4-1電子メール
四月の終わり、店長が厨房から一枚のチラシを持って出てきました。「週末だけ、移動販売の車で駅前に出ようと思うんだ」。車の中ではミナトのスマートフォンで予約を確かめ、売り切れが近づいたら常連さんにメールで知らせたい。本店の棚に何が残っているかも、車の中から見たい。店長の質問は止まりません。「携帯の会社はどこが安いの。本店と車の在庫って、どうやったら同じ画面で見られるの」。ミナトは相棒に、いちばん手前の疑問から打ち込みました。「メールって、送ったあとどこを通って相手に届くの?」
電子メールは、送り手の端末から相手の端末へ直接は届きません。途中で、メールを預かって運ぶメールサーバを少なくとも二つ通ります。ミナトがメールソフトで書いた知らせは、まずこむぎ堂が契約しているメールサーバへ送られ、そこから常連さんが使っているメールサーバへ転送されます。手紙が差出人の側の郵便局から受取人の側の郵便局へ運ばれるように、サーバからサーバへメールを受け渡していく配送の仕方をリレー方式と呼びます。
この「送る」と「渡す」の区間で使われる決まりがSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)です。メールソフトからメールサーバへ送るときも、メールサーバから別のメールサーバへ転送するときも、SMTPが使われます。相手のメールサーバに着いたメールは、利用者ごとに用意された保管場所にしまわれます。この保管場所がメールボックスで、郵便でいえば局の私書箱にあたります。
メールボックスに入ったメールを、常連さんが自分の端末で受け取る区間には、SMTPとは別の決まりが使われます。代表的なものは二つです。一つはPOP(Post Office Protocol)で、いま使われているのは第3版のPOP3です。POP3では、端末がメールボックスのメールをダウンロードして手元に保存します。受け取った後にサーバから消す設定にしていると、別の端末からは同じメールを読めません。
もう一つはIMAP(Internet Message Access Protocol)で、使われているのは第4版のIMAP4です。IMAP4では、メールをサーバのメールボックスに置いたまま、端末からその中身を見に行きます。既読か未読か、どのフォルダに分けたかといった状態もサーバの側で持つので、店のパソコンで読んだメールは、車のスマートフォンでも既読になっています。本店と車の二か所でメールを読むこむぎ堂には、IMAP4の方が向いています。
ミナトが送りたいのは、常連さん三十人への同じ知らせです。メールソフトの宛先には、To(宛先)のほかに二つの欄があります。cc(Carbon Copy)に入れた相手には写しが届き、そのアドレスはほかの受信者全員に見えます。bcc(Blind Carbon Copy)に入れた相手にも写しが届きますが、そのアドレスはほかの受信者には見えません。
ここから基本情報!メールの見出しの部分と、別の体系
宛先や件名は、本文とは別の、見出しにあたる部分に書き込まれて運ばれます。この部分の一つ一つの項目をヘッダフィールドといい、From(差出人)、To(宛先)、Cc、Subject(件名)、Date(日時)のように「項目名: 値」の形で並びます。Bccに入れたアドレスは、受信者に渡るヘッダには残さないのが普通で、そのためほかの受信者には見えません。決まった項目のほかに、名前が「X-」で始まる項目を足して使うこともあります。その一つがX-Mailerで、送るのに使ったメールソフトの名前や版が書き込まれます。
インターネットのメールの形式は、インターネットの技術仕様(RFC)で決められています。それとは別に、国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T)が勧告X.400シリーズで定めた電子メッセージの体系があり、MHS(Message Handling System)と呼ばれます。メッセージを蓄えて中継する点はインターネットのメールと似ていますが、SMTPや後で出てくるMIMEとは別の体系です。
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一回の送信操作で、同じ内容のメールを複数の宛先へまとめて送ることを同報メールといいます。bccに三十人を並べて送るのも同報メールの一つです。ただ、常連さんが増えたり減ったりするたびに宛先を手で直すのは手間がかかり、入れ忘れも起きます。
そこで、宛先の集まりをサーバに登録しておき、決まった一つのアドレスへ送られたメールを、登録した全員へ自動で配る仕組みが使われます。これがメーリングリストです。送る人は登録者一人一人のアドレスを知らなくてよく、登録や解除はリストの側で管理します。「こむぎ堂のお知らせ」用のアドレスを一つ作れば、ミナトはそこへ一通送るだけで済みます。
知らせには、焼きたてのパンの写真も付けたいところです。もともとのインターネットのメールは、英数字と記号の文字(ASCII)だけを運ぶ前提で作られていました。日本語の文字や写真、音声のようなデータも運べるように形式を広げた規格がMIME(Multipurpose Internet Mail Extensions)です。MIMEでは、写真のようなデータを英数字の並びに変換して入れ、一通のメールの中を「本文」「添付ファイル」のように区切って運びます。
ここから基本情報!HTMLメールとWebメール
本文そのものを、Webページと同じHTMLで書くメールをHTMLメールといいます。文字の大きさや色を変えたり、本文の途中に写真を置いたりできます。本文のHTMLと、そこに載せる画像などを一つのファイルにまとめる形式はMHTMLと呼ばれます。一方で、受け取る側の設定によっては装飾が表示されず、本文に仕込んだ仕掛けが悪用されることもあるため、テキスト形式のメールだけを表示するようにしている人もいます。
専用のメールソフトを使わず、ブラウザで決まったWebサイトを開き、そこでメールを読み書きするサービスがWebメールです。メールはサーバに置かれたままなので、ブラウザさえあれば、店のパソコンからも車のタブレットからも同じメールボックスを開けます。
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4-2Web
常連さんから、通販サイトについてメールが届きました。「かごに入れたクロワッサンが、別のページを見て戻ると消えています」。同じ日、別の常連さんからは「新作が出たら、こちらから見に行かなくても分かるようにしてほしい」という頼みも来ました。ミナトはブラウザのアドレス欄をしばらく見つめていました。
アドレス欄に表示される「https://
かごの話に戻ると、ブラウザとWebサーバのやり取りに使われるHTTPは、一回ごとの要求と応答で完結し、前のやり取りを覚えていません。同じ人からの続きのアクセスだとサーバが見分けられなければ、ページを移るたびに「初めて来た人」として扱われ、かごは空に戻ります。そこで、サーバがブラウザに小さなデータを渡して保存させ、次からの要求のたびにそのデータを送り返してもらう仕組みが使われます。このデータがcookie(クッキー)です。
cookieには、ログインしている状態やかごの中身、表示の好みなどを覚えさせられます。保存先はブラウザなので、利用者が設定で消したり、受け付けないようにしたりもできます。調べてみると、メールをくれた常連さんは、ブラウザでcookieをすべて受け付けない設定にしていました。cookieは閲覧の記録を集めるのにも使えるため、使う前に利用者の同意を求めるサイトが増えています。
ここから基本情報!利用者を見分ける番号と、動くページ
かごの中身を一つ一つcookieに書き込む代わりに、中身はサーバの側で覚えておき、ブラウザには「どのかごか」を示す番号だけを渡す方法もあります。この番号がセッションIDで、サーバが利用者ごとに発行し、多くはcookieに入れてブラウザに持たせます。セッションIDを他人に知られると、その人になりすましてログインの状態を使われてしまいます。そのため、推測されにくい値を使い、HTTPSで暗号化して送ります。
かごのページのように、アクセスのたびに中身が変わるページは、あらかじめ作っておいたファイルを返すだけでは表示できません。Webサーバが外部のプログラムを呼び出し、その出力をページとしてブラウザに返す仕組みの一つがCGI(Common Gateway Interface)です。在庫の数をデータベースから読み出して「残り3個」と表示するページは、こうした仕組みで作られます。
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二つめの頼みには、別の仕組みで応えられます。サイトの新しい記事の見出しや要約、URLを、XMLを使った決まった形式のファイルにまとめて公開しておくと、それを定期的に読みに来るソフト(RSSリーダ)が更新を知らせてくれます。この形式がRSSです。こむぎ堂が新作のお知らせをRSSでも出しておけば、常連さんはサイトを毎日開かなくても新作に気づけます。
4-3ファイル転送
移動販売のために、ミナトは新しいメニューの写真を50枚撮りました。これを通販サイトのサーバに置き、車のタブレットからも見られるようにしたいのです。サイトを作った業者のメモには「写真はFTPで送ってください」とだけ書いてありました。
手元の端末から、サーバなど別のコンピュータへファイルを送ることをアップロード、反対に、別のコンピュータから手元の端末へファイルを受け取ることをダウンロードといいます。ミナトが写真をサーバに置くのはアップロード、常連さんのスマートフォンがその写真を表示するために受け取るのはダウンロードです。
クライアントとサーバのあいだでファイルをやり取りするための決まりがFTP(File Transfer Protocol)です。FTPは、命令をやり取りする制御用の接続と、ファイルの中身を流すデータ用の接続を、別々に張って使います。利用者名とパスワードでログインしてから、送る、受け取る、一覧を見るといった命令を送ります。ただし、FTPそのものはパスワードもファイルも暗号化せずに流すので、いまは暗号化した方法でファイルを送る場面が増えています。
利用者IDを持たない人にもファイルを取り出させたいときには、利用者名に「anonymous」(匿名)を使ってログインさせる使い方があり、anonymous FTP(匿名FTP)と呼ばれます。ソフトウェアや資料を、誰でもダウンロードできるように公開する目的で使われてきました。
ここから基本情報!データ用の接続をどちらから張るか
FTPのデータ用の接続をどちらから張るかで、二つのモードがあります。サーバの側からクライアントへ接続を張るのがアクティブモード、クライアントの側からサーバへ接続を張るのがパッシブモードです。どちらのモードでも、制御用の接続はクライアントから張ります。
こむぎ堂のパソコンのように、ファイアウォールやルータの内側にある端末は、外から入ってくる接続を受け付けないことが多くあります。アクティブモードでは、サーバからの接続がそこで止められ、ログインはできるのにファイルの一覧が出ない、という状態になります。パッシブモードなら接続はどれも内側から外へ向かうので、ファイアウォールを通りやすくなります。
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業者とファイルを受け渡すだけなら、FTPを使わない方法もあります。インターネットの向こうにある保存場所にファイルを置き、どの端末からでも開いたり、ほかの人と共有したりできるサービスがオンラインストレージです。写真をそこに置いて共有の設定をすれば、店長のスマートフォンからも車のタブレットからも同じ写真を見られます。共有の範囲を「リンクを知っている全員」にしたまま忘れると、関係のない人にも見えてしまう点には気をつけます。
4-4検索エンジン
駅前で配るチラシを作りながら、ミナトはふと思いついて「駅前 パン 移動販売」と検索してみました。こむぎ堂の新しいページは、どこにも出てきません。ページを公開してから、まだ三日しかたっていませんでした。
検索エンジンは、検索されるたびにWeb全体を探しに行くわけではありません。前もって集めておいたページの情報から答えを返しています。集める役は、Webページを自動で巡回するプログラムが受け持ち、クローラと呼ばれます。クローラはページの中のリンクをたどって次のページへ移り、見つけたページの中身を持ち帰ります。どこからもリンクされていない新しいページには、クローラがなかなかたどり着けません。
ここから基本情報!検索エンジンの方式
クローラが集めたページから索引を作り、検索に答える方式の検索エンジンをロボット型といいます。クローラをロボットとも呼ぶことから付いた名前で、人の手を介さずに大量のページを扱えます。これに対して、人がサイトを見て分野ごとの一覧に登録していく方式はディレクトリ型と呼ばれ、載るページは少ないものの、分類をたどって探せます。
索引の作り方にも違いがあります。ページの題名や説明だけでなく、本文全体の言葉を索引にして、本文中のどの言葉からでも探せるようにする方式を全文検索型といいます。ロボット型の検索エンジンの多くは全文検索型で、本文に「移動販売」と書いてあれば、その言葉で見つかる見込みがあります。
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ミナトは、こむぎ堂のトップページから移動販売のページへリンクを張りました。クローラが次にトップページを訪れれば、そのリンクをたどって新しいページにも行き着きます。
4-5イントラネットとネットワークOS
移動販売を始めるにあたって、店長はパートの人たちとシフト表や仕込みの手順を共有したいと言い出しました。ただし、お客さんには見せたくない。仕入れ先の製粉所とも、注文のやり取りをもっと楽にしたいといいます。
インターネットと同じTCP/IPやWebの技術を使いながら、組織の中の人だけが使えるようにしたネットワークをイントラネットといいます。社内向けの掲示板や書類の共有ページを、ふだんのブラウザで開けるのが特徴で、専用のソフトを一から作らずに済みます。こむぎ堂なら、シフト表や仕込みの手順を店のサーバに置き、従業員だけが開けるようにする形です。
本店の外、たとえば移動販売の車からイントラネットに入るには、インターネットの上に暗号化した専用の通り道を作り、外にいても店の中のネットワークにいるのと同じように扱う方法が使われます。これをVPN(Virtual Private Network)といいます。
ここから基本情報!いつも同じ相手とつなぐ
拠点どうしをつなぐ通信網には、通信のたびに相手を選んでつなぐ使い方のほかに、あらかじめ決めた相手とのあいだに通り道を設定しておき、いつも同じ相手とつながっている使い方があります。後者を相手固定接続といいます。パケット交換網などで、常設の論理的な回線(PVC:Permanent Virtual Circuit)として提供されてきた形です。本店と工場のように、つなぐ相手が決まっている拠点のあいだをイントラネットで結ぶのに向いています。
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イントラネットを取引先のイントラネットともつなぎ、決まった相手とだけ情報をやり取りする形はエクストラネットと呼ばれます。こむぎ堂と製粉所がつながれば、注文や納品の書類を、紙やファクスを通さずにデータのまま送り合えます。企業どうしで注文書や請求書のような取引のデータを、決めた形式でネットワーク越しにやり取りする仕組みはEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)と呼ばれます。
ネットワークを通じて商品やサービスを売り買いすること全体をEC(Electronic Commerce:電子商取引)といいます。こむぎ堂の通販サイトのように企業が消費者に売る取引も、製粉所との注文のように企業どうしの取引も、ECに含まれます。
ここから基本情報!ネットワークのためのOS
イントラネットの中心にあるサーバでは、ファイルの共有、プリンタの共有、利用者の管理といった、ネットワークのための機能を受け持つソフトウェアが動いています。こうしたネットワークの管理や通信サービスの提供を専門に行うOSをネットワークOSといいます。いまはサーバ用のOSの多くが、この機能を備えています。
パソコンをLANでつないで使い始めたころに広く使われたネットワークOSの例が、Novell(ノベル)社のNetWareです。ファイルやプリンタを共有するためのサーバのOSとして普及しました。
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4-6通信サービス
駅前の車は、三週目には昼前に売り切れるようになりました。店長は通信事業者のパンフレットを何冊も机に広げています。「いずれ駅ビルに2号店を出したら、本店とどうつなぐのがいいのかな。電話も一本にまとめたいし」。並んでいる言葉の多くは、ミナトが初めて見るものでした。
離れた拠点のあいだをつなぐ線を、店が自分で引くことはできません。電柱や地下の管路を持つ通信事業者が、回線を貸すさまざまな通信サービスを用意していて、利用者はその中から速さ、料金、安全性を比べて選びます。サービスどうしの違いは、回線をほかの利用者とどう分け合うかに表れます。
ここから基本情報!回線の分け合い方で分かれるサービス
特定の2地点のあいだを、ほかの利用者と分け合わずにつなぎっぱなしにする回線を貸すのが専用線サービスです。いつでも決まった速さで使え、ほかの利用者の通信の影響を受けない一方で、距離と速さに応じた定額の料金がかかり、使わない夜の間も同じ料金を払います。
通話のたびに相手までの回線をつなぎ、通話が終わるまでその回線を占有するのが回線交換サービスで、昔ながらの固定電話がその代表です。データを小さなパケットに分け、ほかの利用者のパケットと同じ回線を分け合って送るのがパケット交換サービスです。回線を占有しないぶん、送った量に応じた料金にしやすくなります。
パケット交換を速くするために、手順を簡単にしたサービスも作られてきました。誤りの訂正などを途中の交換機では行わず、両端の機器に任せることで、長さの決まっていないフレームを速く送るのがフレームリレーサービスです。さらに、データを「セル」と呼ぶ53バイトの固定長の単位に分け、ハードウェアで高速に交換して送る方式をセルリレーといいます。この方式で音声・データ・映像をまとめて運ぶのがATMサービス(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)で、銀行の現金自動預け払い機のATMとは別の言葉です。
| サービス | 回線の使い方 | 送る単位 |
|---|---|---|
| 専用線サービス | 2地点を常時つなぎ、占有する | 決まりなし(回線をそのまま使う) |
| 回線交換サービス | 通信の間だけつなぎ、占有する | 決まりなし(通話の間つなぎっぱなし) |
| パケット交換サービス | ほかの利用者と分け合う | パケット |
| フレームリレーサービス | 分け合う。誤りの訂正は両端に任せる | 長さが変わるフレーム |
| ATMサービス(セルリレー) | 分け合う。ハードウェアで交換する | 53バイトの固定長のセル |
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ここから基本情報!事業者の網で拠点をつなぐ(広域EthernetとIP-VPN)
いま、拠点のLANどうしをつなぐときによく選ばれるのが広域Ethernet(広域イーサネット)です。通信事業者の網を使い、離れた拠点のLANを、イーサネットのままつないで一つのLANのように扱えます。データリンク層(第2層)でつなぐので、その上で使うプロトコルや経路の設定を、利用者の側で自由に決められます。2号店ができたら、本店のLANと2号店のLANを、同じ店の中の続きのようにつなげます。
拠点のあいだをつなぐもう一つの方法がIP-VPNです。インターネットではなく、通信事業者が持ち、契約者だけが使える閉じたIPの網(閉域網)の中に、契約者ごとの通り道を作ってつなぎます。ネットワーク層(第3層)でつなぐ点が広域Ethernetとの違いで、拠点のあいだの経路の制御は事業者の網が受け持ちます。インターネットを通るVPNより費用はかかりますが、通信の品質や安全性を保ちやすくなります。
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ここから基本情報!国境の向こうと、空の上を通る回線
つなぐ相手が国内にいるとは限りません。海外の取引先や支店との間で、音声やデータを国境を越えてやり取りするためのサービスを、まとめて国際通信サービスといいます。国際電話や国際専用線などが含まれます。
地上に回線を引けない場所では、人工衛星を中継に使う衛星通信サービスが使われます。離島や海の上の船、山の中のほか、地上の設備が被災して使えないときの連絡にも役立ちます。通信によく使われてきたのが静止軌道衛星(静止衛星)で、赤道の上空約3万6000kmを地球の自転と同じ周期で回るため、地上からは空の一点に止まって見えます。アンテナの向きを固定できる反面、遠いぶん電波の往復に時間がかかり、通話では声が少し遅れて届きます。
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電話を一本にまとめたいという店長の願いには、別のサービスが応えます。声をデジタルのデータにしてIPパケットに入れ、インターネットなどのIPネットワークを通して運ぶ電話がIP電話です。音声をIPで運ぶ技術(VoIP)を使い、050で始まる番号が割り当てられるサービスもあります。電話のための回線を別に引かず、データの回線に通話をまとめられるので、本店と2号店の内線のような通話も同じ回線で済みます。
4-7家や店をつなぐ回線
2号店の話のついでに、店長は本店の回線の請求書を見直しました。契約は十年以上前のまま、電話線を使う古い方式でした。「光に変えると何が違うの」と聞かれたミナトは、ルータの横で電話線につながっている見慣れない小箱を指さしました。
家や店から通信事業者の局までの区間には、何種類かの線が使われています。光ファイバケーブルを伝送路にして、電気の信号ではなく光の信号で情報を送る通信を光通信といいます。光の信号は遠くまで弱まりにくく、電気的な雑音の影響も受けにくいため、高速な回線に向いています。
ここから基本情報!光ファイバを店の中まで
光ファイバを利用者の家や店の中まで直接引き込む方式をFTTH(Fiber To The Home)といいます。引き込んだ光ファイバの終わりには、光の信号と電気の信号を相互に変える装置が置かれ、これをONU(Optical Network Unit:光回線終端装置)と呼びます。局の側にはOLTという装置があり、ONUと対になって働きます。店のルータは、ONUにLANケーブルでつなぎます。
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こむぎ堂の古い契約は、電話のために昔から引かれている銅の線を使うものでした。銅線の電話回線は、光ファイバと区別してメタル(メタル回線)と呼ばれます。このメタル回線で高速なデータ通信をする技術がADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)です。Asymmetric(非対称)の名のとおり、受け取る向き(下り)を速く、送る向き(上り)を遅くしてあります。Webを見る、動画を見るといった使い方では、受け取る量の方がずっと多いからです。
ADSLでは、一本の電話線の上で、電話の声とデータを、使う周波数の帯を分けて同時に流します。この二つを分ける機器がスプリッタで、分けたデータの信号を、ルータやパソコンが扱えるデジタルの信号に変えるのがADSLモデムです。ミナトが指さした小箱は、スプリッタでした。局から遠いほど信号が弱まって速度が落ちるのも、ADSLの性質です。ADSLの提供を終えた事業者も多く、光回線への切り替えが進んでいます。
同じメタル回線を使う技術でも、上りと下りを同じ速さにしたものはHDSL(High-bit-rate Digital Subscriber Line)と呼ばれます。このほか、ケーブルテレビの放送のために引かれた同軸ケーブルの網を、インターネットの接続にも使うのがCATV網(CATV:Cable Television)です。
4-8モバイル通信サービス
車で使うスマートフォンの回線を決める日が来ました。店長が持ってきたチラシには、大手の携帯会社の料金と、聞いたことのない会社の「格安SIM」の料金が並んでいます。「同じスマートフォンで使えて、半分の値段って本当?」。ミナトは相棒に、携帯の電波がどこから来ているのかから聞いてみました。
端末を持ち歩き、場所を移りながら無線で使う通信をモバイル通信といいます。スマートフォンの電波を直接受け取っているのは、ビルの屋上や鉄塔に置かれたアンテナの設備で、これを基地局といいます。基地局は端末と無線でやり取りし、その先は有線の通信事業者の網へつないで中継します。
基地局や網を自分で持ち、モバイル通信のサービスを提供する事業者が移動体通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)です。通信の設備を自社で持つ事業者という意味で回線事業者とも呼ばれます(回線事業者は、固定の回線を持つ事業者も含む広い呼び名です)。これに対して、自分では基地局を持たず、回線事業者から回線を借りて自社の名前でサービスを売る事業者がMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想移動体通信事業者)です。
チラシの格安SIMの多くは、MVNOのサービスです。設備を持たないぶん料金を抑えやすい反面、借りている回線の容量には限りがあるため、昼休みのように利用者が集中する時間には速度が落ちやすくなります。電波を出している基地局そのものは借り元の回線事業者のものなので、つながる場所の広さは基本的に借り元と同じです。
携帯電話の電波には、事業者ごとに国から割り当てられた周波数の帯が使われます。そのうち、おおむね700MHzから900MHzの低い帯は、建物や障害物の裏側へ回り込みやすく、ビルの中や地下でもつながりやすいため、プラチナバンドと呼ばれます。駅ビルの奥でつながるかどうかは、この帯をどれだけ使えるかに左右されます。
端末と基地局のあいだの通信のやり方は、世代ごとに決められた移動体通信規格に従っています。3Gを高度化したLTE(Long Term Evolution)は3.9世代とも呼ばれ、それをさらに発展させた規格とあわせて、4Gとして広く使われてきました。
ここから基本情報!規格を決める場と、LTEの通話
こうした規格を国際的に作っているのが、各国・各地域の標準化団体が集まった3GPP(3rd Generation Partnership Project)です。名前は第3世代の規格づくりから始まったことによるもので、LTEや5Gの規格もここで決められています。
LTEはもともとデータ通信のための方式で、通話のときは古い世代の回線交換の網に切り替えていました。通話の声もパケットにして、LTEの網の上で運ぶ方式がVoLTE(Voice over LTE)です。電話がつながるまでの時間が短くなり、音質も上げられます。
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次の世代の5G(第5世代移動通信システム)は、高速・大容量に加えて、遅れの小さい低遅延と、たくさんの機器が同時につながる多数同時接続を特徴にしています。スマートフォンのためだけでなく、機械の遠隔操作や、町中のセンサをつなぐ用途も見込んだ規格です。
ここから基本情報!自分たちで持つ5G
5Gは携帯電話の事業者だけのものではありません。企業や自治体が、自分の建物や敷地の中に限って構築・運用する5Gをローカル5Gといいます。電波を出すには無線局の免許が要り、自分で受けるほか、頼んだ事業者が受ける形もあります。工場の機械や倉庫の搬送ロボットを、外の混み具合に左右されない自前の5Gでつなぐ、といった使い方が考えられています。
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速度を上げる工夫として、複数の周波数の帯(キャリア)を同時に束ね、一つの広い帯のように使う技術をキャリアアグリゲーションといいます。道の車線を増やすように、束ねる帯を増やすほど一度に運べる量が増えます。LTEを発展させた規格や5Gで使われています。
携帯電話の規格とは別の系統として生まれた、広い範囲を高速につなぐ無線の規格にWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)があります。持ち歩ける小型のルータなどで使われてきました。
どの事業者と契約しているかを端末に伝えるのが、契約者を識別する情報を記録した小さなICカード、SIMカードです。端末は、SIMカードの情報を使って事業者の網への接続を認めてもらいます。物理的なカードの代わりに、端末に組み込まれたチップへ契約の情報を書き込んで使うのがeSIM(embedded SIM)です。カードを郵送で受け取って差し替えなくても、ネットワーク越しに契約の情報を書き込めます。
事業者を乗り換えるときに気になるのが電話番号です。事業者を変えても、それまでの電話番号をそのまま使い続けられる制度をMNP(Mobile Number Portability)といいます。常連さんに知らせてある店の携帯の番号を変えずに、MVNOへ移れます。
4-9モバイルシステムの構成要素
初めての土曜、ミナトは車の棚の横にタブレットを据え付けました。このタブレットにはSIMカードが入っていないので、そのままではネットにつながりません。ミナトは自分のスマートフォンを取り出して、設定の画面を開きました。
モバイル通信を使う機器は、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末と形がさまざまで、まとめて携帯端末と呼ばれます。その中には、ほかの機器をネットにつなぐ役まで引き受けられるものもあります。スマートフォンを無線LANのアクセスポイントのように働かせ、自分のモバイル回線を使ってタブレットやパソコンをインターネットにつなぐ機能がテザリングです。無線LANのほか、BluetoothやUSBのケーブルでつなぐ方法もあります。タブレットの通信の量も、スマートフォンの契約の量から差し引かれます。
移動販売の車そのものも、通信の機器になりえます。自動車などの移動体に通信の機能を組み込み、位置や走り方、車の状態をもとに情報サービスを提供する技術をテレマティクスといいます。通信(telecommunication)と情報処理(informatics)を合わせた言葉です。事故のときに自動で通報する、配送の車の位置をまとめて管理する、といったサービスがその例です。
走っている車から位置や速さの情報を集めて送り、交通の情報づくりに役立てる車をプローブカーといいます。たくさんの車が「いまこの道を時速10kmで走っている」と送ってくれば、どこが渋滞しているかが分かります。車そのものが、道路の様子を測る探り針(プローブ)の役をするわけです。
車の位置を常連さんに知らせるには、正確な位置が要ります。携帯端末の多くはGPSの衛星からの電波で位置を測りますが、衛星を見つけるまでに時間がかかることがあります。そこで、基地局を通して衛星の位置などの手がかりを受け取り、衛星を早く捕まえて位置の測定を速くする技術がアシストGPS(A-GPS)です。
ビルの谷間では、空の低い所にある衛星の電波が建物にさえぎられ、位置がずれやすくなります。日本のほぼ真上(天頂付近)に長くとどまる軌道を回り、GPSを補う衛星が準天頂衛星で、日本の準天頂衛星システムは「みちびき」と呼ばれています。真上近くから届く電波は高い建物にさえぎられにくいので、駅前のような場所でも位置を測りやすくなります。
4-10モバイル通信技術
駅前へ向かう車の中で、ミナトは助手席のタブレットに予約の画面を開いたままにしていました。窓の外を、ビルや鉄塔が次々と後ろへ流れていきます。それなのに、画面は一度も途切れません。後ろの保冷庫では、店長が取り付けた小さな温度計が、ときどき数字を送ってきます。
車が走ると、つながっている基地局からはしだいに遠ざかり、電波は弱くなっていきます。そこで端末と網は電波の強さを測りながら、通信を続けたまま接続先を次の基地局へ切り替えます。この切り替えがハンドオーバーです。画面が途切れなかったのは、走っているあいだに何度もハンドオーバーが行われていたからです。
ハンドオーバーが基地局から基地局への切り替えであるのに対し、契約している事業者の電波が届かない場所、たとえば海外で、提携している別の事業者の設備を借りて通信できるようにする仕組みをローミングといいます。海外旅行の先で日本のスマートフォンを使えるのは、ローミングがあるからです。
一本のアンテナで送れる量には限りがあります。送る側と受ける側の両方に複数のアンテナを置き、別々のデータを同じ周波数で同時に送って、速さや安定性を上げる技術をMIMO(Multiple Input Multiple Output)といいます。LTEや5Gのほか、無線LANでも使われています。
保冷庫の温度計のように、ネットにつながってデータを送る小さな機器はIoTデバイスと呼ばれます。IoTデバイスに求められるのは、スマートフォンのような速さよりも、少ない電力で長く動き、遠くまで届くことです。数kmから数十kmまで届き、電池で長く動くように消費電力を抑えた無線通信の方式をまとめてLPWA(Low Power Wide Area)といいます。一度に送れる量は小さいものの、温度や水位のように少しずつ送れば足りる用途に向いています。
これに対して、工場や家、店の中のような限られた範囲で、センサなどのIoTデバイスどうしや中継の機器をつなぐ狭い範囲のネットワークをIoTエリアネットワークといいます。近い距離を少ない電力でつなぐBLE(Bluetooth Low Energy)などが使われます。電波の届く範囲が狭い機器どうしでは、隣の機器にデータを渡し、それをまた次の機器へ渡して目的地まで運ぶ方法がとられます。これをマルチホップといいます。
IoTエリアネットワークで集めたデータは、そのままではインターネットへ出られないことがあります。IoTデバイスが使う通信の方式とインターネットの方式とのあいだを変換して中継する機器がIoTゲートウェイです。ゲートウェイがデータを送る先がIoTサーバで、届いたデータを受け取って蓄え、分析や機器への指示といった処理をします。すべてのデータをサーバへ送らず、デバイスやゲートウェイに近い所で先に処理して、送る量や待ち時間を減らす考え方はエッジコンピューティングと呼ばれます。
電池の交換が難しい場所に置く機器には、電源の工夫も要ります。周りにある光、振動、熱、電波のようなわずかなエネルギーを集めて電力に変える技術をエネルギーハーベスティングといいます。IoTの身近な例にはスマートメーターもあります。通信の機能を持った電力量計が、使った電力の量を自動で測って送るので、検針の人が一軒ずつ回らなくても使用量が分かります。
昼前、駅前の車のタブレットに、本店の棚の数字が届きました。クロワッサンは本店に12個、車には5個。ミナトはメーリングリストのアドレスへ「駅前の車、クロワッサンあと5個です」と一通だけ送ります。十分もしないうちに、車の前に小さな列ができました。店長は最後の袋を手渡しながら言います。「メールも在庫の画面も、どこかの線と電波を通って届いてたんだね」
その道のりは、この章で見てきた仕組みでたどれます。車のタブレットは、ミナトのスマートフォンのテザリングでモバイル回線に出て、基地局を乗り継ぎながら、VPNで本店のイントラネットにある在庫のページを開いていました。知らせのメールはSMTPでメールサーバからメールサーバへリレーされ、常連さんのメールボックスに入り、IMAP4でそれぞれのスマートフォンに表示されました。店長の「どこが安いの」という最初の質問には、MVNOの格安SIMに、MNPで番号はそのまま、という答えが出ています。
ただ、店長の頭はもう次のことでいっぱいです。「駅ビルの2号店、来年には出したいんだよね」。広域Ethernetにするか、インターネットの上のVPNで足りるのか。ミナトは、パンフレットの束をもう一度開きました。