5-1ポインティングデバイス
月曜の朝、こむぎ堂に新しいレジが届きました。画面を指で押して操作し、パンの袋に貼ったシールを読み取る器具がコードの先に付いていて、横からはレシートが出てきます。台の端には、ポイントカードを差し込む口もあります。店長は説明書を開いたまま、画面のボタンを恐る恐る押しました。「前のレジはボタンを押すだけだったのに、こんなに部品があるとはね」。ミナトは段ボールの中に残った配線を見ながら、相棒に聞いてみます。「レジって、結局いくつの機械がつながってるんだろう」
相棒の答えは、数を数えるより先に、向きで分けることでした。人やモノからコンピュータへ情報を渡す装置が入力装置、コンピュータの処理の結果を人に見える形・聞こえる形で外へ出す装置が出力装置です。画面を押す指の位置は入力、レシートは出力です。レジの部品を一つずつ、どちら向きの装置か、中でどう動いているかで確かめていくと、届いた機械の正体が見えてきます。
最初は、画面の上の「どこ」を指すかを伝える装置です。画面上の位置を指し示したり、そこから動かしたりするための入力装置をまとめてポインティングデバイスと呼びます。文字を打つ装置とは違い、伝えるのは「位置」と「動き」です。
事務室のパソコンで使っているマウスは、その代表です。机の上で本体を滑らせると、動かした向きと距離に合わせて画面の矢印(ポインタ)が動き、ボタンで選ぶ・決めるを伝えます。動かすのは本体そのものなので、机の上に動かすための広さが要ります。
レジ台のように場所が狭い所では、本体を動かさない装置が向いています。トラックボールは、本体に埋め込まれた球を指や手のひらで転がし、その回転の向きと量でポインタを動かす装置です。本体は置いたままなので、本体を置く場所があれば使えます。ジョイスティックは、根元で支えられたレバーを傾け、倒した向きと角度で入力する装置です。ゲーム機の操作のほか、重機や電動車いすの操作にも使われます。
新しいレジの画面は、指で触れた所がそのまま入力になります。画面の表面に重ねて置き、指やペンが触れた位置を検出する装置がタッチパネルです。この検出の仕組みと表示の画面を一体にして、映っているボタンを直接押せるようにしたものをタッチスクリーンと呼びます。ただ、二つの語は実際にはほぼ同じ意味で使われることが多く、スマートフォンの画面をタッチパネルと呼ぶのもごく普通です。指している先と押す所が同じなので、操作の手順を覚えなくても使い始めやすいのが利点です。
手書きの線を取り込みたいときは、ペンを使う装置があります。ペンタブレットは、板の形をした面の上を専用のペンでなぞり、ペン先の位置や押す強さ(筆圧)を入力する装置です。ミナトがポップの絵を描くのに使っているのも、これです。平らな板の上で指した位置を、縦横の座標の値として読み取ってコンピュータに渡す入力装置はデジタイザーと呼ばれ、図面をなぞって取り込む用途で使われてきました。ペンタブレットは、デジタイザーの一種として扱われることが多い装置です。
5-2そのほかの入力装置
開店前、ミナトは新しいレジに商品を登録していました。品名と値段を一つずつ打ち込み、手書きの予約票の束にも目をやります。袋のシールの縞模様を読み取り器にかざすと、ピッという音と一緒に「クロワッサン 220円」が画面に出ました。
品名や値段のような文字や数字を入れるには、キーボードを使います。たくさんのキーが並び、押したキーに対応する文字や記号、命令がコンピュータに渡ります。どんな文字でも入れられる反面、一文字ずつ人が押すので、量が多いと時間がかかり、打ち間違いも起こります。
紙に書かれたものを取り込むときは、スキャナーが使えます。紙に光を当て、はね返ってきた光の明るさや色を細かい点ごとに読み取って、画像のデータに変える装置です。手書きの予約票も、スキャナで取り込めば画像としてパソコンに残せます。ただし、そのままでは「絵」として残るだけで、書かれた名前や個数を文字として扱えるわけではありません。
ここから基本情報!画像と音声を取り込む装置
スキャナのように、紙面や景色を画像のデータとして取り込む装置をまとめて画像入力装置と呼びます。画像として取り込んだ後に、何が書かれているかまで読み取る装置もあります。印刷された文字や手書きの文字を光で読み取り、文字のデータに変える装置がOCR(Optical Character Reader)です。読み取った文字を認識する技術のほうを指して、Optical Character Recognition の略として使うこともあります。予約票の名前をOCRにかければ、打ち直さずに名簿へ入れられます(読み間違いがないかの確認は要ります)。
文字ではなく、決まった位置の印が塗られているかだけを読む装置がOMR(Optical Mark Reader)です。試験のマークシートが代表で、こむぎ堂なら「好きなパンに丸を塗ってください」というアンケート用紙を集計できます。読むのは塗られた位置だけなので、OCRより読み間違いが起こりにくい方式です。
店の外の景色や焼き上がったパンを撮るにはデジタルカメラを使います。レンズから入った光を撮像素子(CCDやCMOSのセンサ)で電気の信号に変え、画像のデータとして記録する装置です。人の声を取り込むのは音声入力装置で、マイクで声を電気の信号に変えてコンピュータに渡します。音声認識のソフトウェアと組み合わせれば、声で注文を入力することもできます。
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ピッと鳴った縞模様は、バーコードです。太さの違う黒い棒と白いすき間の並びで数字を表した印で、これに光を当て、はね返る光の強弱から数字を読み取る装置をバーコード読取装置(バーコードリーダー)といいます。読み取ったのは「商品の番号」だけで、品名や値段はレジの中の登録とつき合わせて表示しています。だから、値段を変えるときは袋のシールを貼り替えなくても、登録のほうを直すだけで済みます。
ここから基本情報!カードと体を読む装置
レジ台の端の口には、ポイントカードを差し込みます。カードの裏の茶色や黒の帯(磁気ストライプ)に記録された情報を読み取る装置が磁気カード読取装置(磁気カードリーダー)です。仕組みが単純で安く作れる一方、帯の情報は読み取りや複製がしやすいという弱点があります。
カードに小さなICチップを埋め込み、その中の情報を、端子を触れさせて、または近づけるだけで読み書きする装置がICカード読取装置(ICカードリーダー)です。交通系のカードやキャッシュカードの多くはICカードになっています。チップの中で計算や認証をするので、磁気ストライプより偽造されにくいのが特長です。
カードを持たずに本人を確かめる方法もあります。指紋、手のひらの静脈、目の虹彩、顔の形といった体の特徴を読み取り、登録しておいた情報と照らして本人かどうかを確かめる装置が生体認証装置です。こむぎ堂の事務室のパソコンにも、指紋でログインできる読取部が付いています。
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ここまでの装置は、どれも外の世界のものを、コンピュータが扱える数のデータに変えています。光の明るさも、声の大きさも、もとは途切れずに変わる量です。それを決まった間隔で測り、数の列にしたものが、コンピュータの中に入っていきます。
ここから基本情報!アナログをデジタルに変える
温度や音のように連続して変わるアナログの信号を、とびとびの数で表すデジタルの信号に変える装置(回路)をA/Dコンバータ(Analog to Digital Converter)といいます。マイクやセンサの中、あるいはその先には、必ずこの変換があります。
A/Dコンバータが見分けられる、いちばん小さな変化の幅を分解能といいます。分解能は、変換したあとの数を何ビットで表すかで決まります。たとえば、こむぎ堂の発酵室の温度センサが0℃から51.2℃までを測り、それを8ビットで表すとします。8ビットで表せる数は28=256通りなので、51.2℃÷256=0.2℃が1目盛りです。27.0℃と27.1℃の違いは、この装置には見分けられません。10ビットにすれば210=1,024通りで、51.2℃÷1,024=0.05℃まで細かく見分けられます。ビット数を1増やすごとに、目盛りの数は2倍になります。
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5-3表示装置
レジの画面は、お客さんの側にも小さなものが付いています。店長は、その画面と自分のスマートフォンを並べて見比べました。「同じ黒なのに、スマートフォンのほうが真っ黒に見える。何が違うんだろう」
レジの画面は液晶ディスプレイ(LCD)です。液晶は、電圧をかけると分子の向きが変わり、光を通したり止めたりする性質をもつ物質です。液晶ディスプレイは、この性質を使って、裏から当てた光(バックライト)を画素ごとに通す量を加減し、色の付いたフィルタと組み合わせて像を作ります。自分では光らないので、黒を出すときもバックライトは点いたままで、光が少しもれてしまいます。店長の目に「真っ黒ではない」と映ったのは、このもれた光です。
ここから基本情報!液晶の駆動方式
液晶ディスプレイは、画素に電圧をかける方式で二つに分かれます。画素の一つ一つに薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)というスイッチを付け、画素ごとに電圧を細かく保てるようにしたものがTFT液晶です。この方式をアクティブマトリクス方式といい、画面の書き換えが速く、くっきりと表示できるので、パソコンやテレビの液晶のほとんどがこれです。
画素ごとのスイッチを持たず、縦と横に張った電極の交わる所に電圧をかけて表示するものがSTN液晶(Super Twisted Nematic)です。この方式を単純マトリクス方式といいます。構造が簡単で安く作れますが、画面の書き換えが遅く動画には向かないため、いまは単純な文字や数字を出す小さな表示部などに使われます。
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店長のスマートフォンは有機ELディスプレイ(OLED)でした。電流を流すと自分で光る有機化合物を画素に使った表示装置です。画素そのものが光るのでバックライトが要らず、黒を出したい画素は光を消せば済みます。だから黒が黒く見え、明暗の差(コントラスト)が大きくなります。バックライトの層が無い分、薄く作れて、曲げられる画面にもできます。
ここから基本情報!書き換えたときだけ電気を使う画面
棚の値札にも、表示装置を使う方法があります。電子ペーパーは、紙のように周りの光の反射で文字を見せる表示装置で、一度表示した内容は電力を使わずにほぼそのまま残ります。電気を使うのは表示を書き換えるときだけなので、電池で長く動き、日なたでも読みやすいのが特長です。電子書籍の端末や、スーパーの棚に並ぶ電子棚札に使われています。反対に、書き換えに時間がかかるので、動画を映すのには向きません。
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店の外へ向けて大きく映したいときもあります。パン教室で手元を壁に映すときに使うプロジェクターは、コンピュータなどから受け取った映像を、レンズで拡大してスクリーンや壁に投影する出力装置です。反対に、目のすぐ前に小さな画面を置き、視界を映像で覆うのがヘッドマウントディスプレイ(HMD)です。頭に着けて使い、顔の向きに合わせて映像を変えれば、その場に入りこんだような体験(VR、仮想現実)ができます。
ここから基本情報!目と手ざわりを使う装置
ヘッドマウントディスプレイのように体に近い装置では、目の動きや手ざわりも入出力に使えます。カメラや赤外線で目の動きをとらえ、どこを見ているか(視線)を検出する装置がアイトラッキングデバイスです。見た所にカーソルを動かす入力に使えるほか、お客さんがメニューのどこを長く見ていたかを調べる分析にも使われます。手が使いにくい人がコンピュータを操作するための手段にもなります。
振動や、押し返す力を使って、触った感じ(触覚)で情報を伝える装置がハプティックデバイスです。ゲーム機のコントローラが場面に合わせて震えるのも、スマートフォンの画面のボタンを押したときに小さく振動が返るのも、この仕組みです。目で画面を見ていなくても「押せた」と分かります。
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5-4画面の表示方式と解像度
事務室のパソコンにつないだ古いモニタで、店頭用のおすすめの画面を作ってみると、文字の縁がぎざぎざに見えました。新しいレジの画面では、同じ文字がなめらかです。ミナトは画面の設定を開き、「1920 × 1080」という数字を見つけました。
画面の像は、色の付いた小さな点(画素、ピクセル)を縦横に並べて作られています。横に何個、縦に何個並んでいるかを表したものが解像度で、「1920 × 1080」は横1,920個、縦1,080個の画素が並んでいることを示します。同じ大きさの画面なら、画素が多いほど一つ一つの点が小さくなり、文字の縁がなめらかに見えます。古いモニタの文字がぎざぎざに見えたのは、画素が少ないためです。
画面に映す像は、一枚の絵のデータとしてコンピュータの中に置いてあります。その表示用の画像データを保持しておく専用のメモリをビデオメモリ(VRAM、Video RAM)と呼びます。表示装置はビデオメモリの中身をくり返し読み出して画面に映すので、ビデオメモリには少なくとも画面一枚分のデータが入らなければなりません。
必要な大きさは、画素の数と、一つの画素の色を表すビット数のかけ算で求まります。こむぎ堂のおすすめの画面を、1920 × 1080の解像度、1画素あたり24ビット(赤・緑・青に8ビットずつ。約1,677万色)で映すとします。
| 手順 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 画素の数 | 1,920 × 1,080 | 2,073,600画素 |
| 1画素のバイト数 | 24ビット ÷ 8 | 3バイト |
| 画面一枚分 | 2,073,600 × 3 | 6,220,800バイト(約6.2Mバイト) |
色を256色(8ビット=1バイト)に減らせば、同じ解像度でも2,073,600バイト(約2.1Mバイト)で済みます。解像度を上げても、色数を増やしても、必要なビデオメモリは増えます。計算の問題では、ビットとバイトの取り違えがいちばん起こりやすいので、最初に1画素を何バイトにするかを決めてからかけ算すると間違えにくくなります。
ここから基本情報!解像度の規格の名前
よく使われる解像度には、規格としての名前が付いています。古いモニタの設定画面には、次のような名前が並んでいました。
| 名前 | 解像度(横 × 縦) | 画素の数 |
|---|---|---|
| VGA(Video Graphics Array) | 640 × 480 | 307,200 |
| SVGA(Super VGA) | 800 × 600 | 480,000 |
| XGA(eXtended Graphics Array) | 1024 × 768 | 786,432 |
VGAからSVGA、XGAと進むほど画素は多くなります。三つとも横と縦の比は4:3で、いまのパソコンやテレビに多い16:9の画面とは形が違います。古いモニタがXGAなら、24ビットカラーの画面一枚分は786,432 × 3=2,359,296バイト(約2.4Mバイト)です。
画面の描き方にも違いがあります。画面は、上から下へ横の線(走査線)を順に描いて作ります。走査線を1本おきに描き、1回目で奇数番目の線、2回目で偶数番目の線を描いて、2回で一枚の画面を仕上げる方式がインタレースモード(飛び越し走査)です。一度に描く量が半分で済むので、送るデータが少なくて済み、昔のテレビ放送で使われてきました。その代わり、細い横線などがちらついて見えやすくなります。
走査線を1本目から最後まで順に、一度で描く方式がノンインタレースモード(順次走査)です。一回で一枚の画面が仕上がるのでちらつきが少なく、細かい文字を表示するパソコンのモニタではこちらが使われます。
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5-5プリンタと音声の出力
レジからは、インクを入れていないのにレシートが出てきます。事務室では、値札とポップを刷るプリンタが紙を吸い込み、ポップの写真をゆっくりと一行ずつ刷っていました。会計が終わると、レジが「ありがとうございました」と声で知らせます。店長はつぶやきました。「どれも出てくる物は違うけど、全部コンピュータが出しているんだよね」
プリンタは、コンピュータの中の文字や画像を紙に写し出す出力装置です。同じ「紙に出す」でも、紙に色を付ける方法はさまざまです。レジのレシートの多くは、熱を当てた所だけ色が変わる感熱紙に印字していて、インクもトナーも使いません。方法が違えば、速さ、刷り上がりのきれいさ、一枚あたりの費用、音の大きさが変わります。
ここから基本情報!プリンタの方式と単位
プリンタは、紙に打ち付けるかどうかで二つに分けられます。細いピンや活字でインクリボンを紙に打ち付けて印字する方式がインパクトプリンターです。代表は、ピンを並べた印字ヘッドで点を打つドットインパクト方式です。打つ音は大きいものの、打った力で下の紙まで写るので、カーボン紙や複写式の伝票に一度で何枚も刷れます。宅配便の送り状のような複写の伝票では、いまもこの方式が使われています。
紙を打ち付けずに印字する方式をまとめてノンインパクトプリンターと呼びます。音が静かで、きれいに刷れるのが特長です。代表的なものが二つあります。
一つはレーザープリンターです。帯電させた感光体(ドラム)にレーザー光を当てて、刷りたい形の静電気の像を作り、そこに粉のインク(トナー)を付け、紙に移してから熱と圧力で定着させます。もう一つはインクジェットプリンターで、印字ヘッドの細いノズルから、ごく小さなインクの粒を紙に吹き付けて印字します。写真のような色の階調を出しやすく、本体も安いので、家庭やこむぎ堂のポップづくりに向いています。
一度に刷る単位でも分けられます。文字を一文字ずつ順に印字する方式がシリアルプリンターで、ヘッドが紙の上を左右に行き来するインクジェットプリンターやドットインパクトプリンターがこれにあたります。1行分をまとめて印字する方式がラインプリンターで、大量の帳票を刷る大型の機械で使われてきました。1ページ分のデータをプリンタの中のメモリにいったん描いてから、一度に紙へ写す方式がページプリンターで、レーザープリンターが代表です。1文字ずつ刷るシリアルプリンターより、1行や1ページをまとめて刷るラインプリンターやページプリンターのほうが速く刷れます。
| プリンタ | 打ち付けるか | 印字の単位 | 向いている用途 |
|---|---|---|---|
| ドットインパクト | 打ち付ける(インパクト) | 1文字ずつ(シリアル) | 複写式の伝票 |
| インクジェット | 打ち付けない(ノンインパクト) | 1文字ずつ(シリアル) | 写真、少ない枚数のカラー印刷 |
| レーザー | 打ち付けない(ノンインパクト) | 1ページずつ(ページ) | 文書を速く大量に |
基本情報の範囲ここまで
紙ではなく、立体を「刷る」装置もあります。3Dプリンターは、コンピュータで作った立体の設計データをもとに、樹脂などの材料を薄い層にして一層ずつ積み重ね、立体物を作る装置です。ミナトは、こむぎ堂の看板の形をしたクッキーの抜き型を作れないかと考えています。型を一つ作るために金型を注文しなくても、データを直せばすぐ作り直せるのが強みです。
ここから基本情報!線を描く装置と音を出す装置
設計図のような線の図を、大きな紙に正確に描き出す出力装置をプロッターといいます。もとはペンを縦横に動かして線を引く装置で、CADで作った図面の出力に使われてきました。いまは、大判の紙に刷るインクジェット方式の装置もプロッタと呼ばれることがあります。
レジの「ありがとうございました」は、コンピュータの中では数の列として記録された音声データです。デジタルの信号を、連続して変わるアナログの信号に戻す装置(回路)をD/Aコンバータ(Digital to Analog Converter)といいます。音声データはD/Aコンバータで電気の波に戻され、スピーカで空気の振動に変わって耳に届きます。スピーカやイヤホンのように、音声データを音として外に出す装置を音声出力装置と呼びます。マイクとA/Dコンバータが声を数に変える側なら、D/Aコンバータとスピーカは数を音に戻す側です。
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5-6補助記憶装置
閉店後、事務室の古いパソコンが、売上の表を開くだけで1分近く待たせるようになっていました。本体の奥からは、カリカリという小さな音が続いています。相棒は、中のハードディスクで、ファイルがあちこちに散らばっているのかもしれないと言いました。
電源を切ってもデータを残しておく補助記憶装置には、HDDやSSD、光ディスク、USBメモリなどがあります。それぞれの記憶媒体の特徴は第3章で扱いました。媒体を読み書きする「装置」の側にも、速さを左右する仕組みがあります。
カリカリという音の正体は、ハードディスク装置の中の動きです。中には、表面に磁気でデータを記録する円盤が何枚も重なって高速で回っていて、腕の先に付いた磁気ヘッドが円盤の上をわずかに浮いたまま動き、読み書きします。読みたいデータの位置までヘッドを動かすたびに腕が動き、その音がカリカリと聞こえます。
ここから基本情報!ディスクの区切り方と断片化
円盤の記録面には、中心から同じ距離をぐるりと一周する輪の形でデータが並んでいます。この同心円状の記録の輪の一本一本をトラックといいます。トラックはさらに扇形に区切られていて、その一区切りをセクターと呼びます。セクターは、ディスクを読み書きするときの最小の単位です。1バイトだけ書き換えたいときでも、そのバイトを含むセクターをまとめて読み書きします。
ヘッドは各面に1つずつあり、全部が一本の腕の束で一緒に動きます。そのため、腕を止めたまま読み書きできるのは、どの面でも同じ番号のトラックです。この、全ての記録面の同じ番号のトラックを集めた筒の形のまとまりをシリンダ(円筒)と呼びます。腕を動かす時間はディスクの読み書きの時間の大きな部分を占めるので、続けて使うデータを同じシリンダに置くと速く読めます。
ファイルを書いたり消したりをくり返すと、空いている場所がディスクのあちこちに細切れに残ります。新しいファイルはその細切れの空きに分かれて書かれ、一つのファイルを読むのにヘッドが何度も行き来することになります。この状態を断片化(フラグメンテーション)といい、事務室のパソコンのカリカリという音と遅さは、これが原因でした。散らばったファイルを連続した場所に並べ直し、読み書きを速くする処理をデフラグメンテーション(デフラグ)といいます。SSDは場所によって読む速さがほとんど変わらないので、同じ目的のデフラグは効果が小さく、書込みの回数を増やすことから、ふつうは行いません。
基本情報の範囲ここまで
ディスクの中身が壊れたときに備えて、売上の表のような大事なデータは、パソコンとは別の媒体にも写しておきます(バックアップ)。どの媒体に写すかで、それを読み書きする装置も変わります。
ここから基本情報!媒体を読み書きする装置
光ディスクは、媒体と装置(ドライブ)が分かれています。一度だけ書き込めるCD-Rと、何度も書き換えられるCD-RWの両方を読み書きできる装置がCD-R/RWドライブ、同じくDVD-RとDVD-RWを読み書きできる装置がDVD-R/RWドライブです。より波長の短い青紫色のレーザーを使い、より多くのデータを入れられるブルーレイディスクを読み書きする装置がブルーレイドライブです。どのドライブも、レーザー光を当てて、はね返る光の変化からデータを読みます。
デジタルカメラで撮った店の写真は、SDカードに入っています。SDカードを差し込み、パソコンからその中身を読み書きできるようにする装置がSDカードリーダーで、多くはUSBでパソコンにつなぎます。最近のノートパソコンには、本体に差し込み口が付いているものもあります。
大量のデータを安く保管したいときは、磁気テープも使われます。細長いテープに磁気でデータを記録し、テープを巻き取りながら読み書きする装置が磁気テープ装置です。テープは先頭から順にしか読めない(順次アクセス)ので、途中のファイル一つを取り出すのには時間がかかります。その代わり容量あたりの値段が安く、毎晩の大量のバックアップのように、まとめて書いてめったに読まない用途に向いています。
テープには、データをかたまり(ブロック)ごとに書きます。テープは止まった状態から速さを上げ、止めるときにも少し流れるので、ブロックとブロックの間には、何も書かない空白を空けておきます。この空白をブロック間隔(ブロックギャップ)といいます。そして、一つのブロックにいくつのレコード(データの一件分)をまとめて入れるかを表す数をブロック化因数といいます。
まとめる数で、使うテープの長さが大きく変わります。予約の記録1件が200バイトで、それが10,000件あるとします。テープには1cmあたり2,000バイト書けて、ブロック間隔は1cmとします。
| ブロック化因数 | 1ブロックの長さ | ブロックの数 | 要るテープの長さ |
|---|---|---|---|
| 1 | 200バイト ÷ 2,000=0.1cm | 10,000 | (0.1+1)× 10,000=11,000cm(110m) |
| 10 | 2,000バイト ÷ 2,000=1cm | 1,000 | (1+1)× 1,000=2,000cm(20m) |
1件ずつ書くと、テープの大部分が何も書かない空白になります。10件ずつまとめると、空白の数が10分の1になり、要るテープは110mから20mへ、5分の1より短くなります。ブロック化因数を大きくするほど空白の割合は減りますが、一度に読み書きするデータが大きくなるので、そのぶん装置のメモリも多く要ります。
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夜9時、ミナトはディスクの中の散らばったファイルを並べ直す処理を始め、終わるのを待つあいだに、レジの周りの装置へ小さな札を貼っていきました。画面には「入力」と「出力」の両方、バーコードの読取り器とカードの口には「入力」、レシートの口とスピーカには「出力」。最後に事務室のパソコンで売上の表を開くと、今度は一瞬で開きました。店長は札を一枚ずつ指でなぞります。「画面だけは両方なんだね」
月曜の朝に届いたレジは、つまるところ、入力装置と出力装置と記憶装置の寄せ集めでした。指の位置を読むタッチパネル、縞模様を数字に変えるバーコード読取装置、光の量を加減する液晶ディスプレイ、熱で色を出すレシートの印字部。どの装置も、外の世界の何か(光、指の位置、音)と、コンピュータの中の数とのあいだを取り持っています。一つの装置の調子が悪くなったときも、それが入力の側か出力の側か、どんな方式で動いているかが分かれば、どこから確かめればよいかの見当が付きます。
札を貼り終えたミナトは、事務室のパソコンの前に戻りました。並べ直しで速さは戻りましたが、カリカリという音は、円盤が回り、腕が動いているかぎり消えません。次にこのパソコンの中身を替えるなら、動く部品を持たないSSDにしよう。ミナトはそう決めて、メモを店長の机に置いて帰りました。