1-1ネットワークの種類と特徴
こむぎ堂の2階に、焼きたてのパンをその場で食べられる小さな喫茶スペースができることになりました。テーブルを運び込んだ日、ミナトは予約受付のタブレットを2階へ持って上がり、画面を見て首をかしげます。Wi-Fiの印が消えて、予約の一覧が読み込まれません。1階のレジとも、通販のサーバとも話せなくなっていました。階段の下から、ケーブルの束を抱えた店長が声をかけます。「線を延ばすのと、電波を飛ばすの、どっちがいいの。ついでに、回線の契約も使った分だけ払う今のままでいいのか、見てくれないかな」。新しいメニューの写真を通販のサーバへ送るのに何秒かかるのかも、ミナトにはまだ見当がつきません。相棒に相談すると、返事は短いものでした。「店の中と外の境目から、順にたどってみよう」
こむぎ堂の中には、つながっている機器がいくつもあります。レジ、予約受付のタブレット、事務所のパソコン、厨房のオーブンの温度を測るセンサ。これらは店の建物の中だけで結ばれていて、この範囲のネットワークをLAN(Local Area Network)といいます。LANは店や会社が自分で機器をそろえ、自分で配線して作ります。
一方、通販のサーバは店の中にありません。離れた場所どうしを結ぶ広い範囲のネットワークはWAN(Wide Area Network)と呼ばれます。店の前の道路に自分で線を引くわけにはいかないので、WANを作るときは、通信事業者が用意した通信回線を借りて使います。電話線や光ファイバのように、事業者がデータを送受信するために提供している回線のことです。
LANでもWANでも、送る側の機器から受ける側の機器へ信号を届ける道筋そのものを伝送路と呼びます。銅のケーブル、ガラスの細い線、空中を飛ぶ電波も、どれも伝送路です。こむぎ堂の2階で起きているのは、タブレットとLANのあいだに伝送路がない、という状態でした。
こむぎ堂が契約しているのは、光ファイバを使った高速の回線です。動画や大きな写真を送れる、高速で大容量の回線をまとめてブロードバンド回線(ブロードバンド)と呼びます。光ファイバのほか、ケーブルテレビの回線などもこれに含まれます。
回線をつないだだけでは、まだインターネットには出られません。利用者にインターネットへの接続サービスを提供する事業者がISP(インターネットサービスプロバイダ)です。店長が毎月払っている通信費には、回線の料金とISPの料金が含まれています。
店長が気にしていた料金の決め方は、大きく二つに分かれます。使った時間やデータの量に応じて料金が増える方式を従量制(従量課金)といいます。あまり使わない月は安く済みますが、写真や動画をたくさん送る月は高くなります。
ここから基本情報!料金の決め方と建物の配線
従量制と対になるのが、使った量にかかわらず毎月決まった額を払う月額固定料金(固定料金制)です。通信量が多い使い方なら固定料金の方が安く、少ない使い方なら従量制の方が安くなります。こむぎ堂のように毎日写真を送り、予約の通信が途切れない店は、固定料金に向いています。
LANを作るときは、建物の中の配線も考えます。大きなビルでは、外から引き込んだ回線をまず建物の主配線盤(MDF)で受け、そこから各階に置いた中間の配線盤へ分けて、さらに各部屋へ配線します。この中間の配線盤をIDF(Intermediate Distribution Frame)といいます。階ごとの配線をIDFでまとめておくと、ある階の配線を変えるときに、その階だけを触れば済みます。
オーブンの温度センサのように、測った値を送るだけの小さな機器を多数つなぐネットワークもあります。温度や湿度、位置などを測るセンサを無線などで結び、観測したデータを集めるネットワークをセンサーネットワークと呼びます。工場の設備や畑の見回りなど、IoTの仕組みで広く使われています。
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LANのつなぎ方には、目的を絞ったものもあります。複数のサーバと、データをしまう記憶装置(ストレージ)だけを専用の高速なネットワークで結び、ストレージを共有してまとめて管理する仕組みをストレージエリアネットワーク(SAN)といいます。ふつうのLANと分けておくことで、大量のデータの読み書きが、ほかの通信の邪魔をしません。
1-2有線LAN
店長が抱えていたのは、灰色のLANケーブルの束でした。「これを階段に沿わせて2階まで延ばせば、つながるんでしょ」。ミナトがケーブルの先を見ると、透明なプラグの中に8本の細い線が並んでいます。この線の中を、何がどう流れているのでしょうか。
ケーブルで機器を物理的につないで作るLANを有線LANといいます。電波を使う方式に比べて、電子レンジや壁の影響を受けにくく、通信が安定しやすいのが利点です。その代わり、機器を置く場所までケーブルを引く手間がかかります。
有線LANで広く使われている通信方式がイーサネット(Ethernet)です。ケーブルの種類やつなぎ方、データの送り方などの決まりは、米国に本部を置く学会のIEEEがIEEE802.3という番号の規格として定めています。店で売っているLANケーブルや、パソコンのLANの差し込み口は、この規格に沿って作られています。
機器どうしをつないで、電気や光の信号を伝える線状のものがケーブルです。有線LANの伝送路は、ケーブルそのものだといえます。
ここから基本情報!ケーブルの種類
ケーブルには、中の作りが違うものがいくつかあります。用途によって使い分けられています。
| ケーブル | 作り | 特徴と使われる所 |
|---|---|---|
| より対線(ツイストペアケーブル) | 2本の銅線をらせん状にねじり合わせ、その組を何組か束ねる | ねじることで外からの雑音の影響を減らす。安くて扱いやすく、LANケーブルの多くはこれ |
| 同軸ケーブル | 中心の導線を絶縁体で包み、その外側を網状の導体で同心円状に覆う | 外の導体が盾になり、雑音に強い。テレビのアンテナ線やケーブルテレビで使われる |
| 光ファイバケーブル(光ファイバ) | ガラスやプラスチックの細い線の中を、光の信号が進む | 電気の雑音を受けず、長い距離でも大容量を送れる。通信事業者の回線や、建物どうしを結ぶ配線で使われる |
店長の抱えていた灰色のケーブルも、プラグの中の8本は4組のより対線でした。
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ケーブルの反対側は、機器のLANの差し込み口につながります。パソコンなどに取り付けて、LANにつなぐ機能を持たせる拡張カードをNIC(ネットワークインタフェースカード)といいます。いまのパソコンでは、同じ働きをする回路が最初から本体の基板に組み込まれていることがほとんどです。
NICには、製造されたときに機器ごとの番号が書き込まれています。これがMACアドレス(物理アドレス)です。48ビットの番号で、「00-1A-2B-3C-4D-5E」のように16進数12桁で書き表します。LANの中でデータを届けるときは、この番号で相手の機器を見分けます。
ここから基本情報!MACアドレスの中身
MACアドレスの48ビットは、前半と後半で意味が分かれています。上位24ビットは、IEEEが製造する会社ごとに割り当てる番号で、OUI(Organizationally Unique Identifier)と呼ばれます。下位24ビットは、その会社が自社の製品に重ならないように付ける番号です。OUIを見れば、そのNICをどの会社が作ったかが分かります。
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ケーブルを新しく引かずに有線の通信をする方法もあります。建物の中の電気の配線(電力線)にデータの信号を重ねて送る技術をPLC(電力線通信)といいます。コンセントに差して使うPLCアダプタを1階と2階に1台ずつ置けば、壁の中の電線がLANケーブルの代わりになります。ただし、同じ電線につながった電気製品の雑音の影響を受けることがあります。
ここから基本情報!LANから電源を入れる
有線LANには、離れた場所から機器の電源を入れる使い方もあります。電源が切れているパソコンでも、NICには少しだけ電気が通っていて、自分のMACアドレスを並べた特別なデータ(マジックパケット)が届くのを待っています。これを受け取るとパソコンが起動する仕組みをWake on LAN(WOL)といいます。開店前に、事務所のパソコンを厨房から起こしておく、といった使い方ができます。
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1-3無線LAN
ケーブルを階段に這わせてみると、お客さんの足元を横切ってしまうことが分かりました。「お客さんがつまずいたら困るね。やっぱり電波かな」と店長。ミナトがスマートフォンの設定画面を開くと、近所の家や隣のカフェの名前が、ずらりと並んでいます。2階には、こむぎ堂の名前だけが出てきません。
ケーブルを使わず、電波で機器をつないで作るLANを無線LANといいます。配線がいらないので機器を自由に動かせますが、壁や距離で電波が弱まり、ほかの電波の影響も受けます。無線LANの規格はIEEE802.11のシリーズとして定められています。
この規格に沿った製品がきちんとつながるかを、業界団体のWi-Fi Allianceが試験して認定しています。認定を受けた無線LANの技術や製品の呼び名がWi-Fiです。いまでは、無線LANとほとんど同じ意味で使われています。規格が新しくなるたびに番号が増えたため、Wi-Fi Allianceは世代ごとの呼び名を付けました。
| 世代の呼び名 | もとの規格 | 使う周波数帯 |
|---|---|---|
| Wi-Fi 4 | IEEE 802.11n | 2.4GHz帯・5GHz帯 |
| Wi-Fi 5 | IEEE 802.11ac | 5GHz帯 |
| Wi-Fi 6 | IEEE 802.11ax | 2.4GHz帯・5GHz帯 |
| Wi-Fi 6E | IEEE 802.11ax | Wi-Fi 6の帯域に6GHz帯を加える |
ここから基本情報!電波という伝送路
空間を伝わる電磁波のうち、通信や放送に使われるものを電波といいます。周波数によって性質が違い、無線LANでよく使う2.4GHz帯は壁を回り込みやすく遠くまで届く反面、電子レンジなど同じ帯域を使う機器と干渉しやすくなります。5GHz帯は干渉が少ない代わりに、壁などの障害物で弱まりやすい帯域です。
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電波ではなく光で通信する方法もあります。目に見える光より波長の長い赤外線は、テレビのリモコンや、以前の携帯電話どうしのデータのやり取りで使われてきました。ただ、相手が見通せる近い距離でしか届かず、間に人が立つだけで途切れます。2階のテーブルのあいだをつなぐには向いていません。
無線LANの端末と、ケーブルの側のネットワークとを中継する機器が無線LANアクセスポイント(AP)です。タブレットが出した電波をAPが受け取り、有線LANへ流します。2階で電波が弱かったのは、APが1階のレジの奥にしか無かったからでした。
APには、ネットワークを見分けるための名前を付けます。この名前がSSID(Service Set Identifier)です。複数のAPをまとめて一つのネットワークとして扱えるように広げたものをESSID(Extended SSID)と呼びますが、いまはSSIDとESSIDをほぼ同じ意味で使います。APは、SSIDなどの情報を載せた信号を一定の間隔で周りに送っていて、これをビーコンといいます。ミナトのスマートフォンに近所のネットワークの名前が並んだのは、ビーコンを受け取っていたからです。
喫茶スペースのお客さんにもWi-Fiを使ってもらうなら、レジや予約のタブレットと同じネットワークに入れるわけにはいきません。そこで、ふだんのネットワークとは別に、来客向けの名前を用意します。これをゲストSSIDといい、ゲストSSIDにつないだ機器はインターネットにだけ出られ、店の中の機器には届かないように分けられます。同じ機能を、メーカーによってはゲストポートと呼んでいます。来訪者のスマートフォンなどに、一時的にインターネットへの接続だけを許す機能です。
無線LANでは、電波を拾われても中身を読まれないように、通信を暗号化します。お店や家庭向けの設定でよく使うのが、APと端末にあらかじめ同じ鍵を持たせておくPSK(Pre-Shared Key)という方式です。その鍵のもとになる文字列がパスフレーズで、端末をつなぐときに入力する「Wi-Fiのパスワード」はふつうこれを指します。短く単純なパスフレーズでは、鍵を推測されるおそれがあります。
長いパスフレーズを端末ごとに打ち込むのは手間です。APのボタンを押す、あるいは決められたPINコードを入力するだけで、暗号化の設定を端末に渡せるようにする規格をWPS(Wi-Fi Protected Setup)といいます。
APを通さない無線の使い方もあります。対応した2台の機器が、APを経由せずに直接Wi-Fiでつながるための規格がWi-Fi Directで、スマートフォンからプリンタへ直接写真を送るときなどに使われます。このときは、つながる2台のうち1台がAPの役を引き受けています。APの役を置かず、端末どうしが対等に直接通信し合う無線ネットワークのつなぎ方はアドホックネットワークと呼びます。
1-4交換方式
2階の準備の最中に、店の電話が鳴りました。常連さんからの予約で、店長が話しているあいだ、別のお客さんからの電話は「話し中」になってしまいます。ところが同じ時間に、タブレットではネットの予約が次々と受け付けられていました。電話は1本ずつしか話せないのに、ネットはどうして同時に何件も受けられるのでしょうか。
違いは、データの運び方にあります。インターネットでは、送りたいデータを小さな単位に分け、それぞれに宛先などの情報を付けて送ります。この分けた単位をパケットといいます。パケットは、宛先や送り主などを書いた見出しの部分(ヘッダ)と、運ぶデータ本体とでできています。
データをパケットに分けて送受信する通信のしかたをパケット通信といいます。1本の回線の上を、いろいろな相手宛てのパケットが入り混じって流れるので、複数の通信が同じ回線を分け合えます。こむぎ堂の予約が同時に何件届いても受け付けられたのは、このためです。スマートフォンの料金が「パケット」の量で語られるのも、通信の量をパケットで数えるからです。
ここから基本情報!回線交換とパケット交換
通信したい端末どうしを、ネットワークの中でどうやって結ぶか。その方式をまとめて交換方式と呼び、大きく二つに分かれます。
一つは、通信を始めるときに相手までの回線を確保し、通信が終わるまでその回線を占有し続ける回線交換です。昔からの電話がこの方式で、こうした仕組みで作られた通信網を回線交換網といいます。話しているあいだは回線がずっと自分のものなので、通信の速さや遅れが安定します。その代わり、話していないあいだも回線はほかの人に使われず、相手が話し中なら別の人はつながりません。
もう一つが、データをパケットに分け、途中の交換機で一度ためてから次へ送り出していくパケット交換です。この方式の通信網をパケット交換網と呼び、インターネットはその代表です。回線を占有しないので、空いている時間を多くの通信で分け合え、回線を無駄なく使えます。ただし、混み合うとパケットが交換機で待たされ、届くまでの時間がばらつきます。
| 観点 | 回線交換 | パケット交換 |
|---|---|---|
| 回線の使い方 | 通信中は占有する | 多くの通信で分け合う |
| 速さと遅れ | 一定で安定している | 混み具合で変わる |
| 回線の使用効率 | 話していない時間も確保するので低い | 空き時間をほかの通信が使うので高い |
| 代表例 | 従来の電話網 | インターネット |
電話の音声を、パケット交換のネットワークで運ぶこともできます。声をデジタルのデータにしてIPのパケットに詰め、インターネットなどのIPネットワークで送る技術をVoIP(Voice over Internet Protocol)といいます。IP電話はこの技術で作られています。こむぎ堂の電話をIP電話にすれば、1本の光回線で、電話とネットの予約の両方をまかなえます。
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1-5回線に関する計算
新しいメニューの写真が撮れました。30枚まとめて、ファイルの大きさは合わせて30MB。店長は「送るのに1分もかかるなら、開店前にやっておきたい」と言います。契約書には、回線の速さとして「最大100Mbps」と書いてありました。ミナトは計算機を取り出します。
回線がどれだけの速さでデータを運べるかを、1秒あたりに送れるデータの量で表したものを伝送速度といいます。単位はbps(bits per second、ビット毎秒)で、1秒間に何ビット送れるかを示します。100Mbpsなら、1秒間に1億ビットです。通信の速さを表すときの k や M は、1,000倍ずつの単位として使います。
実際にデータをやり取りするときの、1秒あたりに送れたデータの量を転送速度と呼びます。伝送速度とほぼ同じ意味で使われ、どちらもbpsで表します。
ここで単位がそろっていないことに気づきます。写真の大きさはバイト(B)、回線の速さはビット(b)で書かれています。1バイトは8ビットなので、まずビットに直します。
| 手順 | 計算 |
|---|---|
| 1. データ量をビットに直す | 30MB × 8 = 240Mビット |
| 2. 伝送速度で割る | 240Mビット ÷ 100Mbps = 2.4秒 |
転送にかかる時間は「データ量(ビット)÷ 伝送速度(bps)」で求まります。30枚の写真は、計算のうえでは2.4秒で送れます。1分どころか、店長がコーヒーを一口飲むあいだに終わる計算です。
ただし、この速さがいつも出るとは限りません。回線や中継の機器が処理できる量を超えて通信が集中すると、パケットが渋滞して遅れたり、届かなくなったりします。この状態を輻輳(ふくそう)といいます。お昼どきに予約と注文の通信が一度に押し寄せると、こむぎ堂の回線でも起こりえます。
ここから基本情報!実際に使える速さで計算する
契約書の「最大100Mbps」は、その回線が扱える最大の量を表しています。回線が規格のうえで1秒間に送れる最大のデータ量を回線容量と呼び、ほぼ同じ意味で帯域幅(バンド幅)という言い方もします。「帯域が足りない」は、送りたい量に対して回線容量が小さい、という意味です。
回線容量のすべてを、送りたいデータに使えるわけではありません。回線の能力のうち、実際に通信に使われている割合を回線利用率といいます。また、パケットのヘッダのような制御のための情報も回線を流れるので、データ本体を運ぶのに使える割合はそのぶん減ります。最大の速さのうち、実際のデータの伝送に使える割合を伝送効率と呼びます。計算問題では、どちらも「伝送速度にかける割合」として使われます。
| 手順 | 計算 |
|---|---|
| 1. データ量をビットに直す | 30MB × 8 = 240Mビット |
| 2. 実際に使える速さを出す | 100Mbps × 0.8 = 80Mbps |
| 3. 使える速さで割る | 240Mビット ÷ 80Mbps = 3秒 |
伝送効率が80%なら、転送時間は「データ量 ÷(伝送速度 × 伝送効率)」で3秒になります。割合をかけ忘れると2.4秒と答えてしまうので、問題文に割合が出てきたら、まず速さの側にかけます。
速さとは別に、信号が送り手から受け手まで伝送路を伝わるのにかかる時間もあります。これを伝送遅延(伝搬遅延)といい、伝わる距離を信号の進む速さで割って求めます。地上から遠く離れた通信衛星を経由する通信では、この遅れが目立つほど大きくなります。
回線の品質を表す指標もあります。送ったビットのうち、誤って受け取られたビットの割合をビット誤り率(BER)といいます。1億ビット送って1ビット誤れば、ビット誤り率は1億分の1です。値が小さいほど、品質のよい回線です。
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ここから基本情報!電話の混み具合を数える
電話の回線が何本あれば足りるかを考えるときは、電話がどれだけ使われているかを数で表します。ある時間のあいだに、通話がどれだけの頻度で、どれだけの長さ続いたかから求める量を呼量といいます。呼量は「通話の回数 × 1回の平均の通話時間 ÷ 測った時間」で計算します。
呼量の単位はアーランです。1本の回線が、測った時間のあいだずっと使われ続けた状態が1アーランで、平均して何本の回線が同時に使われているかを表すと考えれば分かりやすくなります。こむぎ堂の予約電話が、昼の1時間に15回かかってきて、1回の通話が平均4分だったとすると、15 × 4 ÷ 60 = 1アーランです。平均すると、いつも1本がふさがっている計算になります。
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1-6IPアドレス
写真の送り先は、通販のサーバです。そのサーバの設定画面を開くと、「接続を許可する店のアドレス」という欄に、「203.0.113.25」のような数字が書かれていました。ところが、事務所のパソコンの設定を見ると、こちらには「192.168.1.12」とあります。同じ店なのに、どうして番号が二つあるのでしょうか。
インターネットでパケットを届けるには、宛先の機器を番号で特定します。ネットワークにつながった機器を見分けるために割り当てる番号がIPアドレスです。MACアドレスが同じLANの中で相手を見分ける番号なのに対して、IPアドレスはネットワークをいくつも越えた先の相手を見分けるのに使います。
いま広く使われているIPv4では、IPアドレスは32ビットです。8ビットずつ4つに区切り、それぞれを0〜255の10進数にして「192.168.1.12」のように点でつないで書きます。32ビットで表せる番号は約43億個しかなく、世界中の機器に配るには足りなくなりました。そこで作られたのがIPv6で、アドレスを128ビットに広げています。IPv6のアドレスは、16ビットずつ8つに区切った16進数を「:」でつないで書きます。
番号の足りなさを補うもう一つの工夫が、アドレスの使い分けです。インターネットの上で世界に一つしかないように管理され、インターネットと直接やり取りするのに使うアドレスをグローバルIPアドレス(グローバルアドレス)といいます。こむぎ堂では、ISPから割り当てられた一つのグローバルIPアドレスを、ルータが持っています。
それに対して、店や会社の中のLANだけで使うアドレスがプライベートIPアドレス(プライベートアドレス)です。LANの中で重ならなければ自由に付けてよく、ほかの店のLANと同じ番号を使っていてもかまいません。その代わり、プライベートIPアドレスのままではインターネットに出られません。使ってよい範囲は決められていて、IPv4では次の三つです。
| 範囲 | よく使われる場面 |
|---|---|
| 10.0.0.0 〜 10.255.255.255 | 大きな会社や学校のLAN |
| 172.16.0.0 〜 172.31.255.255 | 中くらいの規模のLAN |
| 192.168.0.0 〜 192.168.255.255 | 家庭や小さな店のLAN |
通販のサーバの欄にあった「203.0.113.25」は店のルータのグローバルIPアドレス、事務所のパソコンの「192.168.1.12」はLANの中だけのプライベートIPアドレスでした。パソコンがインターネットへ出るときは、ルータがアドレスを置き換えて送り出しています。
ここから基本情報!アドレスの変換とクラス
プライベートIPアドレスとグローバルIPアドレスを、通信のたびに置き換える技術をNAT(Network Address Translation)といいます。基本のNATは、プライベートとグローバルのアドレスを1対1で対応させます。こむぎ堂のように一つのグローバルIPアドレスを店じゅうの機器で分け合う場合は、アドレスに加えて通信の窓口の番号(ポート番号)も置き換える方式を使います。この方式はNAPTやIPマスカレードと呼ばれます。
IPv4のアドレスは、前半の「どのネットワークか」を表す部分(ネットワーク部)と、後半の「そのネットワークの中のどの機器か」を表す部分(ホスト部)に分かれます。初期のIPv4では、この境目を先頭のビットの並びで決め、A〜Eに分けていました。この分類をアドレスクラスといいます。いまは、境目を自由な位置に置ける方式(CIDR)が主に使われています。
小さな組織向けだったのがクラスCで、先頭の3ビットが「110」で始まり、ネットワーク部が24ビット、ホスト部が8ビットです。ホスト部の8ビットで表せるのは256通りですが、すべて0(ネットワークそのものを表す)とすべて1(ネットワーク全体への一斉送信を表す)は機器に使えないので、付けられる機器は254台までです。「192.168.1.12」は、クラスで言えばクラスCの範囲にあります。
特別な役目を持つアドレスもあります。127で始まるIPv4アドレスは、ネットワークへ出ていかず、自分自身の機器を指すように決められています。これをループバックアドレスといい、よく使われるのは127.0.0.1です。機器の中の通信の仕組みが動いているかを確かめるときなどに使います。
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1-7ドメイン名とDNS
店長は、通販のサーバの番号を覚えていません。開くときは、ブラウザに「www.komugido.example」と打ち込むだけです。「数字なんて見たこともないよ」。それでも、パソコンはちゃんとサーバにたどり着きます。名前から番号への置き換えは、どこで行われているのでしょうか。
数字の並びのIPアドレスは、人には覚えにくいものです。そこで、IPアドレスに対応させて付ける、人が読める名前がドメイン名(ドメイン)です。「komugido.example」のように点で区切り、右へ行くほど大きな区分を表す階層の形をしています。日本のドメインなら末尾が「.jp」、その中でも会社向けなら「.co.jp」のように、末尾から順に区分が細かくなっていきます。
「www.komugido.example」の先頭の「www」は、そのドメインの中にある1台の機器、ここではWebのサーバを指しています。ネットワーク上の機器を見分けるために付ける、このような名前をホスト名といいます。
ここから基本情報!ドメイン名の書き方
ドメイン名のいちばん右、最上位の区分をTLD(Top Level Domain)といいます。「.jp」のような国や地域を表すものと、「.com」のような分野を表すものがあります。ホスト名からTLDまでを省略せずにすべて書いた「www.komugido.example」のような形をFQDN(Fully Qualified Domain Name、完全修飾ドメイン名)と呼びます。FQDNで書けば、インターネットの上でどの機器かが一つに決まります。
基本情報の範囲ここまで
ドメイン名とIPアドレスの対応を管理し、名前から番号を調べられるようにする仕組みがDNS(Domain Name System)です。名前からIPアドレスを調べることを名前解決といいます。世界中のドメイン名を1か所で管理するのではなく、「.jp」は「.jp」の担当、「komugido.example」はその持ち主、と階層ごとに分けて管理しています。
名前解決の問い合わせに答えるサーバをDNSサーバ(ネームサーバ)といいます。店長がアドレスを打ち込むと、パソコンはまずDNSサーバに「www.komugido.example のIPアドレスは何番か」と尋ね、返ってきた番号を宛先にして、サーバへパケットを送ります。店長が数字を見たことがないのは、この問い合わせをパソコンが毎回代わりにしているからでした。
ここから基本情報!DNSサーバの役割分担
パソコンから問い合わせを受けたDNSサーバは、答えを知らなければ、階層の上から順にほかのDNSサーバへ尋ねて回ります。答えを得たら、しばらくのあいだ覚えておき、同じ問い合わせにはすぐ答えます。このように問い合わせの結果を一時的にためておくDNSサーバをDNSキャッシュサーバといいます。ためた答えが偽物にすり替えられると、利用者が偽のサイトへ誘導されてしまうため、攻撃の的にもなります。
ドメインの持ち主の側では、DNSサーバが止まると名前解決ができなくなるので、同じ情報を持つサーバを2台以上置くのがふつうです。元になる情報を持つプライマリサーバから、控えのセカンダリサーバへ、ドメインの情報(ゾーン情報)を丸ごと写す仕組みをゾーン転送といいます。誰からでもゾーン転送を受け付ける設定にしておくと、組織の中の機器の名前と番号の一覧を外に渡すことになるので、送り先はセカンダリサーバに限ります。
基本情報の範囲ここまで
ドメイン名もグローバルIPアドレスも、世界中で重なってはいけません。その割り当てのおおもとを調整している非営利の国際的な組織がICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)です。ICANNの決めた方針のもとで、TLDごとの管理団体や地域ごとの登録機関が、実際の登録や割り当てを行います。
1-8インターネットを支える技術
2階の喫茶スペースが開いた最初の土曜日、昼どきに予約の画面が重くなりました。見ると、ゲストSSIDにつないだお客さんたちが、動画を見ています。店長は「お客さんに動画をやめてとは言えないよ」と困り顔です。予約の通信だけを、先に通すことはできないのでしょうか。
インターネットとLANの境目には、通してよい通信と止める通信を決める仕組みを置きます。外から入ってくる通信や中から出ていく通信を、あらかじめ決めたルールに従って許可したり拒否したりして、内側のネットワークを守る仕組みをファイアウォールといいます。こむぎ堂のルータにも、外から店の中の機器へ勝手につなごうとする通信を止める働きが入っています。
ここから基本情報!通信の品質と、ネットワークの重ね方
通信の種類や大事さに応じて、使える帯域や送り出す順番を調整し、決めた品質を保つ技術をQoS(Quality of Service)といいます。予約や決済の通信を優先し、ゲストSSIDの動画は後回しにする、という設定ができます。音声が途切れると困るIP電話の通信を優先するのにも使われます。
実際の線や機器のつながり方とは別に、その上にソフトウェアで論理的なつながりを作って組み立てるネットワークをオーバーレイネットワークといいます。インターネットの上に、本店と移動販売の車だけをつなぐ専用の通り道を作るVPNや、利用者の機器どうしが直接データを交換するP2Pのネットワークがその例です。下の物理的なネットワークを作り直さずに、目的に合ったつながり方を重ねられます。
職員がネットワークにつなぐときの本人確認も、ネットワークの仕組みの一部です。利用者のIDとパスワードなどによる認証と、誰がいつ接続したかの記録を、1台のサーバでまとめて扱うためのプロトコルがRADIUS(Remote Authentication Dial In User Service)です。もとは電話回線でつなぐ利用者の認証のために作られ、いまは会社の無線LANで、職員ごとのIDで接続させる仕組みなどに使われています。
こうした仕組みをどう設定すれば安全かについては、公的な機関が指針を出しています。米国の標準や計測技術を扱う政府の研究機関がNIST(米国国立標準技術研究所)で、情報セキュリティの指針を「SP 800」のシリーズとして公表しています(暗号の規格そのものは、FIPSという別のシリーズです)。ファイアウォールやネットワークの守り方の指針もこのシリーズにあり、日本の組織も参考にしています。
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翌週、ミナトは1階のルータから階段の裏を通して2階へLANケーブルを1本引き、天井近くにアクセスポイントを付けました。店の機器用のSSIDとは別にゲストSSIDを作り、パスフレーズは長いものに変えます。喫茶スペースのタブレットに予約の一覧が表示され、1階のレジにも注文が届きました。新しいメニューの写真30枚は、計算どおり数秒で通販のサーバに上がります。店長は2階の窓際の席に座って、「線と電波、両方だったんだね」と笑いました。
2階のタブレットがつながらなかった理由は、どこか1か所の故障ではありませんでした。タブレットから店の中のLANまでの伝送路が無かったこと。その先では、プライベートIPアドレスがルータでグローバルIPアドレスに置き換えられ、ISPの回線を通って、DNSで調べた番号のサーバへパケットが届くこと。ミナトがたどったのは、一つの写真が店の外へ出ていくまでの道のりでした。
ただ、ミナトにはまだ分からないことが残っています。レジの横にある、ランプの点滅する箱は何をしているのか。ルータとハブは、どちらもケーブルを差す口が並んでいるのに、何が違うのか。パケットが正しい相手に届くまでに、途中の機器が何を見て道を選んでいるのかは、まだ確かめていません。