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  4. 第1章 知的財産権

法務 第1章 ストラテジ系・大分類:企業と法務

知的財産権

作品やアイデア、店の名前やマークを守る知的財産権の種類と、どんな使い方が権利の侵害になるのか。

1-1知的財産権の全体像

10月の火曜の朝、店長が新作のパンを焼き上げました。細長く巻いた生地を三日月の形に曲げた、バターの香るパンです。名前は「三日月こむぎ」に決まり、袋に印刷するロゴはミナトが作ることになりました。ミナトは画像検索で見つけたかわいい月のイラストを、そのまま印刷用のデータに貼りつけます。そこへ常連のお客さんが「隣町のパン屋にも、似た名前のパンがあったよ」と教えてくれました。店長は、生地を三日月に巻くために自分で工夫して作った型を手に取ります。「この型も、まねされたら困るんだよね」。袋の印刷の締め切りは金曜です。ミナトは相棒に打ち込みました。「名前と、絵と、型。それぞれ、誰のものってことになるの?」

パン屋の作業台に三日月形のパン、ネットから印刷した月のイラスト、名前の候補を書いた紙、手作りの型が並び、アルバイトと店長が見比べている
図:新しいパンの名前、拾ってきた絵、手作りの型。袋を発注する前に決めることが三つある

相棒の返事は、三つを分けることから始まりました。名前と絵と型は、どれも形のある「もの」としては袋や紙や木の型にすぎません。値打ちがあるのは、その中身の工夫や表現や目印のほうです。人の知的な活動から生まれ、財産としての値打ちを持つこうしたものを知的財産と呼び、それを持ち主が独り占めして使えるように法律が与える権利を、まとめて知的財産権と呼びます。

知的財産権は、権利が生まれるしくみで大きく二つに分かれます。一つは、絵や文章や音楽のような作品を守る著作権です。作品を作った時点で自動的に生まれ、どこにも届け出る必要がありません。もう一つは、特許庁に出願し、登録されることで生まれる権利で、産業財産権と呼びます。以前は工業所有権と呼ばれていて、指しているものは同じです。

産業財産権は、特許・実用新案・意匠・商標の四つの権利の総称です。こむぎ堂の三つの悩みを当てはめると、店長の型の工夫は特許か実用新案、袋の形のようなデザインは意匠、「三日月こむぎ」という名前は商標の話になります。ネットで拾った月のイラストは、誰かが描いた作品なので著作権の話です。四つの産業財産権は、出願して登録されるまで守られない点で共通し、その点で著作権と分かれます。

知的財産権を、届け出なしで生まれる著作権と、登録して生まれる特許・実用新案・意匠・商標の四つに分け、それぞれにパン屋の例を添えた地図
図:知的財産権の地図。作品は著作権、工夫・デザイン・名前は登録して守る産業財産権

ここから基本情報!知的財産を支える国の仕組み

知的財産をつくり、守り、使うことを国として進めるための基本の方針を定めた法律が知的財産基本法です。2002年(平成14年)に作られました。この法律は、知的財産を「発明、考案、意匠、著作物、商標、営業秘密など」と幅広く定め、国・大学・事業者の役割を決めています。

同じ法律にもとづいて内閣に置かれているのが知的財産戦略本部です。知的財産に関する国の推進計画を作り、その実行を進めます。法律が方針を決め、本部が計画を立てて動かす、という分担です。

特許法・実用新案法・意匠法・商標法の四つの法律は、まとめて産業財産権法と呼ばれます。どの法律も、創作やブランドを守ることで産業の発達につなげることを目的に掲げています。

四つのほかにも、登録して生まれる権利があります。半導体チップの中の回路素子と配線の配置(レイアウト)を守る回路配置利用権で、根拠は「半導体集積回路の回路配置に関する法律」です。経済産業大臣に申請して設定登録を受けると生まれ、存続期間は設定登録の日から10年です。

大学の研究から生まれた発明などを、特許として企業に使ってもらう仕組みを後押しする法律もあります。正式名を「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」といい、仲立ちをする技術移転機関(TLO)の名を取ってTLO法と呼ばれます。1998年(平成10年)に作られました。

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1-5特許と実用新案

木曜の朝、店長の型の話を聞いた町工場の社長が、店に寄りました。のし棒に溝を付けた木の型で、生地を転がすだけで三日月に巻ける形が一度で付きます。社長はしばらく型を回して眺めてから言いました。「これ、特許になるかもしれないよ。まだ誰にも見せていないならね」

新しい技術の工夫を守る法律が特許法です。特許法は、発明を守ると同時に公開させて世の中で使えるようにし、産業の発達に役立てることを目的にしています。発明した人が特許庁に出願し、審査で認められて登録されると、特許権が生まれます。特許権を持つ人は、その発明を仕事として使うこと(作る・使う・売るなど)を独り占めでき、ほかの人が使うには許諾が要ります。存続期間は、原則として出願の日から20年です。

審査では、主に三つのことが確かめられます。産業に利用できること、出願より前に世の中で知られていないこと(新規性)、その分野の専門家が簡単には思いつけないこと(進歩性)です。社長が「まだ誰にも見せていないなら」と念を押したのは、新規性のためです。出願の前に商店街のイベントで型を実演して広く知られてしまえば、新しい発明とは認められにくくなります(決められた期間内に手続きをすれば、例外として扱われる場合もあります)。

ここから基本情報!特許になる「発明」とは

特許法は、守る対象の発明を「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定めています。自然法則を利用していないもの、たとえば計算の公式そのもの、ゲームのルール、人の取り決めだけで成り立つ商売の方法は、発明に当たりません。溝の形と生地の弾力を利用して形を付ける店長の型は、自然法則を利用した工夫です。

ソフトウェアも、条件を満たせば特許の対象になります。特許法は、プログラムを「物」の発明に含めると定めていて、ネットワークを通じてプログラムを配ることも発明の実施に当たります。こうしたソフトウェアに関する技術的な発明に認められる特許をソフトウェア特許と呼びます。プログラムは、文章としての表現は著作権で、処理のしかけとしてのアイデアは特許で、と二つの法律で守られることがあります。

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商売のやり方そのものは、特許になりません。「予約の多い日は前の晩に生地を仕込む」といった段取りは、人の工夫ではあっても、技術ではないからです。ところが、その商売の方法をコンピュータやネットワークを使って実現する仕組みなら、特許が認められることがあります。こうした特許をビジネスモデル特許(ビジネス方法の特許)と呼びます。たとえば「キャンセルが出たら、待っている客に順番に自動で知らせて、先に応じた人の予約を確定する」仕組みを、サーバの処理として具体的に組み立てたものは、その対象になりえます。

特許ほど高度でなくてもよい、もっと身近な工夫を守る法律もあります。物の形や構造、組み合わせの工夫を守るのが実用新案法です。実用新案は、特許のような中身の審査を経ずに登録されるので、早く権利を得られます。その代わり、存続期間は出願の日から10年と短くなっています。店長の型のように、物の形そのものに工夫がある場合は、実用新案も候補になります。

ここから基本情報!発明と考案の違い

実用新案法が守る対象を考案といい、「自然法則を利用した技術的思想の創作」と定められています。特許法の発明の定義から「高度のもの」を除いた形で、高度さは求められません。また、守られるのは物品の形状・構造・組み合わせに関する考案だけで、製造方法のような「方法」の工夫は対象外です。

考案が登録されると実用新案権が生まれます。ただし、中身の審査をしていないので、権利が本当に有効かは登録の時点では確かめられていません。そこで、まねをした相手に権利を行使する前に、特許庁が作る実用新案技術評価書を示して警告しなければならないと定められています。

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1-6意匠と商標

金曜の朝、印刷の締め切りの日です。袋は、知り合いのデザイナーが考えた半月の形の紙袋に決まりました。名前のほうは、ミナトが特許庁の検索サービス(特許情報プラットフォーム、J-PlatPat)で調べました。隣町の店のパンは「みかづきロール」で、名前を商標として登録してもいませんでした。「三日月こむぎ」という登録も見当たりません。

製品の見た目のデザインを守る法律が意匠法です。物の形や模様や色、またそれらを組み合わせたもので、見て美しさを感じさせるデザインが対象になります。いまの意匠法は、物だけでなく、建物の形や内装、機器の操作画面などの画像のデザインも守ります。特許庁に出願して登録されると守られ、存続期間は出願の日から25年です。半月形の紙袋が新しい形なら、意匠として登録できる可能性があります。

商品やサービスの目印を守る法律が商標法です。文字・図形・記号・立体的な形・色、またそれらの組み合わせや音などで、自分の商品やサービスを、ほかの店のものと見分けてもらうための目印が対象です。目印に積み重なったお客さんの信用を守ることが、この法律の目的です。商標権の存続期間は登録の日から10年ですが、更新の申請をすれば何度でも延ばせます。目印として使い続けるかぎり、信用も続くからです。

目印は、付ける相手で呼び名が分かれます。パンのような商品に付ける目印がトレードマークで、「三日月こむぎ」の袋のロゴはこれに当たります。配達や予約のような役務(サービス)を提供するときに使う目印はサービスマークと呼ばれます。こむぎ堂が「こむぎ堂の朝パン便」という配達サービスを始めて、その名前を看板や画面に出すなら、それはサービスマークです。商標法は、どちらも商標として守ります。

ここから基本情報!意匠と商標の定義

意匠法は、守る対象の意匠を「物品の形状・模様・色彩またはこれらの結合、建築物の形状等、または画像であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」と定めています。意匠登録によって生まれるのが意匠権で、登録した意匠と、それに似た意匠を仕事として使うことを独り占めできます。そっくりの袋だけでなく、似た形の袋もまねできなくなります。

商標法は、商標を「文字、図形、記号、立体的形状、色彩、それらの結合、音などの標章で、仕事として商品や役務について使うもの」と定めています。商標登録によって生まれる商標権は、出願のときに指定した商品や役務の範囲で、その商標を独り占めして使える権利です。「三日月こむぎ」を「パン」について登録すれば、ほかの店はパンに同じ名前や似た名前を付けて売れなくなります。

どんな言葉でも登録できるわけではありません。「食パン」のように、その商品のふつうの名前をふつうに書いただけのものや、産地・品質・原材料を表すだけのものは、目印として役に立たないので登録できません。また、同じ商標を別々の人が出願したときは、先に出願したほうが優先されます。

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ここまでの権利を並べると、守るもの、権利が生まれる時、続く期間がそれぞれ違います。

法律守るもの権利が生まれる時存続期間
著作権法作品(絵・文章・音楽・プログラムなど)作品を作った時(届け出は要らない)原則として著作者の死後70年まで
特許法高度な技術の工夫(発明)審査を経て登録された時出願の日から20年
実用新案法物の形・構造・組み合わせの工夫登録された時(中身の審査なし)出願の日から10年
意匠法見た目のデザイン審査を経て登録された時出願の日から25年
商標法商品やサービスの目印審査を経て登録された時登録の日から10年(更新できる)

1-7不正競争防止法とその他の権利

金曜の閉店後、店長は厨房の棚から一冊のノートを下ろしました。三日月こむぎの生地の配合と、焼く温度と時間が書いてあります。棚は誰でも手の届く場所で、先月やめた見習いの職人も、よくこのノートを開いていました。その職人は、いま隣町の店で働いています。

配合のノートは、著作物でも、登録した発明でもありません。それでも、このノートが他の店に持ち出されて使われたら、こむぎ堂は困ります。著作権法や産業財産権法では守りきれないこうした情報や、商売の公正な競争を損なう行為を取り締まるのが不正競争防止法です。

不正競争防止法が守る代表が営業秘密(営業機密)です。秘密として管理されている、製造の方法や販売の方法などの、事業に役立つ技術上または営業上の情報で、世の中に知られていないものを指します。条件は三つで、秘密として管理されていること、事業に役立つこと、世の中に知られていないことです。営業秘密を盗み出したり、だまし取ったり、不正に手に入れたものと知って使ったりする行為は、差止めや損害賠償の対象になり、重い場合は刑事罰も科されます。

店長のノートは、事業に役立ち、世の中にも知られていません。ただ、誰でも手に取れる棚に置いてあるだけでは、秘密として管理されているとは言いにくいでしょう。三つの条件の一つが欠ければ、持ち出されても営業秘密としては守られないおそれがあります。

ここから基本情報!秘密として管理するということ

営業秘密の三つの条件は、それぞれ秘密管理性・有用性・非公知性と呼ばれます。中でも、店の側の行動で決まるのが秘密管理性です。会社がその情報を秘密にしたいという意思を、従業員が分かる形で示していることが求められます。ノートに「社外秘」と書く、鍵のかかる引き出しにしまう、データならアクセスできる人をパスワードで限る、といった手当てがその例です。

どこまで管理すれば営業秘密として認められるのかを、経済産業省が示したものが営業秘密管理指針です。法律の条文だけでは判断しにくい「秘密として管理されている」の中身を、具体的な考え方として説明しています。

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秘密にはせず、決まった相手にだけ提供するデータを守るしくみもあります。2018年(平成30年)の不正競争防止法の改正で守られることになった限定提供データです。仕事として特定の相手に提供するために、電子的な方法で相当な量をためて管理している技術上または営業上の情報(営業秘密に当たるものを除く)を指します。たとえば製粉所が、契約したパン屋だけに配っている小麦の産地ごとの品質データが、これに当たりえます。契約した相手には渡しているので秘密とは言えませんが、それを不正に手に入れて使う行為は、不正競争になります。

ここから基本情報!不正競争になるそのほかの行為

不正競争防止法は、ほかにも公正でない競争のやり方を挙げています。その一つがドメイン名の不正取得です。不正な利益を得る目的や、相手に損害を与える目的で、他人の商品や店の名前・商標と同じか似たドメイン名を取得したり、持ち続けたり、使ったりする行為を指します。こむぎ堂の名前に似たドメイン名を先に取って、高く買い取らせようとするのが典型です。

映像や音楽、ソフトウェアには、無断の視聴やコピーを防ぐしかけ(技術的制限手段)が付いていることがあります。このしかけを無効にするコピープロテクト外しは、二つの法律にまたがって規制されています。不正競争防止法は、しかけを外すための装置やプログラムを売ったり配ったりする行為を不正競争としています。著作権法では、しかけを外して行うコピーは私的使用のためでも認められず、外すための装置やプログラムを公衆に売ったり配信したりする行為には刑事罰があります。

基本情報の範囲ここまで

法律の条文には書かれていなくても、裁判所の判決(判例)の積み重ねで認められてきた権利もあります。承諾なしに自分の顔や姿を撮影されたり、その写真を公表されたりしないよう求める権利が肖像権です。店のSNSに店内の写真を載せるとき、お客さんの顔がはっきり写っているなら、載せる前に断りを入れるのが筋です。

有名人の名前や姿には、それだけで人を引きつけ、商品を売る力があります。その経済的な値打ちを本人が独り占めして使える権利がパブリシティ権で、こちらも判例で認められてきました。人気の俳優の写真を無断で「三日月こむぎ」の広告に使えば、肖像権だけでなく、パブリシティ権の侵害にもなりえます。

次の週の月曜、「三日月こむぎ」の袋の印刷が届きました。ロゴは、ミナトが焼き上がったパンを見ながら自分で描き直した月です。名前は「パン」を指定して商標登録を出願し、半月形の袋は意匠として出願するかをデザイナーと相談しています。店長の型は、町工場の社長に紹介された弁理士に見てもらうことにしました。配合のノートには「社外秘」と書き、鍵のかかる引き出しに移しました。

火曜の朝に並んでいた三つの悩みは、それぞれ別の法律の話でした。名前は商標で、登録して初めて守られます。拾ってきた絵には、作者名も©もなくても著作権がありました。型の工夫は特許や実用新案で、出願の前に人に見せないことが大切でした。そして、どの登録にも当てはまらない配合のノートは、秘密として管理して初めて営業秘密として守られます。

ただ、ミナトにはまだ気になることがあります。配合はノートだけでなく、店のパソコンの共有フォルダにも表計算のファイルで残っていました。「引き出しには鍵をかけたけど、パソコンのほうは、誰かが勝手に入ってきてファイルを開いたら、どうなるんだろう」。相棒は、それを取り締まる法律が別にあることを教えてくれました。

この章のふりかえり

この章で太字にした用語は、暗記カードで覚えられます。

ITパスポートの範囲(20語)を暗記カードで覚える 基本情報まで(56語)を暗記カードで覚える

カードの「カテゴリ」は、この章の節の名前です。同じボタンでもう一度取り込んでも、復習の進み具合は消えません。