1-1身近なコンピュータ
閉店後のこむぎ堂。レジ横のノートPCは電源を入れてから使えるようになるまで3分かかり、店長はとうとう新しいPCを買うと決めました。家電量販店のチラシを作業台に広げたものの、並んでいるのは「CPU 8コア」「最大4.4GHz」「メモリ16GB」といった文字ばかりです。「パンの値段なら一目で比べられるのに、これは何を比べればいいのか分からないね」。ミナトは相棒に聞く前に、店の中にあるコンピュータを数えてみることにしました。レジ横のノートPC、事務室の奥の古いPC、店長とミナトのスマートフォン、予約を受けるタブレット。相棒に聞くと、オーブンの焼き時間を数えるタイマーにも小さなコンピュータが入っているといいます。数えると6台。形も大きさもばらばらなのに、相棒は「中の作りは、どれもほとんど同じだよ」と言いました。
6台のうち、ノートPCと事務室のPCは、一人が机に向かって使うことを前提に作られています。スマートフォンとタブレットは、持ち歩いて指で操作することを前提に作られています。オーブンのタイマーは、人が操作するというより、オーブンの一部として働いています。使い方の前提が違うと、同じコンピュータでも形と呼び名が変わります。
ここから基本情報!PCの形
個人が1台を占有して使う汎用のコンピュータをパーソナルコンピュータ(PC)と呼びます。机の上などに据え置いて使う形のものがデスクトップPCで、本体とディスプレイ、キーボードが別々になっていることが多く、部品を交換したり増やしたりしやすい作りです。事務室の古いPCはこちらです。
本体・キーボード・ディスプレイを一体にし、折りたたんで持ち運べるようにしたものがノートPCです。電池で動き、置き場所を選びません。その代わり、小さな筐体に中身を詰め込むので、熱と消費電力を抑える設計が求められ、部品の交換や増設はデスクトップPCほど自由にできません。
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持ち歩くことを前提に作られた情報機器は、まとめて携帯端末(モバイル端末)と呼ばれます。代表が、電話の機能にOSとアプリを動かす機能を加え、画面に触れて操作するスマートフォンです。店長がチラシの写真を撮って相棒に送れるのも、スマートフォンが写真を撮り、通信し、アプリを動かすコンピュータだからです。キーボードを持たず、板状の大きな画面を指で操作するタブレット端末は、こむぎ堂では予約の受付に使っています。
スマートフォンとタブレット端末をまとめてスマートデバイスと呼ぶこともあります。厳密な定義のある語ではなく、通信の機能を持ち、アプリで高度な処理ができる機器を広く指して使われ、腕時計型の機器まで含めることもあります。身体に着けたまま使う携帯端末はウェアラブル端末といい、心拍数や歩数を測る腕時計型のスマートウォッチや、頭に着けて目の前に映像を映すヘッドマウントディスプレイがその例です。
事務室の古いPCは、値札を印刷するためだけに使っていて、インターネットにも店のほかの機器にもつないでいません。このように、ネットワークにつながず、1台だけで処理を完結させる使い方をスタンドアロンといいます。ほかの機器とデータをやりとりできない不便さはありますが、ネットワークを通じて攻撃を受けるおそれは小さくなります。
1-2仕事と制御のコンピュータ
ミナトが「6台でした」と報告すると、相棒は数え忘れを指摘しました。お客さんが予約の画面を開いたとき、その画面を送り返しているコンピュータは店の中にはありません。通販の注文を受け付け、在庫の数を記録しているのも、店の外のどこかで動いているコンピュータです。店長は「見たこともない機械に、毎日お世話になっていたわけか」と笑いました。
予約の画面を出してほしい、注文を記録してほしい、という要求を受け取り、処理した結果やデータを返すコンピュータをサーバと呼びます。要求を出す側、つまりお客さんのスマートフォンやこむぎ堂のタブレット端末はクライアントです。サーバは多くのクライアントからの要求に昼も夜も応え続けるので、止まりにくく、たくさんの処理を並行してこなせる作りにしてあります。ただし、サーバは機械の形ではなく役割を表す名前です。ふつうのPCでも、要求に応えるソフトウェアを入れればサーバとして働きます。
ここから基本情報!専門の仕事のためのコンピュータ
PCとサーバのあいだに位置づけられるのがワークステーションです。設計図を描くCAD、映像の編集、科学技術の計算といった専門の仕事を個人が行うための高性能なコンピュータで、一般のPCより処理の能力や画像を扱う能力、信頼性を高めてあります。パン屋の仕事で出番はありませんが、オーブンを作るメーカーの設計者の机には置かれていそうです。
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天気予報や新薬の開発のように、膨大な数値計算を短い時間で終わらせるために作られた、とびぬけて高性能なコンピュータがスーパーコンピュータ(スパコン)です。とても多くのプロセッサを並べ、一つの大きな計算を分けあって同時に進めます。
銀行の預金の出し入れや鉄道の座席の予約のように、企業の中心になる大量の事務処理を1か所にまとめて受け持つ大型のコンピュータを汎用コンピュータ、またはメインフレームと呼びます。「汎用」は、事務の処理にも科学技術の計算にも、一つの機械で幅広く使えるように作られたことから来た名前です。予約客がネットで代金を払うと、その先の金融機関では、こうした大型のコンピュータが処理を受け持っていることがあります。
店の外のサーバにも、見えない仕掛けがあります。通販サイトを貸す事業者の多くは、1台の大きな物理的なコンピュータの上に、ソフトウェアで何台ぶんものコンピュータを作り出し、それぞれを別の利用者に貸しています。このように、ソフトウェアによって論理的に作り出された、独立したコンピュータの環境を仮想コンピュータ(バーチャルマシン)といいます。仮想コンピュータはそれぞれ自分のOSを動かし、同じ機械の上のほかの仮想コンピュータとは切り離されています。
ここから基本情報!機械を動かすコンピュータ
オーブンのタイマーに話を戻します。オーブンの中のコンピュータは、計算の結果を人に見せるためではなく、ヒータを入れたり切ったりするために動いています。工場の生産設備や信号機、エレベータのように、機器の動作を直接制御するために使うコンピュータを制御用コンピュータと呼びます。
家電製品や自動車などの機器に組み込まれる小型のコンピュータをマイクロコンピュータ(マイコン)といいます。中でも、CPU、メモリ、入出力の回路といった主な機能を1個のチップに集めたものがシングルチップマイコン(ワンチップマイコン)です。チップが1個で済むので、小さく安く作れて、消費電力も少なくなります。こむぎ堂のオーブンのタイマーに入っていたのも、このシングルチップマイコンでした。
1枚の基板に、プロセッサ、メモリ、入出力の端子など、コンピュータとして動くのに要るものをまとめて載せたものがシングルボードコンピュータ(SBC)です。手のひらほどの大きさでOSを動かせる製品も多く、授業での電子工作や、センサの値を集める機器、試作品の制御に使われます。
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1-3コンピュータの五つの装置
形の違う機械が「どれも同じ」とはどういう意味なのか。ミナトが聞き返すと、相棒はオーブンを例に出しました。焼き時間のボタンを押すと、オーブンは25分という数字を受け取って覚え、1分ごとに残りから1を引き、0になったらブザーを鳴らします。「受け取る、覚える、計算する、知らせる。それと、この順番で動けと指図する役。ノートPCにも同じ五つがそろっているよ」
相棒が挙げた五つは、コンピュータの基本となる機能です。外からデータやプログラムを取り込む働きが入力、取り込んだデータやプログラムを保持しておく働きが記憶です。データに対して計算や比較を行う働きを演算、処理した結果を外へ出す働きを出力といいます。そして、プログラムの命令を読み取り、ほかの機能にいつ何をするかを指示して全体を動かす働きが制御です。
オーブンに当てはめると、焼き時間のボタンが入力、25という数字を持っておくのが記憶、1を引いて0と比べるのが演算、ブザーが出力です。どの順で何をするかを決めているのが制御で、ほかの四つは制御の指示がなければ動きません。ノートPCでは、キーボードからの文字が入力、画面への表示や印刷が出力にあたります。出力の働きを受け持つ、ディスプレイやプリンタのような機器を出力装置と呼びます。
ここから基本情報!五つの装置と二つの流れ
基本情報のシラバスは、五つの機能を受け持つ装置と、装置のあいだの流れまでを範囲にしています。キーボード、マウス、スキャナのように、外からデータを入力するための装置が入力装置です。主記憶装置や補助記憶装置など、データやプログラムを記憶する装置をまとめて記憶装置と呼びます。
制御装置の指示に従って、足し算や引き算などの算術演算と、ANDやORなどの論理演算を実行するのが演算装置です。記憶装置から命令を取り出して解読し、各装置に制御信号を送るのが制御装置です。演算装置と制御装置を合わせたものが、CPUにあたります。
装置のあいだには二種類の流れがあります。データの流れは、入力装置から記憶装置へ入り、記憶装置と演算装置のあいだを行き来して、記憶装置から出力装置へ出ていきます。制御の流れは、制御装置からほかの四つの装置すべてへ向かいます。入力されたデータは演算装置へ直接は行かず、いったん記憶装置に入ります。図を描くときに間違えやすいのは、この一点です。
命令とデータを同じ記憶装置に入れておき、制御装置が命令を一つずつ取り出して実行する方式を、この考え方を示した数学者の名前からノイマン型アーキテクチャと呼びます。いまのPCもスマートフォンも、基本はこの方式です。プログラムを入れ替えれば同じ機械が別の仕事をこなせるのは、プログラムがデータと同じように記憶装置に入っているからです。
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オーブンのタイマーとノートPCの違いは、五つの機能がそろっているかどうかにはありません。違うのは規模と、入れ替えられるプログラムの幅です。オーブンのタイマーは焼き時間を数えるプログラムしか動かしませんが、ノートPCは会計ソフトも、メールも、動画の再生も、入れ替えながら動かします。
1-4プロセッサの種類
チラシに戻ると、並んだ5台のPCの説明には「CPU」のほかに「GPU」という文字もありました。ある機種には「GPU内蔵」、別の機種には「高性能GPU搭載・動画編集に」とあります。店長は首をひねりました。「頭が二つあるの? どっちがパソコンの本体なんだろう」
本体にあたるのはCPU(中央処理装置)です。Central Processing Unitの略で、前の節の五つの機能のうち、演算と制御を受け持つ部分です。プログラムの命令を一つずつ読み取って実行し、ほかの装置に指示を出すので、コンピュータ全体の処理の速さを大きく左右します。チラシの「8コア」や「4.4GHz」は、このCPUの性能を表す数字です。
ここから基本情報!CPUとMPU
CPUの機能を1個の集積回路(チップ)に収めたものをMPU(Micro Processing Unit、マイクロプロセッサ)と呼びます。初期のコンピュータのCPUは多くの部品を組み合わせて作られていましたが、いまのPCやスマートフォンのCPUは1個のチップに収まっているので、CPUとMPUはほとんど同じ意味で使われます。
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もう一方のGPUは、Graphics Processing Unitの略で、画面に映す画像を作る処理を専門に受け持つ装置です。画像の処理では、何百万もの点(画素)の色を同じ手順で計算します。そのためGPUは、一つ一つは単純な計算しかできない演算の回路を大量に並べ、同じ計算を同時に進める作りになっています。込み入った手順を順に速く進めるのが得意なCPUとは、作りの方向が逆です。
同じ計算を大量に並べる処理は、画像のほかにもあります。AIの学習や、気象の予測のような科学技術の計算がそうです。GPUの並列に計算する力を、画像以外の汎用的な計算に使う技術をGPGPU(General-Purpose computing on GPU)といいます。相棒のようなAIを動かすサーバでも、計算の多くをGPUが受け持っています。
チラシをよく見ると、CPUを作っている会社は機種によって違います。それなのに、どの機種にも同じOSと、店で使っている同じ会計ソフトを入れられます。CPUが理解できる命令の種類と形式の決まり(命令セット)が共通だからです。ある会社のCPUと同じ命令セットを持ち、同じソフトウェアをそのまま動かせるように作られた他社のCPUを互換CPU(互換プロセッサ)といいます。PCで広く使われている命令セットにも、もとのCPUの会社とは別の会社が作る互換CPUがあり、性能と値段を競ってきました。
1-5プロセッサのアーキテクチャ
ミナトは、自分のスマートフォン用のアプリがノートPCではそのまま動かないことを思い出しました。相棒によると、スマートフォンのCPUとPCのCPUでは、命令セットの考え方からして違うことが多いそうです。「命令の数を絞って一つ一つを速くするか、便利な命令をたくさん用意するか。CPUの設計には、その分かれ道があるんだ」
命令セットをどう作るかは、CPUの作りそのものを左右します。同じ仕事をするプログラムでも、命令セットが違うCPUの上では、そのままでは動きません。スマートフォン向けのアプリがPCで動かないのは、OSの違いに加えて、この命令セットの違いがあるからです。
ここから基本情報!命令セットと制御の作り方
命令セットの設計には、大きく二つの方向があります。複雑で高機能な命令を数多く用意し、1つの命令でまとまった仕事をさせる設計をCISC(Complex Instruction Set Computer)といいます。命令の長さや実行にかかる時間は命令ごとにまちまちで、PCで広く使われてきた命令セットはこちらに分類されます。
反対に、命令の数を絞り、一つ一つを単純で長さのそろった命令にした設計がRISCプロセッサ(RISC:Reduced Instruction Set Computer)です。命令の形がそろっていると、命令の処理を工程に分けて流れ作業のように重ねるパイプライン処理と相性がよく、短い間隔で次々に命令を実行できます。スマートフォンのCPUの多くは、RISCの考え方で作られています。
命令の設計の違いは、制御装置の作り方の違いにもつながります。命令を解読して制御信号を出す部分を、論理回路の配線そのもので作る方式をワイヤードロジック制御方式(シラバスの表記はワイヤドロジック制御方式)といいます。回路が直接信号を出すので速い反面、作った後で動作を変えるには回路を作り直すしかありません。
もう一つは、1つの命令をさらに細かい手順(マイクロ命令)の並びに分け、その並び(マイクロプログラム)を制御装置の中の記憶に入れておいて順に実行するマイクロプログラム制御方式です。マイクロプログラムを書き換えれば命令を足したり直したりできるので、複雑な命令の多いCISCで多く使われてきました。その代わり、記憶から手順を読み出すぶん、ワイヤードロジック制御方式より遅くなります。単純な命令をそろえたRISCは、ワイヤードロジック制御方式と組み合わせるのが基本です。
| 観点 | CISC | RISC |
|---|---|---|
| 命令の数 | 多い(高機能な命令をそろえる) | 少ない(単純な命令に絞る) |
| 命令の長さ | 命令ごとに違う | そろっている(固定長) |
| 主な制御方式 | マイクロプログラム制御方式 | ワイヤードロジック制御方式 |
| 速くする工夫 | 1命令でまとまった仕事をさせる | パイプライン処理で次々に実行する |
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1-6レジスタと命令の解読
翌朝、店長は新作のレシピ帳を作業台に開き、読んでいる行を指で押さえながら材料を量っていました。電話が鳴って手を離すと、どこまで量ったか分からなくなり、塩を二度入れるところでした。ミナトがその話をすると、相棒は「CPUの中にも、その指にあたるものがあるよ」と返しました。
CPUの中には、計算に使う値や、いま実行している命令に関わる情報を一時的に置いておく、小さくてとても速い記憶の場所があります。これをレジスタと呼びます。主記憶よりはるかに少ない量しか持てませんが、演算や制御を行う回路と同じチップの中にあるので、待たずに読み書きできます。
レシピ帳を押さえる指にあたるのが、次に実行する命令が記憶装置のどの番地(アドレス)にあるかを保持するレジスタです。名前がいくつもあり、プログラムカウンター(PC)、命令アドレスレジスタ、命令カウンター、逐次制御カウンターは、どれも同じレジスタを指します。CPUは命令を1つ取り出すたびに、この値を次の命令の番地へ進めます。「この条件なら別の手順へ」という分岐の命令は、この値を飛び先の番地に書き換えることで実現します。
ここから基本情報!1つの命令が実行されるまで
プログラムカウンターが指す番地から取り出された命令は、まず命令レジスタに入ります。命令は「何をするか」を表す命令部と、「どのデータを使うか」を表すアドレス部からできています。命令レジスタの中身を読み解き、演算装置や記憶装置へ送る制御信号に変える回路が命令デコーダです。シラバスではデコーダ(命令解読器、復号器)の名前で載っています。
解読した命令が足し算なら、演算装置が動きます。演算装置の中心は、2つの2進数を足し合わせる加算器です。計算の結果を一時的に置くのがアキュムレーターで、次の命令はアキュムレーターの値にさらに数を足したり、その値を記憶装置へ書き戻したりします。
引き算には、専用の回路を用意しなくて済みます。引く数を2の補数(各ビットを反転して1を足した数)に変えて足せば、引き算になるからです。この変換をする回路を補数器といいます。棚に7個あったクロワッサンが3個売れた計算を、4ビットでしてみます。
- 7は0111、3は0011です。
- 0011の各ビットを反転すると1100、それに1を足すと1101です。これが3の2の補数です。
- 0111+1101=10100です。4ビットからあふれた先頭の1を捨てると0100、つまり4になります。
加算器と補数器があれば、足し算と引き算を同じ加算の回路で処理できます。
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レジスタはCPUの中で最も速い記憶ですが、用意されている数は多くありません。計算の途中の値をレジスタに置いたまま次の命令に渡せれば、遅い主記憶まで読みに行く回数が減り、そのぶん処理が速くなります。
ここから基本情報!役割の決まったレジスタ
レジスタには、用途を決めずにプログラムが自由に使えるものと、役割の決まったものがあります。前者が汎用レジスタで、計算の途中の値やアドレスを置くなど、命令しだいで何にでも使えます。アキュムレーターのように役割の決まったレジスタは、汎用レジスタに対して専用レジスタと呼ばれます。演算の対象になるデータを一時的に置くレジスタをデータレジスタと呼ぶこともあります。複数のレジスタをひとまとまりにして、番号で指定して読み書きできるようにした回路をレジスタファイルといいます。
命令のアドレス部に書かれた番地をそのまま使わず、レジスタの値を足して、実際に読み書きする番地(実効アドレス)を求めるやり方もあります。プログラムの先頭の番地など、基準になる値を持つのがベースレジスタです。こむぎ堂の会計ソフトが主記憶の5000番地から置かれたとき、ベースレジスタを5000にしておけば、プログラムの中の「120番地」は5000+120で5120番地を指します。プログラムをどの番地に置いても、中身を書き換えずに動かせます。
表の何番目かを指す添字を持つのがインデックスレジスタ(指標レジスタ)です。パンの値段の表が、アドレス部の示す120番地から1つずつ並んでいるとします。インデックスレジスタを3にすれば、120+3で123番地、つまり先頭から数えて4番目の値段を読めます。インデックスレジスタの値を1ずつ増やしていけば、同じ命令のまま表を順に読み進められます。
最後に入れたものを最初に取り出す積み重ね式の記憶(スタック)を使うとき、その一番上の位置を示すのがスタックポインタです。値を積む(プッシュ)たび、取り出す(ポップ)たびに更新されます。手順の途中で別の手順を呼び出すときに戻り先の番地をスタックに積んでおき、呼び出した手順が終わったら取り出して元の場所へ戻る、という使い方をします。
中のビットを、合図(クロック)が来るたびに1つずつ隣へずらしていくレジスタがシフトレジスタです。1本の線から1ビットずつ届くデータを順に受け取り、8ビットそろったところでまとめて読み出す、といった変換に使われます。
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1-7演算を行う論理回路
夕方、ミナトはレジのレシートを見ていて、店名が「コムギドウ」と半角のカタカナで印字されていることに気づきました。古いレジは漢字を印字できないのだそうです。相棒は「レジの中では、この文字も0と1の並びで持っているよ」と言います。0と1だけで文字を表し、足し算までできるのはなぜなのか。ミナトの中では、まだそこがつながっていませんでした。
コンピュータの中では、電圧の高い・低いといった2つの状態で0と1を表し、文字も数もその並び(ビットの列)で扱います。どのビットの列をどの文字に割り当てるかの決まりが文字コードです。英数字や記号と片仮名を、1文字7ビットまたは8ビットで表すように定めた日本の文字コードの規格がJIS X 0201です。8ビットで使えば1文字が1バイトに収まり、たとえば英字のAは01000001で表されます。パソコンで半角のカタカナと呼ばれている文字も、この規格の片仮名です。こむぎ堂の古いレジは、この規格の文字しか印字できない作りでした。
ここから基本情報!ビットの位置と8進数
ビットの列には、両端に呼び名があります。2進数として見たときに最も小さい重みを持つ右端のビットがLSB(Least Significant Bit、最下位ビット)、最も大きい重みを持つ左端のビットがMSB(Most Significant Bit、最上位ビット)です。Aの01000001なら、MSBは0、LSBは1です。2の補数で負の数を表すときは、MSBが1なら負の数になります。
長いビットの列は読み間違えやすいので、まとめて短く書く方法があります。基数を8とする8進数では、2進数の3ビットがちょうど8進数の1桁にあたります。01000001を右から3ビットずつ区切ると01|000|001で、それぞれ1、0、1なので、8進数では101です。UNIX系のOSで、ファイルを読む・書く・実行する権限を「755」のような3桁で表すのも、3ビットずつを8進数1桁にまとめた書き方です。
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0と1の並びで文字を表せるのと同じように、計算も0と1だけで行えます。CPUの演算装置の足し算も、たどっていくと「両方が1なら1」「どちらかが1なら1」「0と1を入れ替える」といった、ごく単純な回路の組み合わせでできています。
ここから基本情報!論理回路で足し算を作る
入力の0と1から、決まった規則で0と1を出力する電子回路を論理回路といいます。基本になるのは、入力がすべて1のときだけ1を出すAND回路、どれか1つでも1なら1を出すOR回路、入力を反転して出すNOT回路の三つです。NOT回路は論理否定素子とも呼ばれ、0が入れば1を、1が入れば0を出します。
基本の回路の出力を反転したものにも名前があります。ANDの出力を反転したNAND回路は、入力がすべて1のときだけ0を出し、それ以外は1を出します。NAND回路だけを組み合わせればAND・OR・NOTのどれでも作れるので、回路を組み立てる基本の素子としてよく使われます。2つの入力が一致するとき(0と0、1と1)に1を出すのが論理一致素子で、入力が食い違うときに1を出すXOR(排他的論理和)の出力を反転したものにあたります。
| A | B | AND | OR | NAND | XOR | 一致(XNOR) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
| 0 | 1 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
| 1 | 0 | 0 | 1 | 1 | 1 | 0 |
| 1 | 1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 1 |
足し算の回路は、この組み合わせで作れます。1ビットどうしの足し算は、0+0=0、0+1=1、1+0=1、1+1=10(2進数)の4通りです。表と見比べると、和の桁はXORの列と、桁上がりはANDの列と同じ値になっています。XORとANDを1つずつ使い、2つの入力から和と桁上がりを出す回路が半加算器です。
2桁目から上を足すときは、下の桁からの桁上がりも足す必要があります。半加算器2つとOR回路を組み合わせ、2つの入力と下からの桁上がりの三つを足せるようにしたのが全加算器です。クロワッサン3個(011)に1個(001)を足してみます。最下位の桁は1+1で和0・桁上がり1、次の桁は1+0+桁上がり1で和0・桁上がり1、最上位の桁は0+0+桁上がり1で和1となり、答えは100、つまり4です。全加算器を桁の数だけ並べれば、何ビットの足し算でもできます。
ここまでの回路は、出力がいまの入力だけで決まり、前に何が起きたかを覚えていません。このような回路を組合せ回路といいます。これに対し、フリップフロップのような記憶の働きを持つ回路を含み、いまの入力とそれまでの状態の両方で出力が決まる回路を順序回路といいます。レジスタやシフトレジスタは順序回路で作られていて、そのおかげで値を保持できます。
基本情報の範囲ここまで
その夜、店長はチラシを作業台に広げ直し、赤ペンを手に取りました。「動画は作らないから、GPUは内蔵で十分だね」。高性能GPUを積んだ2台に線を引き、停電のときにも電池で動くようにと、デスクトップの1台にも線を引きます。「この数字は、CPUの種類と作りの話だったんだね」。残った2台のCPUの欄に、丸が付きました。
店の中で数えたコンピュータは、形も大きさもばらばらでした。それでも、どれも入力・記憶・演算・制御・出力の五つの機能でできていて、その中心ではCPUが命令を一つずつ取り出し、0と1の計算を続けています。チラシの「CPU」と「GPU」の違いは、その計算の中心を、込み入った手順を順に進める仕事と、同じ計算を大量に並べる仕事のどちらに向けて作ったかの違いでした。
ただ、残った2台のどちらを選ぶかは、まだ決まりません。片方は「8コア・最大4.4GHz」、もう片方は「12コア・最大3.8GHz」です。店長は二つの数字を指でたどりながら言いました。「コアが多いのと、GHzが大きいのと、うちの仕事にはどっちが合っているの」。ミナトにも、まだ答えられませんでした。