1-1コンピュータの種類
通販の注文が、月に数件から週に数十件へ増えてきました。手書きの伝票では追いつかないと見た店長は、レジ横にコンピュータを1台置き、値札とレシートを刷るプリンタと、バーコードで在庫を数える読取り機も入れると決めます。木曜の閉店後、届いた箱をレジ台に並べて開けたのはミナトでした。ノートパソコンの差込口は、つなぎたい機器の数より少ない。倉庫から出してきた古いキーボードは端子が丸く、どこにもささりません。試しにレシートを3枚続けて刷ろうとすると、2枚目からは画面に「待機中」と出ます。ミナトは相棒に打ち込みました。「機械は全部そろったのに、何をどこにつなげばいいのか分からない」
相棒は、機器を役割で分けるところから始めようと返しました。データを受け取って計算し、結果を返すのが本体のコンピュータです。読取り機はデータを本体に入れる側、プリンタは結果を外へ出す側にあたります。そして本体にも、使う場所と使う人数に応じていくつかの種類があります。
レジ横に置くノートパソコンは、一人の人が机の上や手元で使うことを想定したPC(パソコン、Personal Computer)です。文書作り、表計算、Webの閲覧など、用途を一つに決めずに使えます。これに対し、ネットワークの向こうにいる多くの利用者や機器から頼みを受け、注文の受付やファイルの保管といったサービスを提供し続けるコンピュータをサーバと呼びます。こむぎ堂の通販サイトも、どこかのサーバの上で動いています。
銀行の口座の管理や鉄道の座席予約のように、大量の処理を止めずにこなす必要がある所では、汎用コンピュータ(メインフレーム)が使われてきました。「汎用」という名前は、事務の計算にも技術の計算にも一台で対応できるように作られたことに由来します。高い処理能力と信頼性を持つ代わりに、大きく高価です。
持ち歩いて使う携帯端末もコンピュータです。電話の機能を持ち、アプリを入れて機能を増やせるスマートフォン、それより画面が大きく板状のタブレット端末が代表です。店長が予約の一覧を厨房で確かめるのは、スマートフォンです。
ここから基本情報!スマートフォンより前の携帯端末
スマートフォンが広まる前には、手のひらに収まる大きさで、予定表や住所録、メモを持ち歩くためのPDA(Personal Digital Assistant、携帯情報端末)がありました。ペンで画面に書き込んで操作する機種が多く、パソコンとつないでデータを同期して使います。PDAの役割は、いまはスマートフォンに引き継がれています。
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身につけたまま使う端末はウェアラブル端末と呼ばれます。手首に着けて、歩数、心拍数、睡眠の状態などを測り続けて記録するアクティビティトラッカ(活動量計)はその一つです。立ち仕事の多いミナトが一日に何歩歩いたかも、これで分かります。
眼鏡のように顔にかけ、目の前の現実の景色に文字や映像を重ねて見せる端末を、まとめてARグラス・MRグラス・スマートグラスと呼びます。ARは拡張現実、MRは複合現実のことです。両手がふさがった作業中でも、視界の端に手順を表示できます。スマートフォン、タブレット端末、ウェアラブル端末のように、インターネットにつながり、アプリで機能を足せる多機能な端末を、まとめてスマートデバイスと呼びます。
1-2サーバの形と置き場所
通販の注文が増えたら、注文を受けるサーバを店に置く日が来るかもしれない。ミナトがそう言うと、店長は倉庫の奥を指さしました。「置くなら、あの棚の空いている段かな」。ところが通販サイトを借りている会社のページには、サーバが何百台も、背の高い黒い棚に引き出しのように積まれた写真が載っていました。
サーバは、中身の部品はPCとよく似ていますが、置き方によって形が分かれます。縦長の箱の形をしていて、床や机の上に1台ずつ単独で置くのがタワー型サーバです。箱の中に余裕があるので、ディスクなどを後から足しやすく、小さな事務所や店で1台目のサーバとして選ばれます。見た目も大きさも一般のデスクトップパソコンと同じくらいの、さらに小規模向けの形はデスクトップ型サーバと呼ばれます。
台数が増えると、1台ずつ床に並べる置き方では場所が足りなくなります。そこで、平たい箱の形に作ったサーバを、規格の決まった棚に何台も積み重ねて収めるのがラックマウント型サーバです。その棚をサーバラック(ラック)といい、幅19インチのものが広く使われています。高さは「U」という単位で数え、1Uは1.75インチ(約44.45mm)です。ネットワーク機器も同じラックに収められます。
さらに詰めて置くための形がブレードサーバです。CPUやメモリを薄い基板(ブレード)1枚にまとめ、電源や冷却の装置を共有する専用の箱に、本を立てるように何枚も差し込みます。処理の量が増えたら、ブレードを1枚ずつ足して増やせます。
何百台ものサーバが並ぶ部屋では、電源や通信のケーブルがとても多くなります。床の上に這わせると、つまずいたり、足で引っかけて抜いたりするおそれがあります。そこで、床を二重にし、上の床板と下の床のあいだの空間にケーブルを通す作りにします。これをフリーアクセスフロアといいます。床板は外せるので、配線の変更にも対応できます。写真の部屋の床に、四角い板の継ぎ目が格子状に見えたのはこのためです。
1-3入力装置
金曜の朝、ミナトはバーコードの読取り機をノートパソコンにつなぎ、ジャムの瓶にかざしてみました。ピッと鳴って、表計算の欄に13けたの数字が入ります。キーボードで打てば数秒かかり、打ち間違いも出る数字です。
コンピュータにデータを入れる装置と、処理した結果を取り出す装置を、まとめて入出力装置といいます。最も基本的なものは、キーを押して文字や数字を入れるキーボードです。キーボードの右側などに、0〜9の数字と四則演算の記号のキーを電卓と同じ並びにまとめた部分があり、これをテンキーと呼びます。売上の金額を続けて入れるなら、テンキーのほうが速く打てます。
画面の上の位置を指し示して操作する装置を、まとめてポインティングデバイスといいます。机の上で動かした量と向きを画面のポインタの動きに変えるマウス、画面を指で直接触れて操作するタッチパネル、棒を倒した向きと角度で操作するゲーム機や重機の操作でおなじみのジョイスティック、板の上をペンでなぞって線を描くペンタブレットがあります。レジの画面がタッチパネルなら、マウスを置く場所は要りません。
紙に印刷された文字や写真、手書きのイラストを光で読み取り、コンピュータで扱える画像データに変える装置がイメージスキャナです。紙に光を当て、はね返ってきた光の強さを細かな点ごとに測ります。光を電気の信号に変える素子として、イメージスキャナやデジタルカメラにはCCD(Charge Coupled Device)という撮像素子が使われてきました。いまのカメラでは、CMOSイメージセンサという別の撮像素子も広く使われています。
ジャムの瓶で鳴ったのはバーコードリーダです。白と黒の縞に光を当て、反射の強弱のパターンから、縞が表している数字を読み取って入力します。読み取った結果は、キーボードで打ったのと同じように表計算の欄に入ります。人の手で打たないので、速く、打ち間違いもありません。
紙に書かれた文字やマーク、符号を、光や磁気で読み取って入力する装置を、まとめてリーダと呼びます。印刷や手書きの文字を読み取って文字のデータに変えるOCR(光学式文字読取装置)、マークシートの塗りつぶしを読み取るOMR(光学式マーク読取装置)がその例です。バーコードリーダも、リーダの一つと考えられます。
映像を入れる装置もあります。PCにつないだり画面の上部に組み込まれたりしていて、撮った映像をそのままネットワークで送るための小さなカメラがWebカメラです。こむぎ堂なら、製粉所とのオンラインの打ち合わせや、パン作り教室の配信に使えます。
1-4画面と音声の出力
レジ横のノートパソコンの画面に在庫表を開くと、横に長い表の右半分が切れて見えません。店長は奥から古い小型のモニタを持ってきましたが、つないでみると文字がさらに大きく粗くなりました。画面の「広さ」は、大きさとは別のもので決まるようです。
処理の結果や映像を、画面に文字や画像として映す出力装置を、まとめてディスプレイと呼びます。光の通り方を液晶で切り替えて表示する液晶ディスプレイは、後ろから光を当てる光源(バックライト)を使います。画素の一つ一つが自分で光る有機ELディスプレイはバックライトが要らないので、薄く作れ、黒をくっきり表示できます。頭にかぶって目の前に映像を映すヘッドマウントディスプレイは、仮想現実(VR)の体験などに使われます。映像を光で壁やスクリーンに大きく映すのはプロジェクタです。
画面にどれだけの情報が並ぶかは、横と縦にいくつの点(ドット)を並べて表示するか、つまり解像度で決まります。解像度には名前の付いた規格があり、320×240ドットをQVGA(Quarter VGA)、1280×1024ドットをSXGA(Super XGA)と呼びます。QVGAは、640×480ドットのVGAの縦と横をそれぞれ半分にした大きさです。
二つの規格で、画面の点の数を比べてみます。QVGAは320×240=76,800ドット、SXGAは1280×1024=1,310,720ドットで、SXGAはQVGAの約17倍の点を持っています。点が多ければ、同じ大きさの文字でも一度に多くの行と列を表示できます。古いモニタで在庫表がさらに狭くなったのは、画面の寸法ではなく、並べられる点の数が少なかったからです。
ここから基本情報!ガスの放電で光る画面
液晶ディスプレイが大きな画面を安く作れるようになる前、大画面のテレビではプラズマディスプレイ(PDP)が使われていました。画素ごとの小さな空間に閉じ込めた希ガスに電圧をかけて放電させ、出てきた紫外線で蛍光体を光らせます。画素が自分で光る自発光型で、いまは家庭用のテレビとしては作られていません。
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出力は画面だけではありません。画面に表示されている文字を読み上げ、目の見えない人や見えにくい人がコンピュータを使えるように支えるスクリーンリーダーというソフトウェアがあります。通販サイトのボタンに画像だけを置き、説明の文字を付けていないと、スクリーンリーダーは何のボタンかを読み上げられません。こむぎ堂の通販サイトを誰でも使えるものにするには、画面の見た目だけでなく、読み上げられる文字が付いているかも確かめる必要があります。
ここから基本情報!人の声を作って出す装置
文字のデータや符号にした音声のデータから、人の話し声に似た音声を電子的に作って出す出力装置を音声合成装置といいます。駅の案内放送や、カーナビゲーションの道案内の声が身近な例です。スクリーンリーダーが画面の文字を声にして聞かせるときも、この音声合成の仕組みを使っています。
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1-5プリンタ
レシートを3枚続けて刷ったとき、画面に出た「待機中」の文字を、ミナトは故障だと思っていました。ところが3枚とも、少し時間をおいて順に出てきました。そのあいだも、ノートパソコンでは次の注文の入力を続けられていたのです。
文書や画像のデータを、紙などの媒体に印刷して出力する装置がプリンタです。印刷のやり方には、細かいインクの粒を紙に吹き付けるインクジェット方式や、レーザの光を使うレーザ方式などがあります。チラシを多く刷るなら、速いレーザ方式が向いています。
レーザプリンタの中心にあるのが、円筒形の感光ドラムです。表面に静電気をため、レーザの光を当てた所だけ電気の状態を変えて、印刷する形の見えない像を作ります。その像に粉のインク(トナー)を吸い付け、紙に移してから熱で定着させます。
値札のシールに使うのは熱転写プリンタです。インクを塗ったフィルム(インクリボン)を熱で溶かし、紙に移して印字します。インクが紙の上に乗るので、日が当たっても文字が消えにくいのが特徴です。熱で黒くなる特別な紙(感熱紙)に直接印字する感熱式とは、仕組みが違います。レシートの多くは、感熱式で刷られています。
印字の細かさや密度を表す単位はいくつかあります。1インチの幅に何文字並べて印字するかを表すのがCPI(characters per inch)です。10CPIなら1インチに10文字です。A4の短い辺は210mm、つまり約8.27インチなので、余白をとらずに10CPIで横書きすると1行に約82文字並びます。印刷の細かさを、1インチに打てる点の数で表すdpi(dots per inch)とは別の単位です。
用紙の大きさは、JISで決められたA判とB判がよく使われます。A4判は210mm×297mmで、文書や配布物でもっとも多く使われる大きさです。A3判は297mm×420mmで、A4判の2倍の面積があります。A3判を長い辺の真ん中で半分に折るとA4判になります。数字が1つ大きくなるたびに面積が半分になる、と覚えておくと迷いません。
「待機中」の正体に戻ります。プリンタが紙に印刷する速さは、コンピュータがデータを作る速さよりずっと遅いので、印刷が終わるまで待っていたら、その間ほかの作業ができません。そこで、印刷するデータをいったんディスクなどにためておき、プリンタが空くたびに順に送り出します。この仕組みをスプール(スプーリング)といいます。2枚目と3枚目のレシートは、壊れていたのではなく、ためられた列の中で自分の番を待っていました。
紙ではなく、立体を出力するプリンタもあります。3Dプリンタは、立体の設計データをもとに、材料を薄い層にして1枚ずつ積み重ね、形を作ります。店長は、こむぎ堂の型抜きのクッキーの型を、これで作れないかと考えています。
ここから基本情報!樹脂を溶かして積む方式
3Dプリンタの造形の方式の一つに、熱溶解積層方式(FDM、Fused Deposition Modeling)があります。糸のように細長い樹脂(フィラメント)をノズルの中で熱で溶かして押し出し、1層描いては少しずらして次の層を重ねていきます。仕組みが単純で、家庭用や学校用の3Dプリンタに多い方式です。
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1-6つなぐ規格と電源
ノートパソコンのUSBの差込口は2つ。つなぎたいのは、バーコードリーダ、レシートプリンタ、値札のプリンタ、それに倉庫の古いキーボードです。そのキーボードの端子は丸く、ピンが何本も並んでいて、USBの差込口には形が合いません。
機器どうしでデータを送るやり方は、大きく二つに分かれます。複数の信号線を並べ、何ビットものデータを同時に送るのがパラレル転送です。1本の信号線で1ビットずつ順に送るのがシリアル転送です。一度に送れる量だけを見ればパラレル転送が速そうですが、速く送ろうとするほど、並んだ線のあいだで信号が届く時刻がわずかにずれ、そろえるのが難しくなります。いまのUSBをはじめ、多くの接続の規格はシリアル転送です。
ここから基本情報!パラレルでつなぐ規格と、頼む側の機器
パラレル転送の代表的な規格がSCSI(Small Computer System Interface)です。ハードディスクなどの周辺機器を、1本のケーブルで数珠つなぎ(デイジーチェーン)にして、1つの接続口に何台もつなげます。サーバのディスクをつなぐ規格として長く使われました。
SCSIでつながった機器どうしは、役割を分けてやり取りします。相手に命令(コマンド)を出して処理を頼む側をイニシエータ、命令を受けて処理する側をターゲットと呼びます。ふつうは、コンピュータ側の接続の装置がイニシエータ、ディスクがターゲットになります。
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シリアル転送の規格には、USBのほかにIEEE 1394があります。デジタルビデオカメラなどの機器を高速につなぐために作られた規格で、FireWireやi.LINKとも呼ばれます。機器を数珠つなぎにでき、電源を入れたままの抜き差し(ホットプラグ)にも対応しています。いまはUSBに置き換わり、新しい機器ではほとんど見かけません。
倉庫のキーボードの丸い端子は、USBが広まる前にキーボードやマウスをつなぐために使われていたPS/2ポート用のものです。いまのノートパソコンにはPS/2ポートが無いことが多く、そのままではつなげません。ミナトは、そのキーボードを倉庫に戻しました。
USBの差込口が足りないときに使うのがUSBハブです。1つの差込口につなぐと、その先で差込口が4つ、7つと増え、何台もの機器をつなげるようになります。
USBのケーブルは、データだけでなく電気も運べます。ケーブルを通じて本体から機器に電気を送り、それだけで機器を動かす方式をバスパワーといいます。バーコードリーダは、電源コードを持たずにバスパワーで動きます。これに対し、機器が自分の電源コードやACアダプタから電気をとって動く方式がセルフパワーです。紙を送り、熱で印字するプリンタは多くの電気を使うので、セルフパワーで動きます。USBハブにも両方の方式があり、電源をとらないハブにたくさんの機器をつなぐと、本体から送れる電気が足りなくなって機器が動かないことがあります。
壁にある電話線やLANケーブルの差込口も、接続の口の一つです。電話線やLANケーブルの先のプラグ(モジュラープラグ)を差し込む口をモジュラージャックといいます。電話用とLAN用では形は似ていますが、大きさと中の端子の数が違います。
1-7増設と拡張
在庫表と通販の管理画面と動画の講習を同時に開くと、ノートパソコンの動きが重くなります。店長は「新しいのを買うしかないかな」とため息をつきました。ミナトが相棒に尋ねると、買い替える前に、中に足せる場所が残っていないかを確かめてみよう、という返事でした。
コンピュータの部品を載せた主な基板(マザーボード)には、後から装置を足すための差込口があります。グラフィックスカードやネットワークのカードなど、機能を増やす拡張カードを差し込む口が拡張スロットです。デスクトップパソコンやサーバには、拡張スロットがいくつも用意されています。
作業の途中のデータを置いておくメモリを足すための差込口はメモリスロットです。メモリのチップを並べた小さな板(メモリモジュール)を、空いているメモリスロットに差し込めば、メモリが増えます。いくつもの画面を開いたときに動きが重くなるのは、メモリが足りないことが原因の一つなので、メモリスロットが空いていれば、買い替えずに直せることがあります。
以前のノートパソコンには、側面に名刺ほどの大きさのカードを差し込むPCカードスロットがありました。通信のモデムやLANのカードを差し込んで機能を足すための口です。差し込むカード(PCカード)の規格は、標準化した団体の名前をとってPCMCIA(Personal Computer Memory Card International Association)とも呼ばれます。いまはUSBなどに役割を譲っています。
ノートパソコンは持ち運べる代わりに、接続の口が少なくなりがちです。そこで、1本のケーブルでノートパソコンにつなぐだけで、ディスプレイ、LAN、USBなど何種類もの接続の口をまとめて使えるようにする機器があります。これをポートリプリケータといいます。レジ横にポートリプリケータを置き、プリンタもバーコードリーダもそこにつないでおけば、ノートパソコンを持ち出すときはケーブルを1本抜くだけで済みます。
1-8磁気ディスク
倉庫の古いデスクトップパソコンには、5年分の売上の記録が残っています。電源を入れると、中からカリカリという小さな音が聞こえてきました。記録を開くたびに、音がして、少し待たされます。
カリカリという音は、中の磁気ディスク(ハードディスク)が動く音です。磁気ディスクは、磁気を帯びる材料を塗った円盤を高速で回し、その上に浮かせた読み書きをする磁気ヘッドで、磁気の向きとしてデータを記録します。電源を切ってもデータが消えない記憶装置で、たくさんのデータを安く保存できます。
円盤が回る速さは、1分間に何回転するかを表すrpm(revolutions per minute)で表します。パソコンの磁気ディスクでは5,400rpmや7,200rpmのものが多く、回転が速いほど、読みたいデータがヘッドの下へ早く回ってきます。印刷の速さの単位ではないので、プリンタの単位と取り違えないようにします。
ここから基本情報!読み出しの待ち時間を計算する
磁気ディスクからデータを読むまでの時間は、2段階の待ち時間と、読む時間の合計です。円盤の表面には同心円状の記録の道(トラック)があり、まずヘッドが目的のトラックまで横に動きます。この移動にかかる時間の平均を平均位置決め時間(平均シーク時間)といいます。ヘッドが着いても、読みたいデータがちょうどヘッドの下にあるとは限りません。円盤が回って目的のデータが来るのを待つ時間の平均が平均回転待ち時間です。
平均回転待ち時間は、1回転にかかる時間の半分とみなします。データがヘッドの真下にあることもあれば、ちょうど通り過ぎた直後で1回転近く待つこともあり、平均すると半回転になるからです。倉庫のパソコンの磁気ディスクを、次の値として計算してみます。
| 項目 | 求め方 | 時間 |
|---|---|---|
| 1回転の時間 | 6,000rpm なので 60秒 ÷ 6,000回転 | 10ミリ秒 |
| 平均位置決め時間 | 装置の仕様の値 | 8ミリ秒 |
| 平均回転待ち時間 | 1回転の半分 10 ÷ 2 | 5ミリ秒 |
| データを読む時間 | 1トラック50,000バイトを1回転(10ミリ秒)で読むので、4,000 ÷ 50,000 × 10 | 0.8ミリ秒 |
| 合計(平均アクセス時間) | 8 + 5 + 0.8 | 13.8ミリ秒 |
合計のうち、読む時間はわずか0.8ミリ秒で、残りの13ミリ秒はヘッドの移動と回転の待ちです。そこで、読み書きの頼みが何件もたまっているときに、届いた順ではなく、ヘッドの移動が少なくなる順に並べ替えて処理する方法があります。これをシーク最適化方式といいます。ヘッドが45番のトラックにいて、10番、90番、20番、80番への頼みがこの順に届いたとします。届いた順に動くと移動は35+80+70+60=245トラック分です。いまの位置から近い順(20番、10番、80番、90番)に動けば、25+10+70+10=115トラック分で済みます。近い順に選ぶSSTF方式のほかに、ヘッドを端から端へ一方向に動かしながら途中の頼みを拾っていくSCAN方式などがあります。
持ち運べる磁気ディスクもありました。薄い円盤を四角いケースに収めたフロッピーディスク(FD)です。読み書きにはフロッピーディスク装置(FDD)を使います。よく使われた3.5インチのもので容量は1.44MB程度しかなく、いまはUSBメモリなどに置き換わりました。
基本情報の範囲ここまで
磁気ディスクは、円盤とヘッドという動く部品を持つので、強い衝撃に弱いという面もあります。動いている最中にパソコンを落とすと、ヘッドが円盤に触れて傷を付け、データが読めなくなることがあります。倉庫のパソコンの5年分の記録は、壊れる前に別の媒体へ写しておくことにしました。
1-9光ディスクとメモリカード
5年分の記録と、店の写真や動画を写す先として、店長は家電量販店で光ディスクを1束買ってきました。ミナトは、デジタルカメラから抜いたメモリカードの中身も、一緒に写すつもりです。店のイートインの隅のテレビには、背面に小さなカードが差さっていました。
レーザの光で読み書きする円盤を光ディスクといいます。CD、DVDに続いて登場したのがBlu-ray Disc(BD)です。DVDより波長の短い青紫色のレーザを使うことで、同じ大きさの円盤により細かく記録でき、1層で25GBを記録できます。DVDの1層は4.7GBなので、5倍以上です。
光ディスクには、読むだけのもの、1回だけ書けるもの、何度も書き換えられるものがあります。BDのうち、データを一度だけ書き込める追記型がBD-Rです。書いたデータは消せないので、後から書き換えられたくない記録を残すのに向いています。何度も書き換えたいなら、書換え型のBD-REを選びます。
ここから基本情報!ディスクに書き込む装置と書き方
記録できる光ディスクやROMのチップにデータを書き込む装置をライタといいます。BDに書けるドライブは、BDのライタです。追記型のディスクへの書き方の一つに、ディスク全体を、途中で止めずに一度の動作で書き込むディスクアットワンスがあります。書き終えたディスクには、後から追記できません。これに対し、トラックごとに区切って書き込むトラックアットワンスでは、空きがあれば後から書き足せます。
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光ディスクを入れる方式にも種類があります。ボタンで受け皿(トレイ)を出してディスクを載せるトレイ方式に対し、トレイを使わず、差込口にディスクを直接差し込むだけで吸い込まれるように入る方式をスロットインといいます。車のオーディオや薄型のノートパソコンに多い方式です。
ここから基本情報!映画のディスクを守る暗号
市販の映画のBlu-ray Discは、パソコンに入れても中身をそのまま写すことはできません。AACS(Advanced Access Content System)という著作権保護の規格で、映像が暗号化されているからです。正しい鍵を持つ再生機器やソフトウェアだけが暗号を解いて再生できます。
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放送にも、見られる受信機を限る仕組みがあります。イートインのテレビの背面に差さっていた小さなカードはB-CASカードです。日本のデジタル放送の受信機に差し込むICカードで、暗号化された放送を受信機が解くために使います。有料の放送の契約に応じて、見られる番組を限る役割も持っています。
デジタルカメラの記録には、小さな板の形をしたメモリカードが使われます。中身はフラッシュメモリで、電源を切ってもデータが消えません。
ここから基本情報!大容量のSDカードの規格
代表的なメモリカードのSDメモリカードには、容量によって規格の名前があります。32GBまでの SDHC に続き、32GBを超えて2TBまでの容量に対応する規格がSDXC(SD eXtended Capacity)です。ミナトのカメラのカードは128GBなので、SDXCにあたります。
SDXCのカードは、データを記録する決まり(ファイルシステム)としてexFATを使います。Microsoft が大容量のフラッシュメモリ向けに作ったもので、それまでの FAT32 では扱えなかった4GBを超える大きさのファイルも記録できます。長い動画のファイルでも、1つのファイルのまま保存できます。
基本情報の範囲ここまで
日曜の夕方、レジ横のノートパソコンには、ポートリプリケータから伸びたケーブルが1本だけつながっていました。その先に、バーコードリーダ、値札のプリンタ、レシートのプリンタが並んでいます。翌週の月曜、初めて通販を大きく告知した日の朝、注文が続けて5件届きました。ミナトが印刷を押すと、値札とレシートが1枚ずつ、順番どおりに刷り上がっていきます。
木曜の夜には「何をどこにつなげばいいのか分からない」機械の山でしたが、いまは一つ一つの役割が言えます。読取り機は入力、プリンタは出力、ノートパソコンは処理。差込口が足りなければハブやポートリプリケータで増やし、電気はバスパワーかセルフパワーでまかなう。「待機中」は故障ではなく、スプールの列でした。5年分の売上の記録はBD-Rに写して、倉庫の棚にしまいました。
それでも、まだ分からないことがあります。オーブンの前で、店長が温度の表示を指さしました。「この180って数字、光る線が7本並んでいるだけなんだよね。どうやって数字の形を選んで光らせているの」。ミナトが答えられたのは、それがコンピュータと同じ0と1でできているらしい、というところまででした。