る法律が著作権法です。プログラムも著作物として守られます。予約の画面に、ネットで見つけたパンのイラストを無断で使っていないか、業者が作ったプログラムを契約の範囲を超えて複製していないかは、この法律に照らして確かめます。

営業秘密を守り、他人の商品表示をまねるような不正な競争を禁じる法律が不正競争防止法です。お客さまの名簿や秘伝のレシピが営業秘密として守られるには、秘密として管理されていること、事業に役立つこと、世間に知られていないことの3つがそろっている必要があります。名簿のファイルを誰でも開ける場所に置いていれば、秘密として管理しているとは言いにくくなります。

働く人の労働条件の最低基準を定めた法律が労働基準法です。アルバイトのシフトをシステムで組んでいるなら、労働時間や休憩、休日がこの法律の基準を下回っていないかも監査の対象になります。

3月の初め、監査人がもう一度こむぎ堂に来ました。フォローアップです。2月分の注文票から40枚を抜き出して記録と突き合わせると、40枚すべてが一致しました。閉店時の照合を書き込んだ店長のノートも、毎日欠けずに続いていました。フォローアップ報告書には「改善済み」とありました。

春の催事の初日、百貨店の売り場には、こむぎ堂のパンを受け取るお客さまの列ができました。予約の数と、並べた袋の数は、最後の一つまで合っていました。百貨店の担当者に渡したのは、システム監査報告書とフォローアップ報告書の2通です。ミナトが毎日見ていたことは変わっていません。変わったのは、それを店の外の人が、決まった手順で確かめ、証拠とともに書き残したことでした。

ただ、帰り道に店長がつぶやいた一言が、ミナトの頭に残っています。「入力漏れに誰も気づかなかったのは、全部ミナト一人に任せていたからかもしれないね」。店の中で間違いに気づける仕組みをどう作るのか。ミナトは、まだその答えを持っていませんでした。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(29語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(66語)を暗記カードで覚える

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